エイプリルフールの嘘ということでひとつ。
劇場版のネタバレを含みます、ご注意ください。
「オーグマー、ねえ……」
生還者学校の生徒全員に無料配布された端末を弄びながら呟き、溜め息をひとつ。
覚醒状態の五感に働きかけ、視界にUIを表示したりイヤホン無しで音楽を聴けたりと――
……と、聞いてはいるし理解もしたが。
「なーんか……使う気にならないのよねえ……」
ワタシはどうもしっくりこなかった。理由は……まあなんとなくわかってはいるのだけれど。きっとそれは、
「ちょっと響子、なーにキリトみたいなこと言ってんのよ」
「せっかくもらったし便利なんだから使えばいいのに」
隣に座る里香と斜向かいに座る明日奈のツッコミに曖昧に笑い、手の中のオーグマーを鞄に仕舞った。
彼女らと、それから里香を挟んだ向こう側に座る珪子は現在、ARのゲームに興じている。今居るファミレスのキャンペーンで、ゲームをクリアするとケーキのクーポンが貰えるらしい。
「和人はやらないの?」
「ああ……俺もなんとなく使う気にならないんだよなあ、これ」
「ふうん?」
向かいに座っている和人はずいぶんと気怠そうだ。
けれど――彼とワタシとでは、オーグマーを受け入れがたい理由が違う。彼は本来ならば、こういう新しい端末が手に入れば嬉々として研究し、さらっと使い熟してしまう人種だ。
彼がこれを敬遠する理由は、〝あのゲーム〟。今オーグマーをつけていないワタシと和人には見えないけれど、明日奈たちの頭上に表示されているであろう〝ランキング〟が物を言うそれ。
和人にとっては、アレの流行が気に入らないのだ。
――まあ。遼太郎さんがやるって言うからワタシもやりはするのだけれど。
最近は「SAOのボスが出現するイベントがある」とかいう噂もあって、
ワタシとしても和人と同じく、生身で運動しなければならないARゲームより、人体の限界を超える動きさえ出来るVRゲームの方が好きなのだけれど。
でも、遼太郎さんがやるからにはワタシもやる。だって、ARにハマってはしゃいでいる遼太郎さんが――こう言ってはなんだけれど、かわいくて仕方ないのだ。あの姿を近くで見るには、同じゲームをやるしかない。
ARゲーム〝オーディナル・スケール〟。ワタシは――いいえ、世界中の誰もが。ただのゲームだと思っていた。
二日後。ワタシは、ワタシにとって最悪に近いカタチで、現実を知ることになる。
「キリト! そっち行ったわよ!」
「わかって――どぅあっ!? ぶへっ!?」
「何やってるのよもう! クライン!」
「おうよ! 野郎ども、行くぞ!」
「連絡が取れない? アクトと?」
「そうなんだよ。昨日のカガチ戦の後から急によォ」
「ふぅん……? 昨日はたしか……ああ、アクトだけ家が近いから徒歩で帰ったんだったかしら?」
「おう。そん時なんかあったか……まあ、なんだ。響子、アスナと先行っといてくれよ。俺らァあいつ来るまで待っとくからよ」
「そう? じゃあお言葉に甘えようかしら。明日奈、行きましょう」
「うん。それじゃ皆さん、また後で」
「結局来なかったわね、遼太郎さんたち」
「風林火山のメンバーと連絡取れないって言ってたけど、昨日は全員居たよね?」
「ええ。彼が一番OSにハマってたから、ボス戦をすっぽかすとは考えづらいのだけど……あら?」
「……居ないね、クラインさんたち」
「どこ行ったのかしら……」
「……ん、サイレン? この音、……救急車?」
「近いわね。遼太郎さんを探しがてらちょっと行ってみるわ。明日奈は? 帰る?」
「うーん……うん。私は帰ろうかな」
「おっけー。それじゃあね」
「うん、また学校で」
「ええ。……さて。とりあえず電話でもかけてみましょうか。
――あ、もしもし遼太郎さん? 今どこに……え? ええ、そうですけど、どちら様で……………………は?」
「――ごめんなさい遼太郎さん。今、……なんて言ったの?」
「……SAOでのことがよ。思いだせねェんだ。昨日思いだせたはずのことが今日は思いだせねェ。明日はたぶんもっと忘れてる。
SAOから帰ってきてからのこたァしっかり覚えてる。オレァあの世界でオメエと出会ったんだってこたァ、わかる。けどよ……あの世界で何があったか。オメエとの思い出も。……だんだん忘れていってんだ」
「……そう。ワタシの聞き間違いじゃあ、ないのね」
「やっぱり槍が一本じゃやりにくいわね……なんとかして増えないかしら」
「あーもー、みんなずるーい! ボクもSAOのボスと戦いたいー!」
「無いよ。僕は載っていないんだ」
「和人。遼太郎さんの記憶を戻す方法に心当たりは?」
「あのユナってVRアイドル、ワタシSAOで会ったことあるような気がするのよね」
「おい響子、オメエなんかヘンだぞ。何か隠してねェか?」
「なるほど。あなたがランク二位で、遼太郎さんに何かしたと言うなら、ユナは――ええ、ええ。道理で見た覚えがあるはずだわ」
「《黒の剣士》、それと――ああ、あなたは《ラインの乙女》ですね。あなたたちのランクでは到底足りない。SAO最高の剣士の刃も、戦乙女の槍の穂も、ランクというシステムの壁に阻まれる」
「ボス戦まわるんならワタシも乗せて行きなさい和人! あの二位の優男をブン殴りたいのはあなただけじゃないのよ!」
「バカ正直にやって来るとは――って、何故あなたまでここに。呼んだのは黒の剣士だけなんですが……まあ、いいか。どうせあなたの記憶ももらうわけですし。二人がかりで構いませんよ」
「過去に縋るのは結構だけれど!
「ぷっ……ふふ、ふふふ……! 和人、あなたこれ、ふふっ……『立っていられないぜ』って、あ、あははっ……!」
「言ってねーよこんなこと! だいたいそれならお前だってここ! ほれお前のページ!」
「あははは……って、なによこれ!? ワタシこんなこと言ってないわよ和人と違って!」
「俺だって言ってねぇーよ!!」
風林火山のメンバーの名前は判明しましたがどれが誰かは判明していないので、テキトーに一人を抜粋しました。
あと本作の本編では出していない響子/ウォクスの二つ名ですが、まあどうせタイトルでバレてるでしょうしいいかなと思って今回さらっと出しました。
巻き貝野郎が何のことかわからないという方はエイジ君のSAO時代の名前で検索をかけると幸せになれるのではないでしょうか。