クオリティが低く、展開が早くてごめんなさい。
『どうしてお前は出来ない!』
『成果を出しなさい!私達の息子なら出来るでしょう!』
『体に教えないと分からないのか!?おい!』
『今回のテストも駄目だったじゃない!しっかりなさい!』
『今日は腹にしてやろう……俺達の教えを守らない罰だ』
『ほら、背中にもね?やれない貴方が悪いのよ?』
『息子なら、親の言う事を聞きなさい』
『父親と母親の教えを守りなさい』
『俺達の子なら』
『私達の子なら』
☆
パチリと目が覚めて、視界に入ったのは知らない天井だった。
「…………」
二度三度瞬きを繰り返して、俺は体が重い倦怠感に包まれている事に気付いた。
それはどうやら身体的な問題のようで、風邪のような症状が出ているようだ。
頭痛に関節痛、寒気にだるさ……と、体に起こっている症状を確認していて、ふと気付いた。
此処は、屋内だと。
「…………っ」
ゆっくりと上半身を起こすと、ズキリと腹部が痛む。
……増えた傷は健在。なら夢でも無い。
軽く見渡し、此処が全く知らない部屋だと言う事に気付き……不意に思い出した。
雨の中、倒れていて……挙句に意識を失った事を。
チラリと服装を見れば、着ていた服は変わっている。……何だか女性物のような気がするのは気のせいだろうか。
俺が寝ていた場所はベッドで、毛布が何枚も掛けられていた。俺の状態を思っての判断だろうか。
きっと雨の中倒れていた俺を、誰かが介抱してくれたのだろう。……意識が途切れる前に聞こえた、女性の声だろうか。
「……っ……と……」
毛布を捲り、ベッドから這い出る。
床に足を着けて、膝に力を入れて立ち上がる……が、力が入らず崩れてしまう。
……どうやら、酷く弱体化しているようだ。
頭や関節は痛いし、寒気も止まらない。完全に風邪になってしまったようだ。
「ふ……っ……」
再度膝に力を入れると、今度は立ち上がれた。
少しフラフラとするが、行動する分には問題無いだろう。
……現在すべき事は、介抱してくれた人を探す事だろうか。会って感謝して、早めに立ち去るのが良いだろう。
現状を把握して纏めると、気が付けば雨の中に放り出されて、気絶して……気が付けば此処に居た。
簡潔に纏めればそうなるが、やはり理解し難い点がある。
…………俺はどうして、雨の中に捨てられたのか_____
ガチャリ
と、浮かんだ疑問は扉の開く音で頭の片隅へと追いやられた。
考え事を中止し、開いたであろう扉の方へ目を向ける。
その方には、お盆の上に食事の乗せた女性が居た。
……うん?
「……気が付きましたか」
その女性が発した声は、涼し気な声音だった。
女性の容姿を見れば、顔立ちは整い綺麗な人と評価出来るが……少し、疑問を抱く点が存在していた。
……何故、金髪青目なのか。何故、エルフ耳なのか。
「……無理をせず寝ていて下さい。恐らくまだ回復し切っていないでしょう」
この方が美人だからか、その異色と思える部分が自然に見えた。
もしかしたら夢なのかも……と言う可能性はあったが、傷や症状がリアルに訴えて来る夢など無いのでその線は捨てた。
それなら、コスプレか何かと言う事になるが……
ガチャリ
「リュー?例の人は起き……あ、起きていらしたんですか」
再度扉が開き、続いて入って来たのは普通の女性だった。
これまた美人さんだが、先程のクールなエルフ(?)と違って可愛らしい人だ。
……鈍色の髪と目?
エルフ耳は無く、異色の髪と目だった。
「……シル、私は口下手ですから病人に対して上手く話せません。後は頼みます」
「あっ!?ちょっとリュー!?」
突然、エルフの人がそう言い残して退出して行った。
バタンと閉じられ、去り際までクールだったエルフの人を見送り……二人きりになった俺達は顔を見合わせる。
……展開が唐突で追いつけないんだが。
そんな言葉を叫びたかった。
「……その、取り敢えず座って下さい。まだ万全の調子では無いでしょうし……」
「……。」
その言葉に、俺は無言で従う。
ベッドへ腰掛け、ふぅと息を吐く。
……何なんだろう、これ。
エルフのコスプレの人や、異色の髪を持つ人だとか……ツッコミどころがあり、正直戸惑う。
エルフの人については、「日本文化(二次元)が好きな外国人」で理解出来る。……もう片方の人は、髪は染めて目はカラコンなのか……?
と、現れた2人に対しての見解をしていると。
「……あの、質問宜しいですか?」
目の前の女性が、優しげな声音でそう聞いてきた。
それに対して無言で頷くと、彼女はふっと微笑んだ後に口を開いた。
「私、シル・フローヴァと申します。貴方が路地裏で倒れていた所を、さっきのエルフ……リューと見つけまして、厚かましいながらも介抱させて頂きました」
「……その件は、感謝します。ありがとうございます、助かりました」
礼儀正しい女性……フローヴァさん?にこちらも礼儀正しく返事を返す。
……この際、そのエルフとか言う設定には目を瞑る。
…………きっと少し残念な方なんだ。ジャパニーズカルチャーに関心があると言う見解で納得しよう。うん。
俺が返事を返すと、フローヴァさんは少し目を見開いた後に続けて質問して来た。
「宜しければ、で構わないのですが……何故、貴方はあの場所に倒れていたんですか?」
「……。」
その質問に、数瞬黙る。
……何故、倒れていたか。
気がついたら知らない場所、と言うのは……俺自身の心当たりを含めれば予想がつく。それはきっと、正解なのだろう。
「……捨てられたんじゃないですかね」
「っ」
俺の返答に、フローヴァさんは息を飲んだ。……まぁ、介抱した人が捨てられたと言うのなら少なからず驚くか。そりゃそうだ。
……この現状としては、俺は親に捨てられた……と言うのがきっと真実に近いのだろう。
それが正直納得出来る憶測ではあったが……完璧に言い切れるか、と言うとそうではない。
父も母も、どちらも愚かでありながら頭が良かった。少なからず常識や倫理は持ち合わせていた。多分。
息子に虐待をする人達ではあったが、それを公にしないように俺に言いつけると言う自己防御や、付けた傷を服の中に隠せる位置にしていると言う判断、怪我を見られた時の言い訳を俺に多く教えたり、考えはある程度回していた。
……そんな奴らが俺を捨てるか、と言ったら必ずしもイエスとは言えない。
「……その、それは……えっと」
「お気にせず」
俺自身はあの二人のサンドバッグ……ストレス発散用の道具として利用していたから、そうそう捨てる事は無い。まぁ、愛想……いや、飽きりり利用価値が無くなったりすれば捨てるかもしれない。
それに、あの二人はわざわざ路地裏に捨てると言う手段で俺を廃棄しない筈だ。
やるなら人目につかない所、知らずにいつの間にか行方不明となってしまった……と言う体で俺を消去するだろう。
あくまで憶測の域を出ない、妄想ではあるが。
「それで、他に質問は?」
「……これから、どうするつもりですか?」
俺が捨てられたと言う発言に気を使っているのだろうか、妙に優しげに言葉を発して来る。
そんな事をしても、現状は何一つ変わらないのに。
……さて。
フローヴァさんは俺にこれからどうするか、と言う質問をしたが……どうしようか。
あの親の事だから、戻っても直ぐにまた廃棄しようとするだろうし。それなら戻らないで生きて行く方が良いが、この世の中はそう上手く出来ていない。
それに、十四歳程度のガキが一人でそう生きて行ける筈が無い。
「……どうしましょうか」
考えながら、呟く。
働く、と言うのも手だが俺を雇う物好きはそう居ないだろう。
それに、寝床や食事も問題だ。
一応水さえあれば生きていけるから、公園で寝泊まりすれば良いとして……やはり金も必要だ。
その為に働く必要があるが、やはり就職するのは困難だ。
……困った。
「……あ、あの!」
と、悩んでいると。
フローヴァさんが俺に詰め寄りながら声を掛けて来る。近い、近いって。
少し意気込むような頷きを見せながら、フローヴァさんはやけに大きな声で言った。
「あの!私の働いてる店で、働きませんか!?」
「…………は?」
思わず、間抜けな声を出してしまった。
☆
結果として。
俺は、そのフローヴァさんの誘いに乗る事にした。早速問題解決しそうだよ。
しかしまぁ、働きたいとは言ったが問題はこれからだ。
まず、フローヴァさんが俺を店長(?)に働かせたいと進言しても通らない可能性。
俺自身はまだ十四歳……中学生、つまりはガキである。
更には捨てられて身元が定かではないと言うオマケ付き。こんな問題児を雇う程社会は甘く無いだろう。
つまりは無理ゲー。
期待はしないが、祈るだけ祈っておこう。
働けますように。
そんな祈りをしていると、フローヴァさんから声が掛かった。
「では、これからミア母さん……店長に働いていいかを聞きます。準備はいいですか?」
「……いいですよ。期待はしてませんけど」
場所は先程の部屋を出て、近くの別の部屋。
どうやら、其処に店長……ミアさん?が居るらしい。
彼女曰く、「とても優しいお母さん」らしい。
……それに対して「優しいお母さんってどんな?」と聞いた時の空気は重かった。フローヴァさんが気まずい顔で俯いてしまった。
それに対して思わず「やっぱりいいです」と遠慮したら今度は泣きそうな顔をしていた。感受性豊かな人間らしい。
「さて、行きますよ?」
それはさて置き、遂に面接の時間である。ゴクリ。
俺のコミュ力は正直言って低い。口数が少なく、教師から「物静かで大人しい生徒ですよ」と言われるレベル。因みにそれを変換すると「言葉数が少なくていつも黙ってる、手の掛からない生徒」だ。
しかしまぁ、こんな俺が就職に受かる筈も無い。現実は非情なのだ。
最終的に住所と家の電話番号を聞かれた挙句警察に連絡されるだろう。それが当たり前だ。
「ミア母さーん、入ってもいいですかー?」
コンコンとノックをした後、フローヴァさんが中へ声を掛ける。
すると中から「入りな」と重い声が帰って来た。何故だか威圧感を感じた。
フローヴァさんは「失礼しまーす」と笑顔で扉を開けた。……中入ったら刺されるとか無いよな?帰って来た声かなり年季入ってたぞ。
「失礼します」
続けて俺も部屋に入ると、途端に鋭い視線が向けられた。
反射的にそちらに顔を向けると、恰幅のいい女性が座っていた。控えめに言って巨体。
その女性が向けるのは、俺に対しての鋭い視線で……見定められてる?何だ?
少し気圧されていると、変わらず笑顔のフローヴァさんが口を開いた。
「ミア母さん、こちらが例の方です」
「……あぁ、路地裏で倒れてたヤツかい……」
フンと鼻を鳴らす女性……ミアさんは、椅子から立ち上がって俺に近づいて来た。威圧感が迫って来て怖い。
ズイと顔を近付け、睨んで来るミアさんに対し……俺は助けを求めるようにフローヴァさんに視線を投げた。
彼女は変わらず笑顔で、再度口を開いた。
「彼は少し訳ありで、このお店で働きたいそうです。どうか、働かせてあげられませんか?」
「……訳あり、ねぇ?」
ジロリと睨んで来るミアさんの目は、恐らく「理由を言ってみろ」と言っているのだろう。
それを察して、俺はミアさんを見据えながらその「訳あり」の理由を言った。
「初めまして、ミアさん。自分は名を藤原 優華と言います。先程フローヴァさんの言う訳ありとは______」
「長い。短く良いな」
自己紹介も交えて話していたら、そう駄目出しされた。辛辣だね。
しかしまぁ、その程度で文句を言う訳も無く、俺は要望通りに簡潔にその訳ありの事を言った。
「親に捨てられたので生きていくのに苦労します。生きて行く為に働きたいです」
「捨てられたァ?」
簡潔に纏めたのに、眉を顰められた。まだ足りないってか。
チラリとフローヴァさんを見ると、既に笑顔は無くなっていた。俺の捨てられた発言が原因だろうか。
そう気にしなくていいのに。
「……何で捨てられたんだい。言ってみな」
「さぁ?愛想と言うか、飽きたんじゃないですか。サンドバッグの反応が鈍った来たから捨てたんじゃないですか」
俺が理由を言うと、二人の肩がピクリと跳ねた。
……ん?何か変な事言ったか?
二人を見れば、少し目尻を下げてこちらを見ていた。何故憐れむような目を向ける。
しかしまぁ、俺自身がその捨てられるまでの事柄を信じていない……と言う事もあるかも知れない。先程の憐れむ目は、「この子の頭可哀想ね」と言う意味かもしれない。
それなら、証拠を見せれば良いだけである。
「一応、そのサンドバッグと言う事を表す物はありますが」
「……サンドバッグと言う事を表す?アンタ、それって_____」
「あぁ、ちょっと待って下さい。今脱いで見せますから」
ミアさんは、俺がやろうとしている事を察したのだろう。眉を顰め、咎めるような視線を送って来る。
……馬鹿を言うなと言う意味か、今ならまだ嘘で済むぞと言う意味か。
フローヴァさんは理解が追い付かないのか、目を白黒させてこちらを見ている。……言っている意味が分からないのだろうか。
まぁ、百聞は一見に如かず。何よりその目で見る方が早い。
俺はその証拠を見せる為、上の服に手を掛ける。今更ながら、着替えられているのだけど誰か着替えさせたのだろうと言うか事が思い浮かんだ。
それなら、多分これを見てるんだろうけど……と、思いながら服を脱いだ。
そして露になるのは、俺の上半身。
「「ッ」」
途端に息を飲むのが、俺に分かった。
……いやまぁ、見ていて気持ち悪いし醜いのは理解してますよ?
手に脱いだ服を持ちながら、チラリと俺は自分の体を見る。
……様々な醜い傷が刻まれた、見ていて気持ち悪くなるような身体を。