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揺さんはPixivでもイラストを公開してます。
どれも可愛いイラストで私はとても好きです!
みなさんも是非見てください!
リンクはこちら→https://pixiv.me/98_yuru
「いってきまーす!」
「はーい、気をつけて行ってくるのよー」
時刻は午前6:30過ぎ。
東京駅まで母親に送ってもらったことりは新幹線が来るまでの10分くらいを持て余す。
揺一の住む京都まで日帰り旅行。
既に海外にある服飾の大学から推薦をもらっていることりだからからこそ11月の初め、受験まであと少しというところで旅行に行けるのだった。
「寒いって言われてたし、たくさん歩くって言われたからスカートやめてみたけど、似合ってるかな……」
ショーウィンドウを鏡代わりに自分の姿を見ることり。
淡い黄色のシャツにズボン部分がドロワーズの様になっている濃さの違う2種類の茶のストライプなっているオーバーオール。オーバーオールには小さい星柄が散りばめられている。そして足元は厚めのハイソックスとブーツを履いていて、首元には水玉模様の赤茶色のマフラーが巻かれていた。いつも下ろしている部分の髪はマフラーの邪魔にならない様にあげられていた。
はたから見ればよく似合っていてかわいいことに間違いないのだが、それでもことりは不安なようだった。
落ち着かない様子でスマホを開いたり、飲み物を飲んだりしていたことりは白い車体を見た瞬間安心したような笑顔を見せた。
席に着いたあと、英語の勉強をするために持ち運びしやすい小さな参考書を取り出すが、一向に開かれない。
窓の外、素早く流れていく景色をぼんやりと眺めていることり。そうしていううちにあっという間に京都駅に到着した。
最後のトンネルに入った瞬間、一瞬彼女は表情を硬くした。
その時彼女が何を思ったのか、まだ我々が知る余地はない。
「ふぇ〜ん! よ〜ちゃ〜ん……」
『ことり、お前どこに出たんだよ……』
ことり、初の京都駅で迷子になる。
電話が繋がったから良かったが、お互いにまだ会えていない状態。お互い相手の位置がわからない状態で探すのはなかなかに困難である。
「えっと……新幹線中央口ってところ……」
不安そうに辺りを見回すことり。
『切符売り場の近く?』
「う、うん……切符売り場の目の前にいるよ?」
『そこから動くな、迎えに行くから』
力強い声がことりの不安を解く。
幼い頃と変わらない優しさがこもった揺一の声。
彼の声だからこそことりは待てた。
『なあことり、コインロッカーわかるか?』
「えーっと……コインロッカーの案内が見えるよ」
『案内……? もしかして、ことり外出た? 乗り換え口の方じゃない?』
「乗り換え口……? あっ……そっか、乗り換えするんだよね……」
ことりは少し肩を落とす。
自分も動かなきゃと案内を見ながら元々の集合場所に向かおうとすることり。
『ことり? いまどこにいる?』
「えっと……JR中央口ってところに向かってる……」
『はいはい、わかった。じゃあそこで待っててくれ。俺もすぐ行く』
そう伝えられてる間にエスカレーターを降りたことりは中央口に到着。
「着いたよ?」
「じゃあ左の方見ててくれ。すぐに見えると思うから』
そう言われて左を見ると小さくこちらに向かって走ってくる男性が見えた。
「よーちゃん!」
電話越しに揺一を呼ぶ。
『あ、いた。……よ、ことり」
ようやく出会った揺一は心底安心したような顔をしていた。
「よーちゃん……ほんとにごめんね……?」
「ったく、朝から疲れさせんなよ〜……」
「ええ〜と、とりあえずごめんなさ……「それはいいから」ふぇぇ!?」
腕を掴まれた。
そのまま引きずられていくことり。
転びそうになりながらなんとか体勢を立て直した彼女は少し小走りになりながら揺一に着いて行く。
「とりあえず嵐山行くぞ」
「うん……って、そろそろ離してよぉ〜」
「あっ……ごめん」
「あっ……」
慌てて手を離す揺一。
そう頼んだものの残念そうな声を上げたことりはしばらく離された手を見つめていた。
「と、とりあえず嵐山行くぞ。遊ぶ時間がもったいない」
「…………うんっ!」
JR山陰本線で嵯峨嵐山駅まで15分。
駅を降りてすぐ、見えてきたのはSL。
嵯峨野トロッコ列車の嵯峨駅構内にあるそれを横目に人の流れに沿って歩く。
「えへへ」
「どうしたの?」
「ううん、なんだか楽しいなって」
「俺も。ちゃんと案内できればいいんだけど」
「期待してるね!」
「あんまり期待されても困るんだけど……」
路地を歩きながら何気ない話をする2人。
その様子はさながらカップルのようだった。
路地を抜けた先、大通りに出た2人は目の前に見えるものに圧倒された。
「ねえ、よーちゃん、ここは……?」
「ここは天龍寺。足利尊氏が後醍醐天皇を弔うため、創建した禅寺……らしいよ。俺も詳しいことはわかんないけどね。行ってみる?」
「うん!」
門をくぐるとそこには平日とはいえ修学旅行やらただの観光やらで人が結構いた。
人の波をうまく避けつつ、先に進む。
「あ、ねえよーちゃん! ちょっとあそこいってみよ!」
そういって駆け出すことりの先にあるのは数本の紅葉し始めた木が。
「きれ〜」
「ああ、そうだな」
「むう、よーちゃんは感動が薄すぎるんです!」
「い、いきなりそんなこと言われてもな……」
楽しそうにデジカメで写真を撮っている彼女を見ながら揺一はそう呟いた。
年甲斐もなくはしゃぐことりを微笑ましく見ていた揺一は自分の中で何かが変わっていくような感じを覚えていた。
「よーちゃん! こっちきてきて~」
「ん? どうした?」
ふいにことりに呼ばれた揺一は早歩きで彼女のもとに向かう。
「二人で写真撮ろ!」
眩しい笑顔でことりがそういう。
まるでこの世のお手本のような笑顔。
そんな笑顔に逆らえるはずはなく、元々逆らう気もなかったが、彼らはその木を背景にツーショット写真を撮った。
「えへへっありがと~」
とてもうれしそうなことり。
それを見てなぜか自分も恥ずかしくなった揺一は1人先に向かう。
「あ、まって~」
荷物を持って慌ててことりは揺一の後を追う。
だが、先に行ってしまうわけではなく、しっかり待っていてるあたり揺一のやさしさであろう。
「ここもきれい~」
本堂に行く途中にある八幡社。
鳥居を囲む木々は紅く染まり、鳥居の朱と見事な共演を果たしていた。
ここもここも~、そう言ってカメラを構えることり。
そんな彼女を見ながら揺一は本当によく撮るな、と呟く。
「だってずっと残しておきたいもん! それに~……こういうの見てると新しい衣装の案思いつくの!」
なるほどね、そういいながら彼もスマホのシャッターを切る。
でも、確かにきれいだな。そんな感想を漏らしながら少し口を開き目を輝かせる揺一。
そんな彼にことりの視線はいつの間にか吸い寄せられていた。
「っと、もう大丈夫?」
「う、うん! 付き合ってもらってごめんね?」
まさか揺一を見ていただけなんて言うこともできず、
「いや、全然問題ないよ。撮りたいところがあればいつでも言って」
ことりは笑顔でうなずき、先に進む。
その先には資料館や庭園などがあったが、せっかくならきれいな景色を見て回りたいということりの意見と金額的な問題でそれぞれいかないことにした2人は、来た道を戻っていた。
「さてことりさん、ことりさん的にここの一番のポイントは?」
「え~っと……よーちゃんがかわいかったこと! かな」
「それ天龍寺関係ないし!」
「えへへっ」
何気ない会話をしながら天龍寺のある商店街を歩く二人。
途中、人力車の誘いもあったが、揺一がこういうのは歩くからいいと断り、ことりも小さく浅草でも乗れるしと呟いた。
そんな彼らが次に訪れたのは渡月橋。
絶景スポットして有名なこの場所はやはり多くの観光客、それも外国から来ている人が多かった。
「ねえねえよーちゃん! あの辺、だいぶ紅くなってきてるよ! きれい……」
「ああ、まああと2週間くらいすると見頃なんだけど……」
「もぅ、よーちゃんは感動が薄すぎるんです! ことりは、今こうして見てる景色がすきなの」
頬を膨らませて怒ることり。
本人にとっては怖い顔なのだろうが、周りから見ればただかわいいだけだった。
「そんなこと言われても……まあ、確かに今の景色も綺麗だよね」
「うん! うーん、ここに綺麗なとりさんはいないかなー?」
ことりは渡月橋からの景色をカメラでとりながら、鳥を探し始める。
揺一はことりが小さいころから鳥がすきだったことを思い出した。
「あ、あそこにいる」
「ええ? どこどこ〜?」
「ほら、あっち」
揺一が指差した方向にことりも視線を向ける。
そこには1羽の白い鳥がいた。
「ほんとだ、鳥さんだ〜鳥さーん」
渡月橋を渡りきり、鳥にギリギリまで近づいたことりは鳥とじっと目を合わせる。
「……何してるの?」
怪訝そうに答える揺一に対してことりは
「鳥さんとお話しできないかなぁって思って」
と笑いながら答えた。
でもダメかなぁ、全然こっち向いてくれないと悲しそうに諦めようとしたことりに揺一は待ったをかける。
「ふぇ?」
「ほら、鳥がこっち向いた。もう一度試してみなよ」
「うん!」
笑顔で頷いてまた近くに行くことり。
先ほどよりも真剣な顔で鳥と見つめ合うことりはしばらくして嬉しそうに頬を緩ませた。
その様子を揺一は後ろから写真を撮った。
それに気づいたことりが揺一に詰め寄る。
「よーちゃん? 今写真撮りましたよね〜?」
「あ、あはは……そ、それより何か言われた?」
「うん! いつまでも僕に構ってないでいろいろなところ行ってきなーって言われちゃった」
「そっか。じゃあ移動するか」
「うん、ごめんね? ことりが変なことしちゃったから……」
「ううん、全然。俺も一個謝らないといけないことが」
なんのことだかわからないことりはこてんと首をかしげる。
「次の目的地真逆だった……」
「そうだったんだ。でも、ことりは、ここに来れてよかったよ」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
2人はまた並んできた道を戻って歩きだす。
天龍寺を通り過ぎてしばらくして竹林の小径という案内が見えてきた。
「ここだよ、ことりを連れてきたかったの」
そこは竹林の中にできた小さな道でどこか神聖な雰囲気が醸し出されていた。
「なんだかすごいね……」
「でしょ? こういうところ、ことりが好きだと思って」
「うん! 大好き! ありがと~!」
竹の間から薄く入る陽の光がまた幻想的でどこか違う物語の中に迷い込んでしまったかのような錯覚に襲われる。
「このどこかにかぐや姫さんがいるのかなぁ?」
「あはは、じゃあ根元が光ってる竹探してみる?」
「う~ん、みつかるかなぁ?」
そういいながらも目は結構真剣に光る竹を探していた。
周りの竹を何となく眺めながら入り口から続く坂の終わりが見えてきた。
そこには今揺一たちが上がってきた方を多くの人が見ていた。
「なんだろうね、よーちゃ……」
「ことり?」
ことりが少し後ろにいる揺一に声をかけるために振り向いた瞬間、ことりの言葉が途切れた。
「よーちゃん……見て……!」
「え……す、すごい……」
坂の上から見た小径は今まで見てきた景色とは全く違っていた。
整然と並ぶ竹、その隙間から漏れる陽の光。
そのすべてが調和され、言葉では何とも言い表すことができない感動に二人は浸っていた。
お互い示し合わせたわけでもないのに2人は同時にシャッターを切る。
そしてまたしばらくの間、その景色を眺めていた。
「ことりさん、右側をご覧ください!」
「え? うわぁ……! 竹がいっぱい……」
「ね、いっぱいはえてるよね。じゃあ、今度は反対見て」
「こっち……? すご~い、竹がきれいに並んでる~!」
「左右で雰囲気が全然違うんだよね。ことりはどっちが好き?」
「う~ん、ことりは左側の方が好きかな」
「そうなんだ」
左右で違う顔を見せる竹林を通り抜けるとそこには小さな社が建っていた。
「ここは?」
ことりが揺一を見上げて聞く。
「ここは野宮神社。神様に使える斎宮って役職に就く人が身を清めるための場所だったんだって。源氏物語にも紹介されてるよ」
「へぇ、そうなんだ~」
中に入って参拝を済ませた2人はおみくじを発見する。
「引いてみる?」
「いいよ。じゃあ運が下だったほうが何が罰ゲームね」
「え~そんなぁ……でも負けないよ」
お金を払った2人は一枚ずつおみくじを引く。
「じゃあ、いくよ。せーのっ!」
同時に開いたおみくじは二人とも大吉だった。
「おんなじだ~!」
「これじゃあ何もできないね」
2人はひとしきり笑いあった後ふと冷静になり、もしかして大吉しか出ないんじゃと考える。
だが、それを確かめるすべはなく、疑惑はそのままにして野宮神社を後にした。
それから彼らは竹林の小径をさらに進み、天龍寺の北門を通り嵯峨野トロッコ列車の嵐山駅にたどりついた。
そこで小休憩をはさんだ後、竹林の小径には戻らず、別の道から嵯峨嵐山駅に戻ることにした2人。
少し歩いたところで公園を見つけたことりはその公園に駆け出す。
「あ! ブランコだ~!」
背負っていたリュックサックをおろしてブランコに乗ることり。
ブランコを高く振るその様子はまさに飛び立とうとする鳥のようだった。
すかさずその様子を写真にとる揺一。
だが、ブランコに夢中になっていることりはそれに気づく様子はなく、楽しそうな彼女を見て、揺一も数年ぶりにブランコに乗った。
「よーちゃーん! 気持ちいね!」
「確かにこれだけ高くなると空飛んでるみたいで気持ちいい!」
2人は年甲斐もなくブランコが振れるギリギリまで振って風を切る感覚を楽しむ。
そして、最高点になる瞬間を見越して身を投げ出した揺一は安全柵を飛び越してきれいに着地した。
「よーちゃんすごい! ことりは……おとなしくゆっくりおります」
と言いつつも揺れが小さくなったところでことりも飛び降りた。
「結局飛び降りるんだ」
「せっかくだからいいかなぁって。こんなとこで遊んじゃってごめんね?」
「いいや、全然。さて、駅に戻ろう」
駅の方角に歩いていく2人は途中で竹林の整備をしている人と出会ったり、トロッコ列車と出くわしたりしながら嵯峨嵐山駅に戻る。
「よーちゃん……?」
「えっと……バス停どこ?」
「まさか駅にバス停ないなんて……」
「ごめん、ことりもう一度戻ろうか」
そうして再び2人は天龍寺の方向に。
時間の関係で先ほどは閉まっていたお店が開いていてよりにぎやかな雰囲気を出していた。
「あっ……」
「うん? どうした、ことり?」
小さな声を上げて立ち止まったことりの視線を追うとレンタル着物屋があった。
「見たい?」
「うん、ちょっとだけ……いい、かな?」
「もちろん」
そうはいったものの基本予約制のこういう店に飛び入りで、しかも見るだけは可能なのか。
少し不安だったが、平日で修学旅行生もいなかったらしくすぐに了承してもらえた。
目を輝かせながらひとつひとつデザインや生地をチェックしていくことり。
その眼には楽しさももちろんだが、何かを吸収しようとする真剣さがあった。
「彼女さんです?」
店員が揺一に話しかける。
「い、いえ、幼馴染ですよ」
「そうですか。それにしても真剣に見てはりますなぁ」
「ええ、ことりは服飾関係の仕事を目指していますから」
「服飾ですか。そらこうなりますわな」
そういって店員はことりに近づく。
「お嬢さん」
急に声をかけられたことりは驚いて肩をはねるがそれも一瞬のこと。
店員の話を聞いていたことりの目がさらに輝きを増す。
それから二人で話し込んでいるのを揺一はただ茫然と見ているしかなかった。
「本当にいろいろなお話聞かせて戴いてありがとうございました!」
「いや、ほんまにことりちゃんすごいわ。またいつでもきてや。今度はちゃんとうちの着物着て、そこの彼氏さんと京都デートしにきてな」
彼氏という言葉に赤面する2人。
その様子にケラケラと笑う店員を見て2人は早々にその場を立ち去った。