このさえずりに思いを乗せて【完結】   作:月白弥音

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4 with you…

そして時は過ぎ、翌年の春。

英語の教室に入り自由な時間が増えたことりはバイトをしたり、新しいぬいぐるみを作ったり、つかの間の自由な時間を楽しんでいた。

その中で揺一との交流も続けていた。

そして、ことりは悩んでいた。

自覚してしまったこれをどうするか。

もうすぐいなくなることがわかっている彼女にとって、どちらにせよ辛い結果になることにわかっていた。

 

「どうしよ……」

 

1人呟くその言葉は誰にも拾われることはなく、ただ虚空に溶けていった。

 

 

 

春休みを利用して揺一が東京に遊びに来ると聞かされたのはその日の2日前だった。

ことりはその日から揺一に渡すプレゼント作りを開始した。

あの時のような後悔だけはもうしたくない。

思い出すのは高校2年の出来事。

2人の幼馴染を自分が伝えなかったせいで傷つけてしまったこと。

もう、あんな風なことはしたくない。

その決意からか、ひたすら手を動かしていくことり。

だが、その表情はとても楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

去年とは違う場所だが、同じように桜で囲まれた公園。

まだ花びらは落ちていなくて、今が見頃の満開だった。

ことりは今日も揺一からもらったヘアゴムをつけていた。

 

「よーちゃんまだかな……」

 

気がせいてしまったことりは約束の時間より早く集合場所についてしまう。

大切に抱えられたカバンの中には揺一へのプレゼントも入っていた。

 

「ごめん、待たせちゃったね。というかことりはやいね」

 

「う、うん……ちょっと早く来すぎちゃった」

 

そういってはにかんだことりは揺一の手を握る。

 

「こ、ことり!?」

 

「早くいこ! 時間は待ってくれないのです!」

 

そういって揺一の手を引くことり。

今日のことりはいつもより大胆だった。

 

 

 

 

 

2人が訪れたのは動物園。

パンダやライオン、ペンギンなど様々な動物園の人気者がいる中、ことりがまずむかったのは鳥たちが飛び回るフライングドームだった。

 

「あっ……そういえばよーちゃん、鳥さんのにおい平気?」

 

入り口まで来てからことりは思い出したかのように揺一に尋ねる。

 

「平気だよ。昔からそうだけどやっぱり鳥が好きなんだね」

 

「うん、鳥さんも、好きだよ」

 

ことりは少し含みのある言い方をしたように思えたが、揺一は気にすることなくことりの手を引いてドームの中に入った。

 

「大きい鳥さんだぁ……でも、ことりはやっぱり、あっちの小さな鳥さんの方が好きかな」

 

ことりたちの頭上をサギが飛んでいく中、ことりは小さいセキレイを指さした。

 

「確かに小さい方がかわいいよね。男子的には大きい強そうな鳥が好きだったりするんだけど……」

 

「そっか。やっぱりそういうところは男の子と違うんだね~」

 

そんなことを話しながらことりは少し揺一に身を寄せる。

 

「あ、悪い」

 

だが、近づきすぎたの感じたのか揺一が距離を取ってしまう。

 

「あ……」

 

ことりの小さな声は鳥のはばたきにかき消され、揺一に届くことはなかった。

ことりの心はすでに折れそうだったが、それでもめげなかった。

 

 

 

 

 

次に訪れたのはシロクマやペンギンなど海の動物がいる海洋館。

少し暗くなっている館内をことりはまた揺一の手を引きながら歩く。

 

「ねえよーちゃん。よーちゃんって好きな人、いる……?」

 

唐突なことりの質問。

なんで今聞いてきたのか不思議に思ったものの揺一は

 

「う~ん、いない……かな」

 

と普通に答える。

 

「逆にことりは?」

 

「え……こ、ことりは……ことりもいない、よ?」

 

しどろもどろのことり。

まさか質問が自分に返ってくるとは思っていなかったようだった。

 

「でも、よーちゃんならきっと幸せにしてくれそう……」

 

「そうかな? 実際付き合ったことないからわかんないや。そういうことりもきっと一緒にいたら楽しいと思うけどな」

 

 

「そ、そう、かな?」

 

何気ない会話が続く。

その間に回転するシロクマを見たり、ペンギンプールに作られたトンネルを通ったりしていく。

もちろん動物たちを見て回るのは楽しい。

だが、ことりはそれと同じくらい今の状況に悩んでいた。

 

 

 

 

――よーちゃんはことりのことどう思ってるんだろう

 

 

 

 

 

その不安が頭の中から離れない。

もしかしたらただ手のかかる妹分なのかもしれない。

もしかしたら昔からの付き合いを惰性的に続けているだけなのかもしれない。

そう考えてしまうと素直になれず、どうしても遠回しになってしまう。

だが、それでは揺一には伝わっていないようだった。

建物の外に出ると青空は広がっているものの、太陽は雲に覆われていて涼しいくらいの気温になっていた。

 

「ちょっと肌寒いくらいだね」

 

そう言ってことりは腕にかけていた上着を羽織る。

その一仕草からもなにやら大人っぽい気品が感じられる気がした。

昼食をとるためにレストランに向かう2人はお互い何やら距離感を見失っているようだった。

そのままレストランに入った2人は向かい合って座っても、いつもとはどこか違うという違和感を感じていた。

それでもいつも通りを演じる2人。

食事の味はどうなのかわかりそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあとも彼女たちは動物園を回る。

様々な動物と出会い、ふれあい、楽しい時間を共有した。

だが、2人の中に芽生えた違和感は消えない。

 

「今日は一日楽しかった! ありがとう、ことり」

 

そして、そろそろ別れの時間。

揺一が新幹線に乗って帰らなければならない時間が迫っていた。

 

「ううん、こちらこそありがとう。よーちゃんと一緒だっとあっという間に時間が過ぎちゃうね」

 

「確かにそうだね。楽しい時間って本当にあっという間」

 

その揺一の返答を聞いたことりは目を伏せる。

伏せないようにしなきゃ、あえて視線を空に向けるものの、あたりはすっかり暗くなったが、昼間から増えた雲に覆われ、星は全く見えていなかった。

そもそも駅の強い光の中では見えなかったかもしれないが、そのことがさらにことりを不安にさせた。

 

「そういえば、よーちゃんにプレゼント!」

 

あえて明るく言ったことりがバッグから取り出したのはきれいにラッピングされたストラップ。

昔揺一がことりに渡したヘアゴムについている鳥のマスコットに似せたものがそのストラップについていた。

 

「これって……」

 

「うん、マネっこして作ってみたの。どうかな?」

 

「すごくかわいいと思う。ありがとう」

 

「喜んでもらえたならうれしいな」

 

笑顔を見せることり。

その笑顔に安心したのか揺一が改札に向かう。

 

「あ、よーちゃん!」

 

「うん?」

 

「こ、これからも、ずっと、い、一緒に! いて、くれる……?」

 

精一杯の言葉。

だがそれはやはり直接の言葉ではなくて。

 

「うん、距離的には離れちゃうからなかなか会えないけどね」

 

少し恥ずかしそうにそういう揺一にはやっぱり伝わっていないようで。

 

「うん、ありがと……」

 

何とか作った笑顔でそうつぶやいたことりは手を振る。

ただのゲートであるはずの改札がまるで大きくそびえたつ壁のように感じられた。

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