DRAGON QUESTⅤ~父はいつまでも、傍にいる~   作:トンヌラ

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大分お待たせしました。
さて、佳境に迫ってきそうです。


Episode12:芽生えた気持ちを抱き、そして再会する青年

 重くのし掛かり嫌でも肌を照り付ける熱気、吹き出てくる汗、そして岩場の端に流れるグツグツと煮えきった溶岩。リュカはもう何度目かわからない溜め息を吐いた。

 ここは死の火山。サラボナの町から南東にある、とてつもなく危険と言われる場所だ。そこにルドマンが提示した条件である炎のリングがあるという。

 ただ、リュカにしてみればこの炎のリングを手にいれるということはすなわち、自分のよくも知らないような女性を嫁にするということにもなる。天空の盾を手にいれるためとはいえ、かなり複雑だ。しかも、このダンジョンはものすごく居心地が悪い。暑いし息苦しいし足取りが重い。リュカはまたも溜め息を吐き、だらんと頭を垂れる。

 

「全く、だらしがないぞリュカよ。この程度でくたばってどうする」

 

 リュカの溜め息を聞いたパパスはリュカの肩を勢いよく叩き、喝をいれる。だが、リュカにしてみればこの狂ったような熱気に、顔色一つ変えず堂々と歩いている父親の方が異常だ。魔物じゃないのかと疑いたくなるほどの強耐性だ。父親の強さの異常は今に始まったことではないが、度肝をまたも抜かれてしまった。

 

「この洞窟に先にいたアンディという若者だって毅然としていたんだ、お前がだらしなくてどうするんだ」

 

(アンディ? ……ああ、彼か)

 

 熱気で溶けて蒸発しそうだった脳味噌からどうにか思い出す。入り口にすでにいた、流れるような茶髪をした端正な青年だ。ルドマンの屋敷で話を聞いていた男の一人であるが、彼は暑さなどものともしないと意気揚々と歩き、お互い頑張りましょうといって去ったが、目的はフローラとの結婚のためのリング探しに決まっている。彼があんなに毅然としていたのは、自らの真に望むものがあるからだ。リュカとはそもそも条件が違う。

 リュカはまたしても溜め息を吐きつつ、この洞窟から早く出られることを切実に祈った。

 だが、現実というのはいつでも人に冷酷だ。屈強な肉体と強力な炎呪文《メラミ》を使いこなすホースデビル、炎を自在に操る《ほのおのせんし》、固い上にしばらくたつと厄介な自爆魔法《メガンテ》を放つ《ばくだんいわ》、ベトベトしている粘土質の体をもつ《マドルーパー》等の手強い魔物が行く手を阻んだ。だがリュカは鬱憤をぶつけるように次々とモンスターを斬り倒し、とっとと先に進んだ。リュカは早くここから出たいという感情以外、もう持ち合わせていなかった。

 かくして、複雑な構造をしている死の火山をどうにか探索し、ついに最奥地へと辿り着く。そこには一つ突き出た岩があり、そこに小さな指輪が置かれていた。

 もしやと思い、その指輪へと近づく。爛々と光る赤い宝石が極めて目立つ指輪だ。焔のように紅く、美しい宝石を備えたこの指輪こそ、ルドマンがいっていた炎のリングに違いあるまい。リュカは早速それを手に取った。

 だが、その直後。リュカたちの立つ足場の周りの溶岩が突然蠢き始めた。ぶくぶくと気泡が出ては弾けて、うだるような熱気を忘れさせるほどに緊張する。なにかいるのはもう、明白だ。

 やがて、泡立つ地点で溶岩の一部が隆起する。山のように盛り上がった溶岩はどんどん上へと伸びていき、次第には二つの黒い空洞を見せるようになった。あれはただの溶岩じゃない。溶岩と一体化した魔物だ。それも一匹ではなく三匹でリュカたちを囲むようにいる。

 魔物とわかったとたん、リュカたちはそれぞれ武器を構えた。魔物は黒い空洞を鋭く細めると勢いよく溶岩から飛び上がった。びちゃっと岩場に飛び移った魔物《ようがんげんじん》は腕を二本生やし、奇声をあげた。その姿は、この洞窟にいるドロヌーバにそっくりだ。

 

「……どうやらこのリングはそう簡単には渡さないつもりだな。やれやれ、とんでもない難題を吹っ掛けられたものだ」

 

 パパスは呆れたように溜め息を吐く。だが、その顔は笑っていた。パパスの、戦士としての本能が励起されているのだろう。リュカはそんな父にも呆れ笑うが、お陰で少しだけ余計な力が抜けた。

 ようがんげんじんが三方からじりじりと距離を詰めてくる。それに対するようにリュカ、パパス、そしてスライムナイトのピエールとホイミスライムのホイミンが武器を構える。だが、この状況はあまりよくない。囲まれてしまっているからだ。

 そして、相手の不利を嘲笑うかのように三匹は一斉にこちらに飛びかかった。

 だが、これは囲いから脱出するチャンスでもあった。

 

「来たぞッ! 散れッ!」

 

 パパスの声を聞いた皆はすぐさま意図を察し、奴等の下を潜って外へと散った。これにより、逆に奴等を囲むような形になる。かわされたことに気づいた奴等はクルリと振り向くとノロノロとこちらへと近づく。

 

「だあッッ!!」

 

 だが、鈍い魔物を待つことはない。容赦のないパパスとピエールは勢いよく踏み込んで距離を詰め、一閃する。

 一方リュカは両手を掲げてバギの上位呪文《バギマ》を唱えて援護をした。バギよりも一回りも二回りも大きな竜巻が、ようがんげんじんの体を斬り裂いていく。ホイミンは傷ついた仲間を逐一回復し、戦線維持に務めた。

 ただ、ようがんげんじんも負けてはいられなかった。接近するパパスやピエールを追い払う《かえんのいき》、かなりの攻撃力を秘めている腕による殴打は熱く、そしてかなり痛かった。だが、主に炎に耐性のあるピエール、そしてパパスが受け止めていたため、被害はそこまでではない。

 こうして戦っていくうちに三匹いた魔物もあっという間に倒され、溶岩へと帰っていった。パパスの奮戦により、思ったほど消耗もなく苦労もなかった。父の強さには毎度毎度頭が下がるばかりだ。

 互いに手を合わせて勝利を喜んだ後、リュカは早速リングを手に取った。一息つくと、リュカは早速リレミトを唱えるべく全員を近くに集めた。

 ああ、これでようやくこの灼熱地獄から脱出できる。そんな開放感に満たされ口を開く。

 ――だが。

 

「……うわああああああああっっ!!」

 

 突如、どこからか悲鳴が小さくこだました。リュカは思わず声のした方を振り向き、何があったかを探る。だが、何も見えない。恐らくもっと奥の方だろう。

 だが、これで放っておく一行ではなかった。

 

「行くぞ、リュカ!!」

 

「わ、わかった! ……はぁ」

 

 パパスは急いで声のする方に駆け出し、それをリュカ達が追った。もう少しだけこの地獄に囚われると思うとため息が出るばかりだが、仕方がない。割り切って全力で走った。

 しばらくすると、岩場に誰かが倒れているのが見えた。入り口でリュカ達にあったアンディだ。端正な顔が苦悶に満ちており、はあはあと荒い呼吸をするだけだ。パパスはアンディを抱き寄せ、大声で呼びかける。だが、呻くだけで答えはしない。それが精いっぱいなのだろう。

 

「死んでるの?」

 

「いや、息はある。ホイミン、まだ魔力が残っているならホイミを頼む!」

 

「わ、わかったっ! ホイミ~!!」

 

 ホイミンが光を放ち、その人を包む。すると、わずかにだが胸が上下し始める。呼吸自体は落ち着いたようだ。だが、相変わらずしゃべられないようだ。

 

「……額もものすごく熱い。リュカ、脱出しよう」

 

「そうだね。リレミト!!」

 

 リュカはさっそく唱えると、辺りを光で包み込み、洞窟から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 アンディをサラボナに運ぶと、早速手当された。医師の診断によると、全身に酷いやけどを負っていたらしい。恐らく溶岩に落ちてそこから這い出たのはいいが、やけどがひどくて動けなかったのだろう。普通溶岩に落ちたとならば死へと一直線のはずなのだが、彼の執念でどうにか生き延びたと考えられる。

 そして一日が立ち、リュカたちはルドマン邸へと向かった。事の次第を報告するためだ。ドアをノックし、メイドに通してもらうと、そこにはホクホク顔のルドマンがいた。パパスやリュカたちのぼろぼろになった服を見て、確信したのだろう。目当ての者が手に入ったことを。

 パパスとリュカは挨拶をするとリングをルドマンに見せる。ルドマンはますます顔を輝かせてリュカの手を握る。

 

「おお、炎のリングを手に入れたか! リュカとやら、よくやったぞ!」

 

「ありがとうございます」

 

「では、そのリングは私が預かっておこう。よいな?」

 

 リュカは素直にリングをルドマンに渡した。ルドマンはますます愉快そうに顔を綻ばせる。

 

「さて、残りは水のリングだが……水のリングと言うからには、水に囲まれた場所にあるのかも知れんな。よし! 町の外に私の船を止めておくから、自由に使うがいい。客船に使っているものとちがい小さな船だが、キミと仲間が乗るにはじゅうぶんだろう」

 

 リング探しのために船を貸してくれるとは、太っ腹な男だ。だが、一つだけ疑問が残る。

 

「いやはや有難い。しかしルドマン殿。正確な場所は解らないのですか?」

 

 パパスのもっともな質問に、ルドマンは困った顔をして応じる。

 

「それがなぁ……正直私にはわからんのだよ。名前だけは知っているのだがな」

 

「……なるほど、わかりました。さっそく船を使わせていただきます」

 

 とにかく水に囲まれた場所を探すしかないだろう。パパスは礼をして部屋を出るべく踵を返す。だが、リュカはふと気になった。フローラが見えないのだ。

 

「ルドマンさん、フローラさんはどこにいるのですか?」

 

「ん? フローラならアンディとやらの看病をしに出かけたよ。アンディの家にいるんじゃないかな」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 リュカが礼を言うとルドマンはにやっと笑った。

 

「リュカさん、最初はフローラの事よりも盾が大事だったようだが、私の娘の事も気になり始めたかな?」

 

「い、いやいやそんなことないですよ」

 

 慌てて否定するリュカだったが、耳は赤く染まっていく。ルドマンはにやりと笑いながらリュカの肩をポンポンと叩く。

 

「そうか。ただリュカ殿、もし水のリングを持ってくることが出来たら、喜んでフローラを君の嫁に出そう。何となくだが、君ならわが娘を預けても心配なさそうな気がするのだ」

 

「そうですか……」

 

 リュカが愛想笑いで返すと、ルドマンは頑張ってくれ給えと高笑いをしながら言い残すと、自室へと戻っていてしまった。パパスが声をかけ、リュカが頷くとルドマン邸を後にすべく出口へと向かった。 

 だが、ドアの取っ手をつかもうと伸ばした手が宙を掻く。出入り口のドアが不意に奥へと開いたのだ。

 

「あら、リュカさん!」

 

 可憐な声で呼ばれたリュカは一瞬で誰だかわかった。リュカはははと小さく笑うと名前を呼ぶ。

 

「フローラさんか。どうしたんだい? アンディさんの家にいってたんじゃ……」

 

「フローラでいいですよ、リュカさん。ええ、アンディの家に氷を持っていくために戻ってきました。全然足りないんです」

 

 そういうとフローラはメイドに命じて氷を持ってきてもらうように頼んだ。メイドは少々お待ちくださいとパタパタと駆け出していってしまった。

 

「フローラって優しいんだね。アンディさんの看病をするなんて」

 

 リュカの言葉にフローラは微笑みつつもふるふると首を横に振る。

 

「そんなことないですよ。アンディとは元々幼馴染みですし、それに私のお父様がこんな無茶なことをしたんですから……」

 

 何て謙虚なんだ。

 本来ならフローラが負うべきものではない。今回の一件においては、フローラが命じさせてあの炎の山にいかせた訳じゃないのだから彼女は関係ないはずだ。だが、それがフローラという人間の魅力なのだ。彼女の持つ、優しさと慈悲が多くの男の心を打ったのだ。

 

「それで……リュカさんはお怪我はありませんか?」

 

 フローラはこちらの顔を覗き込むように迫りながら尋ねる。一瞬鼓動が乱れたが、なんとか平静を保つ。

 

「うん、大丈夫だよ。この通りピンピンしてる」

 

「そうですか……はぁ、よかった……」

 

 フローラは胸を撫で下ろし、そして嬉しそうに笑顔を見せた。その、慈愛溢れる可憐な表情に、リュカはまたもや心を奪われかねなかった。心の底から熱を帯始め、必死にそれを抑え込む。

 

「……じゃあ、僕たちはもういくから。いこう、父さん」

 

「そうですか。どうか気を付けてください、リュカさん」

 

 これ以上フローラの側にいたら、自分自身がコントロールできそうになくなる。フローラの放つ匂いもとても芳しく、顔がだらしなく緩んでいきそうだ。リュカは逃れるようにじゃあねと言い残してルドマン邸を出ていった。

 

「どうやら、惚れたようだなリュカよ」

 

「そ、そんなんじゃないよ……」

 

 追い付いたパパスに言われ、リュカは慌てて否定するも、赤く茹で上がったリュカの顔と先程の態度からして説得力はない。

 なおもによによと笑うパパスをリュカはぷいとそっぽを向いて無視すると、すたすたとルドマンの用意してくれた船に向かっていってしまった。パパスは、やれやれと呆れるように首を少しだけ左右に振り、リュカの後を追った。

 

 

 

***

 

 

 船を駆り出した一行は、とりあえずサラボナの町から北へと進んだ。大きく開けた湖があると聞いたからだ。だが、湖は、鋼鉄の水門によって堅く閉ざされていた。迂回路はなさそうに見え、パパスが仕方がないから叩き割ろうと言い放ったが、その前にリュカはある立て札を見つけた。どうやら水門の近くにある山奥の村の人間に言えば、水門を開けてもらえるのだそうだ。船を降りて一行は、山を登って村を目指す。

 数十分もすればもう村の門が見えてくる。門を潜っていくと、歓迎の声が飛んできて、暖かい空気が包み込む。人々が穏和に暮らしているというのもあるのだが、それにしても山の上だというのに気温が高い。村人によると、ここは温泉地であり、観光客にも解放しているのだそうだ。ちなみに、水門の開け方は知らなかったようだ。

 誰か方法を知っているものはいないものか。リュカとパパスは手分けして村の村長を探すことにした。村長なら絶対になにかを知っているからだ。そんなわけで別れたリュカはさらに村の奥に進むと、集団墓地が見えた。そこには、一人の女性がしゃがみこんでお祈りをしていた。もしかしたら方法を知っているのかもしれない。そう思い、リュカは足を踏み出す。

 だが、リュカはピクリとなにかが反応したのを感じた。どこかで見たことがあると、頭の中で訴える声が聞こえる。

 そんなはずはないとリュカはその女性を後ろから見つめる。鮮やかに光る金髪、ほどよく引き締まった肢体に、良く日焼けした肌。リュカはその姿を、記憶の中にいまだ強く焼き付いている少女と重ね合わせていた。夜の町を二人で飛び出して冒険し、呪われた城で親分を倒した少女だ。

 そんなまさかと否定するも、リュカの心臓の鼓動は激しくなるばかりだ。他人の空似かもしれない。でも、そうではないと主張するように、息が詰まるほどに興奮してくる。あの冷えきった地獄の10年間の間でも、ずっと暖かく灯し続けてくれた思い出をくれた少女の、名前はーー。

 

「……ビアンカ?」

 

 自然に口からポロッと、言葉がこぼれ出す。リュカの心の中で熱を掻き立てる単語を吐き出すように。

 リュカの目の前でしゃがみこんでいる女性の背が小さく震える。そしてそっとこちらを振り返った。顔が露になったとき、リュカの心は、一矢に貫かれた。

 空のように澄んだ青い瞳、そして落ち着いた雰囲気を湛えた顔。リュカの想像する彼女とはまた少し違う。だが、それでもわかる。彼女は、ビアンカだ。

 女性は不思議そうにこちらを見つめてくる。きっとリュカだと認識していないのだろう。リュカは抑えきれない熱をどうにか圧し殺し、声を絞り出す。

 

「ビアンカ、久しぶり! 僕だよ、リュカだよ!」

 

 リュカと言う言葉を聞いたビアンカは、肩を震わせ、表情を一変させる。

 

「リュカなの……? 本当に?」

 

「ああっ、本当さ!」

 

 疑念の目を向けるビアンカにリュカは笑顔を向けながら頷いた。あのときと、変わらない表情に変えながら。そうすれば、きっと信じてもらえる。

 果たしてビアンカは信じた。墓場から立ち上がり、嬉しそうに声のトーンをあげた。

 

「まぁ……無事だったのね、リュカ!!」

 

 ビアンカはもう疑いの目を向けなかった。満面の笑みを浮かべて、リュカへと顔を近づける。リュカは一瞬顔が紅くなるも、どうにか誤魔化す。

 

「ぶ、無事ってどういうことだよ……」

 

「ふふ、サンタローズが滅ぼされて、リュカが行方不明になったって聞いたんだ。でも、あなたは生きてるって信じてたんだ。だからあたし、リュカに会えて嬉しいわ」

 

「そっか……僕も君に会えて嬉しいよ」

 

「積もる話があるだろうけど、家にいきましょう? 大したことはできないけど、ご馳走するわ! さ、来てきて!」

 

 ビアンカは楽しそうにリュカの手を引いて、村の奥にある大きな家へと案内していった。

 

 

 

 

 このビアンカとの再会は、またしても近いうちにリュカの人生に大きな波紋をもたらすことになる。その事を二人は、そしてパパスはまだ知らない。

 




ビアンカさんとフローラさん、どっちが勝つんでしょうねえ
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