DRAGON QUESTⅤ~父はいつまでも、傍にいる~   作:トンヌラ

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Episode4:栄えている町と、寂れた村

「……す、すっげぇ! なんだここは!?」

 

「何て大きい町なんだ……」

 

「なるほど、ここが噂に聞くオラクルベリーか。ずいぶんと栄えているようだ」

 

 パパスとリュカ、そしてヘンリー一行は海辺の教会を出て、マリアの助言通り北にある町、オラクルベリーへと向かった。リュカの故郷のサンタローズとは比べ物にならないほど大きく、ヘンリーの故郷のラインハットといい勝負だ。

 町に入るとまず目に映るのは、大きなカジノだった。ネオンでcasinoと大きくかかれており、夜になるとキラキラと光出すのだろう。

 生まれてこの方カジノなどやったことのないリュカは珍しげに見つめていたが、隣に立つヘンリーは目をぎらぎらさせながらはしゃいでいた。ヘンリーの故郷、ラインハットにはカジノはないが、カジノ自体は知っていたので、いつかやりたいと思っていたものだ。

 

「すっげぇ……! カジノまであるんだなあ! おいリュカ、いっちょやりにいこうぜ!」

 

「え? でも僕カジノわからないよ」

 

「俺だってよくわからないけどよ、俺たちはもう自由の身なんだぜ? カジノで遊んでみてもいいだろ?」

 

 リュカは正直気になったという程度ではあったが、どうせなら体験してみようと吹っ切れ、ヘンリーの誘いに乗った。

 

「……そうだね、ちょっといってみようか!」

 

「その前に軍資金はどうするんだ? いっておくが、あまり余裕はないんだぞ」

 

「……あ」

 

 パパスが硬貨の入った袋を取り出してじゃらじゃらとならして見せる。

 現在のゴールドはヨシュアからもらったお金と元からリュカが持っていた分を併せて2000ゴールドくらいしかない。それに装備品や道具などを補充させるとなれば、とてもカジノに回せそうにない。

 仕方なくリュカとヘンリーはカジノをあきらめ、街の商店などを巡った。何とかお金を割いて新しく装備を新調し、道具屋で薬草をいくつか購入する。わずか300ゴールドしか残らず、名産品などを買えるほどのお金はもう残されていなかった。

 

「……さて、とりあえず一通り回ったかな。……ん?」

 

「どうしたの、お父さん?」

 

「いや、北の防具屋の近くに下り階段があるんだが……」

 

「あっ、ほんとだ! まだ行ってなかったから行ってみようぜ」

 

 一同は地下に続くと思われる階段を下ってみる。冷えた空気が頬を撫で、地上の町の熱気あふれる空気とはかなり差がある。階段を下りて少し歩くと、木の椅子に腰かけたおじいさんと、その傍に立つバニーガールが見えた。

 このミスマッチというか奇妙な組み合わせを見た一同は一瞬ぎょっとするが顔には出さず歩み寄る。

 

「いらっしゃい。わしが有名なモンスターじいさんじゃ」

 

「モンスターじいさん? リュカ知ってるか?」

 

 ヘンリーが当惑した表情で聞いてくるが、リュカはフルフルと横に振る。リュカはパパスに視線を送るがパパスですら知らないようだった。

 

「なに? わしを知らん? まあいい。……む」

 

 ふと、老人ことモンスターじいさんは椅子から立ち上がってリュカへと歩み寄る。リュカの瞳を睨むようにじっと見つめながら迫ってくるので、リュカは困惑を隠せず後ずさった。パパスは息子を助けようと一歩前に踏み込んだ。

 が、パパスが飛び込んでくる前に、じいさんは納得したように頷きながら椅子の方へと引き返していった。

 

「いや、すまなかったな若者よ。ちょいとおぬしの瞳が気になっての」

 

「僕の、瞳……?」

 

 リュカは何が何だかわからないような表情で話を聞く。

 

「おぬしはなかなか良い目をしておるな。しかも不思議な目じゃ。これならモンスターを改心させ、仲間にできるかもしれんの」

 

「……そんなことができるの?」

 

「うむ。モンスターを扱っているからモンスターじいさんと呼ばれているのだ、わしの目に狂いはない」

 

(なんと……)

 

 パパスは後ろで聞いていたが、驚きを隠せずにいた。

 リュカの瞳は、妻のマーサによく似ている。そしてマーサは得体の知れない不思議な力を持っていた。とすれば、リュカはマーサの得体の知れない力を色濃く受け継いでいるのではないだろうか。そしてその得体の知れない力とは、魔物と和解し、従わせるものということなのか。そういえば、10年前はリュカは子猫を連れていたが、確かあれは、地獄の殺し屋と呼ばれているキラーパンサーの子供だ。人間では手を付けられない凶悪な魔物を、子供とはいえ従わせることが出来ていたのだ。

 

(……ただマーサの能力が魔物を従えるものだとしても、なぜ奴らはマーサを攫ったのだろうか? 奴等にとっては全く持って意味のないもののはずだ)

 

 そう、もしマーサの能力がそれだとしても、説明がつかないのだ。一つの疑問が解消できたのはいいが、また新たに疑問が浮かび上がってきてしまう。真実をつかむにはまだ、遠いのだろう。

 パパスはひそかにため息をついて思索を打ち切り、モンスターじいさんとリュカたちの会話に耳を傾ける。

 

「でも、どうやってやるんだ? いくらリュカがその力を持っていたとしても方法がわからないとどうしようもないぜ?」

 

「良い質問じゃ。教えてしんぜよう」

 

 モンスターじいさんはゴホンと一度咳き込んでから説明し始めた。

 

「まず馬車を手に入れることじゃ! そして……憎む心ではなく愛をもってモンスターたちと戦うのじゃ。そのおぬしの心が通じたときモンスターはむこうから仲間にしてくれと言ってくるじゃろう。もっとも彼らは自分より強い者しか尊敬しないから 仲間になりたいと言うのはこっちが勝った後じゃがな。……どうじゃ、分かったかな?」

 

 ずらっと言い続けたが、そこまで早口ではなかったので二人はすぐに理解できた。コクリと頷くと嬉しそうにじいさんは笑った。

 

「よろしい。ただし馬車に乗れる魔物にも限度はある。もしこれ以上乗せられないと思った時はわしのところまで来てくれれば預けてやるぞ」

 

「なるほどな……そこのお姉さんが管理してるのかい?」

 

 ヘンリーは檻の近くに立つバニーガールを指さす。

 

「まぁな。彼女は魔物を従えるのがとても得意だから世話は任せてるぞ」

 

「へぇ……意外とすごいなぁ。で、あと馬車はどこで手に入れたらいいんだ?」

 

「質問が多いのぉ。まあよい。馬車はこの町の北西にあるオラクル屋で売ってるぞい。もっとも、あそこは夜しか開いていないから今行っても無駄じゃろうがの」

 

「なるほど……ありがとうございます」

 

「何、礼などいらんわ。さあて、わしはそろそろ他のモンスターの世話をしてくるかの」

 

 じいさんは椅子から立ち上がり、檻の方へと向かう。

 ずっと後ろに立っていたパパスが前へと歩み、頭を下げた。

 

「この度はありがとうございました。では、これにて失礼しますぞ」

 

「うむ、気を付けてな」

 

 パパスは礼を告げるとリュカたちを連れて地上へと戻っていった。

 

「……ふぅ、空気がうまいなぁ。さて、これからどうする?」

 

 じいさんの話を聞いて疲れたヘンリーが怠そうに尋ねる。リュカもどうしようかわからないといわんばかりに答えた。

 

「夜まで暇だね。かといってカジノで遊ぶお金ないしなぁ……」

 

「宿で少しばかり寝るというのはどうだろうか?」

 

「あー、それでいいか。ちょっと俺も疲れちゃったしな。じゃあ宿取りに行くか」

 

 ほかの二人が同意の首肯を返すと、一同は宿屋へ向かう。

 ふとヘンリーは道中で立ち止まっている男女二人に視線が行った。何か話しているようで、その話し声が聞こえてきた。

 

「おい、聞いたか? ラインハットがまたやらかしたらしいぜ」

 

「え? 今度はなにやったの?」

 

「何でもこっから北西にあるサンタローズっていう村を焼き払ったらしいんだ」

 

「ええっ!? なんでそんなことを……」

 

「それはよくわからねぇけど……新しい王様になってからロクなことねぇな」

 

(なん……だって……?)

 

 ヘンリーは気がつけば立ち止まっていて、全身が凍り付いた。ヘンリーの知っているラインハットは大した訳もなく町を焼き払うなんて暴挙をするような国じゃない。国民や兵士のことを考え、きちんと政治を行う国のはずだ。こんな暴虐無人な政治を行っているなど、夢に思わなかった。

 突然ヘンリーが立ち止まったのを見てリュカとパパスは訝しげに思う。

 

「ど、どうしたの? ヘンリー」

 

「…………なぁ、皆。まだ時間あるからさ、サンタローズに行きたいんだけど、駄目か?」

 

 ヘンリーはリュカの質問には答えず、代わりに提案をした。いや、提案と言うよりかはもはや頼み事だろうか。声のトーンがいつもとはうってかわって低いため意図をつかみづらい。

 

「さ、サンタローズ? 何でまたそんなところ……」

 

「……ちょっと確かめたいことができたんだよ。それにこの町をふらついていても暇だしな。ここからそんな遠くないはずだ」

 

「……よくわからないけど、僕は構わないよ。久々にサンチョとかにも会いたいしね。父さんは?」

 

 リュカは少し嬉しそうにヘンリーに返事した。けれどヘンリーの表情はどこか浮かない。ヘンリーの心中など全く知らないリュカは不思議に思いながらも父に尋ねた。

 

「私もいくつもりだ。10年ぶりだから、楽しみだな……」

 

 パパスは朗らかに笑って返す。けれど、どこかリュカには影があるように感じられた。

 

(どういうことなんだ? サンタローズに何かあったのかな?)

 

「おい、何してんだよリュカ。いくぞ」

 

「あ、ああ……わかった」

 

 いつの間にかパパスとヘンリーは町の外に出ていた。リュカはとりあえず考えるのをやめ、二人のあとを追いかけていった。

 

 

***

 

 

「こ、これは……なんてことだ……どうしてこんな……!」

 

 リュカはサンタローズの村にたどり着いた途端、膝から崩れ落ちるような衝撃を受けた。建物はほとんど壊されたり焼かれており、橋は真っ二つに割れて川にプカプカと浮かんでいる。地面には焦げたあとがいくつか残っており、人ももはや一人も見当たらない。

 リュカは堪らず父を見る。きっと父も自分と同じように、驚愕に満ちた表情をしていることだろう。そう思った。

 だが、パパスは僅かに震えてながらぼやいた。

 

「……やはり襲われていたか」

 

「……えっ」

 

 リュカは先程のパパスの表情の意味を理解した。分かっていたのだ。もう二人の知っている故郷のサンタローズの姿はないことを。そしてパパスに仕えていた家来のサンチョの姿もない。パパスが震えていたのは、大切な家も大切な人もいないこの惨状に怒りを抱いていたからであろう。

 リュカは続いてヘンリーも見る。ヘンリーは終始俯いていた。やはり知っていたのだ。先程ヘンリーが立ち止まったのも、町の人がサンタローズのことを噂しているのを聞いていたからだ。

 

「……酷すぎるぜ。本当に俺の国が……ラインハットがやったっていうのか!?」

 

「ラインハットだって? それは本当かい、ヘンリー?」

 

「……あぁ。さっき町の人が話しているのが聞こえてさ。それで気になったんだけど……本当だったんだ! くそっ!」

 

 ヘンリーはだんと足を踏み鳴らす。ヘンリーは今にも泣きそうであった。

 

「いったい誰がこんな命令を下したんだ……デールがこんなことするわけない……アイツはいい奴だ、こんな焼き払うなんてこと絶対しないはずだ!」

 

「……恐らくあなたの母上だろう」

 

 パパスは深刻そうに言い切った。ヘンリーはえっと驚いてパパスの方を振り向く。

 

「母さんが……? どういうことだ?」

 

「10年前、ヘンリー王子は魔物にさらわれただろう? あの事件は魔物が単独で行ったわけではない。あなたの母上が裏から糸を引いていたのだ。統べては弟のデール王子を王位に就かせるために」

 

「……なるほどな」

 

 ヘンリーは作ったような笑い顔をみせ、崩れるように座り込む。けれどそれは、パパスに告げられた真実にショックを受けたからではなかった。ヘンリーが奴隷にされた直後に母さんに売られたって嘆いていたことをリュカは知っていた。

 ヘンリーはただただこの惨状が辛かった。デールは王になるのを嫌がっていたのにも関わらず、村を焼き払わせられ、そして汚名を被らされるのだ。暴君として後生にデールが語り継がれてしまう。

 ヘンリーはグッと拳を握りしめ、ゆっくりと立ち上がる。そして、パパスへと向き直った。

 

「なぁ、パパス。今日馬車手に入れたらさ、ラインハットに行ってくれないか? 俺、一生戻らないって決めてたけど、このまま放っておけない」

 

「ヘンリー……」

 

 リュカはただ黙ってパパスの答えを待つ。ヘンリーは何時になく真剣な目をしていた。奴隷時代でマリアが襲われていたときにしていた目とそっくりだった。

 パパスはヘンリーの視線を感じ取り、うなずいた。

 

「いいだろう。明日ラインハットへ向かおう」

 

「……ありがとう」

 

 ヘンリーは少しだけ笑って返事した。けれどすぐに、覚悟を決めたような目に変わった。

 

「ただ少しだけサンタローズへと用事がある。ちょっとついてきてくれ」

 

 パパスはそういうとサンタローズの門を潜った。まだ日は明るい。二人は黙ってパパスの後を追った。

 

 

 パパスが向かったのは、サンタローズの奥にある洞窟だった。途中、僅かに村人が残っており、皆涙を流してパパスとの再開を喜び、そしてラインハットへの憎悪の念をぶちまけた。リュカはその度にヘンリーの顔を見たが、ヘンリーはただただ唇を噛み締めて俯いていた。ヘンリーとて謝りたかっただろうが、謝罪を受け入れてくれるわけもないと思いなにも言わなかったがそれは賢明な判断だろう。

 最後の村人と話し終え、サンタローズに流れる川に浮かぶ筏に乗り込む。川は洞窟まで続いており、パパスたちは漕いで進んでいく。やがて水に囲まれた陸地が見え、そこにある地下階段を降りていく。

 が、そこからは、険しい道だった。

 

 

 

「キシャーーーー!!」

 

「くっ……やっぱりお爺さんのいう通りだ、ここは魔物の住みかになってる!!」

 

「喰らえッ! ーーくそっ!! 数が多すぎる!」

 

「10年前は魔物などいなかったはずだがな……フンッッ!!」

 

 水色の滴のような形をした魔物スライム、木槌を担ぐブラウニー、フクロウのような巨大な逆三角形の体型に熊のような剛腕と爪をあわせ持ったアウルベアー、固い鱗を持つガメゴン、悪臭がひどいくさったしたい等が群れをなして三人に襲いかかってくる。倒しても倒しても切りがなく、しかもなかなか手強い魔物もいるため、体力の消耗が激しかった。ただ、パパスが時々強力な回復呪文ベホイミをかけてくれるお陰でどうにか戦線は維持できている。

 

「クソッ、これでも喰らえ! イオ!」

 

 ヘンリーは指先に魔力を込めて小さな光のたまを生成し、固まっている魔物の集団にそれを放出した。魔物たちはふと気になったようでその光に導かれるように近づく。が、それは罠だった。突如光は弾け、爆風が襲いかかったのだ。

 

「ヘンリー、いつの間に覚えていたんだね!」

 

「まぁな。さて、これで効いてくれるといいんだけどな」

 

 イオは威力は若干低いが広範囲に爆発を起こす呪文であるため、こうした大勢を相手にするにはもってこいだ。しかも雑魚はこの威力でも死ぬため大分数を減らせたはずだ。

 が、爆風で巻き起こった煙が引いてくると、魔物は再び群れをなして襲いかかった。

 

「なに!?」

 

「くっ、ならこれならどうだ! バギ!」

 

 リュカは剣を持たない方の手の平を突きだし、風を呼び起こした。たちまちそれはいくつもの小さな竜巻となり、魔物たちに迫る。避けることもままならず魔物たちの体は切り刻まれていった。こちらも先程のイオと同じく広範囲で攻撃する呪文だ。綺麗にヒットしたのでかなり多くの魔物を葬っただろう。

 が、結果は同じだった。魔物の数は減ることを知らない。

 

「ど、どうすりゃいいんだこんなの!?」

 

「まずいな……このままだと魔力がつきる!」

 

 リュカとヘンリーは迫り来る魔物から後退り、思案するも、なにも思い付かない。敵の数はほぼ無限に近い。そんな状況を覆すなんて到底できることじゃない。

 

「くそっ、こうなったら破れかぶれだ! 行くぞリュカ!」

 

「待つのだヘンリー王子!」

 

 リュカとヘンリーが剣を構え始めたところにパパスの大声が飛んできた。

 

「はっきりいってこれは埒が明かない! 奴等から振り撒いて、ここを逃れるぞ!」

 

 パパスは一人で大勢の魔物と戦いながらリュカたちに叫ぶ。よく見るとパパスは呪文を使わず剣のみで斬りさばいている。しかも傷ひとつ受けている様子はない。

 

「てやぁっーー!!」

 

 パパスは渾身の叫びと共に剣を横に凪ぎ、魔物どもを吹き飛ばした。その後パパスは大きく後ろに飛び、リュカたちに叫ぶ。

 

「リュカ、ヘンリー王子。わしらはあの奥にゆく。だから二人で魔法であいつらを吹っ飛ばしてくれ。その後は全力でそこまで駆ける。いいな?」

 

「わかった!」

 

「いいぜ! よし、せーので行くぞリュカ!」

 

 パパスの駆け足な説明を理解し早速詠唱準備にかかる。パパスが吹き飛ばして得た間もあっという間に詰められていき、またもうっとうしい集団が出来上がる。

 魔物たちがギロリとリュカたちを睨み、襲いかかってきたところでヘンリーは叫んだ。

 

「せーの! イオ!」

「せーの! バギ!」

 

 ぴったりなタイミングで二人の手から呪文が唱えられ、魔力が放出される。小さな竜巻が魔物たちを巻き込み、爆発で散り散りに吹き飛ばしていく。収まった後にはもう魔物たちはそこにはいなかった。

 

「今だ、走れ!!」

 

 パパスが合図を下して全力で出来た間を駆け抜ける。またすぐに魔物が出てくるかもしれない。それまでどうにかーー

 が、彼らの願いは叶わなかった。すぐにまた魔物が湧き出してきたのだ。このままでは道を塞がれるどころか囲まれてリンチされてしまう。しかしまだパパスの言った場所までは距離があり、とても間に合いそうにはない。

 万事休すか。パパスは駆けながらギリッと歯を鳴らした。

 が、意外なことが起こった。

 

「ーーマヌーサ!」

 

 ヘンリーの声が突如響き渡る。パパスはその言葉の意味を直感的に理解する。マヌーサは敵の視界を暈し、惑わせる呪文だ。どこに何があるかわからないため、妨害にとても役立つ。

 魔物たちはとたんにおろおろし始め、全く違う方向を向きながら腕や尻尾などを振り回していた。どうやらうまく効いたようだ。

 

(いいぞヘンリー! 敵はなんにも見えてない!)

 

 リュカとパパスはにっとヘンリーに笑うと、最後の力を振り絞って、魔物たちから逃れたのだった。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ、ついたぞ」

 

「ようやくか……はぁ、くたくただぜ」

 

「そうだね……僕も疲れたよ」

 

 パパスたちはようやく、目的の場所についた。地下深くに狭いスペースがあり、そこには本棚がいくつか並べられていて、中でも目を惹くのは、片隅におかれた派手な剣だった。金の装飾で施されており、威厳を感じさせられる。どうやらただの剣ではなさそうだ。

 

「ここは何だい、父さん?」

 

「ここはな、わしの研究室だ。わしは密かにここである研究をしていたんだ」

 

「研究だって? パパスって学者だったのか?」

 

「いや、違う。わしは天空の勇者について調べていたのだ。すべてはわしの妻、マーサを助けるためにな」

 

「……でもなんで天空の勇者について調べるんだ? 俺にはさっぱりわからないぜ」

 

 事情を全く知らないヘンリーにとってはちんぷんかんぷんだった。

 

「僕が説明するよ! 実は……」

 

 リュカはパパスの研究していることとその理由を包み隠さず話した。

 

「……というわけなんだ」

 

「なるほどな。要するに魔界に行くためには天空装備って呼ばれている奴を集めて勇者と一緒に入んなきゃいけないんだな?」

 

「そういうことだ、ヘンリー王子。そして、その天空装備のひとつがこれだ」

 

「えっ、もう持ってんのかよパパス!」

 

 パパスは壁に掛けてある剣を手に取り、リュカとヘンリーに見せる。束はドラゴンを型どったものとなっており、鱗を思わせる頑丈な鞘にしまわれている。

 

「これがてんくうのつるぎだ」

 

「どれどれ……」

 

 ヘンリーは鞘から剣を抜き、構えてみる。しかしヘンリーの持つ剣は鉛のように重く、すぐに地面に沈んでしまった。どうにか持ち上げることはできるが、到底実戦では使えないだろう。

 

「うおっ!? なんだこれ、めちゃくちゃ重いぞ!?」

 

「そうだろうな。この剣を装備できるのは勇者だけだからな。勇者でないものが鞘から剣を抜くと途端に重くなるようになっている」

 

「へぇ……リュカ、お前ちょっと持ってみろよ」

 

「わ、わかった……」

 

 ヘンリーがそっとリュカに剣を渡し、リュカは柄を握る。が、ヘンリーと同じように剣はぐんと重くなってしまった。

 

「だ、ダメだ……僕も無理だった……」

 

「そうか……」

 

 パパスは落胆を隠しきれなかった。もしかしたらリュカなら装備できると思っていたのだが、自身もマーサも勇者ではない以上、装備できるわけがない。

 パパスはリュカから剣を受け取り、自分の持っている袋に仕舞い込んだ。教会の剣と変えない辺り、パパスも装備ができないのだろう。きっと悔しかったのだろうとリュカは息子ながら思った。

 

「さて、ではこの洞窟から出るとするか」

 

「そうだなー、もう夜になってるだろうしな。……けど、またあの魔物の大群を相手にしなきゃいけないのか……」

 

「そういうことになるな……」

 

 パパスとヘンリーは憂鬱げにため息をはいた。

 がーー。

 

「別にわざわざあの魔物たちと戦うことはないよ」

 

「え?」

 

 リュカはパパスとヘンリーに近づいて一言だけ呟いた。

 

「リレミト!」

 

 リュカが叫ぶと同時に、光が三人を包み込んだ。

 

 

 

 

 洞窟から脱出できる呪文リレミトを唱えて外に出た一行はすっかり夜になっていることに驚きつつもオラクルベリーに戻って破格の300ゴールドで馬車を購入した。その後は宿に向かってぐっすりと休み、次の日の朝を迎えた。

 一行は町を出ると次なる目的地を目指して歩み始めた。一行にとって因縁の強い国、ラインハットへと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




できる限り原作準拠しようにしています。
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