DRAGON QUESTⅤ~父はいつまでも、傍にいる~ 作:トンヌラ
「な、なんでだ……なんで……!! どういうことだよ……」
「どうしたんだい、ヘンリー!?」
「牢屋にいるんだよ……俺の義理のオフクロが!」
「な、なんだと!? 奴が権力を握っているはずじゃなかったのか!?」
ラインハットの地下牢獄に閉じ込められていたのは、なんとヘンリーの義理の母、大后だった。実権を握っていると思われていたが、牢獄に入れられているのはどう言うことなのか。
「……誰かそこにおるのか。いるならこちらへきてくれぬか」
リュカたちが話しているのが聞こえたのだろうか、牢屋から声が聞こえた。ずいぶんと悲しそうなトーンだった。きっとあの大后だろう。リュカたちは無言で牢屋へと歩み寄った。
「おお、来てくれたか。妾はこの国の大后じゃ。早くここから出してくれぬか?」
大后は希望をつかんだように嬉しそうに柵を掴んで懇願する。
が、リュカは思わず懐疑的な目線を送る。大后はそれを感じとり、不機嫌になった。
「何じゃ、妾が大后ではないと疑っているのか?」
「……てっきり玉座でふんぞり返ってるだろうって思っていましたからね」
「おいヘンーーいたっ!」
ヘンリーの嫌みたっぷりな返事リュカは諌めようとしたがヘンリーに思いきり足を踏まれてしまう。リュカはヘンリーの方をみて何故と目線で問うが、すぐに察した。まだヘンリー王子であるということを明かすつもりはないことを。
幸い大后はリュカのミスには気付かず、ため息をはく。ひとまず胸を撫で下ろしつつもリュカはヘンリーの非礼を詫びた。
だが大后は怒るどころかますます落ち込んでしまったようだった。
「……それもそうじゃろうな。誰も気づいていないのだ。今は偽の大后が妾の姿そっくりに変えていることをな」
「……なんですって!?」
リュカはもちろんヘンリーもパパスも本気で驚いた。今悪徳政治を行っている政権の実権を握っているのはこの大后ではなく、別の大后だというのか。
大后は柵を握る力を強めてリュカに迫る。
「だが、これだけは言わせてほしい! 妾は本物の大后じゃ! 妾をここから出しておくれ!」
自分は大后だ、だから出してくれ。
リュカは大后のその高圧的な頼み方を見て、頭がかっとなっていくのを感じた。
(何て身勝手な人なんだ……ヘンリーを売ったくせに自分は助かりたいだなんて……!)
リュカはヘンリーの顔をみる。ヘンリーもわずかに肩がプルプルと震えていた。今にもヘンリーは飛びかかりそうなほどに、怒っているのがわかる。それもそうだ、自分の人生を台無しにした張本人が、あまりにも身勝手で反省していないのだから。
怒りに震えてるとも知らずに、大后はぎゃあぎゃあと頼み続けた。
「もうこんなところは嫌なのだ! 頼む、ここから出してくれぬか! 妾はこの国の大后じゃぞ! だからーー」
「っ……ふざけーー」
「いい加減になされよ!!!!」
リュカが我慢の限界だと思い叫ぼうと息を吸おうとしたその刹那、地を揺らすほどのパパスの怒号が響き渡り、思い切り檻を拳で殴り付けた。あまりの力に金属が悲鳴をあげて割れ、柵の一部が吹っ飛び、大后の頭上を掠めた。大后は魂を抜かれたように崩れ落ちて、黙ってしまう。
10年前にヘンリーに怒ったときと同じように怒ったパパスをみてリュカはすっかり怒りが収まってしまった。ヘンリーもまた虚を突かれたような表情をしている。
「何がこんなところ、だと!? あなたは実の息子でないとはいえ、奴隷として売り払ったくせに自分が同じような状況に陥ってそんな泣き言を言うのか!? 王子はここよりも数倍辛い場所で10年もいたのだぞ!? なのにまだそんな身勝手なことが言えるのか!?」
「な、なぜその事をお主が知っている……!?」
「そんなことはどうでもよい!! あなたはなぜ反省をしない!? なぜいつまでも高貴な人のように振る舞っている!? あなたは、母親として、いや人として最低の事をしたのだ!! 少しは反省をしたらどうなのだ!?」
「……反省しているとも。ーー反省してるとも!!」
大后は立ち上がり、叫んだ。大后の瞳には、大粒の涙が光っていた。
「確かに妾は弟のデールを王にしたいがためにヘンリーを魔族に売り払った。これは紛れもない事実じゃ……だが、今では本当に悪かったと思っている。本当じゃ……本当なんじゃ……うっ、うっ……」
大后はすすり泣きながら再び崩れる。パパスは拳をそっと下ろし、ヘンリーを見る。ヘンリーもまた、どこか読めないような表情をしていた。ヘンリーは、パパス以上に怒りの感情が渦巻いていたに違いない。が、大后の言葉で、それが揺らいだのだろう。
「……申し訳ないですが、我々は鍵を持ってはいないのです。それでは……」
リュカは弱々しい声で頼みを断り、檻に背を向けた。大后は何も言わず、ただすすり泣き続けた。パパスもヘンリーもピエールも、リュカに続いて後にした。
***
大后が偽物にすり変わっているという事実を知った一行は地下の抜け道を抜けて城内へと無事たどり着いた。城の中庭に出るようになっているようだが、なんとそこにも魔物が数匹いた。犬かと思って近づいたらなんとドラゴンの子供、ドラゴンキッズだった。とはいってもそこまで強い敵ではないのですぐに倒してしまい、さっさと城の中に入っていった。
ヘンリーはさすがに6年間ほど過去にこの城で育っていただけあって城の構造は覚えていた。デールが座る玉座まで全く迷わずリュカたちはたどり着いた。
「すみません。王様に謁見したいのですが」
リュカは玉座のそばにいた大臣に声をかける。が、大臣は渋い顔をしてデール王の前に立ちふさがる。
「申し訳ないが、王は今は誰ともお話しされたくないそうだ。お引き取り願おう」
「王にどうしても伝えなくてはならないのです。そこをどうにか……」
パパスも説得をするが、大臣の表情は変わらない。どうしようか思い悩み、二人で顔を見合わせる。
が、ヘンリーはずかずかと玉座に上がり込んでデール王の横にいた。その場にいた皆は驚愕し、ヘンリーを凝視する。
「何をしている貴様! とっとと王から離れぬか!」
大臣がヘンリーを怒鳴る。デール王も不機嫌そうにヘンリーを見つめて、諭すように言った。
「そこにいる大臣から聞いたであろう……今日は誰とも話したくない気分なのだ。下がるがよい」
しかしヘンリーが下がるはずもない。ヘンリーはデール王の耳元に近づいてそっと囁いた。近づくヘンリーを手で押し退けようとするも、間合いはすぐに縮められてしまった。
「ぶ、無礼者!」
「ですが陛下。子分は親分の言うことを聞くものですぞ」
「い、いったい何をーーえっ? そ、そんなまさか……」
デール王はヘンリーをじっと見つめて震え始めた。まさか、まさかと思い、そっと名前を口にしようとした。
が、ヘンリーは思い切りデール王を睨み付けた。デール王は一瞬怯み、そして意図を掴んだ。
デール王は正面を向き、大臣を呼んだ。
「おい、大臣! 私はこの者たちと話がある! 下がっておれ!」
「は? ……はい、わかりました」
大臣は、ヘンリーの突然の態度の変貌に困惑しながらも律儀に命令に従い、玉座を去った。
大臣が見えなくなったところまで行ったのを確認して、デール王はパッと笑顔を見せ、叫んだ。
「ヘンリー兄さん! 生きていたんだね!!」
「ああ、生きて帰ってきたぜ。長い間留守にしていて悪かったな。お前が嫌がってた王位を継がせることにもなったし……」
「ううん、気にしなくていいよ。兄さんが帰ってきてくれてほんと嬉しいよ。……さっきはごめん、兄さんだって知らなくて」
「気にすんなよ。でさ、お前に話したいことがあるんだ」
「ん、なんだい?」
「実はな、お前の母さんが……」
ヘンリーは一度後ろを振り返り、大臣が盗み聞きしていないかどうかを確かめて、デール王にそっと事情を説明した。
「えぇ!? 母さんが地下牢にいて、今の母さんが偽物だって!?」
「シー! 声が大きい!」
「あ、ごめん……」
デールが思わず大声をあげてしまったが、どうにか口を押さえた。そして静かなトーンで会話を再開させる。
「そういえば色々思い当たる節があるよ。魔物とかを急に雇い始めたり、人間の村を襲い始めたりとかね。僕は反対したんだけど押さえ込まれちゃって……」
やはりあの数々の厳しい命令はデールが下したものじゃないとわかってヘンリーはそっと胸を撫で下ろす。
「それはそうとどうやって母さんじゃないことを証明しようか……あ、いや待って! 僕いつだったか読んだことがあるんだ、不思議な鏡の伝説を。なんでも、真実を映し出す鏡があるとかなんとかで……」
「どこで読んだんだ?」
「確か城の倉庫にある本棚かな。あっ、でも今そこ鍵かかってるからこれ渡すね。ラインハットの城なら全部これで入れるよ」
デールは懐から鍵を取り出し、ヘンリーに渡した。
「ありがとな、デール」
「ううん、僕にはこれくらいしかできないからね。でも兄さん、無理しないでね」
「心配すんな。必ず俺がこの国を救ってみせるぜ。じゃあな、デール!」
ヘンリーは玉座から退き、リュカ達のところに向かった。デールは見送るようにずっとヘンリーの背中をみていた。
「お待たせ。話は聞いていたろ?」
「まあね。城の倉庫に本があるんだろ?」
「そうだ。だから早速いこうぜ」
「……しかし、いいのかい?」
リュカはヘンリーに問う。ヘンリーは意味が良く分からなかったので聞き返す。
「何がだよ?」
「ようやく弟さんと会えたのに、もっと話さなくても良かったのかい?」
ああその事かとヘンリーは頭をかきながら頷く。
「正直今は昔話をしている暇はない。まずはこの事件を片付けないとな。そのあとにゆっくり話をするつもりさ」
「そっか……よし、いこうか」
リュカたちは玉座の間から離れ、ヘンリーの案内のもと倉庫へと向かった。
***
倉庫の本棚を片っ端から探していくと、それらしき本を見つけた。埃が被っており、かなり古いものだと思わせる。どうやら遥か昔の人物が書いた日記のようだ。リュカは埃を払って目を通した。
それによるとどうやら倉庫のすぐ近くにある旅の扉でいける古い塔に真実を映す鏡があるようだ。しかし、そこにはいるには修道僧がいないといけないらしい。
リュカたちは知恵を振り絞りある考えに至った。海辺の教会ならば、その塔について詳しく知っているのかもしれないと。
こうして一行は前に世話になっていた海辺の教会へと戻り、話を聞いてもらうことにしたのだった。
「まぁ、お帰りなさい! リュカさん、ヘンリーさん、パパスさん」
海辺の教会にたどり着くと、入り口で手を合わせていたマリアが見つけて嬉しそうに出迎えてくれた。
「久しぶりだねマリア! 元気にしていたかい?」
「はい、私の方は特に何もないです。リュカさんたちはどうですか?」
「僕たちは元気にやってるよ」
「そうですか……ところで、何か御用なんですか?」
「マリア殿、エリサさんはいないだろうか?」
パパスがリュカに変わって言った。エリサならその古い塔について何か知っていると思ったからだ。
「エリサさんなら中にいますよ。ご案内しましょうか?」
「頼む」
ではこちらにと、マリアは扉を開けて一行をエリサのもとへ連れていく。エリサは祈りの間に備え付けられているパイプオルガンの手入れをしていた。
「エリサさん、リュカさんたちがお見えです」
「まぁ、ほんとですか? どちらに……あら、連れてきてくれたのですね」
「お久しぶりです、エリサ殿」
パパスは軽く頭を下げて挨拶する。パパスが目覚めた時に面倒をみてくれたシスターで、マリアの先輩である。リュカやヘンリーもパパスに習い、礼をした。
「お久しぶりですね、パパスさん。それで、どのようなご用件なのですか?」
「ええ、実は……」
パパスは事情をすべて説明した。流石はシスターというべきか頭は良く、パパスの最低限の説明でもすぐに理解した。
エリサは何度か頷いて頭の中で話を整理すると口を開いた。
「なるほど……恐らく貴殿方が仰った塔とは神の塔でしょう。彼処は神様がお作りになられた塔で、修行を積んだシスターのみが開けられるのです。そしてそこには真実を映し出す鏡、ラーの鏡が祀られています。しかし……」
エリサの表情が若干曇ったのをリュカはみた。
「あの辺りには魔物が残念なことに住み着いております。女の足でいくというのはーー」
「私に行かせてください!」
ためらいがちなエリサの言葉を遮ってマリアが申し出た。エリサは目を大きく見開いてマリアをみる。
「マリア、あの場所は危険なのですよ? 命を落としかねませんよ?」
「私はあの人たちに良くしていただきました。今度は私の番です! それに、あの塔に私の力が通じるか、試してみたいのです! ですからお願いします、行かせてください!」
「マリア……」
マリアは思い切り頭を下げた。マリアは恩返しをしたかった。あの奴隷の日々で自分が鞭を打たれたとき、リュカとヘンリーは庇ってくれた。だから、ここで役に立ちたいと思ったのだ。
「エリサさん、俺からも頼むよ! マリアには絶対傷をつけさせない! 俺が、俺たちが絶対守るから! 頼む!」
「ヘンリーさん……」
マリアの横でヘンリーも必死に頭を下げてくれた。マリアはなんだか胸が暖かくなりながらもさらに深く頭を下げた。
エリサはそんな二人をみて、呆れたようなため息を吐いた。そしてーー笑顔で言い放った。
「分かりました。私からもう何も言いません。リュカさん、ヘンリーさん、パパスさん、そしてスライムナイトさん。マリアをよろしくお願いします」
「お任せください。彼女は全身全霊でお守りします」
「頼みましたよ。マリア、気を付けるんですよ?」
「はい、必ずここに戻ってきます!」
ありがとうございましたともう一度マリアは頭を下げるとリュカたちの方へと近づいて声をかけた。
「皆さん、よろしくお願いしますね。私、できるだけ足手まといにならないように気を付けます。では、行きましょうか!」
「そうだね、行こうかマリア!」
リュカたちはマリアを新たに仲間に加え、教会を出た。戦えないマリアを馬車にいれて、道中の魔物から庇いながら戦うのは大変だったが、マリアもマリアなりにものを投げたり、敵の攻撃を教えてくれたりと戦闘をサポートしてくれた。
旅立つ前にエリサに聞いたのだが、神の塔はちょうど海辺の教会の南にあるそうようだった。良いことを聞いた一行は一行はラインハットには向かわずに南下し、神の塔へと誘ったのだった。
ちなみに書くためにもう一度ドラクエ5やっているのですがようやくピエール仲間にできました笑
強いですねやっぱりw