DRAGON QUESTⅤ~父はいつまでも、傍にいる~   作:トンヌラ

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ドラクエ11、楽しみですね。生放送見ましたよ。早くほしいです。


Episode8:ラインハットの因縁を断ち切った戦士たち

 

 

 神の塔にてラーの鏡を入手し、それを用いて大后の正体を暴いたところ、なんと魔物に化けていたのだった。ニセ大后だった魔物を倒すべく、リュカ達は剣を構えて駆け出した。

 

「はぁっ!!」

 

 先陣を切ったリュカがニセ太后目がけて直角に剣を振り下ろす。しかし大振りなために動きが読まれたのか、ニセ大后は右横に小さく飛んでかわす。

 だが、リュカは織り込み済みだった。ニセ太后を横目でとらえると、すぐさまやや左に逸れた剣をそのまま平行に持っていき、素早く円を描くように斬り払った。切っ先がニセ大后の頬を捉え、どす黒い液体が少しだけ飛び出す。

 

「ギャッ!?」

 

 ニセ大后は悲鳴をあげて僅かに仰け反る。

 

(よしっ!!)

 

 隙ができたと判断し、リュカは追撃すべく迷わず距離を詰めていく。

 しかし、ニセ大后はニヤリと影で口端を吊り上げた。振り向き様にリュカを嘲笑うと、空気を揺らす勢いで平手を打った。走り出してしまったリュカは判断が遅れ、避けることが出来ないまま頬に重いビンタを食らってしまった。

 

「がはっ……!?」

 

 リュカはあまりの痛みに地面に転がり、剣を落としてしまった。そして、信じられないような気持ちで頬を押さえた。たかが平手打ちで、顔の骨が変形するほどの衝撃を受けたのだ。

 それもそうだ、ニセ大后のビンタは人間のそれとは比べ物にならない。ゴツゴツした手の平からなされる一撃は、鉄のグローブで思いきり殴られたのとほぼ同じだ。

 

「ヘンリー王子! 奴にマヌーサをかけてくれるか!?」

 

 パパスはリュカにすぐに回復呪文ホイミをかけると、ヘンリーに命令した。てっきり攻撃呪文を使うのかと思っていたヘンリーは首をかしげた。しかし、ヘンリーは尚ものたうち回るリュカを見て、パパスの意図を理解した。

 

「……そういうことか、わかったよ! マヌーサ!!」

 

 ヘンリーはニセ太后目がけて幻惑をかけた。ニセ太后は倒れているリュカを嘲笑うのに夢中なようで、ヘンリーのマヌーサに反応が遅れてしまい、もろに喰らってしまった。

 

「ギャアッ!? しまったっ!!」

 

「へっ、バカめ! リュカに気を取られているからだ!」

 

 マヌーサをかけた理由はただ一つ。リュカを一瞬でダウンさせるほどの物理攻撃力を封じることだ。いくら力があっても、攻撃が当たらなければ意味が無い。マヌーサで視界を曇らせれば攻撃は当たりにくくなるだろう。

 

「これで恐れることはない! やぁっ!」

 

 スライムナイトのピエールが太刀を太后に浴びせるべくぴょんぴょんと前線に出る。太后はそれに気づいていないようで、まったく違う方向を見ている。

 

「覚悟っ!!」

 

 ピエールは剣を思い切り振り上げ、全力をこめて振り下ろす。が――

 

「俺様を、舐めるなぁっ!!」

 

 太后が吠えると、突如ピエールの方を向いて大きく口を開く。ピエールはぎょっと驚き、一瞬剣を止めてしまう。それが、命とりだった。

 太后の口から赤い光が漏れだす。それはだんだんと熱を帯び始め、弾けた様に放射された。まるで荒れ狂う獣のように熱は広がり、焔と化して、ピエールを初めパーティー全員に襲い掛かった。

 

「うわあっっ!!」

 

 至近距離で喰らったピエールは吹き飛ばされ、乗り物のスライムからも転げ落ちてしまう。後方で防御していたリュカ達も少なからずダメージを受け、尻餅をついてしまった。

 

「くっ……大丈夫か皆?」

 

 リュカは立ち上がりながら安否を確認する。リュカの近くにいたヘンリーとホイミンは親指を立てながら立ち上がる。至近距離で受けたピエールも、炎に強いようで大してダメージを受けている様子はなく、まだまだ戦えそうだ。

 だが、リュカはあることに気づいた。パパスの姿が見えないのだ。

 まさか今の炎で焼き焦がされてしまったのでは。そんな不安と恐怖がリュカの目付きを鋭くさせる。

 

「父さ――」

 

 リュカは思わず父を呼ぼうと息を吸いかけた。

 しかし、言葉を最後まで言い切りはしなかった。リュカの真横を、突風が駆け抜ける。その風には、銀色の輝きが潜んでいた。

 しかし、ニセ大后はぜえぜえと喘ぎつつも身に迫る風を感じていた。例え視界が幻惑に惑わされていても、他の感覚が鈍っていない限りどこから攻撃がくるのか、どこに敵がいるかはある程度把握できる。

 

「てぇぁあああっっ!!」

 

 滑り込むように懐に潜り込んだパパスは雄たけびを上げながら太后目がけて突き入れたが、奴は大きく後ろへと飛んでパパスの一撃を躱した。

 パパスは躱されたことに驚きつつも、流石は戦いに慣れているのか、動揺を隠して太后を追う。俊足で距離を詰め、再び太后を間合いにとらえて剣を振りかぶったその時だった。

 

「キヤガレ――、ガイコツ――!!」

 

 突如太后はパパスの目の前で大声をあげた。耳をふさぎたくなるような汚い声に、思わずパパスは動きを止めてしまう。パパスはどうにか片手で左耳を抑えつつ、剣を太后に突き出す。

 が、突如太后の背後から、何かが割れたような音が響いた。太后はニヤリと笑いながら後ろに下がった。まるで何かに場所を譲るように、だ。パパスは不審に思いながらも、意識を集中させたその時。

 

「キシャ――!!」

 

「――!」

 

 太后の頭上を飛び越えて、何かが現れた。パパスは思わず身を一歩引き、相手を見る。

 ガイコツで出来た体、右手に握られた鋭利な槍、継ぎ接ぎだらけの鎧。骨には切ったような跡が幾つか残っている。どうやら部屋の窓を破ってここまで駆けつけてきたようだ。

 

「なるほど、随分と頼りないボディーガードだな」

 

 パパスはニセ太后に皮肉を言う。ニセ太后はヒヒッと気味悪く笑うと新たに現れた魔物、がいこつへいに攻撃を命じた。

 

「がぁっ――!!」

 

 がいこつへいは槍を突き出してパパスに突進する。思った以上に速く走っていることに驚きつつも、パパスの瞳に迷いはない。ガイコツ兵とすれ違うように踏み込んで勢いよく剣を横に薙いだ。

 

「ガッ……!?」

 

 がいこつへいの身体を作る骨が砕け、崩れ落ちた。パパスは亡骸にも目をくれずにニセ太后を睨み付けた。

 

「……覚悟はいいな」

 

 パパスは足を後ろにずらし、力を込めて踏み込む準備をする。後衛の仲間もじりじりと大后へ接近していく。

 しかしパパスは疑問を抱いていた。大后の目には、まるで焦りを感じないのだ。まだ何か手でもあるのか?

 パパスが疑い始めたそのとき、窓の破裂音が連続して聞こえた!

 

「な、なんだこれは!?」

 

 後ろで構えていたリュカは、慌てて破裂音のした背後を振り向く。なんとそこには、先程パパスが倒したのとは違うがいこつへいがニタニタと笑って立っていた。しかも一匹じゃなく、五匹ほどだ。

 魔物と対峙したのはリュカだけではなかった。ヘンリーも、ピエールも、パパスも側の窓から侵入してきた魔物に困惑している。

 加えてリュカの場合はがいこつへいだけではなかった。

 

「ケケケケッ!」

 

 不気味に笑う、一匹のわらいぶくろが舌舐めずりしながらリュカへと近寄ってくる。見た感じ力はなさそうだが、厄介な敵であると、本能が告げている。

 

「ーーだったら、先手必勝だ!」

 

 リュカは目付きを変えてわらいぶくろへと斬りかかる。だが、わらいぶくろは笑うのをやめずに高く飛び上がり、攻撃をかわした。リュカは舌打ちしつつも、わらいぶくろの動きを目で追い、返す剣で払う。だが、こちらもまた、かわされる。

 物理がダメなら魔法はどうだ。リュカはさっと左手を突き出してバギを放とうとする。魔法なら余程のことがない限りほぼ当たる。

 しかしリュカは見た。わらいぶくろは口をより吊り上げていっそう醜く笑ったのだ。その笑いは、何を意味するのか。

 だが、それを考え始めた頃にはもう遅かった。

 

「ケケーー!!」

 

 わらいぶくろは奇声をあげながら、怪しい光を放つ。それは螺旋状にぐるぐると廻りながらリュカに迫り、たちまちその体を包み込んでしまった。バギのためにためてあった魔力も、消え失せてしまう。リュカは迫りくるであろう痛みに耐えるべく瞳を強く閉じる。

 

「ぐっーーあ、あれ?」

 

 しかし、全く痛みを感じない。特に身体に異変があるわけでもない。ゆっくりと瞳を開けても、様子は変わることはなかった。ということは奴の魔法は僕には通じなかったんだ。

 リュカは再びバギを唱えようと左手をかざし、魔力を集中させ、放つ。

 

「喰らえっ、バギ!」

 

 しかし、何も起きなかった。

 

(え……?)

 

 左手から風が巻き起こらない。どういうことだとリュカは混乱しながらももう一度バギを打とうとする。しかし、やはり駄目だった。

 リュカは目の前にいるわらいぶくろを睨む。そいつは魔法を使えないリュカを嘲笑っているように見える。それによってリュカは察した。奴は封印魔法、マホトーンを放ったのだ。

 

「くそっ……」

 

 リュカは舌打ちしながらわらいぶくろへと再び斬りかかった。わらいぶくろは終始笑いっぱなしであったため、隙だらけだ。わらいぶくろが気づいたときにはもう遅く、真っ二つに裂かれてしまった。

 しかし面倒な敵が消えたからといって気は抜けない。がいこつへいが束になってこちらに襲いかかってきているからだ。がいこつへいの槍の穂先には紫色の液体が塗られている。あれはきっと毒だ。リュカはそれに注意を払いながら槍を叩き落とし、首の骨ごと断ち切った。他のがいこつへい達は驚きでキーキー叫ぶが、無慈悲にもリュカは流れるように骨を叩き壊していった。

 すべて片付けたリュカは他の仲間達を見る。ヘンリーは魔法で一掃し、ピエールも卓越した剣技で敵を葬っている。ホイミンは魔物から逃げ回りつつ、回復に徹してくれている。パパスはというとすでに魔物の集団を滅しており、ニセ大后へと斬りかかっていた。

 

「クッ……キサマァ!」

 

「どうした? ひ弱な魔物に頼って戦力を減らそうとしたようだが、わし一人でも貴様には勝てるぞ」

 

「なっ、なんだと!?」

 

 ニセ大后は動揺を隠せずに吠える。しかしパパスの言葉をハッタリと受け止めていないことが露見してしまう。内心感じているのだろう。パパスという男の、果てしない強さを。まだ、一撃も受けていないのにもかかわらずだ。

 いや、正確には一撃を受けそうになった。しかし、その剣に込められた圧力は尋常なものではなかった。その一撃が生死を分ける。恐怖の刃をぬらりと撫でられたような悪寒が大后を襲った。

 だが、それを悟らせまいと必死に形相を変えた。 

 

「た、ただのハッタリだ! 俺様は貴様なんぞに負けるわけない! 死ねぇっ!!」

 

 ぎゃあぎゃあと喚きながらも怯えが見えるその表情ではまるで信憑性がない。だが、戦意は失ってはいないようで、たちまち高温の息がパパスを包む。

 しかし、パパスにはまるで効いていなかった。全く動かず、表情も変えない。そんな姿に今度こそニセ大后は恐怖を隠せなかった。

 

「ば、バカな……俺様の全力の攻撃のはずなのに……!」

 

「それが全力か……聞いて呆れるな。その程度の力しかないのだろう」

 

「ぐっ……!!」

 

 パパスはふうと息を吐くと、床を思い切り蹴って、光のごとく距離を詰めて一閃した。

 ニセ大后は息をする間もなく、ただ棒立ちになっていた。

 視界が一気に下がってはじめて、自らの胴が切り落とされ、ストンと首だけが床に落ちたことに気づいた。そして、すさまじい痛みが奴を襲った。

 

「あぁぁぁーー!! ……がっ、はぁっ!? ごはっっ!!」

 

 パパスは、筆舌に尽くしがたい悲鳴をあげながら悶える大后を眺め下ろす。その姿はまさに醜悪だ。首から下がないというのにまだごろごろともがいて生きているのだ。人間なら音もなく死んでいる。

 ヘンリー達も剣を納めてニセ大后を見下ろす。リュカにも剣を下ろすように手で制し、口を開こうとする。

 しかしニセ大后は近づいたヘンリーを睨み、先に声を振り絞った。

 

「愚かな……人間どもよ……俺様を殺さなければ、この国は世界の王になれた、ものを……」

 

「……っ!!」

 

 国を疲弊させた魔物の最期の言葉は、ヘンリーの最後のストッパーを解除するのに十分すぎる言葉だった。

 ヘンリーはきっと奴を睨み、左手を翳して叫んだ。

 

「メラ!!」

 

 ヘンリーの掌から炎の玉が飛び出し、大后の顔を焼き尽くした。

 

「アアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 メラの炎の威力自体は大したことはない。しかし顔に直接その熱を伝えて焦がすことが与える苦痛は計り知れない。顔の皮膚は溶け、目は煙をあげて消えていく。国を荒らした魔物の、凄惨な最期であった。

 灰と化した亡骸を眺めるヘンリーは、くそっと小さく毒づいた。リュカはそっとヘンリーの肩に手を置いて見る。けれど、振り返ったヘンリーの顔にはもう憂いはなかった。

 

「……さっ、デール達を呼びにいこうぜ。今日は宴だ、リュカ!」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 国を牛耳っていた大后は偽物であったことが国中に広まり、ヘンリー王子の帰還とラインハット復活の祝いの宴が開かれた。ヘンリーと共にラインハットを救ったリュカとパパスとピエールとホイミン、そして神の塔へと導いたマリアは英雄として称えられ、豪勢な料理と酒をたらふく味わった。

 中でもヘンリーは主役というのもあるのだが、わがままだった人格がすっかり消えていたというのにも驚いた人が多く、かなりの人気者だった。以前は厄介扱いされてたのだから、これにはヘンリーも参ってしまったようですぐにリュカ達の元へと戻ってきた。

 

「お疲れ、ヘンリー」

 

「ああ、リュカ……ちょっと疲れたよ。戦ったあとなんだし休ませてくれって感じだよ全く」

 

「ははは、しょうがないよ。君が主役なんだから」

 

「っていうけどな。まあ、可愛い子とも話せたし別にいいんだけどなぁ」

 

 思春期の男らしい色欲の弱さを見せたヘンリーにリュカが苦笑いする。しかしーー

 

「……なるほど、ヘンリーさまはあのような女性が好きなのですね。では私はお邪魔なようなので」

 

 マリアのキツい視線がヘンリーに深く突き刺さった。ヘンリーはやべっと小さく呟きながら慌ててマリアの元へと駆け寄った。

 

「ま、待ってくれよマリア! そんなんじゃないってば!」

 

「可愛い女の子に囲まれて鼻の下を伸ばしているじゃないですか」

 

「そっ、それは……!」

 

 狼狽するヘンリーにマリアはふんと鼻をならしてそっぽを向いた。

 

「やっぱりヘンリーさまは男の子なんですね。可愛い女の子だったら誰でもいいんでしょ?」

 

「そんなんじゃねえよ! 俺が好きなのはマリアだけだ!」

 

「えっーー」

 

「あっ……いやっ……」

 

 マリアがぽっと顔を赤くしたところでリュカは早々に立ち去った。今度はリュカがお邪魔虫になるだろう。

 リュカがすたすたと歩いていると、ワインを片手に隅にいるデール王に声をかけられた。

 

「おおっ、リュカさんじゃないですか!」

 

「デール王、こんな隅にいなくても……」

 

 一国の王が部屋の隅でちびちびとワインを飲む姿は実にあわれだと感じたリュカは思わずそういってしまった。だが、それは立派な非礼であり、リュカは慌てて無礼を詫びた。だが、デール王はよせというように手で制すと口を開いた。

 

「いや、僕はこの騒ぎを起こした元凶のようなものです。本来僕はここで祝う資格なんてないんですが、兄上が無理矢理つれてきて……そういえば兄上は?」

 

「マリアと一緒にいます。ものすごくいい雰囲気ですので逃げてきました」

 

 デール王は遠く離れているヘンリーとマリアを見た。いつのまにか二人にはたくさんの人だかりができている。大方、ヘンリーがマリアに告白でもしているのだろう。

 

「ははは、すっかり兄上は人気者ですなあ。僕にはもうああいったことはないでしょうから羨ましいものです」

 

「そんなこともないでしょう。失礼ですが、あなたは王さまなのですから、女性を娶ることなど……」

 

 リュカの疑問にはははと寂しく笑いながら答えた。

 

「今回の問題は、僕と兄上の家督争いから起きたことです。ならば子供は一人にすべきなんです。ましてや直系でない僕の血よりかは、兄上の方が相応しいのです。幸い兄上には、お相手がいるようですしね」

 

「……」

 

 確かに、デールのいうことは正しい。

 あの醜い争いは、二人の子供がいたから起こったことだ。だから二度とその過ちを犯さぬよう、デールは妻を娶らないことを決意したのだ。

 リュカはどこか腑に落ちないのを感じながらも、なにも言い返せなかった。

 そんなとき、ヘンリーがよろよろとこちらへと寄ってきた。囲まれてかなり疲れたのだろう。

 

「ヘンリー、マリアと一緒にいなくてよかったのかい?」

 

「マリアはまだ話してるからな、先に抜けさせてもらったよ」

 

 ヘンリーは心底疲れている様子だった。だが、微かににやけている。やっぱり成功したようだ。

 

「マリアとはいつ結婚するんだい?」

 

「おいおい、気が早すぎだろリュカ。今日から付き合い始めたんだからよ。……けどまずはこの国を建て直すのが先かな」

 

 ヘンリーはため息を吐きながらぐいっとワインを煽った。だが、飲み慣れていないのかすぐに苦しそうに顔を歪ませる。

 

「うえっ……これ不味いな……」

 

「兄さん、それ年代物だよ? それが不味いだなんてとんでもない」

 

「まじか……奴隷の頃は酒なんて飲まなかったからな。リュカ、飲んでみるか?」

 

「い、いやいいよ。僕もさっき父さんのを飲んだんだけど頭痛くなったんだ」

 

 リュカはかなり酒に弱いとさきほどパパスに言われてしまった。パパスの飲んでいるお酒はとてつもなく度が高いとはいえ、リュカは一口飲んだだけで倒れかけてしまった。パパスの回復魔法でどうにかなったが、正直一滴でもいれたらあの世へ行きそうだ。

 

「しかし、不思議だよなぁ。俺たち、いつのまにか大人になっていたんだから。昔はジュースばっか飲んでたのにもう今じゃ酒を飲んでいるんだぜ?」

 

「そうだね。僕も驚いているよ」

 

 奴隷の頃は、何も変化のない毎日だった。でも、自分達を取り巻く事情は大きく変化していた。大人にはジュースなど用意されておらず、パーティーでの振る舞い方もよくわからない。

 時の流れとは実に不思議だ。リュカはパーティーを眺めながらため息を吐いた。

 そのときリュカはふと気になった。ヘンリーは、この先も自分と一緒に旅をしてくれるのかと。

 

「ねぇ、ヘンリー」

 

「ん? なんだよ?」

 

 僕と一緒に旅に出ないかと口を開こうとした。

 だがーー

 

「ヘンリー様! そんなところいないで、こっちに来てくださいよ!」

 

 兵士の一人が酔っぱらった状態でヘンリーを呼ぶ。ヘンリーは苦笑いをこっちに向けながら兵士に大声で応じた。

 

「今いくぞトム! お前のダイスキなもの持ってきてやるよ!」

 

 ヘンリーはひっそりとリュカにポケットから取り出したカエルを見せ、手で隠す。トムを気の毒に想いながらもリュカは、去っていくヘンリーの背中を追いながら、手に持っている水を啜った。

 

 

 

***

 

 

 

 皆が躍り、酔い、食べて、飲んだ宴は夜中まで続いた。そして皆が寝静まり、朝を迎えた翌日。

 リュカとパパスは旅立つことをデール王に伝えると、ヘンリーと大后、そしてマリアを玉座に集めて見送りに呼んだ。

 

「リュカさん、パパスさん、ピエールさん、ホイミンさん。偽の母上を倒してくださり、本当に今回はありがとうございました」

 

「お誉めに預り、光栄至極にございます」

 

 パパスが深く頭を垂れると、デール王はふうとため息をはく。

 

「しかし、僕は王として失格ですね。国を混乱させ、疲弊させてしまった。僕が王位につくのは間違いです。ですから、パパスさんとリュカさんからも言ってくださいませんか? 兄上に王位についてもらうようにと」

 

「陛下、その話は昨日の晩にお断りしたはずですが」

 

「しかし兄上……」

 

「陛下、子分は親分の言うことを聞くものだぞ」

 

 デール王が何かを言い掛けたが、ヘンリーの言葉がそれを遮る。

 

「無論、この兄も陛下をできる限り助けていく所存でございます。ですから陛下、王位はそのまま陛下であられますように」

 

「……兄上、わかりました。ラインハットの王として恥じないように振る舞います。兄上と二人で」

 

「ああ、この国を一緒に建て直すぞ。デール」

 

 デールに言い終えると、ヘンリーはリュカの方へと振り返る。

 

「……というわけで、これ以上は旅を続けられなくなっちゃったな。いろいろ世話になったけど、これでお別れだ」

 

「……ああ。何となくそんな予感がしていたよ」

 

 ヘンリーはへへと小さく笑うと、自分の武器やお金などを全部リュカの前にじゃらっと置いた。

 

「お前に買ってもらった武器や防具、そして金は全部返すぜ。役に立つかはわからないが、使うなり売るなりしてくれ」

 

「ありがとう、ヘンリー」

 

 リュカは大事に袋にいれると、ヘンリーはやれやれと小さく両手をあげて首を横に振ると、デールの横に戻っていった。

 

「……行ってしまう前に、言わせてほしいことがある」

 

 デールの横に細々と座る大后がそっと口を開いた。何なりととパパスが応えると、暗そうな声で話す。

 

「此度のことは全て妾の思い上がりから起きたことじゃ。今度の今度は骨身に染みたわ。本当に反省している。そなたの貴重な10年を奪い、そして父を危機にさらしたことは、本当に悪かったと思っている。申し訳なかった」

 

「……ヘンリーには謝ったのですか?」

 

 リュカは若干語気をあげながら尋ねる。ヘンリーがよせというようにリュカに迫るが、大后が制した。

 

「無論謝った。額を地につけて何度も謝った。牢屋で大声で怒鳴られた時に妾はもし生きていたらヘンリーに謝ることを決意したのだ」

 

 リュカは、ヘンリーは大后を許しているのかが気になり、ヘンリーへと視線を動かす。ヘンリーもそれを察し、口を開いた。

 

「……正直、俺にとってあの10年は本当に最悪だった。でも、ある意味俺にとってよかったって思っているところも否定できない。確かに到底許せることじゃないけど、俺はもう考えないことにしたんだ。この10年があったからこそ今の俺がある。そう思わなきゃ、やってられないよ。だからもう、オフクロを責めないでやってくれ。もう十分だ」

 

 そう言うとヘンリーはははっと小さく笑い飛ばした。リュカは、ヘンリーという男が、改めて素晴らしい人間だということを感じた。子供の頃とは全く、大違いだ。

 リュカも同じようにははっと笑い飛ばし、そうだねと同意を返した。

 

「さて、リュカ。そろそろいくんだろ?」

 

「そうだね、そろそろ行こうと思っている」

 

「わかった。元気にやれよ! 必ずパパスと共に母さんを見つけろよ!」

 

「わかった! ヘンリーもしっかりな!」

 

 リュカとヘンリーは互いに握手を交わした。続いてヘンリーはパパスの手も握った。

 

「パパス、色々ありがとう。リュカをよろしくな」

 

「任されましたぞヘンリー殿。ラインハットの再興を心より待っている」

 

「ああ、任せてくれ。もし再興したらまた遊びに来てくれ」

 

 承知したとパパスははっきりと頷くと、マリアがすっと此方に寄ってきた。

 

「リュカさん、パパスさん。皆さんと旅ができて楽しかったです。最も私はほとんどお役に立てませんでしたけれど」

 

「そんなことないよマリア。神の塔へと導いてくれたじゃないか。本当に感謝しているよ」

 

「そう言っていただけると嬉しいです。ありがとうございます。私はこれから修道院に戻りますのでここでお別れですね。どうかお気を付けて」

 

「ああ。マリアもヘンリーと幸せにな」

 

「まぁ……」

 

「おっ、おい!?」

 

 マリアとヘンリーは揃って顔を赤くし、熱い視線が二人の間で交錯する。

 

「ではこれにて失礼する。いくぞリュカ」

 

 パパスは軽く頭を下げるとリュカを引き連れて玉座を去った。リュカは皆の見送りに応えながら、父のあとに続いた。

 

 

***

 

 

「さて、リュカよ。次はどこにいこうか」

 

 パパスはラインハットの町を出てリュカに尋ねる。その表情はとても爽やかだった。リュカは意地悪げに笑いながら父の顔を覗き込む。

 

「なんだか父さん、嬉しそうだね」

 

「ん? そうか? そう見えるか?」

 

「うん」

 

 パパスはふふっと朗らかに笑うと気のせいだと言って、そういえばラインハットが栄えはじめてここから南にあるビスタの港から船が出ているという話をしてごまかした。

 けれどパパスは嬉しかった。再び息子と二人旅が出来ることが。前はヘンリーがいたが、今はモンスターを除けばリュカと二人だ。息子と一緒にいることが、親としての幸せだ。

 

「また父さん嬉しそうな顔をしてる」

 

 またいつのまにかにやけてしまったようだ。パパスは内心動揺したが隠すように空を見上げてまた朗らかな、いつもの笑顔を作る。

 

「ふっ、お前の気のせいだろう。では、行くとしようか」

 

「そうだね。行こう、ビスタの港へ」

 

 ラインハットの過去の因縁に決着をつけたパパスとリュカは次なる目的地へと足を踏み出した。

 しかしまだまだ、二人の旅路は長い。旅はまだ、始まって間もないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 




終盤、修正しました。
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