怪物の泣いた日   作:マイロ

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鉄華団の医務官

「医者として雇ってくれない?」

 アユムはオルガ・イツカと名乗った少年に言った。隣でビスケットが慌てふためいた。ビスケットには悪いが、譲るつもりはなかった。

「医者ってあんたが?」

「何か問題でも? ここにはろくに治療も出来ないやつらばっかりなんだろ?」

「ネ……アユム! 君はまだ学院で学んでいる最中じゃないか。こんなところにいていいわけないだろう」

「もう卒業した。医師免許も持ってる。今は研究者やってたけど」

 目を丸くするオルガ少年に、組んでいた腕を下ろして溜息をついた。

「ちょっと見せてもらえる?」

 メリビットという女性が言うので、免許証を渡すと、確認して頷いた。

「この子……ちゃんとした医者よ」

「確認は済んだね。それで、どうなのさ、団長さん?」

 オルガが口を開いた。

「あんたはビスケットの命を救ってくれた。ビスケットとも昔馴染みだっていう。それなら、あんたを信用しないなんてことはねえよ」

「どうも。でもちょっといい? 僕は僕の意志でビスケットを守ってる。きみに感謝される覚えはないから」

 吐き捨てると、慌てたビスケットが腕を引っ張ってくる。

「けが人を見てほしいんだった。今から行こう」と急かして来る。断る理由なんて欠片も見つからないので、それに従う。

 追撃は上手く行ったようだし、ってかそのくらいしてもらわなきゃ、どんだけ無能なんですかって感じだよ。

「ミカヅキはうちで一番強いよ」

「そのモビルスーツってやつ? から降りたら僕の方がずっと強いと思うんだけどね」

 聞いていた周りの子どもが反論する。

「――それだけ口が聞けたら大丈夫だねえ」

 手早く治療をし終えると、治療道具をしまった。

「今日は食事を良く噛んで食べてね。早めに寝るように。周りの元気な子は怪我をしている子の傍では静かにしてあげて。でも傷を痛がるようだったらすぐに呼んで。感染症を起こすかもしれないから」

 立ち上がってアユムはそこから出た。後ろからビスケットがついて来て横に並ぶ。

「ここは汚いな。どこか部屋は空いていない? そこを医務室にしたいんだけど」

「え? 医務室?」

「重傷者が出た時にこの環境じゃあ救うことは難しいよ」

「あ、ならオルガに聞いてみるよ」

「今行こう。感染症を起こした子が出て来てからじゃ遅いから」

「……医者になったんだね、ネイハム。すごいや、君は――昔から」

「ビスケットは、何だか悩んでいるみたいだね」

「え?」

「でもその悩みはもう解決されちゃった感じ?」

 アユムは溜息を吐いた。

「僕は怪我人を治す。でも、きみのことを守ることのほうを優先するよ」

「またネイハムに助けられちゃうのか。でも――助けに来てくれてありがとう。ここにいること自体、本当は信じがたいけどさ。逢えてうれしいんだ」

「ビスケット、きみにどこまでもついていく。それから、クッキーとクラッカーと、お婆さんにも会わせてよ」

「そうだね。君を紹介するよ」

 アユムは微笑んだ。

「じゃあ、練習でもしようかな」

 艦内を歩いていると、何処を見ても子どもばかりであることを様々と知ることになる。そうしていると、小柄な少年を見つけた。モビルスーツの上に寝転んでいた。 

「君が、ミカヅキだっけ?」

「そうだけど、あんた……ん、あれ……あんた、なに? 男? 女?」

「どうだっていいだろ」

「そう? でも、骨格でわからないのってはじめてだな」

「僕は特別製なんでね。きみたちとも随分と違う」

「そうだんだ? でも、あんたは強そうだ」

「きみよりは強いと思うよ」

 ミカヅキが何かを言う前に、背を向けた。

 

 亜麻色のウィッグをつけてもうひとつの姿になる。鏡の前で赫眼を出して、その醜い姿を目に焼きつける。黒い目に戻すと、そこには少女がいるだけ。顔も体もすべて変容する。ほとんど変わらないのに、決定的に違う。

「父さんや母さんには好評だったんだけどな」

 ビスケットはこの姿がまだ苦手なのだろう。

 

 

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