この話で、主人公に対する設定は公開したことになります。
竜神族についても捏造してます。
竜神王に呼び出された場所は、祭壇へ続く道の入り口だった。一族の墓があるところだ。そのウィニアの墓の前に、竜神王とグルーノは立っていた。レイフェリオの姿を見ると、竜神王は目を細める。
「来たか、レイフェリオ」
「はい」
「こうしてまみえるのは久方振りだな。とは言え、そなたは覚えておらぬだろうが」
「……申し訳ありません」
「いや、いいのだ。謝るのは我の方なのだから」
そう言うと竜神王は、頭を下げた。ここは竜神族の地。その長たる竜神王が頭を垂れるなど、本来ならばあり得ないことだ。
レイフェリオが冷静でいられたのは、隣にいるグルーノが動じなかっただからだ。そうでなければ、神の使いだと聞かされた竜神王が目の前で頭を下げることを許容出来なかっただろう。
「迷惑をかけた、レイフェリオ。そして、我を……一族の未来を救ってくれたこと、礼を言う」
「……礼は受けとります。ですから、頭を上げてください」
「うむ。そうだな……あまりそなたに負担を掛けるわけにはいかないだろう」
竜神王はスクっと顔をあげる。グルーノよりも長寿だというが、竜神王の姿は若さを保ったままだった。それは力の大きさに比例するという。力が強いほど、肉体的な若さが保たれるらしい。どれ程弱くとも、人間より長寿である。ある程度の年齢を過ぎれば成長が緩やかになるようだ。
正確な年齢は竜神王自身覚えていないらしい。彼にとっては年齢など、些細なものなのかもしれない。
「さて……グルーノらから聞いた。今世界は、ラプソーン復活の危機だそうだな」
「はい。もう時間の問題だと思います。いつその時が来てもおかしくありません」
「賢者らは死した、か?」
「……」
「そうか……」
目を瞑り空を仰ぐ竜神王。隣のグルーノに視線を向けるが、首を横に振っていた。知らないということだろう。
レイフェリオは、胸に手を置いた。
「竜神王、何を知っているのですか? 貴方は、ラプソーンを──」
「我ら竜神族は人の世界に携わることは許されておらぬ」
「え?」
「……そなたには話しておくのが筋だろうな。そもそも、何故我が人の姿を捨てると決めたのかを」
確かにその話は聞いていなかった。人と竜の両方の性質を持つのが竜神族。その片方を捨てることは、竜神族そのものの否定にも繋がりかねない。それほどに大きな決断をしたのは何故か。
レイフェリオは竜神王の言葉を待った。
「本来、竜神族は世界を見守ることが役目。干渉することは求められておらぬ。しかし、その禁忌を破ったことがあった。過去に二度ほど、な」
「そ、れは……」
「一度目は、ラプソーンの封印の時。そして二度目は……そなたの母だ」
「……」
竜神族の禁忌。それは外の世界に触れることだったらしい。一族の中で、外の世界を知ることを許されるのは竜神王のみ。王は、その力で見聞きすることが出来る。この先にある祭壇の上は、その為の場所のようだ。人間の世界を知っていても、直に触れることは敵わない。本当に見守るだけの存在。そのことに疑問を抱くものが出ないはずがなかった。
レイフェリオは黙ったまま、竜神王の話に耳を傾ける。
「ただ存在するだけならば意味はない。そう郷を飛び出した者がいたのだ。当時の外の世界には、闇から産まれた存在……ラプソーンが世界から光を奪おうとしていたのだ。それを知りながら何もしないことに、異を唱えた者がな」
「竜神王様、それはもしや……」
「うむ……我の息子だ」
「え……」
レイフェリオは思わず声をあげてしまった。しかし、グルーノは知っていたようで特に驚いてはいない。
「飛び出した先で、賢者らと協力しラプソーンの封印を施した。その知恵を授けたのも、あの子だ。人の世界は救われたが、禁忌を犯した者としてあの子はそのまま人の世界で生涯を過ごした」
郷に戻ることはなかったという。戻ろうとしても、竜神王は認めなかっただろう。その事は郷の戒めとして長老らに伝えられてきた。だからグルーノも知っていたのだ。
「その長老の縁者から再び破る者が現れるとは思わなんだがな……」
「申し訳ありません、竜神王様。わしの不徳と致すところ──―」
「良いのだ、グルーノ。過ぎたこと。それに……その遺した子が一族を救ってくれたのだから」
「しかし……」
「……レイフェリオよ」
黙ったまま話を聞いていたレイフェリオを、竜神王は呼ぶ。これまでの流れで、竜神王が人の姿を捨てる一因にレイフェリオは無関係ではないことはわかっていた。寧ろ、レイフェリオの存在こそが竜神族を滅ぼしかけたと言われても仕方のないことだろう。責められても文句を言える訳がない。レイフェリオは、視線を竜神王へと合わせる。何を告げられるのか、心に覚悟を決めて。
「我は、生まれた赤子を見て考えた。この子は竜神族をどの道へ引き連れていくつもりかと」
「……」
「人の世界で生まれたが、その子は生まれつき魔力が高すぎた。人の世界では生きられなかったのだ。故に、郷にウィニアは戻ってきた。受け入れぬこともできたはずだった。だが、それは出来なかったのだ」
「……何故、ですか?」
同じように禁忌を犯した息子は否定して、何故ウィニアを郷に受け入れたのか。レイフェリオでなくとも疑問に感じることだ。
「当時、お前と同じ日に生まれた竜神族の子がいた。竜の姿しかもたず、竜神族としては不安定な姿で生まれ、息も絶え絶えの状態でな。死はそこまで迫っていたのだ。そして、お前が郷に戻ったと同時に死に絶えた。否、違うな……お前に宿った、と言うのが正解だ」
「っ!?」
「我は思った。この竜の子は、人との交わりで生まれた混血児であるお前を受け入れるために、人の身には余る力を補うために生を受けたのだと。お前が郷に来るのを待っていたのではないか、とな」
レイフェリオは己の胸元に視線を落とす。宿ったと竜神王は言った。思い当たる節はある。何度もレイフェリオに話しかけてきた存在だ。それが、郷で不安定な状態で生まれた竜の子どもだという。
しかし、レイフェリオに問いかけてきた声の主は、子どもとは思えなかった。レイフェリオよりも竜神族のことを知っている様でもあったのだ。同じ日に生まれたというのならば、例えレイフェリオと同じ成長をしていたとしても同じ知識しか得ることは出来ない筈である。
「心当たりはありそうだな」
「それは……ですが、そうだとするならどうして……」
「レイフェリオ?」
「この力は、俺の事を俺以上に知っていた。ドルマゲスとの戦いでも、竜神王との戦いでも。それに、俺が迷っている時には声を掛けてきた。とても、同じ日に生まれた存在とは思えません……」
『それは、私が過去に竜神族として生きた記憶があるから、ですよ』
脳裏に届いたのは、あの声の主だった。勿論、姿は見えない。そして、声はレイフェリオにしか届いていないようだった。
『レイフェリオ、私は……過去にフェイという名前でした。そこにいる竜神王の不肖の息子です』
「フェイ……?」
「!? そなた、何故その名前を?」
呟いた言葉を拾った竜神王は、目を見開いている。本当の事のようだ。フェイは尚も話を続けた。
『貴方の身体も、耐え得る程に成長しました。話をするのも、これが最後になるかもしれません』
「……どういう」
『こうして話が出来るのが何よりの証拠。もうじき、私は本当の意味で貴方と同化します』
同化する。即ち、それはフェイの意志は消えるということではないのか。心の中の言葉は、フェイに筒抜けなのか、違うのだと否定された。元々、フェイは生まれて直ぐに死ぬはずだった命のひとつ。たまたまレイフェリオが生まれた事で、本来無い筈だった時間を過ごしただけだと。
『私が貴方に宿ったのは運命だったのでしょう。過去の私と同じ事を成そうとしているのですから。いえ、少し違いますね。きっと、私が出来なかった事を成そうとするでしょうから』
「……」
『世界を、頼みます。貴方なら……竜神王にも打ち勝ったレイフェリオならば、必ずや……』
不足の部分を補っていた形のフェイの力は、レイフェリオの魔力が完全回復し、これまでの戦いで強く成長したことで、必要としなくなった。既にその存在は無くなりかけている。恐らくは、それほど時間は残されていない。在るべき姿に戻るだけ。気にするなと言い残して、フェイの声は消えていった。
書ける内に、時間がある内に書いてしまいたいと思ったので、投稿してみました。
勢いで書いているところもあるので、誤字などあればご指摘下さい。
当初から考えていた設定は概ね話し終えたかなとおもいます。ご期待に添えなかったなら、申し訳ないです。