ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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マルチェロ戦と復活

 

「ククール、ゼシカ。あいつの闇の力は補助呪文の効果を打ち消す。余裕がない限り補助は不要だ」

「わかった」

「えぇ」

 

 これまでの戦いでマルチェロの攻撃手段はわかっている。回復も厄介だが、それよりも呪文効果を打ち消すのが厄介だ。アイシアの祈りは呪文ではないため、効果が持続しているだけだった。法力の類は打ち消されない。いざとなれば、レイフェリオが補助に回ることも考えなければならないだろう。

 

「ゲルダ、ヤンガス」

「何だい!」

「アニキ?」

「固まって攻撃は危険だ。なるべくゲルダは足を使ってマルチェロを翻弄してほしい。呪文の詠唱中は、あの二人も身動きが取れない。ヤンガスは俺と前に出てくれ」

「合点でげす!」

「あいよ」

 

 簡単な指示だしを終え、レイフェリオは祭壇前へと戻る。レイフェリオとヤンガス二人を目の前にしても、マルチェロは余裕の笑みを浮かべていた。

 

「どれだけ人数が増えようが結果は変わらん。それを思い知らせてやる……貴様だけは絶対に!」

「アニキ……あれは本当にあいつなんでやがすか?」

「……多少杖の影響はあれど、マルチェロ本人だ。いや、おそらくは根底にあった根強い怨恨が増幅されたともいえるかもしれないが」

 

 己の意志を保っている以上、マルチェロの本音だろう。利用するものはなんでも利用する。己の目的のためならば、誰を傷つけようと誰が傷つこうとも厭わない。その足元にどれだけの犠牲があろうとも成し遂げたいものがある。信念か怨念か。もしかしたらマルチェロ自身にもわかっていないかもしれない。幼き頃に抱いた感情から抜け出せず、己を取り巻くすべての不幸が生まれた身分によるものだと、そう思い込んでしまっているのかもしれない。

 仲間が増えても、マルチェロの視線はレイフェリオを捉えていた。それほどまでに憎いのだろう。その身分にある存在が。

 

「死ねぇ!」

「させるかっ」

 

 闇の力が増幅し、十字を描くようにレイフェリオらへと襲い掛かる。両手を前に出し、レイフェリオは力を集中させた。透明な壁がレイフェリオらの前に現れ、その力とぶつかり合う。

 

「ヤンガスっ!」

「任せるでがすよ、アニキっ」

 

 力強い一撃がマルチェロへと襲い掛かる。その背後からはゲルダの攻撃も迫ってきていた。ヤンガスの攻撃を受けながらも、マルチェロはゲルダへと振り返る。その杖とゲルダの扇がぶつかり合った。

 

「避けなさいっ、メラゾーマ!」

「ちっ」

 

 ゼシカから放たれる豪炎。ゲルダは巻き添えを避けるようにその場から後退する。マルチェロは杖でもってその焔を受け止めようとしていた。やはり要はあの杖だ。マルチェロ当人の実力がないわけではない。だがあの杖からマルチェロへと流れている力を止めなければ、いずれはその意志を奪われてしまうだろう。

 

「がっ……」

「今だ! 畳みかけろっ」

 

 ゼシカの呪文に押し負ける形でメラゾーマの炎がマルチェロの腕へとかかる。その隙を付き、ヤンガスと共にレイフェリオはマルチェロへと襲い掛かった。

 

「なめるなぁ!!」

 

 レイフェリオは憤りを見せるマルチェロへと肩口に剣先を突き刺し、そのまま下へと剣を振り下ろす。血しぶきが舞うのは、マルチェロが人間だからだ。

 

「ぐはっ」

 

 マルチェロの手が緩む。その刹那を狙ってレイフェリオが杖を弾き飛ばそうとするも、マルチェロによけられてしまった。だが回避したその先にはククールの呪文が迫る。

 

「バギクロスっ」

 

 真空の刃がマルチェロを切り刻んでいった。それでもマルチェロが諦めることはなく、回復呪文を唱え傷を癒していく。腐っても聖堂騎士団ということだろう。だがレイフェリオとの戦い、そして合流してからと長い時間戦闘を続けている。既に体力とは別に、疲労度は半端ないはずだ。

 既に満身創痍という状態となったマルチェロ。レイフェリオを睨みつける鋭さが弱まることはないが、肩で息をしている状態だった。

 

「終わりだ。その杖を放せ」

 

 マルチェロの前に立ち、レイフェリオは剣をその眼前へと突き出した。

 

「だ、誰がっ……この力があれば私は……っ! 今度こそっ……うっ」

「⁉ まずいっ」

 

 マルチェロの手にある杖が禍々しい光を纏い始めた。レイフェリオはすぐにマルチェロの腕を斬りつける。最悪切り落とすことになろうとも離さなければならない。そう思い力を込めた。だが、マルチェロの髪色が変わると同時にその腕から放たれる瘴気がレイフェリオを吹き飛ばす。

 

「アニキっ!」

「レイフェリオっ」

 

 後方にいたククールがレイフェリオの身体を受け止めた。

 

『くっくっく、礼を言うぞ……』

「っ⁉ 間に合わなかった、か」

 

 頭に直接響くようなとどろく声。間違いない。あの杖に残る意志。ラプソーンのものだ。支えられながら立ち上がったレイフェリオは、マルチェロを見上げた。

 

『ようやくだ。随分手古摺らせてくれたが、お前たちのお陰でようやくこの肉体を自由に動かすことができる。この男が法皇、最後の賢者を亡き者にしてくれた今、杖の封印はすべて消え失せた。いまこそ、わが復活の時!』

 

 杖の封印は解けた。その通りだ。だがそれはひと月も前になる。

 

「復活、だと? おい、レイフェリオ一体どういうことだ⁉」

「わからない……猊下が亡くなられたことで、封印が解けたというのは間違いない。だが、それ以上に何かがあるかは……」

 

 マルチェロの身体を使うことでラプソーンとして体現するのかと思っていたのだが、そうではないのだろうか。考えているとマルチェロは杖の力を放出しつつ、空へと上がっていく。かと思えば、巨大な女神像の前で停止する。

 

『さぁ……よみがえれ! 我が肉体よ!』

「ぐっ……」

 

 そう告げると杖を女神像へと投げつけた。刹那、レイフェリオの中の力、受け継いだ力が激しく反応し、その力の暴走にレイフェリオは思わず膝をついた。

 

「レイフェリオ! どうしたっ!」

「ク、クール……いますぐ、避難だっ……俺は、アイシアを連れていく。みんなを頼む!」

「わ、わかった!」

 

 呼吸を整えて立ち上がると、レイフェリオはすぐにアイシアの下へと走った。異変を感じ既に祈りを止めている。

 

「アイシア! すぐに逃げるぞ、リリーナも来いっ」

「レイ様⁉」

「承知しましたっ」

 

 アイシアの腕を引っ張り、そのまま抱きかかえて走る。そうすればリリーナもついてくることはわかった。ゼシカもヤンガスも自力で脱出することが出来るだろう。ひとまずこの祭壇の近くから去らなければならない。安全地帯へ戻ってくると、レイフェリオは空を見上げる。そこには、禍々しい光と共に女神像から出たであろう物が浮かんでいた。

 

「レイ様っ」

「わかっている!」

 

 浮かんでいるそれから放たれる闇の力。それが地上へと降り注ぎ始めていた。レイフェリオは左手を突き出し、力を解放する。この一帯には力を持たない一般人が多く残っていた。彼らに身を守る術はない。だからこそ守らなければならなかった。

 

「猊下……俺に力を」

 

 まだ完全に制御できる力ではない。それでもやらなければならないことだけは確かだ。目を閉じてレイフェリオは力を出すことに集中する。レイフェリオを中心とした光の壁が広がり、稲光のような闇の光を防いでいく。

 誰も彼もが空を見上げ、防がれる壁を呆然としたまま見つめていた。やがてその勢いが止む。それを感じ取ったレイフェリオは力の解放をやめる。と同時に、足元から力が抜けていくのを感じ、そのまま意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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