ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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書きなぐり!
この先少しオリジナル展開はいります。


為すべきことを

 

「んで、さっきの障壁みたいなのはなんだ? それも竜神王とかのか?」

「いやこれは、猊下から受け継いだ力。法皇としての法力だ」

「なっ⁉」

「ちょっと、どういうこと⁉」

「アニキが法皇でげすか⁉」

「落ち着いてくれ……これはあくまで一時的に預かったものだ。だから別の人間に渡さなければならない。俺が法皇になることはできないから」

 

 レイフェリオ自身はサザンビークの王族であり、次期国王という立場だ。同時に法皇の座に就くことはできない。マルチェロに悪用されないための措置であった。それ以上の意味はない。

 

「そりゃそうだ。だが、一時的にお前はその地位にあるということなんだろ?」

「大司教までもが煉獄島にということなら、誰も管理者がいないことになってしまう。力を受け継いだことに加えて、その立場を利用させてもらっている以上は、その責務を果たす必要はある」

 

 レイフェリオは拳を握りしめるとその拳へ視線を落とす。力を得た者の責任。今更一つや二つ増えたところで大差はないといいたいところではあるが、流石に法皇の責務までは抱えられないだろう。それほどの器を持っているなどとうぬぼれるつもりはないのだから。

 

「少し休んでここの状況を確認し終えたら、俺は大聖堂に向かう。ククールたちが出てきたということは、煉獄島でも騒ぎが起きているということだろう? なるべく早く今回の件で囚われた者たちを解放してやりたい……」

 

 一度入ったら生きて出ることは叶わない。そんな曰くがある島だ。今回、無事に皆が出てきたことは奇跡と言える。もう間に合わないかもしれない。それでも生きていてほしい。そのためには動き出さなければならないだろう。

 

「わかった。なら俺たちも一緒に行くさ」

 

 そう申し出てくれるククールに、レイフェリオは首を横に振った。

 

「いや、ククールたちは休んでてほしい。さっきの戦闘も、無理に身体を動かしただろ?」

「……」

 

 あからさまに嫌そうな顔をしたククール。図星といったところか。そもそもひと月も囚われの身だったのだ。加えて満足な食事も、おそらくは睡眠さえもとれていない。怪我をしてなくとも、精神的な疲労は酷いものであるはずだ。

 

「でがすがアニキーー」

「大丈夫だ。俺も少し休めてから行動するし、一人で向かうわけじゃない。それに……空に浮かんだあれをどうにかするために、万全の状態で挑みたい」

 

 レイフェリオは天井を仰ぐ。天井の先にある、闇の力を纏い浮いた城のようなもの。あの場所に向かわなければならない。あそこにラプソーンがいるのだから。

 

「そうね……今の状態で向かっても、足手まといになりかねないわ。ここはレイフェリオの言う通り、私たちがやるのは身体を休めることよ」

「アタイはそれほど疲れていやしないけどね」

「そりゃゲルダはずっと外にいたからじゃねぇか」

「それでもゲルダもホッとしただろ? ヤンガスたちの姿を見てさ」

「べ、別に……無事なのはわかっていたんだ。顔を見たからといって大して変わんないよ」

 

 そっぽを向くゲルダではあるが、内心では心配をしていたのだろう。目元の辺りが赤くなっている。あえてそれを指摘することはない。それ以上にゲルダも皆を案じてくれていたことを嬉しく思う。

 

「ここの宿屋は、ゴルドにいる人たちに使ってもらいたいから、一度ククールたちはサザンビークにでも戻っていてくれ。城に向かえば、部屋は用意してくれるはずだから」

「そこまでしてもらう必要はないわよ? その辺の――」

「わかった。俺たちは城に向かう。お前も後で来るんだろ?」

 

 ゼシカが拒否をしようと言葉を紡いだところで、ククールがその肩を掴み言葉を遮った。明らかに不機嫌な顔をしたゼシカへククールは肩を竦める。その視線はレイフェリオにも向けられたが、こちらは苦笑することしかできなかった。

 

「おっさんたちも一緒に連れてくがいいか?」

「あぁ。頼む」

「任せろ。まぁ、お前も無理はするなよ。あのシェルトとかいう騎士の言うことくらいは聞いておいた方がいいぜ?」

「……善処するよ」

 

 ククールはゼシカらを連れて、宿屋から出ていく。その間際に手を挙げて、こっちは任せろとでもいうように。こちらの意図は理解している。そういうことだろう。こういう時、本当にククールは頼りになる。ヤンガスやゼシカはよくわかっていないだろうが、それも何とかうまくやってくれるだろう。

 

「あの……」

「ん?」

「先ほどの、お話なのですが……」

 

 腰をあげようとしたところで、先ほどから黙っていたアイシアが躊躇いながらも声を掛けてきた。アイシアに声を掛けなかったのは意図的だ。レイフェリオの出自を知ることになり、整理が必要だとそう思ったから。寝耳に水だろう。まさか婚約をしている相手が、普通の人間ではなかったのだから。

 

「ずっと黙っていて悪かった。だが、さっきの話は全部事実だ。俺は竜神族と人間の混血児だ。先祖返りなんかじゃない。そんな風に言われているのは叔父上と爺が意図的に仕向けていることなんだ。俺のために」

「……」

「本当の俺は、城の皆が言う通り化け物だ。それを嫌うのも、避けるのも、人としては当然の反応で責められることじゃない」

 

 人は避ける。自分たちと違う者の存在を。本能がそれを畏れてしまう。幼い子どもに見えても、レイフェリオの力は異質だった。それがわかっているからこそ、レイフェリオは誰を責めるつもりもない。

 顔を上げずにいるアイシアを見つめる。巫女ではあるが、アイシアは人間だ。普通とは違うかもしれないけれど、それでも人間の枠から出ることはない。レイフェリオと違って。だから、アイシアが恐怖を感じたのならば、それを我慢してまで傍にいる必要はない。チクリとどこかが痛むのをレイフェリオは気づかないフリをした。

 

「安心していい。今はまだ婚約を続けなければならないが、すべてが終わったら自由にすると約束する。だから――」

「レイ様っ」

 

 途端に顔を上げたアイシアはレイフェリオへと抱き着いてきた。その勢いに負け、レイフェリオは固いベッドの上に背中から倒れてしまう。痛みは感じない。レイフェリオはゆっくりと上半身を起こした。

 

「アイシア?」

「レイ様は、化け物なんかじゃありませんっ。そんな悲しいことを仰らないでください」

「けど――」

「幼い頃から私はずっと貴方を見てきました。その私が断言します。レイ様は化け物ではありません」

 

 腰に回された腕がより強くレイフェリオを抱きしめてきた。ただただアイシアの反応にレイフェリオはどう言葉を返すべきか迷う。レイフェリオが竜神族の力を秘めているのは事実だ。普通の人間と違うのも事実。アイシアが言いたいことはそういうことではないのだと言うことくらいは理解している。それでは、どう返すのが正しいのだろうか。

 困っていると、アイシアが胸の上から顔を離し、レイフェリオを見上げてくる。近づいてくるのはまっすぐな黒い瞳だ。

 

「レイ様、ありがとうございます」

「え?」

「私に、ご自身のことをお話くださったこと。その上で私のことを考えてくださっていることも」

「……本当は黙っているつもりだった」

「わかっています。それでもお話してくださったのは、私のことを大切に想ってくださっているからだと」

「……」

 

 レイフェリオは元々誰にも出自を話すつもりはなかった。仲間たちが知ったのはレイフェリオが話したからではない。それでも、彼らはすべてを知っても変わらなかった。これまで通り、レイフェリオとして接してくれた。彼らにとってレイフェリオの出自はさほど気にすることではなかった。サザンビークの王子だとしても、竜神族の血を引いていても、そこに大した意味はないと。

 だからなのかもしれない。信じられる気がした。受け入れてくれる気がした。すべてを話しても、アイシアもシェルトも、そしてレイフェリオに仕えてくれる多くの騎士たちも。どれだけ予防線を張っても、そう信じたかった。

 レイフェリオがそっとアイシアの頬に触れた。アイシアは逃げない。その頬に添えた手を己の手で重ねてきた。

 

「俺が……怖くないか?」

「はい。怖くありません」

「そっか」

「私はレイ様の婚約者です。貴方がどんな力を持っていようと、それは貴方の一部でしかないことはわかっていますから。だから……これからもずっとお傍にいさせてください」

 

 これからもずっと。相手が人間じゃないと知っても、アイシアは変わらない。そうあってほしいと、レイフェリオが願う通りに。

 ずっと思ってきたことがある。自分の力を知ってから。こんな己が、人の世界で国王になるべきじゃないと。叔父にも見透かされていた。おそらく、他にもレイフェリオがどう思っているのか知っている人はいるのだろう。気づいていないだけで。

 宿屋の外にいる気配が動くのがわかった。シェルトも傍にいる。間違いなく先ほどの話も聞こえていた。それでもシェルトの気配は変わらない。待っていてくれる。目の奥が熱くなりそうになるのをレイフェリオは堪えるように、アイシアを今度はレイフェリオが抱きしめ、その肩に顔を埋めた。

 

「……これからも、頼むよ」

「はい!」

 

 

 

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