今回はそれほど間をおかずに。
暗黒城前にちょっと色々と(;´・ω・)
聖地ゴルドの混乱。女神像は失われ、大きな穴が空いた。これを修復するのは時間がかかることだろう。まずは一般人をこの地から避難させるべきだ。そのためにも状況報告を聞きに行こうと、レイフェリオは立ち上がった。アイシアもそれに続く。
「殿下」
「シェルト」
アイシアと共に宿屋から出てきたレイフェリオは、入口の傍にシェルトに声を掛けられた。そこにいたのは知っていたので驚くことはない。
「……」
「シェルト?」
声を掛けてきた割に、何かを言いあぐねているシェルト。レイフェリオは首を傾げた。あー、と言いながら頭をガシガシと掻くシェルトを見て、レイフェリオは苦笑した。聞いていたからこそ、何かを言わなければと考えていたのだろう。
「その、言い訳をさせていただくとですね。聞き耳を立てようと思っていたわけではないですよ」
「わかっている。そもそもお前の気配もわかっていて話していたんだ。気にしなくていい」
「……そうですか」
話は終わりだと、レイフェリオは固まっている騎士たちの下へと足を動かした。だが、それはシェルトに遮られる。腕を引っ張り、レイフェリオを引き留めたのだ。
「どうした?」
「俺は……いえ、俺たちは貴方を誇りに思っています。貴方が、我らの国の王太子であることを」
シェルトの言葉に、レイフェリオは目を瞬いた。だがすぐにその意味を理解する。事実を知ったとしても、そうなのだと思ってくれるだろうとはわかっていた。それでも直接言われてみるのとは違う。シェルトが、彼らがそう思ってくれるならば、そう在りたいと強く思う。
「ありがとな」
「いえ……ゴホン、まずは状況を報告しますので、こちらへ」
「あぁ、わかった」
シェルトから現状の報告を受ける。この聖地の祭壇は大穴と共に崩壊した。確認していた中で、大穴に巻き込まれた人はいない。空に浮かぶ遺跡から降り注いだ光の刃も、レイフェリオの防壁の効果で死者は幸いにしていなかった。建物の被害は大きいが、人的被害に負傷者はいるが死者がいなかったことに安堵する。だが問題はこれからだ。
サザンビークの騎士もそれほど多くの者たちを引き連れてきたわけではない。ここまでのことが起こる想定もしていなかった。それに復興を行うとしても、それはサザンビークの管轄ではない。大聖堂が主導して行わなければならないが、人手は圧倒的に足りないだろう。
「聖堂騎士をここに配置するしかないな。どれだけ信頼の置ける者が残っているかはわからないが」
「……そうですね」
「大穴部分を立ち入り禁止にしたところで、興味本位で近づく者がいないと言い切れない以上は、無人にできないのが痛いところだ」
ここへ来る前に立ち寄った大聖堂で、レイフェリオが信をおける騎士たちの多くが亡くなっていることがわかっている。煉獄島に囚われた騎士たちも、直ぐに行動はできない。それでも大聖堂を護衛させるよりはマシだと思うしかない。
「大聖堂に戻る」
「ここはどうします?」
「一時的に預かるという形でお前たちに残ってもらう方がいいだろう」
「であればレイ様、私もここに残ります」
そこへ口を挟んできたのはアイシアだった。
「アイシア?」
「この地には未だ恐怖の心が残っています。それを少しでも鎮めて差し上げたいのです。あの不気味な存在がある限り、人の心が安らぐことはありません」
「ここはまだ危険だ。あの穴が広がらないという保証もない」
「それでも、私は巫女姫ですから」
「……」
慈愛の笑みを浮かべるアイシアは、本物の巫女なのだろう。感じた恐怖はアイシアとて同じはずだ。レイフェリオたちのような激戦を潜り抜けてきたわけではない。彼女は大聖堂に仕える巫女ではあっても、戦場に出ているわけではないのだから。
周囲に人が集まりつつあることは気づいていたが、それでもレイフェリオは首を縦に振ることができなかった。人々はアイシアが残るのであればという期待をしているはずだ。祈りを捧げる祭壇も、女神像もなき今、寄り添えるモノを人々は欲している。レイフェリオとてそう見られていることはわかっているし、疾うに覚悟もしているが、それが他の誰かとなると躊躇いを覚えてしまう。
「レイ様、私は大丈夫です」
「だが……」
「あの不気味な存在も、そして暗黒神も、レイ様が……皆様が倒してくださると信じています。ですから私にもできることをしたいと思います。私にできることは祈ることだけですから」
信じている。この闇を払うことを。アイシアが紡ぐ言霊はこの地にいる人たちに流れていく。今ここにいるレイフェリオが、あの闇に立ち向かうのだと。アイシアの意図を理解したレイフェリオは頷くことしか許されてはいなかった。それが人々の希望に、その礎になるのであれば否やを唱えることなどできないのだから。
「この場でそういう手を使ってくるとは……俺の負けだな」
「私は、クローム・クリフォートの孫ですから」
「そうか。そうだな。きっと猊下も頼もしく思ってくださっているだろう」
そうしてレイフェリオはアイシアの前に行くと、その身体を抱きしめる。その瞬間周囲から悲鳴のような声が届いたが、レイフェリオは意に介さず抱きしめる腕に力を込めた。アイシアも背中に手を回し、その震える手でレイフェリオを抱きしめる。怖くないはずがない。あのような戦闘をみた後だ。あの地がどういう場所かもわかっている。それでも己の責務を優先しなければならない。それがアイシアとレイフェリオの立場だから。
「……この地を頼む、アイシア」
「お任せください、レイフェリオ様」
そっと身体を離し、レイフェリオは後方に控えているリリーナへと顔を向けた。視線が合うと、リリーナは深く腰を折る。
「アイシアのこと、頼む」
「承知しました。この命に代えても」
「……君も無茶はするなよ。いなくなっては意味がない」
「はい」
アイシアにはリリーナがついている。それでも数人は残しておいた方がいいだろう。アイシアはレイフェリオの婚約者だ。その護衛と称すれば多少の融通は利かせられる。
「お気をつけていってらっしゃいませ」
「行ってくる」
レイフェリオはシェルトらと共に大聖堂へと向かった。