ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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暗黒魔城都市
帰城と決意


 結局、大聖堂の後始末も含め二日かかってしまった。あとのことをニノ大司教に任せることで、レイフェリオはようやくサザンビークへと戻ってきた。

 聖地ゴルドでの出来事については既に知られており、城下に入るなりレイフェリオは多くの人たちに囲まれてしまう。怪我はないのかと質問攻めに去れたところをシェルトが止めに入り、何とか包囲を抜けながら王城へと逃げてきた。

 

「大目に見てあげてくださいよ、殿下」

「わかっている。あの状況なら、最悪を想像しても不思議はない」

 

 レイフェリオを囲んでいた人々の瞳には涙の痕。共に出ていったはずのアイシアの姿がないことで、まさかと想像した者もいた。彼女の無事を伝えると、その場で崩れる者もいたくらいだ。アイシアは当代の巫女姫ではあるけれど、サザンビークにおいては王太子の婚約者という認識の方が強いだろう。誰にでも分け隔てなく接するアイシアは、ここでも好かれている。すべてが終ったあと、戻ってきたアイシアは盛大に歓迎されるはずだ。

 

「そのためにも、まだ終わりにさせるわけにはいかないんだよな」

「……そうですね」

「まずは叔父上のところに行こう」

「はい」

 

 王城内は城下ほど騒がしくなかった。既に状況は共有されているということだ。そうして謁見の間へと立ち入ると、ククールの姿があった。聖地ゴルドで会った時より服装は当然だが、その顔色も多少は戻ったように見える。

 

「よぉ、ようやくお戻りか?」

「あぁ、遅くなってすまなかったな」

「構わないさ。向こうは大変だったんだろうって想像は付く。一応、俺たちができる説明はしておいた」

「助かる」

 

 ヤンガスとゼシカは王城に与えられた部屋にいるらしい。トロデ王はいつものように外で待機。その状態で二日以上も待たせてしまったことは申し訳なく思う。

 

「クラビウス王には事情を説明済みだ。お前が遅れて戻ってくることを含めてな」

「そうか」

「……城下、騒がしかっただろ? 空にあれが現れた時、黒い霧みたいなのが世界中の空を覆った。ほんの一瞬だったが目撃者はそれなりに多かったらしい。まっ、当然っていえばその通りだろう」

 

 女神像崩壊から不気味な城の出現。レイフェリオ自身はその瞬間を見ていない。ククール曰く、一瞬ではあったものの、黒い霧は世界中を覆ったという。突然の空の変化。誰もが不安に感じることだろう。もしかすると、城下でレイフェリオの姿を見るなり近づいてきた国民たちも、その不安があったからこそだったのかもしれない。

 

「……世界中の人々が不安に駆られる、か。あまりこの状況を長引かせるわけにはいかないよな」

「あぁ」

 

 サザンビークから望める空は青。今はまだ聖地ゴルドの上空に留まっている黒いものが、世界に広がるようなことが起きてしまえば世界は混乱する。それほど時間は残されていないのかもしれない。

 レイフェリオはククールと共に謁見の間へと足を踏み入れた。宰相とクラビウスの二人の姿が見える。レイフェリオに気づくなり、クラビウスが腰を上げて駆け寄ってきた。

 

「レイ!」

「遅くなりました、叔父上」

「無事で何よりだ。巫女姫はどうした?」

「聖地ゴルドにて、今は人々の不安を諫めるために留まってくれています」

「そうか。巫女姫がいるのであれば、多少なりとも気持ちを落ち着かせることができるだろう」

 

 あの場を諫めるためにレイフェリオも尽力したが、そのまま留まるわけにはいかなかった。だからこそアイシアは残ることを決めたのだ。少しでも人々の心に寄り添うために。巫女姫として。何かに縋りたくなることも、誰かを責め立てることも、自らを落ち着かせるための行為だ。その矛先が向けられる意味も役割も、アイシアもレイフェリオも理解している。故の肩書であり地位なのだと。

 

「してお前は行くのだろう?」

「はい。皆と合流し、向かいます。あれをあのままにしておけば、さらなる混乱を招きますから」

「うむ」

「叔父上はアスカンタ王と共に、人々に触れを出してください」

 

 あれが現れたのは聖地ゴルド付近。人々の心のよりどころの一つだ。聖地は半壊。象徴だった女神像も既にない。その事実を世界中の人々が知るまで、そう時間もかからないだろう。不安は暗黒神の力を強くする。だからこそ聖地ゴルドの暗黒神の身体が封印されていた。信仰の対象であり、人々の祈りが集う場所だから。

 しかし今は逆に不安を煽る状況になっている。だから少しでも人々の心に希望を抱かせたいのだ。触れを出すならば国王を置いて他にはいない。

 

「……お前の名を出すことになるが、構わないか?」

 

 少し考え込んだ後でクラビウスはそう問いかけた。思わぬ問いかけに、レイフェリオの方が驚いたくらいだ。驚かれるとは思わなかったのか、クラビウスは悲し気な笑みを浮かべていた。

 

「これは単なる王族の義務に治まらないだろう。一時的であろうとも、人々の想いをその背に負うことになる。サザンビークの王太子ではなく、お前自身がだ」

「……」

「無論、向かうのはお前だけではない。ククール、ゼシカ、ヤンガス……仲間たちと共にではあるが、お前ほど旗頭に相応しい者はおるまい」

 

 失敗しようと成功しようと、名が知れ渡った瞬間に、レイフェリオの名は一個人のものではなくなる。

 

「まぁ俺たちの中じゃ、一番説得力があるしな。見知らぬ名前よりは、明確に名が知れ渡った存在の方がいいのは確かだ……こればっかりは、お前に被ってもらった方がいいってのはわかる」

 

 ククールもわかっているのだろう。そうすることで何が起きるのか。

 ここでラプソーンの名を出すのは構わない。だがそれに立ち向かう存在が、勇気ある者たちという不明瞭な存在ではだめなのだ。明確にどこに所属し、立場を持った人間である方が人々も想像しやすい。国ではなく、個人の名前であればあるほど、実感するのだ。戦っている者がいること。立ち向かってくれる希望があるということを。

 サザンビークの王族よりも、レイフェリオという個人名の方がいい。所属はサザンビークで構わないが、サザンビークの王太子ではなくサザンビークのレイフェリオと称した方がより人々の心には響くだろう。

 

「アスカンタ王やトロデーン王など、お前を知るものであればすぐに繋がるだろうが、世界中の人々はそうもいくまい。このサザンビークの民たち以外はな」

「えぇ、そうですね」

「お前に希望を託させてもらう。頼んだぞ、レイフェリオ」

「……お任せください」

 

 

 

 

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