ポルトリンクの港へ戻ったレイフェリオたちは、まず外で待っているトロデ王へと状況を報告した。
「トロデ王」
「おう、戻ったか。してどうじゃった?」
「ドルマゲスですが、どうやら海を越えて南へと向かったそうです」
「南じゃと!?」
「えぇ、マイエラ修道院がある大陸ですね」
「えぇい、こうしてはおれん! わしらも行くぞ」
息巻くトロデ王だが、そこには問題がある。南へ行くには船に乗っていくしかない。だが、今の姿のトロデ王がそのまま乗るとまた騒ぎになる可能性がないわけじゃないのだ。
そこでレイフェリオはトロデ王へ提案を持ちかける。
「……そのことなのですが、船に乗る際は王にはフードを被って頂けますか?」
「なぜじゃ?」
「トラペッタの時のような騒ぎにならずに済むと思いますので」
顔全体が見えていれば魔物と間違われるかもしれないが、フードを被った状態であればはっきりとそうだとはわからない。港へ着く間だけなのだから、長時間というわけでもないので、誤魔化しは利くだろう。
「なるほど、そうじゃな。わかった」
「お願いします。ではいきましょう」
トロデ王とミーティア姫の馬車を連れ、消費した道具を買いそろえるとレイフェリオたちは再び港へ戻った。
そこには既に準備を終えたゼシカが待っている。
「あら? もういいの?」
「あぁ、こっちは大丈夫。出発しようか」
「わかったわ。あ、それとレイフェリオたちにお願いがあるの」
「?」
ゼシカはヤンガスとレイフェリオを見回して告げる。
「貴方たちもドルマゲスを追っているんでしょう? なら目的は一緒なんだし、私も貴方たちの仲間にしてくれない?」
「……本気?」
「えぇもちろん。これでも魔法使いの卵なの。足手まといにはならないわ」
その実力はレイフェリオが身をもって知っている。それに、ポルクから頼まれたこともあった。
ヤンガスを見ると、仕方ないというように頷いた。
「わかった。こちらからも頼むよ」
「ありがと! これからよろしくね」
正式にゼシカと行動を共にすることになった。レイフェリオもヤンガスも戦士系だ。呪文をメインに使って戦うわけではないため、武器でダメージが与えられない魔物にあった場合は苦戦を強いられるだろうが、これからは魔法使いであるゼシカがいる。
戦闘の負担は減るだろう。戦術の幅が広がるという意味でも、ゼシカの同行はレイフェリオたちにとっても利があった。
こうして、ゼシカを加え、一向は船へと乗り込んだ。
航海は順調だった。海は荒れることもなく、穏やかな景色を見せてくれている。
レイフェリオは一人、船の後方にたたずんでいた。
考えることはこれからのことだ。
ドルマゲスは正直得体のしれない人物だった。トロデ王曰く、ドルマゲスが持っている杖がその力を与えているということだそうだが、そのような杖の話は聞いたことがない。
城にいた頃に、書物関係は多く読んでいたはずだが、レイフェリオが知る限りあそこにはそのような呪いの杖の記述がある書物はなかった。
「……嫌な予感がするな」
「レイフェリオ?」
突然後ろから声を掛けられ、レイフェリオはびくっと肩を揺らした。思考に耽っていたため、気配に気が付くのが遅れたのだ。振り向くと、そこにいたのはゼシカだった。
「ゼシカ……」
「こんなところにいたのね。ヤンガスが探していたわよ」
「そ、そうか……」
「聞いたわ。ヤンガスから、貴方たちの兄弟談義」
「……半分聞き流してくれるとありがたい」
ヤンガスとの出会い。
それはトロデーン城を出てトラペッタへと向かう途中の橋の上だった。
盗賊という形で襲い掛かってきたのだが、橋の上であったためレイフェリオが避けると襲い掛かってきた衝撃で橋に穴が空き、ヤンガスは穴に落ちてしまったのだ。
吊り橋だったため、橋は脆かった。そこに重量があるヤンガスが辛うじて引っかかっているという状態だ。
長時間持つはずがなく、呆気なく橋は落ちてしまった。
それでも谷底に落ちずに、橋に捕まっていたヤンガスは相当しぶとい部類に入るだろう。思わずヤンガスを助けてしまったのが、レイフェリオとヤンガスの関係の始まりだった。
「ただ引き上げただけなんだけどね。妙に懐かれた……ってヤンガスのが年上なんだけど」
「レイフェリオはいくつなの?」
「俺は18だよ。ゼシカは?」
「私ももうすぐ18になるわ。なあんだ、あまり変わらないのね。妙に落ち着いているから年上かと思ったわ」
「……」
落ち着きもするだろうな、とレイフェリオは妙に納得してしまった。レイフェリオには、面倒な従弟がいるのだ。あれを相手にしていたら、どうしてもこうなるだろう。
「ま、いいけど。あと、塔での怪我、本当に平気だったの?」
「ん? あぁ、多少はダメージがあったけど、平気だ。どうしてかはわからないけど、俺は炎の耐性が強いんだ。といっても普通よりはってだけだけど」
「そうなの? あまり聞いたことないけど……」
それはそうだろう。レイフェリオでも聞いたことはない。だが、事実なのだからそうとしか言いようがなかった。
疑問に思っても誰かが教えてくれるわけでもなく、訪ねたい相手は既にこの世にいない。だからそういって納得していくしかなかった。
それからヤンガスが混ざり、他愛のない会話をしながら船はマイエラ地方へと進んでいった。