この作品を書くに当たって書きたかった場面のひとつでして、捏造多いです。
亡霊を倒して三人は奥へ進むと、上に続く階段を見つけた。
「ここね、急ぎましょう」
「あぁ」
階段をかけ上がり、入り口だろう場所を塞いでいる蓋を持ち上げると、そこは確かにマイエラ修道院だった。
辺りはすっかりと日が暮れている。
ここは修道院の中央にあり、湖に囲まれている中島。
恐らく院長がいると思われる場所だろう。
足早に部屋の入り口へ向かい、扉を開けた。
「えっ!?」
「こ、これは……」
中にはいると、騎士団員と思わしき連中が倒れていた。慌てて駆け寄るが、気を失っているだけのようだ。
「おい、何があった!?」
「あ……あの道化師が……い、院長を」
螺旋階段の近くに倒れていた騎士団員は辛うじて意識があった。
階段の上を指差す。
レイフェリオは、すぐさま階段をかけ上った。
「止めろっ!」
「フッ」
横たわるオディロ院長の上に見えた黒い影。正しくドルマゲスだった。
だが、一瞬だけこちらに、目を向けると笑みを含みながらその姿を消してしまった。
「き、消えた、の?」
「……みたいだ。この近くにはいない」
「ん……何じゃ今の禍々しい気配は」
横になっていた院長が身を起こした。
レイフェリオたちに気がつくと、目を丸くする。
「? あなた方は一体……」
「……オディロ院長、ご無事で何よりです」
「ん? おや、あなた様は──ー」
オディロが口を開きかけた時、バタバタと階段をかけ上がる音と共に、騎士団員たちが駆けつけてきた。
「いたぞ! こいつらだ!」
「見つかったでがす!?」
「……怪しまれてるわね」
「オディロ院長の命を狙うとはなんたる罰当たりめ」
騎士団員は剣を引き抜き、レイフェリオたちに向ける。
「これは、何の騒ぎだね?」
「この声……」
レイフェリオの予想は当たった。騎士団員達の奥から姿を見せたのは騎士団長のマルチェロ。
レイフェリオたちを素通りし、オディロの前に膝をつく。
「オディロ院長、騎士団長マルチェロ。御前に参りました」
「おお、マルチェロ。一体何があったのだ?」
「警護の者達が侵入者に襲われ深手を負っております。もしやと思い駆けつけましたところ……」
マルチェロは視線だけをレイフェリオたちに向ける。侵入者だと思われたのだろう。状況だけをみれば確かにレイフェリオ達が侵入者に見える。
「昼の間からこの辺りを彷徨いていた賊を捕らえたというわけです」
「いや、待て。その方たちは怪しい者ではない」
レイフェリオ達を連行しようと騎士団員たちが腕を捕らえるが、オディロはそれを認めなかった。
「な、何をおっしゃいます! 現に見張りが……」
「それに、そこの方はワシの旧知じゃ」
「なっ!? ……し、しかし」
マルチェロはレイフェリオを睨み付ける。
「……しかし、このような時間に何ゆえここを訪れたのかは確認しなければなりません」
「仕方ないのう。だが、そこの方とは話がある。ここは引きなさい」
「い、院長!?」
オディロの言葉にマルチェロは納得がいかないようだが、逆らうことはせずヤンガスとゼシカを連れてここを出ていった。
誰もその場に居なくなると、オディロはベットから降りる。
「部下の態度、申し訳ありません、レイフェリオ様」
「いいえ……ご無沙汰しております、オディロ院長」
「大きくなられましたなぁ、お父上に良く似ておられます」
レイフェリオは苦笑する。
自分の顔が父似であることは、城でも良く言われることだ。
「あなた様程の方が何故ここにおられるのです?」
「……先程の禍々しい気配、それを追って参りました。ですが、こちらに気がつくと姿を消してしまったのです。恐らく、警護の者を襲ったのも…… 」
「そうでしたか……」
オディロはレイフェリオの言葉に何の疑念も抱いていないようだ。
「驚かれないのですね」
「ワシも感じました。その気配を……ですが、レイフェリオ様自らお出でになる必要はないでしょうに。老い先短い老いぼれの為に無茶はなさらないで下され」
普通に考えればそうなのかもしれないが、あいにくとレイフェリオの素性は誰も知らないのだ。
「共に旅をする者たちは、私の素性を知らないのです。あのような気配を感じて放っておくことなど出来ません」
「レイフェリオ様……そのお優しい心、この老いぼれ嬉しく思います。ですが、御身をこそ大切にしてくだされ」
「ご心配には及びませんよ。私は普通ではありませんから……」
レイフェリオは自嘲気味に言った。
深刻に話したつもりではないが、オディロはそうは受け取らなかったようだ。
「レイフェリオ様……何を抱えておられるのです?」
「えっ?」
オディロは真っ直ぐにレイフェリオを射る。その視線から逃れることが出来ないように。
「ご自分を貶める様なことをおっしゃらないことです。お父上が悲しまれますぞ。レイフェリオ様はいずれはサザンビークを継がれるお立場、不用意な発言は控えるほうが宜しいでしょう」
「オディロ院長……」
「ですが、ここにはワシしかおりません。吐いてしまった方が楽になることもあるでしょう。あなた様のようなお立場であるならなおのこと」
「……。ありがとうございます。ですが、これは……私自身の問題なのです。お気持ちは頂きますが、それでご容赦下さい」
言葉にすることが出来れば確かに楽になるかもしれないが、それでもこれはレイフェリオ自身の問題。
答えも決断も己が下さなければならない。
言い切ったレイフェリオに、オディロは目元の皺を深くする。
「……お強くなりました。あなた様の治世を楽しみにしております」
「ありがとうございます……」
「……少し話しすぎたようですな。サーファン、おるかの?」
階下に向かい呼び掛けると、騎士団員の一人が現れた。人払いをしてはいたが、一人控えていたのだ。
壮年ともいうべき威圧感を備えた人物。
「レイフェリオ様、この者はワシが昔から共にいた警護役です。ここでの話を漏らすことはありませんので、ご安心を」
「……わかりました。院長がそうおっしゃるなら……」
レイフェリオも頷く。
サーファンは、レイフェリオから少し離れた場所で膝をつく。
「……レイフェリオ様。どうぞお見知りおきください。レイフェリオ様は覚えていらっしゃらないでしょうが、ご幼少のおりにお父上と共に一度お目にかかったことがあるのです」
「……すみません、覚えていなくて」
ここまで威圧感を持っているならば記憶に残っても良さそうなものだが、生憎とレイフェリオには覚えがなかった。
「いえ、まだまだ幼かったのですからお気になさらないで下さい」
僅かに表情が動く程度だが、声色が柔らかい。外見で損をしているのかもしれないなと、レイフェリオは苦笑した。
「そろそろマルチェロの話も終わった頃でしょう。サーファン、レイフェリオ様を案内して差し上げなさい」
「かしこまりました。では、参りましょう」
オディロへと頭を下げ、レイフェリオは居室を後にした。