オディロの居室を後にし、サーファンに連れられながらレイフェリオはマイエラ修道院を出た。
「サーファン殿、修道院の外、ですか?」
「レイフェリオ様、私のことはサーファンとお呼びください。そのように丁寧に話される必要もありません」
「あ……まぁ、それはそうかもしれませんが……俺の仲間は素性を知らないので崩すことに違和感を与えてしまうんです」
「お忍び、でしたか……ですが、私も譲れません。オディロ院長よりお客人という扱いなので、というのはいかがですか?」
「……」
サーファンは相当の頑固者のようだ。
決して認めないのだろう。レイフェリオは重く息を吐いた。
「わかりました」
「レイフェリオ様」
「うっ、わかったよ。けど、その様付けは勘弁してくれ」
「無理ですね。王族である方をその様には呼べません」
「……はぁ。本当に勘弁してくれ」
一向に引かないサーファンにレイフェリオは頭を抱えた。
外に出て、サーファンが案内するまま歩いてきたのは、修道院から右手側にある川沿い。
「レイフェリオ様のお仲間はあそこにおられます」
「あそこって……小屋、か?」
「はい。マルチェロは院長の前でこそああ言いましたが、尋問を加えようとしていたのですよ」
「尋問って……」
「牢屋に入れて閉じ込めていたようですが、もう夜も遅いですし、そろそろあそこに来ているはずです」
サーファンの言っていることの的を射ていないが、黙ってついていくことにした。
「ここです」
「……!? ミーティア姫?」
小屋に入るとすぐ目についたのは綺麗な白馬。ミーティア姫だった。
「私がお連れしました。ククール、いるんだろう?」
サーファンは口調を変えて、小屋の中にある藁の塊へと声をかける。
ガサゴソ。
「無事ですよ、サーファンさん」
「うぉっ、レイフェリオ!? それに、ミーティア!」
ククールの後ろからトロデ王が姿を現した。
まさかトロデ王がそこから出てくるとは思わなかったので、レイフェリオは驚く。
「修道院前にいたのを騎士団員が捕らえたのです。魔物だと言って。それで更に疑いを深めたようです」
「……なるほど、そうだったのか」
「あ、兄貴でないでがすか? どうしてここに?」
「オディロ院長と話は終わったの?」
ヤンガス、ゼシカも姿を見せた。二人とも無事なようで、レイフェリオめ安堵する。
「あぁ、終わったよ。皆無事でよかった」
「ほんとにね。何なのよあいつ。頭っから決めつけて何様!?」
マルチェロに対して、ゼシカは相当にお冠なようだった。
「レイフェリオ、わしとミーティアは一足先に出ておるぞ」
「わかりました」
トロデ王はいつもの御史台へ座り、馬車を引いていった。その様子をサーファンは強面の表情で見ている。
「レイフェリオ様、あの魔物は一体……」
「……ああ見えても魔物ではないんだよ。呪いをかけられているんだ」
「呪い、ですか……人は見かけではないということですな」
お前が言うか、と思ったが口には出さなかった。
「ところで兄貴? その人は誰でがすか?」
「……えっと」
「オディロ院長の警護をしているサーファンだ。レイフェリオ様をここまで案内した。ククールとの合流がここだったからな」
「騎士団員の古株だが、話のわかる人だ。俺のこともオディロ院長と共によく面倒見てくれた」
ククールが加える。
マルチェロを初め、騎士団員たちはククールを厄介者としているが、中にはそういう風に扱わない連中もいるという。その筆頭がサーファンのようだ。
「……けど、サーファンさんは何でそいつを様付けしてるんです?」
「!?」
やはりそう思うよなと、レイフェリオに冷や汗が流れる。たが、涼しそうに答えたのはサーファンだ。
「オディロ院長のお客人だ。幼少の頃のお知り合いと聞くが、敬意を示すのは当然のこと」
「……俺はいいって言ったんだけどな」
「それは認めないと言いました」
レイフェリオ相手だと口調が丁寧になる違和感は拭えないが、変える気はないのもこれまでの言い合いでわかっているので、レイフェリオはため息を吐くだけだった。
「兄貴はオディロ院長の知り合いだったんでがすね」
「マイエラ修道院で会ったわけではないけどな……!?」
その時だった。
外からあの禍々しい気配を感じたのは。
レイフェリオは顔色を変えて小屋を飛び出す。
「あ、兄貴!?」
「レイフェリオ!?」
ヤンガスたちも慌てて出てくる。その目に映った光景は炎だった。
「橋が……! オディロ院長!?」
「急げ、ククール!」
サーファンとククールは急ぎ修道院へと戻っていく。
レイフェリオもヤンガスたちと共に後を追った。
修道院の外には避難をしてきた人たちでごった返している。人混みを避け、奥の院長の部屋へと急いだ。
中島が見える場所につけば、橋が燃えておりこたらまでその熱さが伝わってくる。
立ち止まればいつ落ちてしまうともしれなかった。全員、そのまま炎に巻かれている橋を渡りきると、橋がその姿をなくした。
「ギリギリ、でがす」
「おいっ扉が開かない! 手伝ってくれ!」
思わず安堵していたヤンガスにククールの声が届く。
扉には鍵が掛かっていたようだ。
全員で息を合わせて、扉に体当たりをする。
「これで、どうだ!」
バキッと何かが壊れる音がするとそのまま扉が倒れた。
中に入ると、警護を連中がまたもや倒れている。間違いなくドルマゲスの仕業だ。
駆け足でオディロの元へと急ぐと、そこにはオディロを庇うようにしていたマルチェロの姿があった。
危険を察知してきたのだろう。
その様を嘲笑うかのように見ていたのが……ドルマゲスだった。
「ドルマゲス……」
「クックックッ、今夜は随分とお客が多いですねぇ」
ドルマゲスが杖を振り抜くと、その先にいたマルチェロが吹き飛ばされる。
「兄貴!」
ククールは迷わずにマルチェロへと駆け寄った。
衝撃が強かったのか、マルチェロは身体を上手く動かせないようだ。
「やら、れた……すべてはあの……道化師の、仕業……俺はいい。オディロ……院長を、連れて逃げろ!」
ククールが差し出す手を振り払い、マルチェロは指示を出す。
だが、それを笑い飛ばしながらドルマゲスは更に杖を振った。
「グハッ」
「させると思いますか」
ククールとマルチェロが壁に激突する。
「これで邪魔者はいなくなった」
「……それはどうかな」
レイフェリオはオディロの前に立ち、剣を抜いた。その横にはヤンガスとゼシカがいる。
「ドルマゲス、よくも兄さんを!!」
「おやおや、悲しいですねぇ。貴女のその姿、実に悲しい……クックックッ」
「きゃっ」
ゼシカが呪文を唱えようしたが、それよりも早くドルマゲスがゼシカへと杖を振る。それに巻き込まれるようにヤンガスも吹き飛ばされた。
「ヤンガス! ゼシカ!」
「貴方も邪魔です……ん? 貴方は……」
レイフェリオに狙いを定めて杖を振り抜こうとするドルマゲスだったが、動きを止めた。
「……ほぅ。何故かは知りませんが、貴方は生かしておくと面倒なことになりそうです。そうですね、貴方も一緒に死んでもらいましょうか。アーハッハッハッ」
「くっ」
ドルマゲスは笑っているが、手を休めているわけでも油断をしているわけでもない。
剣を握り、魔力を集中させる。
「食らいなさい」
「ぐぅぅ」
ドルマゲスの杖から先程とは比べられない程の強い力が迸った。闇の力、そう呼べるだろう。避けることも出来ず、レイフェリオに直撃をする。壁へと叩きつけられた。
「レイフェリオ!? 逃げて!」
「ちっ」
床にずり落ち、顔を上げるとそこにはドルマゲスの笑み。逃げようにもレイフェリオの身体は言うことを聞かなかった。
「……くっ」
「さようなら、不思議な旅人よ」
「レイフェリオ様!!?」
ドルマゲスが杖の先をレイフェリオへ向けたときだった。その目の前を黒い影が通る。
ドサッ。
「アーハッハッハッ、クックックッ。まぁいいでしょう。目的は達しました。これで更に……」
ドルマゲスは笑いながら徐々にその姿を消していった。
レイフェリオの前に残されたのは、自身を庇って倒れたオディロの姿。
「オディロ院長!?」
「ご無事、でしたか……?」
「何故、俺を庇ったんです!! 貴方は───」
「迷い……あっても、あなた様なら……大丈夫でしょう……この老いぼれ、でも……力になれました、かな……」
「……オディロ、いんちょう」
「……ちせ、いを……みれぬのが、ざ、んね……ん……」
オディロは最期に微笑むとその瞳を閉じた。
感想及び、評価、お気に入り登録もしていただきありがとうございます。たくさんの人に読んでいただいているようで、とても嬉しいです。
これからも頑張って更新していきますので、最後まで宜しくお願いします。