ククールの過去
教会へと入るとシスターが出迎えてくれた。
「こんにちは、旅の方。ようこそ我が教会にいらっしゃいました。これから日も暮れますし、宜しければ教会で休んでいかれますか?」
「ええ、ちょうどそこのカーラさんに話を聞いてお願いしようと思っていたところなんです」
「まぁカーラさんに。ではこれからアスカンタ城へ向かわれるのですか?」
「そうでがすが、何でわかったでげすか?」
「キラさんにお会いに行くのですよね? でしたらアスカンタ城ですもの」
レイフェリオたちは特に何も言っていないのだが、シスターは当たり前のようにアスカンタ城と言った。
それはカーラのいう名前からキラを繋げてのことだったようだ。
「アスカンタには行くけれど、キラって子に会えるかはまだわからないわ」
「そうなのですが……最近は本当にキラさんも帰ってこないので私共も心配をしていたのです」
「……まぁいいじゃないか。ついでに様子を見てきてやっても」
「ククール……俺も別に構わないと思うが、取り敢えず行ってみて何か聞ければカーラさんにも知らせよう」
レイフェリオも賛同する。
わからないと言いながらもゼシカ自身も気にはなっていたようで、頷いた。
「ありがとうございます、皆さん。それでは、こちらでお休みになってください」
シスターは休める場所へと案内してくれた。
そうして、ここで一夜の宿を借りることになったのだが、レイフェリオはまた夜中に目が覚めてしまった。
「……ん? ククール?」
ふと隣に寝ていたはずのククールがいない。もぬけの殻だった。
散歩でもしているのかと、教会の外に出るとククールは気に寄りかかりながら空を見上げていた。その近くには何故かトロデ王の姿もある。
「ククールよ、お主何か事情がありそうじゃな」
「……」
ククールは何も答えない。視線もそのまま空を見ていた。しかし、トロデ王は構わずに話しかける。
「……話せば気が楽になるやもしれんぞ? まぁ、無理にとは言わないがな」
「……ふっ、まぁ大したことじゃないんだ。あいつ……マルチェロとはなんだかこう……うまくいかなくてね。いっそ、血が繋がっていなければお互い幸福だったのかもしれねぇな……」
「……そうか」
ククールの過去。
何も知らなかったククールにとって、親を亡くし一人になったときに初めて手を差しのべてくれたのが皮肉にもマルチェロだった。
名乗った途端に態度を変えられ、以降は微笑んでもらうこともなく憎しみだけがククールに向けられていた。
知らなかったではすまされない何かがあったのかもしれないが、実際にククールは何も知らなかった。
それが罪と言うならばと、マルチェロの態度も甘んじて受けてきたという。
マルチェロには憎める相手はククールしかいない。それを理解できるから。
レイフェリオが見ていてもマルチェロの負の感情はククールに向けてあからさまだった。このままでは何も変わらないだろうが、だからこそ離れた方がいいのかもしれない。
そんな中でもオディロは全てを知っていて、ククールを修道院に入れ、何かと気を配ってくれたという。
オディロは名の知れた慈善家で、身寄りのない子どもを引き取って育てていた。
ククールには、あそこしか行き場がなかったのだろう。
だからククールはオディロを助けるためにあれほど必死だったのだ。
複雑な事情を持っているため、皮肉屋にも見えるが、相手を思いやることができる男、それがククールなのかもしれない。
夜明けの空を見ながらレイフェリオはそんなことを思った。