窓を開くと、再び光が放たれた。
光がおさまるとそこには、ヤンガス達の姿。
「兄貴っ!!! 大丈夫でがすか!!!?」
「ちょっ、ヤンガス止めなさいよ」
レイフェリオが現れた途端、抱きついてきそうな勢いのヤンガスの首根っこをゼシカが掴む。
「ったく、でどうだったんだ? お前だけ消えるから驚いたぜ」
「ククール……彼が王の元へ行ってくれるそうだ」
「? こいつが?」
ククールが見定めるようにイシュマウリを見た。
だがそんな視線を気にすることもないように、イシュマウリはハープを奏でる。
「さぁ急ぎましょう。私を王の元へ」
「わかった。ルーラ!」
ここにいる全員を光が包む。ルーラの行き先はアスカンタ城だ。
あっという間に着くとそこは城下町ではなく城内だった。
今は夜だ。キラの話だと玉座の間に王はいるはずだ。
階段を掛け上がり、玉座の間に向かうとそこにいたのは、玉座に顔を伏せている王の姿だった。
「……」
その姿を認めるとイシュマウリはハープを構え弾く。
すると虹色の光が王の周りを照らし出す。
「?」
「嘆きに沈む者よ。かつてこの部屋に刻まれた面影を月の光のもと再び甦らせよう」
音に導かれるように顔を上げた王。視線を受け、イシュマウリは更にポロンと、曲を奏で始めた。更に虹色の光が王の周りを飛び回る。
「な、なんでがすか?」
「しっ、黙ってろよ」
驚きを思わず声に出すヤンガスだが、すぐさまククールに咎められ慌てて口を塞ぐ。
「ねぇ、あれって……」
「……アスカンタ王妃、なのか?」
王の間を軽やかに踊るように姿を見せている女性。恐らくはあれが亡き王妃なのだろう。
やがてその姿を追うように王は立ち上がり声を掛ける。
「これは……夢? いや幻なのか? ……いや、違う。これは……君は……」
だが王が触れようと手を伸ばすと、その姿は消えてしまう。
「あっ……」
『どうしたの、貴方?』
「……シセル!」
幻から声が聞こえた。王も声の方を振り向く。
「会いたかった。あれから2年、ずっと君のことばかり考えていたんだ。君が……死んでから……」
幻へと話しかける王。だが、王妃は王へ視線を向けることはない。これは幻。生きているわけではないからだ。
『まだ今朝のお触れの事を気にしているの? 大丈夫、貴方の判断は正しいわ』
「えっ」
『貴方は優しいすぎるのね。でも時には厳しい決断も必要よ。王様なんですもの。みんな、貴方を信じてる』
「シセル……」
『だから貴方がしゃんとしなくちゃ。アスカンタは貴方の国なんですもの』
まるで過去の出来事を見ているように幻は話している。いや、これは恐らくは実際の出来事。
月の光がここの部屋の記憶を映しているのだ。
次に現れたのは王座の間に座りシセルと語る王の姿。仔犬の名前の話をしていた。
『貴方は私の王様なの。自分の思う通りにしていいのよ。貴方は賢くて優しい人。私が考えていたのは貴方が決めた名前にしようって、それだけよ』
「シセル……」
幻が消えると王は王座に座り、頭を抱えた。王にもこの幻が過去の出来事を映しているのだと気がついたのだろう。
「そうだ……いつも君はそうやって僕を励ましてくれていた。シセル……君はどうして……」
王の言葉に重なるように幻の王がシセルに問いかける。
『シセル、どうして君はそんなに強いんだい?』
『お母様がいるからよ』
『母上? だって君の母上は随分と昔に亡くなって……』
幻のシセルは昔を思い返すように目を閉じていた。
『私も昔は弱虫だったの。いつもお母様に励まされていたわ。お母様が亡くなって、悲しくて寂しくて……でもこう考えたの。私が弱虫に戻ったら、本当にお母様がいなくなってしまうって。お母様が最初からいないことと同じことになってしまう……って』
「……シセル」
『だから、励まされた言葉、お母様が教えてくれたことの示す通りに頑張ろうって。そうすれば、お母様は私の中にいつまでも生きてるの』
シセルの言葉は、レイフェリオたちにも響いた。
大切な人を亡くしたとしていつまでも悲しむのではな
く、その人が残してくれたものを大切にしてきたシセルの強い心に。
『ねぇ、テラスへ出ない? 今日はいい天気ですもの。きっと、風が気持ちいいわ』
次に現れた幻は階段の上だった。そのまま上っていくシセルを追って王も上がっていく。レイフェリオたちも後を追いテラスへと階段を上る。
いつの間にか日が昇り、外は明るくなっていた。
シセルと王が寄り添って、テラスに立っている。そこから見えるのは、アスカンタ国。
『ほら、貴方の国がすっかり見渡せるわ、パヴァン。アスカンタは美しい国ね』
「あぁ、そうだね……シセル」
『私の王様、みんなが笑って暮らせるように、貴方が……』
二人が向かい合ったそのとき、時間が来たのだろう。シセルの幻は、その姿を消した。
残り香を抱くように、王は腕を抱きしめる。
「……覚えてるよ。君が教えてくれたこと。全て僕の胸の中に生きてる。すまない、シセル……やっと目が覚めた。ずっと、心配かけてごめん。……長い長い悪夢から、漸く目が覚めたんだ」
王の後ろ姿を見ながら、レイフェリオ達はそっと階段を下りた。
今は一人にしておく方がよいだろう。もう王は大丈夫だ。長かった喪が明ける。漸くアスカンタに日が昇るのだ。
「では、私はこれで」
「ありがとう、イシュマウリ」
「では……」
再びハープを鳴らし、イシュマウリはその姿を消した。
「願いの丘、単なるおとぎ話じゃなかったみたいだな」
「あぁ」
「これでアスカンタも元に戻るわね」
「キラの嬢ちゃんも漸く家に帰れるでげすよ」
レイフェリオ達の顔は晴れやかだった。