そしていよいよ、到着しました。
翌朝目が覚めると、レイフェリオの上にスラとキースが眠っていた。
「……道理で重いはずだ」
呑気に寝ている二匹など気にせず体を起こすが、床に転がりながらも夢の世界のままだった。
「全く──―」
「お目覚めでしたか、レイ様」
「……爺」
扉を開け現れたのは、グランだった。マージに呪文をかけられたまま寝入ってしまったせいで、状況がわからない。レイフェリオは責めるようにグランを睨む。
「皆さま、起きていらっしゃいますよ」
「爺っ! ……何をしていたんだ」
「……わしはただ皆さまにお話をしただけですじゃ。それとも、貴方様自身がお話されるおつもりでしたか? わしには、まだそのお覚悟がないように見受けられました」
「……何を言ったんだ?」
「貴方様のお生まれのことです」
「何を勝手なことを……」
普段より低い声で吐き捨てるように言い放つ。ヤンガスらに出自まで教えるつもりは、レイフェリオにはなかった。それをさも当然のように話したということに、苛立ちを隠せない。
だが、憤るレイフェリオにグランは諭すように言う。
「彼らを信じていらっしゃるのでしょう?」
「!? ……そんなこと」
「レイ様……貴方様はご自身が考えておられる以上に、彼らに心を許しておいでです。この泉へ来たこともそうですが、そうでなくばなぜ彼らとここまで共に旅をしてこられたのです?」
「それは……たまたまトロデ―ンの呪いの場所に遭遇したからだ」
「遭遇して、人助けをするつもりで旅に同行をされたのでしょうが、ならばご自身の命が危ういというときに、なぜ彼らと離れなかったのです? 修道院でのこと、お聞きしましたよ。貴方様は、既に道化師の標的にされているのです」
「……」
「ともにいれば彼らにも危害が加えられるかもしれない。その状況においてもなぜ共に行動されているのですか? ……それこそ、彼らを信用している証でございますよ」
「爺……」
グランはベッドへと近づき、レイフェリオの手を取る。
「わしの心眼でも見えております。彼らはきっと貴方様のお力になるでしょう。レイ様の信頼にも必ずや応えてくれます。……わしの言葉は信じられませんか?」
「……」
即座に違うと否定することは、レイフェリオには出来なかった。ヤンガスが前衛で、ゼシカとククールが後衛の支援に回る。その戦闘に、確かに安心感を抱いているのだから。
背中を預けて戦える存在は今までいなかった。だが、彼らにはそれができる。
「……確かに、そうかもしれない。だが、ヤンガスたちは俺の本当の力を知らない。知ればきっと──―」
「大丈夫でございましょう。……出会うべくして出会った者たちです。……あとは、貴方様次第ですよ」
「……そうか」
「さぁ、皆さまがお待ちかねでございます。城へ向かわれるのでしたら、出発したほうがいいでしょう」
「わかった……」
ベッドから立ち上がると、レイフェリオは装備を確認する。未だ起きる気配のない二匹は放置し、部屋を出る。
まっすぐ小屋の外へでれば、既にヤンガスたちが待っていた。
「おはようごぜえます、兄貴」
「遅かったな」
「レイフェリオが寝坊なんて珍しいわね」
「……おはよう」
少々ばつが悪そうにレイフェリオは答えた。そして既に御史台へと座っているトロデへと声を掛ける。
「お待たせしてすみません、王」
「……レイフェリオよ」
「? 何でしょうか?」
「いや……レイフェリオ殿下、その────」
「王……公式の場でならともかく、ここでその呼び方は勘弁していただけると助かります。今まで通りで構いません」
如何せんミーティアの許嫁の身内でもあるため、トロデはレイフェリオへの対応に困ることは、全員がわかっていた。今まで通りの対応をすることは、トロデにももうできないだろうが、せめて名前だけでも変えてもらわないと旅を続けることは困難となる。
「しかしじゃな……」
「王……お願いします。誰かが聞いているわけではありませんから」
「……うーむ、致し方ない。わかったわい」
こうしてようやく一行はサザンビークへと出発することになった。
森の中を魔物と戦いながら進み、ようやく街道へと戻ってきた。
街道からは道に沿って歩いていけばサザンビークへとたどり着ける。そうして暫く歩いていたところで、大きな門が視界に入った。
「あれが?」
「……あぁ、サザンビークだ」
ゼシカが一足先に近くに行き、空を仰ぐようにして門を見上げる。固い城壁に囲まれ、中は見えない。
すると、ゼシカに気が付いたのか門を護っていた兵士が声を掛けてきた。
「ん? 我が国に何用だ?」
「見かけないが、旅人か?」
兵士は二人。ゼシカに見覚えがなかったためか、訝し気に見ている。
「わしと姫はそこの影で待っておるからな……」
「わかりました。行こう、ククール、ヤンガス」
「おうよ」
「わかったぜ」
トロデたちを隠し、レイフェリオたちはゼシカへと近づいた。更に近づく陰に気が付いたのか、兵士がゼシカの背後へと視線を向けると、その表情が驚愕に変わる。
「なっ!!? お、王太子殿下!!?」
「レイフェリオ様!!」
「……任務ご苦労。彼らは俺の友人だ。通させてもらうが構わないな」
「は、はいっ! もちろんでございます!!」
「ご無事で何よりです!! さぁ早く王の元へおいでください!!」
「あぁ……さぁ行こうか」
「え……えぇ……」
兵士のあまりの興奮ぶりに、ゼシカは困惑を隠せていなかった。ヤンガスたちに至っては、言葉すらでないようだ。
開けられた門の中にはいると、賑やかな街並みが広がっていた。
「ふぅ……」
「なんか、凄かったわね……」
「……すまない。たぶん、いろいろと迷惑をかけるから一緒に行動はしない方がいいかもしれない」
「そうなんでがすか?」
「……あの兵士みたいなのがまだいるのか?」
「残念だがおそらく……。城に話をつけておくから、後で来るといい。俺は先に城へ行っているから」
それだけ言うと、レイフェリオは走りだしていった。すぐに道に入ってしまい、その姿を見失ってしまう。
遺されたヤンガスたちはどうすべきか思案する。
「どうするでがすか? 兄貴は行っちまったし」
「そうね……せっかくだし、ちょっと町を歩いてみる?」
「大きな町だからな。ついでにレイフェリオやミーティア姫の許嫁の噂でも聞いてみるか」
「……アンタね」
情報収集は必要だろと言ってはいるが、ククールは面白がっているのがまるわかりだ。
呆れているのはゼシカだけでなく、ヤンガスもだった。