街の外に出て待っていたトロデ王に報告をする。
「なるほど、そういう事情があったのじゃな……え、えらい!!! なんと親孝行な娘じゃ! わしは感動したぞ」
「はぁ……」
目を大きくして絶賛するトロデ王。
あまりの感激ぶりに、ヤンガスは若干引き気味だった。
かくいう、レイフェリオもそこまでの感動は覚えていない。
これは親だからこその感情なのだろう。
「しかもルイネロという者が本来の力を発揮すれば見つからぬものはないそうじゃな。これぞ一石二鳥というわけじゃ。うまくすれば憎きドルマゲスの居所がわかるやもしれんぞ」
「そうですね。では少し準備をしてから洞窟へと向かいましょう」
「わかった。今夜はもう遅い。わしと姫はもうこりごりじゃから街には入らんが、お主らは宿屋に泊まり英気を養うがよいだろう」
「それがよいですね。では、俺たちは街で準備をしてきますので、また明日の朝に」
「うむ」
そうしてその日はヤンガスと宿屋に泊ることにした。
深夜、ベッドで休んでいるとふとどこかで声が聞こえた気がして、レイフェリオは目を覚ました。
「? ……気のせい、か?」
隣のベッドではヤンガスがいびきをかいて寝ている。いびきの声が大きいにも関わらず、レイフェリオを呼ぶ声が耳へと届いていた。
「誰だ……?」
周囲には疑わしき者は誰もいない。レイフェリオの声に応える者もまたいなかった。
暫くの間様子をうかがっていたが、もう聞こえることはなくレイフェリオはベッドに横になるのだった。
あくる朝、日が昇ったと共に目覚めるとヤンガスを起こし、武器屋へと向かう。
「兄貴、武器屋へ何の用でげす?」
「……俺には愛用の剣があるからいいけれど、ヤンガスの装備は整えた方がいいと思う。洞窟では何があるかわからないからね」
「そうでがすね。アッシはこん棒でがすが、他にいいものがあれば変えるでがす」
武器屋はトラペッタの街の二階にあった。広場の近くだ。
武器を見せてもらうと、今のヤンガスに一番合うのが大木槌だった。
「これはどう?」
「木槌でがすか……フンっ! こん棒よりは重いでがすがいい感じでがす」
「じゃあ、それにしよう」
「あいよ。一つ240Gだ」
その金額に、ヤンガスの顔が蒼くなった。ヤンガスの持ち金はあまりないのはわかっているため、苦笑しながらレイフェリオが出す。
「じゃこれで」
「毎度あり!」
「兄貴、恩に着るでがす」
「装備品は命を預けるものだから、下手に遠慮は要らないよ」
魔物との闘いがあると想定すれば、ここで渋るよりもその方がいい。
幸いにして、これまで旅をしてきていたレイフェリオには資金があった。
「兄貴は、今までどんな旅をしてきたんでがすか?」
「? どうしたんだい、いきなり?」
「アッシは盗賊でしたが、そこまで資金を得ることなんてできたことないでがすよ」
「あぁ……まぁ俺の場合はちょっと事情があったから」
「事情、でがすか?」
「そのあたりは、機会があれば話すよ」
今は準備を進めて、トロデ王と合流するのが先だと、レイフェリオはヤンガスを促した。
続いて防具屋でも盗賊の腰みの、皮の盾を購入しヤンガスの装備を整え、街の入り口へと向かった。
「おはようございます、トロデ王」
「おぉ、待ちかねたぞ。それでは水晶を求めて滝の洞窟とやらに行くとしようぞ」
「合点でがす!」
ユリマが教えてくれた滝の洞窟は、トラペッタから南。
街から離れれば、そこは魔物が徘徊している。トロデ王とミーティア姫の馬車はレイフェリオたちの後方を進むこととした。
道中、魔物と遭遇することもあったが、今のレイフェリオの敵ではなかった。
それに今は一人ではなく、ヤンガスもいる。複数で戦闘をするということは連携をすることができるということ。一人一人の負担も軽くなる。
それもあって洞窟までは順調に進むことができた。
一行の目の前には、大きな洞窟の入り口がある。
「ふむ、ここがその洞窟じゃな」
「のようですね」
入り口の奥には光がないようで、その先は見えない。
レイフェリオは持っていた松明に火を付けた。
「兄貴、そんなの持っていたんでかすね」
「洞窟に灯りがあるのは少ないからね」
レイフェリオからしたら当たり前のことなのだが、ヤンガスはなるほど、と仕切り頷いている。
改めてレイフェリオはトロデ王へと振り返った。
「見ての通り洞窟内は灯りがありません。トロデ王は外で待っていてもらえますか? その方が安全でしょうし」
「確かにそうじゃな。わかった、わしらはこの辺で待っておる」
「では」
「気を付けるのじゃぞ」
トロデ王に激励をもらい、レイフェリオとヤンガスは洞窟の中へと足を踏み入れた。
洞窟の中はそれほど狭くはない。
進んでいく中で、壁や道の端にある松明に火をつけながら灯りを確保し、奥へと進んでいった。
「にしても、兄貴は慣れているでがすね」
「?」
「アッシも盗賊家業をやっていたんでがすが、こんなこと知らなかったでがす」
「……まぁ、俺も色々な場所に行っているから」
ヤンガスの会話に言いにくそうに答えた。実際、話せば長い事情がレイフェリオにはある。
話さないのは面倒だから、と言うのもあるが、外にいるトロデ王とミーティア姫のことを考えるとあまり進んで話をしたくないと言うのが本当のところだ。
「兄貴はサザンビーク出身なんでがすよね? どうしてこんな北の方に来てるんでがすか?」
「……どうして、か」
ふと、故郷のことが脳裏に浮かぶ。
だが思い出している余裕はすぐになくなった。
「っ、兄貴!」
「!? あぁ」
ヤンガスは大木槌を、レイフェリオは剣を構える。
目の前に現れたのは紫色の魔物。悪魔のような顔のびっくりサタンだ。
「あいつは変な行動をする。ヤンガス、つられないように気をつけろ!」
「合点でがす!」
数は4体。ヤンガスと一斉に斬りかかった。
素早さはレイフェリオの方が上だ。動きにつられなければ相手ではない。
スパッと、まずは1体を薙ぎ払うと、返しにもう1体を払う。魔王の配下であった魔物は、倒されれば魔力が弾けて消える。稀にアイテムやお金を落とすこともある。
だが、今はそれよりも敵を倒す方が先だった。
その間にも更に1体が背後から襲ってくるのを感じ、レイフェリオは咄嗟に前方へと距離を取った。レイフェリオが居た場所にはびっくりサタンから放たれた衝撃派の跡がのこっている。
横に視線だけをずらすと、ヤンガスが相手を殴り付けている。
であれば、あとは1体。
先ほど襲ってきた最後の1体に、視線を合わせるとレイフェリオは身体を跳躍させ、上から切りつける。
「グワァシャ」
断末魔の叫びを上げながら、消え去るのを見届ける。
「兄貴、無事でがすか?」
「平気さ。ヤンガスも怪我はしてない?」
「アッシは頑丈なのが取り柄でがすから」
どうやらお互い無傷なようだ。
今後も油断は出来ない。この洞窟には、外よりも凶暴な魔物が巣食っている。
気を引き締めながら、レイフェリオは先へと急いだ。
襲い掛かってくる魔物を退治しながら進んでいくと、目の前に人影が映った。
「人、でげすか?」
「あぁ、こんなところに人がいるとは思わなかったけど」
近づくと、影は商人風の男性であることがわかった。だが、その表情は曇っている。
「どうかしたんですか?」
「えっ?」
突然声を掛けられたのに驚いたのか、男は一瞬ビクリと体を震わせた。
「あっ、すみません。びっくりしてしまいまして」
「いえこちらこそ、突然声を掛けてすみません」
「こんなところで何をしてたんでがす?」
「はい。滝を見に来たのですが、たまたまこの洞窟を発見したんですよ。それでこれは何かあると思って中に入ったのですが、いやはや強い魔物が奥の通路を塞いでいるし、道もくねくねして迷いますし、もう散々ですわ」
「奥に魔物?」
「えぇ。貴方たちも奥に行くのならきちんとレベルアップしておかないとひどい目にあいますよ」
男の話によると奥に強い魔物がいて、道をふさいでいるため奥には行けないということらしい。諦めて帰るということだった。
男を見送ると、レイフェリオはヤンガスと目を合わせた。
「レベルアップ、でがすか……アッシはそれほど何かをしていたわけではないでがすから、たかが知れているでがす。兄貴はどうでげす?」
「俺? 俺は……家で叩き込まれたから、それなりだよ」
それほど高くはないと思うが、一般人にしてみればそれなり。ヤンガスよりは上だ。
「すごいでがすね」
「やりたくてやっていたわけじゃないけど、まぁ今は感謝しているかな」
「それでどうするでがす? 特訓でもした方がいいでげすか?」
「……まだ奥に何があるかわからないけど、この辺りの魔物の強さを見る限り、俺の方で何とかできるからこのまま進んでみよう」
「どういうことでがす?」
「一般に、同じフィールド内にいる魔物の強さはかけ離れていることはない。もし主という存在がいたとしても、かけ離れて強い、というわけではないんだ。安全マージンを取っていれば大丈夫」
「安全、まーじん、でがすか?」
「まぁ、苦戦せずに倒せる範囲ってことで考えてもらえばいいよ」
「なるほどでがす! それならまだ大丈夫でがすね」
「俺もまだ知らないことがあるから、油断は禁物だ」
一応釘をさしておくが、この洞窟内の魔物にさほど苦戦を強いられることは考えていなかった。
敗北を招く最大の要因は、おごりや油断である。最悪、逃走をすればいいのだから。
先へ進むと、先ほどの商人の男が言っていた魔物が見えた。
確かに道をふさいでいる。
レイフェリオたちが近づいてみると、魔物は襲ってくることはなかった。
こちらを見ると一瞬怯んだ目をしたが、構わず話しかける。
「……何をしている?」
「ほほう! この俺様に話しかけるとはちょっとは度胸があるようだな。先ほどの人間は俺様の姿を見るなり、話しかけもせずに引き返していったぞ」
「あぁその男なら会った。で、お前は何をしている?」
「ここを通りたいのなら、俺様を倒していくことだ」
会話が通じるほどの知性を持っている魔物は、現在は多くない。
だが、そうした魔物が人間を相手にこういった勝負を仕掛けてくるのは多かった。はぁとため息を吐くと、レイフェリオは剣に手をかける。
「倒せば、いいのか?」
「えっ? ……そ、そうだな。うん……お前は度胸がありそうだな。ということは自信もあるのだな……」
様子が打って変わってぶつぶつとつぶやき始めた魔物。
見かけ倒しなのだろうな、と結論づけてレイフェルトは魔物を待つことにした。
「……よ、よし! その度胸に免じてここを通してやる」
「弱いだけじゃないでがすか……」
「……そこは黙っておいて」
上から目線ではあるが、明らかに戦闘を避けた様子だった。
魔物のプライドというやつだろうか。
戦闘を避けられるならそれにこしたことはないため、譲ってくれた道をレイフェリオたちは進んでいった。
奥へと進んでいくと、開けた道へと出た。周りが湖になっており、その上に道が作られているようだ。
「こんなものが自然にできるなんてな……」
「不思議でがすね……あっ! 兄貴、あそこに何か浮いてるでがす!」
ヤンガスが示した場所は、滝壺。駆け寄って近くに行き、よくみるとそこに水晶玉が浮いていた。
「……浮いてる?」
「妙でがすよ。普通、水晶玉は浮かないでがす」
「それはそうだけど」
「とにかくこれが嬢ちゃんが言っていたものでがすよね? 持っていくでがすよ」
とヤンガスがその水晶玉に触れようとしたときだった。
「どうリャー!!」
「がっ!? な、なんでがす!!?」
滝の下から声を上げながら現れたのは、鱗を持ち額に大きく傷がある魔物だった。
「ほぉっほぉっほぉっ、驚いたじゃろ! わしはこの滝の主、ザバンじゃ」
「ザバン?」
「待っておった。長い間……お前で何人になるかのー」
「兄貴……何を言ってるんでがすかね?」
「さぁ、ね」
話が見えていないこちらにとっては、ザバンの様子は異様に映る。しかしザバンはレイフェリオたちの様子も知らずに話続けた。
「今度こそ、今度こそと思いながらかれこれ数十年……長い歳月であったな。さて前置きはこれくらいにしておこう。正直に答えるのだぞ」
「はぁ」
「お前がこの水晶の持ち主か?」
「……だったらどうするんでがすか?」
「おぉおお、ついにやってきよったか。このうつけものの人間めが!! いやというほど懲らしめてやるわ!」
ザバンは雄叫びを上げると、襲い掛かってきた。
「ヤンガスっ!」
「任せるでがすっ」
先手必勝と、ヤンガスが一撃を加えようとザバンへととびかかった。
「ぬぉおお!」
「ぐわっ!?」
「ヤンガス!?」
だが、ヤンガスの攻撃はザバンの固い皮膚に防がれ、ダメージを与えることができない。
弾かれた攻撃の後で、ザバンの容赦のない打撃を受けたヤンガスを、レイフェリオが受け止めた。
「すまねぇでがす」
「いや構わない。それより、俺が前に出るからその間にヤンガスは力をためるんだ」
「ためる、でがすか?」
「あぁ。力をためて攻撃すれば固い皮膚でもダメージを与えられるはず」
「兄貴はどうするんでがす?」
「……大丈夫、ヤンガスに攻撃は当てさせない」
それだけ言うと、剣を握りしめレイフェリオはザバンへと向かう。
ザバンを見据えながら、剣へと魔力を溜め、そのまま切りつける。
「火炎斬りっ!」
「ぐっ」
レイフェリオの魔力で焔を纏った剣が、ザバンの固い皮膚の上からでもダメージを与える。
まずは一撃、そして手を休めることなく追撃を掛けた。
注意をこちらにひきつけること。それが今のレイフェリオの役割だ。
「お、おのれぇ!」
「兄貴! どいてくだせぇ!」
ヤンガスが突進してくる気配がした。すかさずその場を開けると、力を溜めたヤンガスの一撃がザバンの脳天へと直撃する。
「ぐがぁぁ!」
「やったでがす!」
「下がれっ。まだだ!」
喜ぶヤンガスに、レイフェリオの指示が飛ぶ。
「おのれ、おのれぇ!!」
「なんでがすか!?」
「これはっ!!」
ザバンが両手を振り上げると、そこから禍々しい霧が発生し、こちらへと向かってきた。
反射的にレイフェリオは左腕で自身を庇う仕草をする。だが、その手前で霧が霧散していった。
「何っ!!?」
一方、ヤンガスは霧に囲まれ動けなくなっている。
呪いの霧。
一時的に行動を麻痺させるものだ。
ヤンガスは動けない。そして、霧が無効化されたことによりザバンは動揺していた。
「いまだっ! はぁっ!」
「がっ、しまっ!!」
その隙にレイフェリオの剣先がザバンへと向かう。完全に隙を見せていたザバンが防ごうとする前に、その頭へと剣が届く。
するとザバンは頭を抱え、距離を取ると降参の意を示した。
「参った! 参った……いたたたた……頭が、古傷が痛むわい」
「……」
「それもこれもお前のせいじゃ」
「……先にけしかけたのはそっちだ」
「そうじゃないわ! そもそもお前がこんなものを投げつけるのが悪いっ」
「……俺じゃない」
「なっ、なんじゃと! ……本当の持ち主じゃないというのか!? いや、確かに。わしの偉大なる攻撃を受けつけぬその体質。ただの占い師であるわけがなかろう」
興奮気味だったザバンだが、状況を悟りつつあるのか探るようにレイフェリオを見る。
「そういえば水の流れに沿って噂を耳にしたぞ」
「!?」
「トロデーンという城が呪いのうちに一瞬にしてイバラに包まれたと。ただ一人の生き残りを残してな。そして、その一人は御者を乗せた馬車を連れて旅に出たという」
「あ、兄貴っ? それって……」
ザバンの言葉に、レイフェリオは目をつぶった。
あの時、あの場所にトロデーンにいたのはただの偶然だ。
旅の道中で訪れた縁のある城。ほんの興味本位で訪れたのだが、まさかあのような事件に遭遇するとは思わなかった。
そろそろ城を後にしようと思った時、突如城からイバラが現れ、全てを飲み込んでいったのだ。
レイフェリオにはそれを見ていることしかできなかった。昔から呪いの類を受け付けなかったためか、呪いにかかることはなかったが、それでもあの光景はいまでも忘れられない。
「……あぁ、俺のことだよ」
「そうか……やはりお主のことだったか。まぁよい。そのお主が何故この水晶を求めるのかはわからぬが、お主にくれてやろう」
「やったでがす!」
水晶をザバンから受け取ると、レイフェリオは袋に入れた。
「それと、もし本当の持ち主に会うことがあれば伝えてくれ」
「?」
「むやみやたらと滝つぼにものを投げ捨てるでないっ! とな」
「……伝えておく」
「ではな」
ザバンはそれだけ言い残すと、再び滝つぼの中へと戻って行った。
本当の持ち主、ルイネロのことだろう。
彼は失くしたのではなく、自ら捨てに来たようだ。その理由はわからないが。
「とりあえず、水晶も手に入ったことでがすし、街に戻るでがす」
「そうだな」
そうして、レイフェリオたちは帰路へ着いた。
主人公の口調がちょっと迷子ですね・・・