王家の山に入ってから、アルゴリザード討伐までになります。
山の入り口に着き、馬車を止めると荷台からチャゴスがおりてきた。
「よっと、何だ? 着いたのか?」
「お邪魔してますよ、チャゴス王子」
シェルトが声をかけると、ギョッとしてチャゴスは後ずさる。
「なっ、何でお前がいるんだ!? 兵は来ないって!?」
「今の俺は一介の旅人ってことでお願いしますよ。勿論、王子が護衛を伴って儀式を行ったなんて、畏れ多くて言えませんから」
「ぐっ……」
思わず拳を握りしめるチャゴスと、何でもない風に装っているシェルト。二人はどういう関係なのかわからないが、少なくともお互いがお互いを良くは思ってないようだ。
そこへ、一人の男が近づいてくる。形からして、ここの管理人のようだ。
「あんれ? そこにおられるのはチャゴス王子でねぇべか? それに、騎士の兄さんも一緒だぺ」
「どうも、ゲドさん」
「ふんっ」
「ってことは、儀式だべか? だけども、儀式は王子様一人で行かれるはずだべ? なんで騎士の兄さんやら他の人も一緒なんだべか」
「こ、この者たちはここまでの単なる付き添いだ。帰りも頼むので、山に入って待っていてもらうのだ」
チャゴスは指摘されて、冷や汗が出ていた。それでも、それらしい言い訳が出てきたことは褒めるべきだろうか。
「ちなみに俺は、山の様子を視るために来たんでな。護衛じゃない。ということで、奥に入らせてもらうよゲドさん」
「そうですかい。では、気を付けていって……ん? 王子様、そんな人間臭いとアルゴリザードが逃げちまうだ! 早く匂いを消さねぇと」
「わかっている。おいっ、お前」
チャゴスが呼んだのはククールだ。肩をすくめ、ククールはトカゲのエキスが入った袋を見せた。
「はいよ、これだろ」
「そうだ。さっさと振り撒け」
「へいへい」
面倒くさそうにククールが、全員にエキスを振りかけた。
エキスが全身にかかり、トカゲ臭くなる。
「なにこれっ」
「だな……流石はトカゲの匂いだ」
ゼシカとククールが嫌そうにしている中、ヤンガスだけは動じていなかった。
「そんなに言うほどの臭いじゃないぜ?」
「……臭いに鈍感なんだな、とんがり頭」
「うるせぇ。そういうアンタも平気そうじゃねぇか」
「慣れてるんだよ」
騎士という幹部になれば、たまに視察として山を見に来る時があるようだ。レイフェリオが城にいた頃は共に来たこともあるとのことだった。
「おい、お前たちさっさと行くぞ。こんな面倒なことはすぐに片付けて帰りたいんだ」
「……それはこっちの台詞だぜ。ったく」
頭を掻きながら、ククールは前を行くチャゴスを追う。ゼシカ、ヤンガス、そしてシェルトもそれに続き山へと入っていった。
山へ入るとそのすぐ近くに一匹のドラゴンが見える。
「おっ、あれがアルゴリザードだ」
目的のアルゴリザードを見つけ、チャゴスが駆け寄る。
だが、その姿を見たためか、アルゴリザードは一目散に逃げていった。どうやら図体の割に臆病な性格のようだ。
「後ろから近づいたほうがいいだろうな。攻撃を一度でも加えれば、臨戦態勢に入るらしい。まずは一撃を与えることを優先すべきだろう」
「なるほどね。なら先制はククールに任せるわよ」
呪文では詠唱に溜めが必要だ。ならば、普段から弓を使っているククールが仕掛けるのが一番だろう。ククールも納得し、先頭に立って逃げたアルゴリザードを追った。
さほど遠くに逃げていたわけではなく、すぐにアルゴリザードは見つかり、チャゴスを除き全員が戦闘態勢に入ったのを見て、ククールは弓を引く。
「シギャアァ!」
「いまだ、ヤンガス!」
「合点!」
ククールの弓がアルゴリザードへと突き刺さったのを見て、ヤンガスが脳天目がけて斧を振り下ろす。
「避けなさい! メラミ」
「ギャシャァ」
炎の塊を受け、アルゴリザードは勢いに押された。だが、その目は激情している。大きく口を開けると、近くにいたヤンガスへと嚙みついた。
「グァァァシャア」
「っ、痛っ! この野郎!」
「シギャ!」
反撃をすべく振り払ったヤンガスの攻撃は、アルゴリザードに躱されてしまう。図体はでかいが、身のこなしもそこそこのようだ。
「ヤンガス、バイキルト!」
「すまねぇ」
ヤンガスの身体が赤い光に包まれる。その間に、ククールが呪文でアルゴリザードを引き付けていた。だが、それを大きな口から吐く息で吹き飛ばすと、ククールを尖った爪を開いた手で切り裂いた。
「くっ……あぶねぇ」
動作が大きかったためか、予測できたため致命傷には至らない。ククールへと体を向けているため、ヤンガスは後ろから斬りかかった。
「おらっ!!」
「ギャシャ……グルルルゥ」
完全に不意を突かれた形になり、アルゴリザードはますます激情する。ゼシカが氷の刃を目のあたりに放ち、一瞬だけ視界をくらますと、その隙にヤンガスは力をため込んだ。そして再び斬りかかる。
「蒼天魔斬っ!」
「火炎斬りっ!」
いつの間に持ち替えていたのか、ククールが剣を持ちヤンガスに続くように攻撃を仕掛けていた。二人が離れると、ゼシカが再び呪文を放つ。
「はぁぁぁ、くらいなさいっ! メラゾーマっ!」
「グァァァシャア……」
メラミよりもはるかに大きい炎がアルゴリザードを包む。断末魔の叫び声をあげながら、アルゴリザードは力尽き倒れ込んだ。ゼシカも魔力を全力で放ったためか、肩で息をしている。指先が少し炎症を起こしているのは、無理に高レベルな呪文を放ったせいだろう。
アルゴリザードはやがて魔力が霧散し、その姿が消えると後には赤い宝石のような石が残されていた。
シェルトの影に隠れて、一切戦闘に参加していなかったチャゴスがそれを拾う。
「これがアルゴンハートか。随分小さいんだな。アルゴリザードも気色悪いが、言うほど強くはなかったし」
「てめぇは戦ってねぇ……」
「ほんと、呆れたものね」
ヤンガスとゼシカが突っ込むもチャゴスは聞いてはいない。しかも、大きいアルゴンハートが入るまで倒すという始末だ。
二人は深く息を吐くしかなかった。
一方、シェルトはククールの元へと近づく。
「少し危なかった気はするが、あの程度のアルゴリザードなら大丈夫そうだな」
「そいつはどうも」
「……うちの王子様は迷惑なことを考えているようだから、まだ終わりじゃないがな」
「あのアホは参加してないんだぜ? これで儀式になるのか?」
「……それを判断するのは、俺らじゃない。陛下だ」
「そうかよ……」
護衛をつけた時点で、既に本来の儀式とは違っている。それでもここへ向かわせたのは、王なりの考えがあるのだろうが、この状況ではチャゴスに何かを求めるのは間違っているようになってくる。
「チャゴス王子が逃げていないだけマシなんだぜ? できれば一太刀くらいは入れてもらいたいが……」
「一太刀、ね……同じ王子でもこうも違うと、本当に血が繋がっているのか疑いたくなるんだがな」
「殿下は特別、ってことにしておいてくれ。最も殿下の父上もそれなりだったらしいけどな」
「レイフェリオの父親?」
「今の陛下の兄上さ。こういっちゃなんだけど、殿下もチャゴス王子も父親似なんだよ。陛下も戦闘センスはあまりなかったっておっしゃっていた。その代り、政治手腕はあったらしいから賢王として敬愛されているが、その息子は全然その片鱗が見えないがね」
「……自国の王子に対して、結構な物言いだな」
「城では言わないさ」
何でもないように言ってのけるシェルト。口が軽いのか、それとも他に理由があるのか。
レイフェリオに対しては敬意を払っているようにも見えるが、チャゴスに対してはそれが見られない。どうであろうとククールには関係ないのだが、面倒な連中と知り合いになったものだと思わず頭を抱えてしまった。
それ以降、何度かアルゴリザードと対戦するもチャゴスが満足のいくようなアルゴンハートには出会えず、夕暮れになってしまった。
「これもだめだ……大きなアルゴンハートを持ち帰りさえすれば、城の者も父上もきっと僕を見直すはずだ。レイフェリオよりも大きいアルゴンハートを持ち帰ればきっとあいつだって……」
小さなアルゴンハートを手にしながら、チャゴスはぶつくさと言っている。
言葉の節々を聞き取るに、倒しているのはヤンガスら三人なのだが、それを己の強さと勘違いしているようだった。そもそも戦ってさえいないのだ。どういった思考をすればそのような考えに至るのか、もはや誰も訂正すらしない。
「本当におめでたい性格ね。この困ったちゃんの王子様とお別れできる日が待ち遠しいわ」
「同感だ」
「……兄貴と合流したいでがす……」
「しかし今日はもう疲れたな。おい、御者。今日の狩りはもうおしまいにするから、どこか開けた場所に案内しろ。疲れたからもう休みにするぞ」
「……わかりました」
皆の言葉には気が付かず、マイペースに指示をだすチャゴスに、トロデもしぶしぶ従う。この態度が気に入らないという風に感じてはいるだろうが、言えるはずもない。
疲れたからといい、荷台にチャゴスを乗せると一行は山頂の開けた場所で一休みすることにした。
次回は主人公も登場する予定です。