翌朝、ヤンガスは馬の鳴き声で目を覚ました。見れば、チャゴスがミーティアに乗っている。
「な、何やってるんだ!? あの王子はっ!」
慌てて駆けていく。その間にもチャゴスはミーティアから降りようとはしない。そればかりか、歩けと急かしているようだ。トロデも慌てているようだが、何も言えないでいる。
「おいっ、早く歩けっ! ご主人様を乗せて前に進むんだよ。そらハイヨー!」
「ヒンッ!」
ミーティアは姫だ。そんなことできるわけがない。普通の青年よりも重いだろうチャゴスを乗せるなど無理に決まっている。否、普通の馬でもあのように扱われれば乗せはしないだろう。
「いい加減にしないかっ! 暴れないで言うことを聞けよっ!」
「お、お止めください王子。ミ……あっいや馬が嫌がっております。わしの馬は人を乗せることに慣れておらんのです」
「ほらほら、言うことを聞けよっ! 前に進むんだ! 早く!」
「っ、ええい! やめんかこらっ! 今すぐわしの馬から降りろ! このすかぽんたんが!」
「うるさいっ黙ってみておれ! くそっ、ムチをいれてやらんと分からないみたいだな」
「ヒヒンっヒン!」
ミーティアは力一杯体を使い、チャゴスを振り落とそうと必死だ。
「こ、こら! 暴れるな! 落ちる!? 落ちるだろっうわっ!」
最後のだめ押しとばかりに、おもいっきり体を弾ませ力の限りにチャゴスを振り払う。
勢いのままにチャゴスは地面へと落下した。
「ぐふっ」
「てめぇ、何してんだよ」
「……本当に、何やってんですか、チャゴス王子」
ヤンガスが睨みをきかせていると、その後ろからシェルトが現れた。
「シ、シェルト!?」
「何をやっていたんですか?」
「うるさいっ! あの馬の躾がなっていないからだ! 僕だって馬くらい乗れる!」
「……そういうことを言っているんじゃありません。馬は嫌がってました。無理に乗れば落とされることくらいわかるでしょうに」
「ぐっ……主人の言うことを聞くのは当然だ! 僕は王子だぞ!」
「馬の主人は王子じゃないでしょうに。強いて言うなら殿下でしょうよ」
「なっ……」
「それに馬に乗ったこともほとんどないのに、直ぐに慣れていない馬に乗れるわけないですよ」
「……いつもいつも、殿下殿下、ならレイフェリオの側にいれば良いじゃないか!? 僕はお前なんかいなくたって──―」
「一太刀もアルゴリザードに当てることも出来ない王子が? 一人で倒せるとでも?」
シェルトの言い方は既に仕えるもののそれではなかった。レイフェリオと話しているときも似たように話をしていたが、言い聞かせるような話し方だ。最もチャゴスには反抗心しか感じられないのだが。
「うるさいうるさいっ! だから持ち帰ってやるんだ! あいつよりも大きいアルゴンハートを! 持って帰ればあいつだって見直すはずだ!」
「王子」
「いつだって済まし顔で何でも出来るって顔をして、ろくに表情も変えやしないあいつを驚かせてやるんだ! あの表情をかえてやるんだよ」
「要するに、殿下に認めてほしいんですね」
シェルトに指摘され、チャゴスは顔を真っ赤に染めた。
「ち、違うっ! 僕はっ」
「はいはい、わかりましたから、さっさと行きましょうよ」
「おいっ人の話を聞けっ」
「随分と聞きました。馬にも乗れないチャゴス王子」
「何だと!!」
まだまたやり取りは終わらないのか、集まってきたゼシカ、ククールと共にヤンガスも黙って成り行きを見守っているだけだ。
トロデはミーティアの側にいき、なだめていた。チャゴスを引っ張り、シェルトが頭を下げているのがここから見える。
「シェルトって何者なのかしらね」
「レイフェリオの幼馴染で護衛だろ?」
「にしても何だか軽くあしらってるし、すごく慣れているようにみえるんだけど……」
「さぁね、食えない奴だとは思うけどな」
「……アンタには言われたくないでしょうね」
ククールは肩をすくめる。その時だった。
「グルルルゥ」
大きな声が響いた。恐らくこの声はアルゴリザード。それも声の大きさと太さからして、今までのアルゴリザードよりも大きい可能性が高い。
三人が顔を見合わせていると、チャゴスが駆け寄ってきた。
「おいっ、今の鳴き声を確かめに行くぞ!」
大物かもしれないという期待がそうさせるのか、チャゴスは先程までの感情を切り替えてアルゴリザードの声の方へと走っていった。
その後ろにはため息を吐いたあきれ顔のシェルトの姿。
「世話のやける王子だ……」
「シェルト?」
「気を付けろ。ヤバい奴かもしれない」
「……わかったよ」
シェルトとククール、二人は並んでチャゴスの後を追った。ゼシカとヤンガスも後に続くがトロデたちは山頂にとどまる。戦闘が始まるのならその方が良いと判断したのだろう。
声が聞こえたのは、崖下だ。
上から見下ろせば、図体の大きなアルゴリザードが見える。
「あそこまで大きいのは滅多にないな」
「そうなの?」
「あぁ、まずいかもしれないな」
「……アホとは言え怪我をさせるわけにはいかねぇか。お前も手、貸せよ」
「わかっているさ」
ククールが弓、シェルトは剣、ヤンガスは斧を構える。ゼシカは、直ぐに呪文を唱えられるように魔力を高め始めた。 三人で戦っていた相手より格上だということは、遠目からでも理解できる。故に、シェルトの力を借りたほうがいいとククールは判断した。
既にチャゴスが近くへと進んでいるが、アルゴリザードはまだのんびりと顔を洗っている。
ゆっくりと四人も近づく。アルゴリザードがこちらに気が付く前に、ククールが弓を引いた。
「シギャアァ!」
「うわっ!」
ククールよりも前にいたチャゴスは驚き、転ぶ。その前にシェルトが立ちはだかった。
「せめて一太刀くらい当ててくださいよ」
「わ、わかっている! いちいちうるさいっ」
「全く……」
弓を当てたことでアルゴリザードはククールを標的に選んだようだ。チャゴスの側を通りすぎるが、見向きもしない。
「王子」
「い、行けばいいんだろ……くっそ……えいっ!」
キン。
アルゴリザードはドラゴン種族でもあり、皮膚は硬い。短剣を持ち、斬りかかったが逆にチャゴスの腕が硬さに跳ね返されてしまった。
「うわっ」
尻餅をつき、思わずチャゴスは腰をさする。一方の攻撃されたアルゴリザードは、チャゴスに構うことなくククールの方へと向かっていった。掠りもしない攻撃に、気が付いていないのだろう。
ゼシカは向かってくるアルゴリザードに対し、まずはヤンガスとククールにバイキルトを掛ける。物理攻撃が苦手なゼシカは一端距離を取った。
「……来るぜ」
「わかってるさ」
ヤンガス、ククール双方ともに力を溜める。ククールは既に剣へと武器を持ち替えていた。弓よりもダメージを与えることができるからだ。
チャゴスが転び、シェルトも剣を構えたのが見えたと同時にククールがとびかかった。
「くらいな、火炎斬り!」
「兜割りだっ!!」
脳天目がけて二人が斬りかかる。流石に硬いが、傷つけられないほどではない。額に一撃を食らわせると、アルゴリザードは尻尾を向け、地面に降り立とうとした二人を払った。
「ぐっ」
「がはっ」
「ククール、ヤンガス!」
太い尻尾が二人を捉える。そのまま後方に立っていた木へとたたきつけられた。腹部に直撃したのか、ククールは腹を押さえながら、瞬時に回復呪文を唱えていた。
だがヤンガスは息を整え、すぐに立ち上がる。打たれ強いヤンガスだからこそ耐えられたようなものだ。それでも口から血が出ていることから、かなりのダメージを受けていることに変わりはない。
ゼシカに回復呪文は唱えられない。シェルトも呪文は唱えられない。このパーティでは、ククールが回復を担う必要があった。
「おい、お前は下がれ」
「……シェルト」
「回復役が倒れれば、一気に勝機を失うだろ。俺ととんがり頭が前に出る」
「……わかった。援護に集中するぜ」
「頼んだ」
倒れたククールの側にはいつの間にかシェルトがいた。腕を支えククールを立たせると、シェルトはアルゴリザードへと駆け出していった。
チャゴスはどうしたのか辺りを見回せば、木の陰で様子を見ているようだ。身体が震えているのがここからでもわかる。
「本当、こんなんで儀式を終わらせていいのかよ。この国は……」
こんな形で終わらせても何にもならない、ククールはそう思っていた。この依頼はあくまで自分たちの課題をクリアするためにもの。しかし、あんな様子を見せられて、一人で行ったと信じている民を騙す形になっても胸を張ることができるわけがない。普通ならば。
「っと、今は集中だったな……」
思考を一旦やめ、ククールは回復呪文の詠唱準備に入る。前衛が負傷すれば、その度に傷を癒すのが僧侶の役割。
まずは負傷しているヤンガスの側へ行き、タイミングを見計らって回復をしなければならない。
ヤンガスが再びアルゴリザードに吹き飛ばされたのをみて、ククールは駆け寄り回復呪文を掛けた。
「……ベホイミ」
「助かったぜ」
「援護する。さっさと行けよ」
「合点!」
ヤンガスを見送り、顔を挙げるとゼシカと目が合う。ゼシカは崖の上に登っていた。そこから呪文を唱えるようだ。呪文は恐らく炎系だろう。
「……俺には風系しか攻撃手段ないんだけどな、ったく」
呼応するようにククールも魔力を溜め始める。準備ができたところで、ゼシカを見ると彼女が頷くのが見えた。
「メラミっ!」
「行くぜ、バギマ!」
ゼシカの炎がアルゴリザードへと放たれ炎に包まれたのを見計らって、すさまじい風の刃が皮膚を切り裂いていく。同時に放ってもお互いの呪文の効果が相殺されかねなかったため、ククールは遅れて呪文を放ったのだ。
切り裂かれた皮膚を狙ってシェルトが剣を突き立てる。剣を抜くと血しぶきが舞った。
痛みにアルゴリザードが暴れ爪を立てて、シェルトへと襲い掛かる。キンっと、爪を剣で受け止めるが、力が強いのか押し返すことができていない。
「ちっ」
「いまだぜ!! はぁっ!」
アルゴリザードの動きが止まっている間に、ヤンガスが追い打ちをかけた。だが、まだ尻尾が自由になっている。
ククールも弓に持ち替え、尻尾が動く前に射抜く。傷が既についている箇所を狙ったためか、矢が刺さった。
「グワァァァシャァ」
「うぉっ」
尻尾は急所の一つだったのか、なりふり構わず尻尾を振り暴れ始めた。
「いまだ! 力を溜めろっ!」
「おうよっ!」
「わかったわ」
ククールの声に全員が力を溜め始めた。アルゴリザードからの攻撃はない。可能な限り力をため、一撃に備える。
「行くわよ! メラミ」
まずは、ゼシカが呪文を放つ。
それを皮切りに、ククール、シェルトと続いた。最後は、ヤンガスだ。
「おらぁぁ!!」
「グシャァァァ……」
会心の一撃と言っていいだろう。力尽き、アルゴリザードは倒れた。大きく光に包まれ霧散していった跡には、大きなアルゴンハートが残されていた。
「これだ!!」
さっきまで隠れていたチャゴスがちゃっかりでてきて、アルゴンハートを手に取る。他のメンバーは傷だらけで、疲れ果てたのか座り込んでしまっているため、もはや突っ込むこともできない。
「僕が求めていたのはまさにこれだ! この大きさならきっと父上や家臣たちも僕を見直すだろう。皆の驚く顔が目に浮かぶようだ。これでアイツも僕を……」
ぶつぶつと言っているチャゴスをとりあえずは放置し、傷を癒すとトロデたちと合流した。
お礼の一つもないチャゴスに呆れてはいるが、これで解放されることを思えばどうでもいいと思える。城に戻れば解散するのだから、早く戻りたいという気持ちの方が大きかった。
そうしてルーラでサザンビークへと戻り、一行は城下町へと入った。城を出た時とは違い、華やかな音楽が流れ、旗飾りが空を彩っている。どうやらバザーが開催されているようだ。
「ようやく戻ってこられたな。それに、もうバザーが始まっていたとはな。よし、城へ戻るのはバザーを見学してからだ。ここからは別行動にする」
言うなりチャゴスはさっさとバザーの中へと入っていってしまった。
「全く……俺は殿下のところに行ってくる。まぁちょこっと見て回るくらいならいいと思うぜ、じゃあな」
「おいっ! まったく……アッシだって兄貴のところに戻りたいでがすのに」
「兵士の一人だからな。一緒にいると色々まずいだろうさ」
通りすがりという設定とはいえ、城まで一緒に戻るのは流石にまずいだろう。シェルトが先に戻ることには納得したが、チャゴスが戻らないのは違うはずだが、一緒に戻る必要もないのだ。護衛はあくまで秘密で、表向き一人で行ったことになっているのだから。
とりあえず、城に戻りがてらバザーを見て回ることにした一行は、宿屋の横にある階段の上で怪しげな男と話をしているチャゴスを見かけた。
「あれって、チャゴス王子じゃない?」
「だな」
一行がチャゴスへと近づくと、その手にアルゴンハートがあった。目の前にいた男は怪しげな服装をしている。どう見ても盗難品だろう。
「おい、チャゴス王子それは──―」
「どうだ、すごいだろう? これほど大きなアルゴンハートがあるなんて。それにこれは本物だ」
「……買い取ったのね」
「そうだ。これなら皆驚くに違いないからな」
それは驚くだろう。だが、事実それはチャゴスがとったものではない。ただでさえ護衛という形で援護をしてもらい、アルゴリザードも倒していないというのに、更にアルゴンハートまでも不正をしようというのか。
本人の態度から悪気はないのだろうが、もはやこちらからいう気にもならなかった。
喜々として城へと戻るチャゴスを、冷めた目でみるしかなかったのだ。
同じくその様子を城から見ていたクラビウスがいたことなど、チャゴスには知る由もなかった。
重い足取りで城へと向かうと、そこには見慣れた姿があった。相変わらず服装は王族の恰好だが、今までチャゴスの相手をしていたヤンガスたちにとっては懐かしい顔だ。
「お疲れ様、皆」
「レ、レイフェリオ!」
「兄貴~!!」
こうしてようやくパーティが合流できたのだった。
戦闘描写というより、ほぼククールでした。
チャゴスはやっぱり嫌な奴でした。原作を再びやり直してましたが、本当に嫌いですね。
そして、最後に少しだけですが久々主人公です。やっと戻ってきた感があります。
寄り道長くなっていますが、まだ続きますのでどうぞお付き合い下さい。