ここからまたオリジナルルートになります。主人公が戻って来ました‼
レイフェリオと合流した一行だったが、チャゴスが先に戻っているということで共に謁見の間まで行くこととなった。
「大変だったようだな」
「本当にな……」
「困ったちゃんで仕方なかったわ」
「おっさんもよく堪えていたでがすよ」
「トロデ王が……それは、申し訳なかったな」
積もる話は色々とあるが、ここは城内で兵士やそれ以外にも沢山の人たちがいた。レイフェリオを見るなり、頭を下げていくので、サザンビークの国民なのだろう。流石に一人一人の顔は覚えていないのでレイフェリオにもわからない。だがそんな人がいるところで、儀式の話をするわけにもいかなかった。
当たり障りのない会話をしているとすぐに目的の場所へと到着してしまう。
扉の前にいた兵士がレイフェリオに気がつく。
「レイフェリオ様」
「彼らも関係者だ。中に入れてくれ」
「はい、わかりました。どうぞ、お入りください」
兵士が扉を開けると、既にチャゴスが中に降り、貴族らしい人たちが勢ぞろいしていた。
「皆はここにいるといい。俺は前に行かないといけないから」
「わかったでがすよ」
「行ってこい」
「ごめん」
レイフェリオは王座の近くへと歩く。どうやら、レイフェリオ待ちだったようだ。指定の位置へとつくと、大臣が話を始める。
「ごほん、皆さま揃ったようですな。それではチャゴス王子、我らに王子が持ち帰ったアルゴンハートをお見せください」
チャゴス王子の前には台が置かれていた。それがアルゴンハートだ。かぶせてあった白い布を取ると、そこには手のひらよりも大きいアルゴンハートがあった。
「おぉ! 何と大きい」
「これほどの物は見たことがないわ」
「歴代の王が持ち帰った物の中で一番大きいんじゃないかしら」
「あれだけの大きさだ。かなり巨大なリザードが相手だったに違いない」
口々に感嘆の声が漏れる。
レイフェリオもあれだけ大きなアルゴンハートは見たことがなかった。とはいえ、チャゴスが一人であれを手にいられることができないことは知っている。
今の状況で、それほど巨大なアルゴリザードを仕留めることができるのか。レイフェリオはそちらの方が気になり、チャゴスを見ていなかった。
反対にチャゴスはじっとレイフェリオを見ている。レイフェリオの近くにいたシェルトはため息を吐き、ナンシーも呆れたようにレイフェリオを見ていたが、当の本人は気が付いていなかった。
「ちっ……」
表情の変わらないレイフェリオに不満だったのだろう。チャゴスは思わず舌打ちをする。
「ささ、チャゴス王子。貴方の勇気とちからの証であるアルゴンハートをクラビウス王にお納めください」
「いや、よい」
「? 叔父上?」
形式通りに話す大臣の言葉を遮ったクラビウスに、レイフェリオも思考から浮上する。
クラビウスの表情は硬く、チャゴスの帰還を喜んでいるようには見えなかった。
ゆっくりとチャゴスへと近づくと、威圧感そのままにチャゴスを見下ろす。
「チャゴスよ。これはお前が倒したリザードから得た物であると神にちかえるだろうな?」
「っ……」
一瞬、チャゴスが怯む。
レイフェリオもクラビウスが何を意図しているのかが理解できていなかった。護衛を頼んだ時点でその質問は否だ。戦闘力がさほどないチャゴスには、触れるのが限界だろう。倒したのは、間違いなくヤンガスたちなのだから。
だが、ここで護衛をつけたなどと話をすれば、一人で送り出した意味がなくなってしまう。クラビウスはどういった答えを求めてチャゴスに問いかけているだろうか。
「チャゴス……仮に協力者がいたとしてもお前が戦ってこれを手に入れたのなら、わしはお前の力を認めるだろう。だが……それ以外の方法でこれを手に入れたのならわしは、お前を認めん。今一度問う。戦って得たのだな?」
「ぼ、僕は……」
誰よりも認めてほしいだろうクラビウスが相手だ。協力者がいたとしても、その場におり戦ったというのであれば、チャゴスを認めるとクラビウスは言う。しかし、それ以外の方法とは……。
「まさかっ……」
今はバザーが開かれている。その中には盗品を扱う商人も紛れていることがある。可能性は低いが、アルゴンハートを売っている商人がいるとすれば。
そこまで考えて、レイフェリオはククールを見た。
軽くうなずいた彼を見て、レイフェリオは頭を抱えるしかなかった。
公衆の面前で、しかも大臣などの貴族の前だ。文官や騎士たちもいる。この場で、あれが盗品だといえる勇気がチャゴスにあるだろうか。
ここで嘘を認めれば、城の者からは認められない。嘘をつきとおせば、城の者はチャゴスを称賛するだろう。しかし、クラビウスは別なはずだ。
あそこまでチャゴスに詰め寄るということは、何か確信があるからに違いない。
チャゴスがどうこたえるか。レイフェリオは黙って見守るしかなかった。
「ぼ、僕は……た、戦いました。これは僕がアルゴリザードと戦って得た物です」
「……そうか」
クラビウスの肩ががくりと下がった。意図した答えを聞くことが出来なかったからだろう。
「……大儀であった。お前の力の証、しかと受け取ったぞ」
チャゴスの顔を見ることなく、クラビウスは謁見の間を出ていった。
「叔父上……」
お披露目の場が終わると、レイフェリオは急ぎクラビウスを追いかけた。自室にもいなかったため、外の空気をすいにいったのかとテラスへと足をむけると、じっと空を見上げているクラビウスの姿がそこにあった。
「……叔父上?」
「っ!? レイ、か……」
「はい」
「変な退出の仕方をしてしまったな。すまなかった」
「いえ、皆興奮していましたから、気にしている人はいませんでした」
チャゴスのアルゴンハートが大きすぎて、興奮がクラビウスの態度の印象を薄くしてくれたのだろう。大臣も特に気にした様子ではなかった。
「……レイ。わしは見ていたのだよ」
「え?」
「あやつが商人からアルゴンハートを買い取るのを」
「……叔父上」
「あいつはアルゴンハートを取ってこれなかったのだろうか。だから、商人から……」
「そいつは違うぜ」
クラビウスの言葉を止めたのは、ククールだ。その手の平には、小さいがアルゴンハートが乗せられている。
「ククール、それは」
「最後に取ったアルゴンハートだ。一太刀っていうか、一回ぶつけただけだが、確かに剣を向けていた」
「あのチャゴスがか?」
「一応、な」
臆病なチャゴスがアルゴリザードを前に剣を取った。クラビウスとレイフェリオは顔を見合わせる。魔物とすらまともに戦ったことがないのだから、隠れていたのだろうと思っていたが、立ち向かっていったとは驚きだ。
「そうか、己一人でなくとも戦ってそれを手にしたのか。ではなぜ商人からなど」
「さあな、より大きなアルゴンハートがあれば見直してもらえると思っていたようだぜ。誰かさんにな」
「誰かだと……っ!?」
クラビウスは思い当たる節があるように目を見開いた。そして、視線をレイフェリオへと落とす。
怪訝そうに首をかしげるレイフェリオだが、クラビウスは納得したようだった。
「そうか……あいつめ。大きさなど些細なこと、素直に差し出せば良いものを」
「叔父上……」
「レイ、お前はどう思う?」
「えっ?」
「チャゴスが小さくともアルゴンハートを持ち帰った。例え、一人ではなくともな。レイはチャゴスにどう声をかける?」
「俺は……」
特に何もないと言ってしまえばそれで終わりだろう。チャゴスとて、レイフェリオに特別何か声をかけてほしいとは思っていないはずだ。
クラビウスを見ると、そこには何か期待が込められているようにも感じる。
それが何かはレイフェリオにはまだわからない。だから、素直に思うままを告げた。
「正直、チャゴスがアルゴリザードに剣を向けただけで驚きでした。トカゲ嫌いなあいつが、多少形が違うとは言えリザードを相手に近づいたことは進歩だと思います。けれど、王族として……この先トロデーンを担う立場になるものとしてはまだまだでしょう。見栄を大事にする者に、民を守れるとは俺には思えません」
「見栄、か……確かにそうだな。あいつにはまだ妻をめとるなど早いのかもしれん。だがな、レイ」
「はい」
「お前にも言っておく。己を蔑んでいる者にも民を守るには足りない。時には立場を掲げ、周囲を利用するような狡猾さも必要だ」
「っ!」
「わかるな」
こうした反撃をくらうとは思わず、レイフェリオは言葉がでなかった。クラビウスが言っていることはレイフェリオのことだ。王族であることを隠しながら事を運ぼうとしていたことは、幾度となくある。
チャゴスとは別の意味で、レイフェリオにも足りないものがあるのだ。強いて言うならば二人の異なる点は、それを理解している者と理解していない者だということだろう。
「……わかっています」
「ならばよい。それと、アルゴンハートはもらっておくぞ」
「あ、あぁ構わないが」
「チャゴスが忘れた頃に、これをネタに叱ってやるのだよ。いつになるかわからんがな……」
「叔父上……」
悲しげに吐き出した言葉に、レイフェリオは何もかける言葉がなかった。
そんな様子に気がついたのか、クラビウスは苦笑する。
「お前が気に留める必要はない。これはわしの役目だ。少しは気を引き締めてやらねばな」
「……はい」
「すぐに国を出るのだろ? ……無茶をするなとは言わん。だが、必ず戻ってきてくれ」
「叔父上……」
「約束だ。お前はこの国の王となるのだからな」
旅に出ることを認める。そして無事に帰ってくること。クラビウスの想いはレイフェリオとてわかっている。
レイフェリオは改めてクラビウスへと向き直り、まっすぐに彼を見た。
「必ず……」
「……ククールだったな。レイを頼むぞ」
「あぁ」
クラビウスはその言葉にうなずくと、そのまま城内へと戻って行った。
「レイフェリオ」
「あぁ、急ごう。時間もそうない」
「ヤンガスたちは宿屋に行っている」
「……支度を終えたら向かう。ククールは先に行っていてくれ」
「わかった。待ってるぜ」
マントを翻しながら去っていくククールを見送り、レイフェリオは自室へと向かっていった。
自室の前まで行くと、そこにはシェルトとナンシーが待っていた。
「行くんですか?」
「……あぁ。叔父上からの許可ももらった。奴が去ってから時間も経っている。急ぐ必要があるからな」
「はぁ。頑固なところは相変わらずですね……」
「そうですね。レイフェリオ様、これをお持ちください」
ナンシーが手渡してきたのは、小さな袋だ。
「これは?」
「万能薬と特やくそうが入っています。それと、これを身に着けてください」
更に取り出してきたのは、青い石が光っている指輪だった。
「ウィニア様が持っていたという命の石を嵌めた指輪です。……ギャリング殿をも手にかけたという相手なのです。何が起こるかわかりません。我々使用人たちの想いをこめてあります」
「……」
命の石は普段の生活の中で簡単に手に入るものではない。そうまでして用意したものにこめられた想いに気付かないほど、レイフェリオも鈍感ではなかった。
右の中指へ嵌めると、収まるべきところへ入ったかのように指輪が輝いた。
「……ありがとう」
「前みたいな旅人の旅装は勘弁してくださいよ。行くなら堂々と、王子として出発してください。仰々しい見送りはしませんから」
「この格好で行けっていうのか?」
「サザンビークの紋章もありますから、身分の証明にもなるでしょう」
サザンビークの名を背負ったまま迎えと、シェルトは言っているのだろう。クラビウスも、利用できるものは利用するという狡猾さも必要だと言っていた。今のレイフェリオには容易にできることではない。
「殿下、何度も言いましたが、お立場を理解しているのなら素直に行くべきですよ」
「レイフェリオ様、民を思うのならば、我が国の王太子を誇りに思う心も理解してください」
「……シェルト、ナンシー。わかった。このまま出発することにするよ」
袋を受け取り、踵を返そうとレイフェリオは後ろを向こうとするが、それをナンシーが呼び止める。
「それと、お出になる前にチャゴス王子にもお話をしてくださいね」
「チャゴスに?」
「……チャゴス王子は、レイフェリオ様を慕っておられたのですよ。今はひねくれていますが、原因は貴方様にもあるのです。陛下だけでなく、レイフェリオ様もきちんと王子と向き合ってください」
「俺……が?」
考えたこともなかったとレイフェリオは目を丸くする。
「やっぱり気が付いてなかったみたいですね、殿下は。あれでも、昔は兄上と呼んでいたでしょうに」
「王子を避けていらした理由は、私どもにはわかりません。ですが、儀式を終え、一歩でも前進したと思われるならば、レイフェリオ様も王子との関係に一歩前進してはどうですか?」
「……別に避けてなんて」
「私の目をお疑いになりますか?」
誰よりも側で世話をしてくれていたのはナンシーだ。他の人ならまだしも、ナンシーが言うのであればそれは本当のことなのだろう。レイフェリオが認めたくなくとも。
「……善処する」
「王子はさっき部屋に戻って行きましたよ」
「わかった。顔を出してくるさ」
前回、旅に出るときはろくに挨拶もせずに城を出た。
今回も同じことをすれば、好い気はしないだろう。何を話せばいいのか考えながら、レイフェリオはチャゴスの部屋へと足を向けた。
ノックをすると中から声が聞こえる。チャゴスだ。
「入るぞ、チャゴス」
「えっ?」
まさかレイフェリオだとは思わなかったのか、チャゴスは慌てて振り向いた。
「……レイフェリオ。ふん、僕のアルゴンハートには興味がなかったみたいだよな。僕の方がお前のよりも大きかったのが悔しいんだろう」
「チャゴス、俺はこれから旅に出る」
チャゴスの話には応えず、レイフェリオは用件を伝える。旅に出る、と聞いたチャゴスは目を見開いた。
「はぁっ!? な、何だよ! 僕の宴には参加しないっていうのか? そんなに不満なのかっ! 僕は──―」
「落ち着けチャゴス。……叔父上から許可が漸くでた。急がなければ取り返しのつかないことになる。お前には悪いと思うが、俺はすぐにでも行かなければならない」
「僕の祝いよりも優先すべきことなのか! やっと儀式を終えて、やっと皆に認められたのに。なんでお前は僕を認めないんだ? どこかで僕を見下しているんだろ? 何も取り柄がない王子だって。王子という立場以外に僕が皆に見られることなんてないんだっ!」
「……チャゴス」
「もういいっ! お前なんてどこにでもいけばいい! 魔物にでもやられてしまえばいいんだっ! あっ……」
「……」
勢いに任せて捲し立て、言いたくないことまで言ってしまった。そういう表情をしていた。無論、レイフェリオも気づかないわけではない。こんなこと言うつもりではない、しまったという顔をするチャゴスを何度も見てきたのだから。
だが、それを教えてやるほどレイフェリオも賢人ではなかった。
「認めてほしいならば、それなりの行動で示せ。ものではなく、行動でだ。アルゴンハートは確かにわかりやすい。だが、手に入れるだけならば王家の山に入らずともできる。違うか?」
「くっ……」
「小さくても、欠片でも良かったんだよ。己の力を試すのが儀式の本来の意味なんだからな。それをはき違えるな」
案に、全てわかっているということをチャゴスにぶつける。買い取ったものでは、本来の儀式とは遠ざかってしまう。アルゴンハートを持ち帰るだけが儀式ではない。その過程にこそ、本来の意味があるのだと。
「……一太刀でもリザードに向けたことは褒めてもいい。だが、その後の行動は褒められたものではない。見た物しか信じない王子に、誰がついていくんだ? 誰が認める? 俺は……王族としてその行動を認めることは出来ない」
「……っ」
チャゴスの息を飲む音が聞こえた。
伝えるのは早かったのかもしれない。だが、それがレイフェリオの本心だった。
「お前の言うとおり、俺が魔物にやられて二度と戻ってこない可能性もある。そうなれば、この国を守るのはお前だ。今のお前に、国を民を背負うことができるのか?」
「二度とって……僕はそんなつもりは……」
「……俺にはまだ国を背負う覚悟が足りない。偉そうなことを言っているが、俺とて叔父上に指摘されたばかりだ。もし、お前が叔父上に認めてほしいなら、行動で示せ。万が一、国を背負うことを考えてな」
レイフェリオは重く息を吐くと、チャゴスの部屋を出ていった。何かを言い募ろうと、チャゴスが手を伸ばそうとしていたのは見えていたが、これ以上は更に説教くさくなってしまうだけだろう。
言い過ぎた感はあるが……。それでも言わずにはいられなかった。そうでなくば、表情に出ていた。チャゴスに気付かれるわけにはいかない。
「……本心でなくとも、結構堪えるものだよな」
言葉は刃にもなる。従弟から言われたことに、今までも傷つかなかったわけではないが、今回はより堪えた。
本気で嫌われているとは思っていなかったが、好かれている訳でもないと、この時のレイフェリオは思っていた。
想いを詰め込みすぎて、長くなりました。