少しオリジナル展開もあります。
アスカンタの城に戻り、ハープを取り戻したことを報告するために、パヴァンに声をかける。
「あっ、皆さんお待たせしました。これから討伐隊を」
「その事なのですが……」
言葉を濁しながら、月影のハープを見せる。
「これはっ!? まさか、盗賊たちから取り返していただいたのですか!?」
「犯人はモグラでした。城の裏手に大きな巣穴を作ってました。宝物庫もですが、城全体も含め警戒は緩めない方がいいと思います」
宝物庫の穴は至急修繕した方がいいだろう。だが、穴をふさいだとて再びモグラたちがやってくる可能性がないわけではない。更に言えば、裏手に回れば城へ侵入することが可能なのだから、人間や魔物がやってこないとも限らない。見回りを裏手にも回すようにと助言する。
何年もかけて穴を掘っていたということは、それだけ長い期間裏側は完全に警備の範囲に入っていないと言うことを示している。昔は今ほど魔物も狂暴化していなかったのかもしれないが、今は違う。警戒しておくことに損はないだろう。
また、優しいだけでは事を進めることができない。今まさに、話し合いが纏まっていないのだから。この時間のロスが最悪の事態を招くこともあるということも忘れずに忠告する。
他国の者としてあくまで助言するだけだ。今後、どうするかは王であるパヴァンに委ねられる。
「今、私から言えるのはこれくらいです。あとは、王の判断にお任せします」
「レイフェリオ殿……。そう、ですね……僕、いえ私は王としてまだまだのようです。シセルに怒られてしまいますね」
亡き王妃を思い浮かべたのか、寂し気に微笑む。まだまだだというのは、恐らく兵も思っていることだろう。他国の王族であり、尚且つ年下であるレイフェリオに指摘されることに、普通なら憤りを感じてもいいはずだ。だが、パヴァンはそれをしない。きちんと助言を受け止め、前に進もうとしている。そこは評価してもいいのかもしれない。
王としてはまだ頼りないが、この先良き王として国を作っていくのだろう。
パヴァンには子供がいないため、どのようにしてそれを引き継いでいくのかが課題でもあるが。あくまでアスカンタの問題であり、レイフェリオたちには口をだす権利はない。
「月影のハープはお約束通り、皆さんに差し上げます。どうかお役に立ててください」
「ありがとうございます」
「……今後、盗賊に関しても城の守りを徹底していきたいと思います。皆さんも、どうかお気をつけて」
パヴァンに見送られると、レイフェリオたちは王座の間を後にした。
「レイフェリオにしては結構辛辣なことを言っていたな」
「……自分のことを棚に上げて、だけどな」
「兄貴はそんなことないでがすよ」
王族としての姿を見ていないのだが、ヤンガスは自信満々に告げる。盲目というのだろうか。ヤンガスの中ではいまだに過大評価されているようで、レイフェリオも困った顔をしていた。
「それで、これからどうするの? トロデーンに戻るのよね?」
「けど、窓は夜にならないと開かないぜ? ここで夜まで休むってのもありじゃないのか?」
ククールの言う通りだ。月の世界に行くためには、夜にならなければいけない。
宿屋で休んで、戦闘で疲れた体を休ませるのもいいだろう。海を航行するならば、何が起こるのかわからないのだから、休めるうちに休んでおいた方がいい。
「宿屋で夜まで休もう。その後トロデ―ンから窓へ向かえばいい。海も魔物が徘徊していると聞くからな、休んでおいたほうがいい」
「賛成でがすよ! アッシも繊細でがすからね。耳が疲れたでげすよ」
「お前が繊細? 一番鈍かったじゃねぇか」
ククールがヤンガスを挑発する。ヤンガスもこれに乗り、いつものじゃれ合いが始まった。
サザンビークにいたときは、別々になることが多かったため、こういった乗りはレイフェリオにとって久しぶりに思った。
こちらの方が非日常だというのに、どこか安心するのを感じる。まだ城内にいるため、声のボリュームが大きくなったところでレイフェリオとゼシカが止めに入った。
「ほら、いいから行くわよ」
ゼシカに首根っこを引っ張られてヤンガスが歩いていく。その後ろをレイフェリオとククールも続いた。
宿屋に着き、夜まで一休みした後、一行は再びトロデ―ン城へと戻ってきた。
影が作り出した窓はまだ健在だ。窓に手を伸ばし、イシュマウリの部屋へと向かう。
扉を開けると、イシュマウリが目を閉じて佇んでいた。
「イシュマウリ?」
「……あまたの月夜を数えたが、これほど時の流れを遅く感じたことはなかった。月影のハープを見つけてきたのだろう?」
「えぇ持ってきました」
イシュマウリへと月影のハープを差し出すと、まるで待ちわびたようにハープが光を放ちその手へと吸い寄せられていく。
「この月影のハープも随分と長い旅をしてきたようだ。よもや再び私の手に戻るときがくるとは……」
「それで船が蘇るでがすか?」
「無論だ。さぁ、荒れ野の船の元へ。まどろむ船を起こし、旅立たせるため歌を奏でよう」
ハープへとイシュマウリの手が流れるように動く。
奏でられた音に呼応されるように、光の粒が辺りを包み込んだ。思わず目を閉じ、光が収まったところで目を開くと、そこはイシュマウリの部屋ではなく、船があるはずの荒野だった。
「なっ、なんじゃ!?」
「トロデ王?」
「おっさん!?」
トロデ―ン城で待っていたはずのトロデとミーティアもそこにはいた。
「これはどういうことじゃ!? わしらはさっきまで────―」
「いいから黙っててくれ」
事態が把握できずに慌てて声をだすトロデをヤンガスは抑え込み、なおも話そうとするトロデの口を塞ぐ。
見えていないのか気にしていないのか、イシュマウリは古代の船へと近づき、その船体に触れた。
「この船も月影のハープも……そして私も、みな旧き世界に属するもの」
「旧き世界って……?」
「礼を言おう。懐かしいものたちに、こうして巡り合わせてくれたことに」
ゼシカが茫然と呟く。だが、意に介すことなくイシュマウリはハープを弾き始めた。
ハープが音楽を奏でると、いずこからか魚が現れた。触れることはできない幻だ。これが、大地の記憶なのだろう。
「さぁ、おいで。過ぎ去りし時よ、海よ。再び戻ってきておくれ」
淡い金色の光が溢れ、イシュマウリを中心に水の幻が現れる。このまま海の幻が現れる、かと思ったがふとイシュマウリはハープを下した。
「ありゃ? こりゃどうしたんでげすか?」
「なんと……月影のハープでもだめなのか……」
肩を落とすイシュマウリ。月影のハープでもだめならば、やはりこの船を再び海原へと戻すことはできない。そう諦めかけたとき、突然ミーティアが声を上げた。
「姫!?」
「何? どうしたの?」
慌てて皆が近寄るが、ミーティアはイシュマウリへと近づいていった。イシュマウリもミーティアへと近づいていく。
「ヒン……」
「……そうか。気が付かなかったよ。馬の姿は見かけだけ。そなたは高貴なる姫君だったのだね?」
ミーティアの顔へと手を差し出し、イシュマウリは優しくなでる。
「言の葉は魔法の始まり。歌声は楽器の始まり。呪いに封じられし、この姫君の声。まさしく大いなる楽器にふさわしい。姫よ……どうかチカラを貸しておくれ。私と一緒に歌っておくれ」
「ヒヒーン」
肯定するようにミーティアが鳴く。笑みを浮かべながら、イシュマウリは再びハープを奏でる。音楽に乗せて、ミーティアの声が混ざっていく。
水が溢れだし、やがて荒野が海のように水で満たされていく。土の上にいたのに、水の中にいるような感覚だ。
増えた水かさは船を持ち上げ、次第に浮き上がっていった。
「うわっ!?」
「おいおい」
レイフェリオ、ククールも水の中にいるように浮き上がる。本当に幻なのかを疑ってしまうほどだ。
浮上した船への道が現れ、一行は船へと乗り込んだ。
「イシュマウリ」
「……さぁ、別れの時だ。旧き海より旅立つ子らに船出を祝う歌を歌おう……」
ハープを弾くイシュマウリ。その姿はやがて見えなくなっていった。
月の世界へと帰っていったのだろう。
船は幻の海を進み、やがて現実の海へとたどり着いた。
「何が何だか……アッシにはどうにもわからないでげすが……」
「寝ぼけたことをいうな! すべてわしのかわいい姫のおかげじゃ」
「まっ、これでようやく奴を追えるってことだな」
「えぇ……闇の遺跡だったわね。早く向かいましょ」
「あぁ。急ごう」
やっと船が手に入った。向かう先は、ドルマゲスが向かった闇の遺跡だ。
時間も経っている。悠長にはしていられなかった。
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ようやくドルマゲスのところまで来ました。
これからも頑張りたいと思いますので、皆さま宜しくお願いします。