呪文の力
トラペッタを出て、南の関所へと着くと、一行はその有り様に言葉を飲んだ。
「な、なんじゃこれは!!?」
「門が……無くなってるでがす」
関所を無理矢理突破したのだろう。見るも無惨に破壊された門が……そこにあった。
「……ドルマゲス、かなりの使い手だ」
「兄貴?」
「この門、かなり頑丈な作りになっている。にも関わらず、この有り様だ。余程強い魔力で破壊したとしか考えられない」
「そうなんでがすか?」
「簡単な火炎呪文程度ではせいぜい焦げ付く程度、イオ系の破壊呪文でも相当に魔力を込めないと無理だ」
呪文の使えないヤンガスは、腑に落ちないように唸る。
確かに、呪文を使えるものでなければ想像するのは難しいだろう。
「兄貴」
「どうかした?」
「ということは、兄貴は呪文が使えるでがすか?」
言われてレイフェリオははっとする。
そう言えば目の前で使ったことはなかった。別に隠すことでもないが。
「一応はね。けれど、専門ではないからこれを呪文で破壊するのは俺では無理だと思う」
「……そんなやつが相手なんでがすね」
「……」
今までの会話は、トロデ王には聞こえていない。門の破壊具合に圧倒されてそれどころではないようだ。
恐らく、トロデ王自身もドルマゲスがどういった人物なのかはわかっていないのだろう。
性悪魔法使い。どうやらそれだけの人物ではなさそうだと、レイフェリオは認識を改めた。
「……さぁいつまでもここにいても仕方がない。もうじき日も暮れるし、村へ急ごう」
「そうでげすな。おっさん! いつまで驚いているでがす! 行くでげすよ」
「わ、わかっとるわい!」
ヤンガスの声に我に返ったのか、トロデ王は手綱を握りミーティア姫と関所をくぐる。
門以外は破壊されておらず、無事にぐぐり抜けることができた。
関所の先はリーザス地方。
夕暮れになってきたこともあるが、魔物の姿も変わっていた。
目の前に現れたのは、おばけきのこ。
「……兄貴、きのこのお化けでがす……」
「……否定はしないけど、気をつけて。あれは眠りを誘う息を吐く」
「そ、それは困るでがす……」
「命とりになるからね」
どうやら見逃してくれそうにない魔物に、レイフェリオとヤンガスは武器を構えた。
正面に三体。
視線が合うと、怪しく笑いながら息を吐いてくる。
「来るっ! 横に跳べ」
「はいでがすっ」
息を跳躍して避けると、レイフェリオはまず一体に狙いを定め剣を振り下ろす。
動きではレイフェリオの方が早い。斬られた一体は、魔力を霧散して消滅する。
更に一体、横から噛みついてくるのを盾で防ぐと、剣を横に薙ぎ払った。
「くっ、甘かったか」
「ひっひっひ」
攻撃を躱され、正面から相対する形を取る。相手が息を吸う仕草をするのを見逃さなかったレイフェリオは、その隙をついて懐に入り、剣先を相手に向け貫いた。
「あと一体……ヤンガスは」
消滅したのを確認すると、視線を巡らせヤンガスを探す。
すると離れた場所に膝をついているヤンガスの姿があった。
「ヤンガスっ!」
「あ、兄貴……」
魔物の姿はない。だが、ヤンガスは怪我を負っているようだ。膝をついて座り込んでいる。
走ってヤンガスに駆け寄ると、隣に座り込み傷の程度を確認する。
「……」
「すまねぇでがす。不意をくらいっ痛っ」
「……無理するな。待ってろ」
レイフェリオは剣を背にしまうと、左手をヤンガスの傷へと翳した。
「……ホイミ」
「ふわっ?」
左手が青白く光ると、たちまち傷を癒していく。
「これで大丈夫だろ」
「温かい光でがすね。兄貴、ありがとうでがす」
「……初歩的な回復呪文だけどな」
「アッシにも使えるでがすかね……」
「修練を積めば可能だろう。ヤンガスにも多少魔力があるようだしな」
「本当でがすかっ!?」
相当嬉しかったのかびっくりしたのか、ヤンガスはいきなり立ち上がる。
そんな様子にレイフェリオは苦笑する。
「精進だな」
「もちろんでがすよ」
レイフェリオも立ち上がると、馬車の方へと戻った。ヤンガスも後を追う。
その後も何度か戦闘があったが、怪我をしてはレイフェリオが癒すという形でなんとか戦闘をこなすことができた。
疲労もピークに差し掛かったころ、ようやく村の入り口が見えてきた。
「あ、あそこじゃな、リーザス村というのは」
「……そのようですね」
「疲れたでがす……休みたいでがすよ」
「ははは」
「……そうじゃな。わしと姫はここで待っていよう。今後も街や村には入らない方がよさそうじゃしな。あのようなことはこりごりじゃ」
「……わかりました。では」
「うむ」
村の側でトロデ王とは別れ、レイフェリオはリーザス村へと入っていった。