終盤に近付いてきましたね。
宿屋を出ると、すぐにククールが追い付いてくる。
「おい、レイフェリオ」
「ククール」
「……ったく手を貸す。その身体で走るのはきついだろ?」
「……すまない」
「あぁ、それより急ぐぜ。まずはチェルスの無事を確認しないとな」
ゼシカはヤンガスと共にいるらしい。トロデは馬車へと戻って行ったそうだ。下手に人にあって騒ぎ立てられてはたまらないと言って。
宿屋からハワード邸まではさほど距離があるわけではない。チェルスもすぐに見つかった。
「無事、なようだな」
「だな……」
庭にいるチェルスの姿に安堵し、彼に近づいた。チェルスもこちらに気が付き、駆け寄ってくる。
「昨日はありがとうございました。命を助けていただいたご恩は決して忘れません」
「いや、元々は俺たちの仲間が関わっていたことだから……貴方が無事でよかった」
「ありがとうございます。ですが……どうして僕の命が狙われたのかわからないんです」
「……知らないのか?」
ククールの質問には、賢者のことを示していたのだがチェルスには通じていないようで首を傾げている。
「君は先祖のことを聞いたことはないのか?」
「先祖? ……いいえ。ハワード様が賢者の末裔だということは聞いたことがあります。僕は単なる使用人でしかありませんし……っと話をしている場合ではありませんでした。レオパルド様を探しているんです」
「レオパルド?」
「そこの檻の中にいた犬だ」
レイフェリオの疑問に答えたのはククールだった。
その表情には不機嫌さがありありと現れている。どうやらククールはそのレオパルドが気に入らないらしい。
「……犬、か」
「可能性はなくもない。だがレイフェリオ、犬に杖を持てるか?」
「口に咥えることはできる」
「……それは、そうだけどよ」
犬とはいえ杖を持ち去った可能性がないわけではない。となれば、チェルスの側を離れるのは危険だ。狙われているのはチェルスなのだから。
「……俺はここでチェルスを見ている。ククールは──―」
「レイフェリオっ!」
「くっ!?」
チェルスから目を離した一瞬のことだった。
突然、目の前に黒い犬が杖を加えて現れたのだ。
「レ、レオパルド、さま……?」
「逃げろ、チェルス!」
「えっ?」
声を荒げて叫ぶが、何が起こっているのか状況が読み込めていないチェルスは動くことができない。咄嗟にククールがチェルスに駆け寄ろうとする。だが……。
レオパルドが加えている杖から、禍々しい魔力が迸る。魔力の勢いにククールとレイフェリオが吹き飛ばされた。
「くっ」
「ちっ、させるか!」
「遅い……」
「なっ!?」
聞こえるはずのない犬の声が響いた刹那、チェルスの身体が杖に貫かれた。
「がはっ……レ、レオパルド……さ」
「チェルスっ!!」
「これで、あと二人……これ以上邪魔はさせぬぞ」
杖を加えたままレオパルドは高く飛び、家の屋根を伝って逃げていった。流石にそのまま追うことは難しい。
倒れたチェルスへ近づくと、既に虫の息だった。
「チェルス……」
「お、お願い……します……レオパルド……さまを」
「……」
「ハワードさ、まが……心を……開け……る、唯一……の…………」
「チェルス! いや……偉大なる賢者クーパス様の末裔……」
襲われたことを聞きつけてきたのだろう、ハワードが青ざめながらその場に立ち尽くしていた。
「そうか……わしは……わしは、守り通すことができんかったのか。代々の悲願である因縁の呪を……せっかくご先祖様がわしとクーパス様の末裔を導いてくれたというのに……わしは……わしは……」
「ハワード……」
呟かれた言葉から推測するに、ハワードはクーパスの末裔を守ることを先祖から受け継いでいたようだ。呪いという形で。しかし、それは達成することができなかった。ハワードの嘆きは、手遅れだったのだ。
項垂れるハワードをレイフェリオたちはただ見守るしかなかった。
時間をおき、落ち着いたところでレイフェリオたちは再びハワードを訪ねた。ゼシカもヤンガスも一緒だ。
すっかり威厳を失ってしまったハワードの姿に、以前の面影はない。
「……ハワード」
「……レイフェリオ様、でよろしいのか?」
「えぇ」
昨日の様子とは違い、王族に対する敬意を示すようだ。これにはククールとヤンガスも目を見開く。
「ふぅ……いえ、昨日は申し訳なかった。チェルスの亡骸を見たとき、色々な疑問が氷解した。わしは、全てを悟ったのじゃ」
「どういうことですか?」
「わしは……ご先祖さまの呪により生まれながらにこう運命づけられていたようですじゃ……偉大なる賢者の一族……つまりはその末裔であるチェルスを守るようにと。だが……強力な呪術の力に奢った我が一族は、いつからか呪をも消しかけてしまった……せめてあと少しそのことに気が付いていれば、こうはならんかったのかもしれん」
「ハワード……」
後悔の念。懺悔にもとれるが、既に起こってしまったことを振り返り可能性について論議しても意味はない。
「懺悔をされても、俺には何も応えるべき言葉はありません。かの杖を持っているレオパルドという犬は既に残りの賢者の末裔を追っているでしょう。今すべきことは、今後についてです」
「……手厳しいですな、サザンビークの王太子殿は。……ならば、頼みを聞いてもらえますかな?」
「頼み、ですか?」
「レオパルドがチェルスを手にかけた。それを承知で……レオパルドを退治してほしいのです。賢者の一族の仇を討ってほしいのですじゃ」
「レオパルドは、貴方の大切な犬だとお聞きしました。それでも?」
「……レオパルドは既に強大な魔のチカラに支配されておる。既にレオパルドはレオパルドでなくなっている」
「俺たちに殺されても文句はねぇってことか?」
口を挟んだのはククールだ。ハワードは首肯する。優先すべきは世界。すべての事情を理解したからこそできる選択だろう。
「……せめてもの罪滅ぼしではないが、わしのチカラで眠っている天分をかるく揺り起こしてやろう」
そう言うとハワードは、両手をレイフェリオたちに向ける。
やがて力の源が溢れるかのようにレイフェリオ、ゼシカを照らした。
「何、これ? 力が……」
「……これは……」
「えー、兄貴、アッシはないんでがすか!?」
「……まぁ、そういうこともあるんじゃないのか?」
新しい力が湧き上がってくるのを感じながら、レイフェリオは拳を握りしめた。今後の旅には心強い力だ。
「ありがとう、ハワード」
「わしにできるのはこれくらいじゃ……レオパルドは北へと向かった」
「なら、俺たちも北へ向かうとするか……体調はどうだ、レイフェリオ?」
「……さっきの力のおかげか、身体も問題なく動かせそうだ」
身体が軽くなっている。腕を動かしながら確かめながら、ククールに応える。これならば、戦闘も今まで通りこなすことができるだろう。
目的は決まった。
レオパルドを追い、これ以上の犠牲を止めるために。
「行こう」
次回は、ゼシカのイベントです。