タイトル通りです。
オリジナル展開あります。戦闘描写は少なめです。
海賊の洞窟
ベルガラックに行けば船はギャリングの部下達がベルガラックまで戻しておいてくれた。
その船に乗り込み、海原へと繰り出す。
以前、ゲルダに憧れていたときに聞いたことがあるというヤンガスの情報を頼りに、一行は船でその場所へ向かった。
キャプテン・クロウの財宝。それは、隠された洞窟にあるという。数少ない情報を頼りに、海から人目につかない洞窟を探して、ようやくたどり着いたのだ。
船がまるごと入るほどの大きな洞窟の入り口。船着き場があることから、ここである可能性は高い。
いつも通り、トロデらは船で留守番だ。
レイフェリオたちは船を降り、奥にある鉄格子の扉へ近づく。
「……いかにもって感じね」
「ゴクっ……不気味なとこでがす」
「魔物の気配もあるようだな……ん?」
「レイフェリオ、どうかしたか?」
ふと、背後から何者かの気配を感じ、レイフェリオは後ろを振り返った。
そこには、一隻の船が来ている。
「あれは確か……」
「げぇ……ゲルダっ!?」
その船の主は、パルミドで会合した女盗賊ゲルダだった。船を下りると、まっすぐこちらへと向かってくる。
「……おや? どこかで見た顔だと思ったら、ビーナスの涙をプレゼントしてくれた親切なご一行じゃないか。ん? あんた……」
レイフェリオたちを一通り見回したが、その動作はレイフェリオの前で止まる。
「……俺に何か?」
「この間と随分と雰囲気が違うじゃないか。どこぞの貴族様かと思ったよ」
「訳アリなんだ」
「へぇ……何にしても随分と珍しいところで再会したもんだね」
「君の目的は、キャプテン・クロウの財宝か……?」
「あぁそうさ。あたしはお宝には目がなくてね。こうしてわざわざ船を仕立ててやってきたってわけさ」
伊達に盗賊ではないということだろう。
目的は同じ。ゲルダには悪いが、レオパルドを追う上で海図は不可欠なものだ。何といっても渡すわけにはいかない。
「お宝は早い者勝ちさ。欲しければ、その手で勝ち取る。あたしは先に行かせてもらうよ」
既に扉の前にいるレイフェリオらを無視して先へ進もうとする。早い者勝ちという話をしている余裕があるほど、内部は安全ではないはずだ。魔物の気配もうようよとしている。
ヤンガスもそこには気が付いていたようで、先を行くゲルダを止める。
「お、おい待てよ。勝手な事ばかり言いやがって。ここには魔物も出るんだ。お前ひとりで、お宝のあるところまでたどり着けるもんかよ」
「ふん、見くびってくれるじゃないか。あたしの忍び足の実力はあんたも知っているだろう? 魔物どもに見つかる様なヘマはしないさ」
「お、おいゲルダっ! ……ったく」
ヤンガスの忠告も無視し、ゲルダは奥へと入っていった。
忍び足は確かに有効な手段だろう。だが、それでも手強い魔物がいることに変わりはない。ましてや、宝を手に入れるためには、強敵がそれを守護している場合も多い。回避できない戦闘もあり得るということだ。
「……本当に勝手だな。おい、ヤンガス。随分と自信があるみたいだが、本当に大丈夫なのか?」
「俺が知る限りは、確かにゲルダの奴は滅多に魔物に見つかったことはねぇが……」
「特にかく俺たちも急ごう。何かあってからでは遅い」
「兄貴……合点でがす!」
内部に入れば、もう何年も使われていない家具などがボロボロになっており、水も入り込んでしまっていた。
ここで暮らしていたのは確かなようだが、既に数十年は放置されたままだろう。
一番奥の居室にいけば、ゲルダが辺りを物色していた。壁には海賊の旗があり、大きな机や本棚がある。
どうやら、ここがキャプテン・クロウの居室だったようだ。
「この部屋のどこかに隠し部屋か通路があるはず……あたしの勘がそういっているよ」
「……」
ゲルダは本棚の後ろなどを念入りに調べているようだ。
しかし、レイフェリオの感覚はそれを否定している。目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませばどこに空気が流れているかがわかる。
「……この後ろだな」
「レイフェリオ、何かわかったの?」
机の後ろの壁にあった交叉している剣の下には、船乗りという意味なのか船の舵がはめ込んであった。舵を握ると回転すると共に、駆動音が響き壁が後ろへ開いた。
「こんなところに……相変わらず凄いわね」
「さすが兄貴でがす!」
「さて行こうぜ」
我先にとヤンガスらが進もうとすると、ゲルダが勢いよくその前に立ちふさがった。
「ここを先に見つけたのはあたしだったよね。隠し通路があるってのもあたしの勘がそういってたからだ。悪いけど、先に行かせてもらうよ」
「お、おいゲルダっ!」
「競争とかじゃねぇだろう……これ」
ククールも呆れて額に手を当てている。
「……そもそも競争すると言った覚えはないが。けど、一人で盗賊をしている割には仕掛けに疎いようにも感じるな」
「どういうことでがすか?」
「解く気がなくて解かせるつもりなのか。それとも、本当に気が付いていないのか。後者なら、盗賊としてはなんというか……」
「言われてみれば、違和感を感じるな。だが、仕掛けがこれ一つとは限らないんだろ? もう少し様子を見てから判断しても悪くないんじゃないか?」
「……そうだな」
「それじゃあ、先へ進みましょう」
しかし、その後の仕掛けもレイフェリオたちが解くことになった。
そもそも何もないと一度帰ろうとしていたはずなのに、いつの間にか戻ってきていたことは不思議なのだが、大方水の流れる音を聞いて引き返してきたのだろう。
仕掛けを解いたときには、ゲルダがその先へと進むことになり、宝箱にもゲルダが先にたどり着いていた。
「遅かったじゃないか。勝負はあたしの勝ちだね。約束通り、お宝はもらっていくよ」
「……約束してないわよ。どうするの、レイフェリオ?」
「……」
「兄貴?」
レイフェリオは表情を険しくしたまま、ゲルダの側にある宝箱を見ていた。そして、腰の剣を抜く。
他の皆には見えなくとも、宝箱にまとわりつく気配を感じ取っていたからだ。
「……気をつけろ。いる」
「宝箱の守護者ってわけか?」
「あぁ」
ククールも弓を構える。ヤンガス、ゼシカもそれに続いた。
一方で、ゲルダはそのようなことは知らず宝箱に触れた。
「なっ!?」
触れた途端、宝箱が蒼く光り人の形を成していく。流石にゲルダも驚き、後ずさった。
「わが名はキャプテン・クロウ。かつて世界をまたにかけし海賊の中の海賊……。わが財宝を狙う者よ。なんじは、それを手にする資格のある者か? あるというならば、われと戦いそのチカラを示せ。資格なき者ならば、悪いことは言わぬ。早々に立ち去るがよい」
キャプテン・クロウは圧をかけるように、ゲルダを見ている。その力量を計っているかのようだ。
「ちっ……あたしは戦いはあまり得意じゃないんだけどね」
後方にいるレイフェリオらを見ながら、ゲルダはそれでも持っていた短剣を手にし構えた。目の前で宝を渡すことはできないという、盗賊としての意地なのかもしれない。
だが、構えたということでキャプテン・クロウは、そのチカラを確かめるべく、ゲルダへと襲いかかった。
力の差は歴然だ。ゲルダは攻撃を避けることもできず、短剣で何とか受け流そうとしたが、吹き飛ばされてしまった。
「ゲルダっ!」
「……大丈夫だ。気を失っているだけだ」
そっとレイフェリオがゲルダに近づき、確かめる。怪我はそれほどでもない。吹き飛ばされた衝撃で気絶しただけだろう。
「……さぁて、次は俺たちの番だな」
「汝らもわが財宝を求める者か?」
「あぁ」
「ならば我と戦いその資格を示すがよい」
気絶していたゲルダを隅に除けると戦闘態勢に入る。
キャプテン・クロウは紳士なのか余裕を見せているのか、こちらの態勢が整うまで待っていたようだ。
「よいか。ではゆくぞ……はぁっ!」
その瞬間、キャプテン・クロウから風の刃ー真空波が放たれた。
透かさずその場で跳躍して直撃は防げたが、刃がレイフェリオの頬を掠っていた。指で拭えば血が流れている。
後ろをみると、ヤンガスとゼシカが足に怪我を負っているのが映る。ククールが治療をしている最中だった。
決して身軽ではない二人だ。よけきれなかったのだろう。
「……遠距離攻撃。これ以上それを使われるわけにはいかない」
「さて、どうするね?」
「……俺が後ろに回り込む。ゼシカは出来る限り離れて援護、ヤンガスは力をためて隙を狙え」
「兄貴っ!」
「おい、レイフェリオっ!?」
ドルマゲスの時と同様に一か所にまとまれば、全員が少なからずダメージを受ける。ならば、放つ隙を与えずに挟み撃ちすることを選んだ。万が一、レイフェリオへと刃を向けられても、交わせる確率はゼシカやヤンガスよりもはるかに高い。
跳躍でキャプテン・クロウの後方へと飛ぶ。それだけでキャプテン・クロウはレイフェリオが何をしようとしているのか気が付いていた。
「私の攻撃を抑えるつもりか……いいだろう。やってみるがいい」
「レイフェリオ、バイキルト!」
「……スクルト」
ゼシカとククールから呪文の援護を受け、レイフェリオは力をため込みキャプテン・クロウに斬りかかった。
戦闘が長引けばこちらが不利になると踏んだからだ。最初から全力で行く必要がある。
「火炎斬りっ!!」
「ふんっ」
レイフェリオの剣をキャプテン・クロウも受け止める。だが、後ろはがら空きだ。ヤンガスがすかさず振りかかった。
「こっちだぜ、兜割り!!」
「はぁぁ!」
キン。
レイフェリオの剣を払いのけると、後ろからのヤンガスの攻撃へと構えをとる。
しかし、ヤンガスの一撃はレイフェリオよりも重かった。身体を切りつけられると、キャプテン・クロウから光が迸った。
「くっ!?」
「な、何?」
目くらましかと思ったが、レイフェリオは力が弱まるのを感じていた。否、弱まったのではない。呪文で援護してもらっていた効果が打ち消されたのだ。
攻撃は当たっている。相手もダメージを受けているのは間違いない。しかし、呪文での補助は打ち消されてしまうのだった。
「……いい連携だ。しかし、まだまだ甘い!」
「うるせぇっ!!」
ヤンガスが鎌を振り払う。直接ダメージを与えるわけではないが、キャプテン・クロウは弾かれ体勢を崩した。
「メラミっ!!」
「いまだ! レイフェリオ!」
「はぁぁ……隼斬り!!」
鋭く斬りつけると、キャプテン・クロウの身体が倒れていく。倒れる時、キャプテン・クロウがレイフェリオを見て微笑んでいた。
そこへ、更に畳みかけようとヤンガスが飛び掛かる。
「待て! ヤンガスっ!」
「へ。おっとっとっと……ぐぇ」
レイフェリオが声を掛けるが、斬りかかる勢いは止めることができず、ヤンガスはそのまま尻餅をついた。
「痛てて……兄貴、何で止めるんでがすか!」
「……もう終わりだ」
「兄貴?」
「どういうことだ、レイフェリオ?」
レイフェリオの元へククールとゼシカが足早に駆け寄り、理由を問い詰めるが、レイフェリオはキャプテン・クロウへと視線を定めたままだった。
「……くっくっく……我を倒すとはな。見事な戦いぶりだった。汝らを資格持つ者と認めよう」
「えっ?」
起き上がったキャプテン・クロウがレイフェリオらを認めると言い、宝箱を示した。
「勇者たちよ。わが財宝を引き継ぎわれの果たせなかった夢をかなえてくれ……」
そう言い残すと、徐々に形をなくしキャプテン・クロウはその姿を消してしまった。
示されるまま宝箱を開ければ、そこに入っていたのは海図だった。
「この海図がもしかして……」
「だろうな。何か線みたいのがある場所に行けばいいのか?」
「おそらくは、な」
地図と大差ないように見えるが、唯一の違いはその針路だろう。これに従っていけば、閉ざされた島へとたどり着けるはずだ。
「よっし、なら早速船に戻るでがすよ」
「うっ……」
「!?」
戻ろうとしたところで、うめき声が耳に届いた。
この場で言えば声の主は一人しかいないだろう。気を失っていたゲルダだ。
辺りを見回し、レイフェリオが持っている地図を見るとゆっくりを近寄ってきた。
「……まったく、みっともないところを見せちまったね。おまけにお宝まで先にとられちまうし。でも何だい、その紙切れは」
「お、おいゲルダ!」
レイフェリオから海図を取ろうとするのをみて、ヤンガスが声を荒げた。
「うわ~、しょっぼいね。こんな紙きれだと知ってたら、あたしゃこんなところまで来なかったよ」
「……確かに盗賊からしたら意味がないものかもな」
「そうね……」
ゲルダの言葉にククールとゼシカは頷く。海図など必要とするのは、海を生業とする者たちだけだ。ゲルダのように陸を主とするのならば、不要なものと言っていい。最も、レイフェリオたちにとってはこれこそが宝なのだが、わざわざそれを教える必要もないだろう。
「兄貴、目当てのモノも手に入ったでがす。さっさと行きましょう」
「あぁ……」
島への手がかりが手に入ったのだ。長居は無用だった。
さっさとここを出ようとしたレイフェリオたちだったが、想定外の声に足を止めた。
「待ちな」
そう、ゲルダだ。
「まだ何か用があるのか? アッシらは先を急いでいるんだ」
「ふ~ん……あたしもあんたらについていくよ」
「はぁ!?」
「な、何だって!!!」
「……」
驚きの声をあげたのはゼシカとヤンガス。レイフェリオとククールは声に出さないだけで、一体何を考えているのかと訝しんでいた。
「あんたらからはお宝の匂いがプンプンするのさ」
「おいおい、何勝手なことを言ってんだ! これは遊びじゃねぇんだぞ」
「いちいちうるさい奴だね。あたしがそう決めたんだ。あんたの意見なんざ聞いちゃいないよ」
「何だよ……人がせっかく心配してやっているのに……」
宝が目的で付いてくるというゲルダ。
確かに通常ではいくことのできない場所へ行くならば、宝があるのかもしれない。これから向かう島でもないとは言えないだろう。しかし、ヤンガスはゲルダの身を案じているのだ。と言っても、ヤンガスにゲルダの説得は無理だと言うことはこの場にいる全員がわかっていた。
「おい、どうするんだ?」
「と言われてもな……」
許可する理由はない。だが、何と言って断るべきか言いあぐねていると、別の方向から許可が出てしまった。
「うむ。まぁいいんじゃないか」
「お、おっさん!? いつの間に!!!」
「王っ!?」
船で待っているはずのトロデだった。
「旅は道連れともいうじゃろう? それに仲間は一人でも多い方がわしとしても心強いしな」
「おっさんまで……」
「王、しかし」
「あんたは反対なのかい?」
反論をしようとしたレイフェリオにゲルダが眉を寄せた。ヤンガスには問答無用な言い方だったが、それ以外のメンバーにはそうではないようだ。
「そうだな。反対だ」
「……どうしてさ」
「俺たちの旅に命の保証はできないからだ。この先の戦いで、君を守って戦うことはできない。自分の身は自分で守る必要がある」
「……」
キャプテン・クロウでの戦いで、ゲルダが戦闘が苦手だと言うことは皆が知っている。
逃げ足が速くとも、レイフェリオたちと共に行くことは逃げることのできない相手と戦う場合がある。その時、ゲルダを守ることは無理だ。
「君に、その覚悟があるか?」
「……レイフェリオ」
「ふん、あたしはお宝のためならどこへだっていくさ。アンタの言う通り、あたしには力が足りない。なら、直のことアンタらと行きたいね。守ってもらうつもりなんてないよ。あたしの命の保証はあたしがする」
「ゲルダ、お前……」
不真面目な態度が目立つゲルダだが、ここでの言葉は力が入っていた。盗賊としての誇りがそうさせるのか。もしくは別の理由があるのかはわからない。
「……宝がない場所に行くことも多い。俺たちの目的と君の目的は違う。それでも、か」
「しつこいね。いいって言ってんだろ!」
「いいじゃないか、レイフェリオ。ここまで言ってるんだ。ついてくるくらいなら構わないぜ」
「ククール……」
何か理由があって同行するのなら、構わない。命の保証もしなくていいって言っているのだから、レイフェリオたちは今まで通り戦えばいいのだ。
「ここで論議していても仕方ないだろ。先を急ぐんだからな」
「……わかった。だが、危険なところには連れてかない」
「その判断は任せるぜ」
ここで反対してもトロデが賛同しているのなら、覆らないだろう。レイフェリオは、ため息をつきながら先に出ていった。その後をヤンガスが追いかける。
トロデも続き、この場にはククールとゼシカ、ゲルダが残った。
ククールは改めてゲルダへと向き直る。
「ついてくるのは構わない。だが、ひとつだけ言っておく。この中で誰か一人しか生き残れないとすれば、俺たちは間違いなくレイフェリオを選ぶ。アンタにもそうしてもらうぜ」
「ククール?」
「何でそんなことしないといけないのさ」
「あいつは、あんたを守らないって口では言ってるが、いざそういう時があれば迷いなく守る。それが、あいつだ」
立場や身分など関係なく、行動する。だからこそ、ゲルダにもいっておかなければならない。
「偽善者って奴かい? 良いとこの坊っちゃんみたいだしねぇ」
「否定はしない。だが、あいつを死なせるわけにはいけないんだよ。例え何があったとしてもな。そこで宝を優先させるならついてくるのは認めない。わかったな」
「……宝より、か。ヤンガスが慕ってるのは知っだけどね……わかったよ。その条件飲んでやるさ」
ゲルダはそう言うとヒラヒラと手を降りながら出ていった。
「さて、俺たちも行くか」
「ええ。そうね……」
その後を二人も追いかけた。