遅くなりました。
船に戻ると、ゲルダは自身が乗ってきた船の船頭に事情を説明していた。こちらに合流するので、先に帰ってもらうようだ。
「……」
その様子を上から見ていたレイフェリオは、未だゲルダの同行に納得はしていなかった。
トロデが許可している以上、ゲルダの同行は決定だ。しかしゲルダの実力は不明瞭な部分が多い。主に戦闘技術の面でだ。率先して戦うタイプではないということは、本人の得意ではないという言葉からもわかる。ダンジョンにも一人で進むことがほとんどなのだろう。とは言え、装備だけを見れば全くの素人にも見えない。
装備品を見る限り主要武器は扇、サブが短剣。ゼシカのような遠距離での攻撃手段はないようだ。
「まだ気にしてるのか?」
「……ククール」
ゆっくりと近づいてきたのはククールだった。その視線の先にあるのはゲルダだ。レイフェリオがゲルダの件を考えていることを気にしていたのだろう。
「お前が考えることじゃない。俺たちがやることは変わらないんだしな」
「わかっている」
「だが、納得していないって顔だな?」
「……そうだな。巻き込むことになるのはわかっているんだ。そう簡単に納得はできない」
暗黒神ラプソーンの復活を阻止する、などというのは傍から見れば「何を言っているんだ?」と言われるものだろう。現実、徐々に世界に影響が出ているとはいえ、そのような存在がいることなどほとんどの者が知らないのだから。ゲルダとて同じだ。
「共に来れば知ることになるさ。その時、ゲルダがどうするのか選択させればいいだろ? まだ起こってもいないことを考えすぎるのはよくないぜ?」
「考えすぎ……か」
「俺は様子見することにした。俺たちに不利に動くようなら構わず置いていく」
「ククール……」
「薄情だと言われようが、足手まといを連れていくわけにはいかない。だろ?」
「あぁ」
確かに何も知らないうちから否定するならば、しばし様子を見てからでも遅くはないのかもしれない。
ククールの言葉に、レイフェリオもようやく自分を納得させることができた。
「そうだな。わかったよ。ありがとう、ククール」
「お前はもう少し楽に考えた方がいい。ただでさえ背負ってるものが多いんだ」
「……そう、かもな」
「ほら、行くぜ」
「……あぁ」
みればゲルダも乗り込んできているようだ。これで準備は整った。光の海図が示す場所へと向かう。目指すは神鳥レディスが住まう島だ。
手に入れた海図と照らし合わせて示された場所は、何の変哲もないただ岩に囲まれたところだった。
しかし、岩に囲まれた中心地へと船を進めれば海図に反応したのか、海が光りに包まれる。光はそのまま道を作っていった。その道をたどるように船を進める。
「この道を行けということか……」
「みたいだな。けど、その先にあるのは行き止まりだぜ? どうする、レイフェリオ?」
「……行くさ」
「あ、兄貴!?」
目の前に近づくのは岩でできた壁。動じないレイフェリオに対して、トロデとヤンガスは抱き合うように震えている。ゼシカやゲルダも身構えているようだ。
だが、何故だかわからないがレイフェリオには確信があった。この先に道があると。何かに呼ばれるようにも感じているが、それが何かはわからない。けれど、不思議と不安は感じなかったのだ。
「ぶ、ぶつかる!!!? ひぇぇぇ」
いつもの憮然とした態度とは打って変わってトロデが悲鳴を上げた。
船は、壁に激突する瞬間光に包まれる。光が収まると、そこは洞窟のような場所だった。どうやら、激突することはなかったらしい。
皆がほぅと安堵の息を漏らしていた。
レイフェリオは辺りを見回すと、遠くに石が積み上げられたものが見えた。人影はないようだが、情報が何もない以上は何か目印を定めて進んだ方がいいかもしれない。
「……とりあえず上陸して、周囲を見て回ろう」
「それしかないか……人が住んでいることを祈るぜ」
「そうね。……望み薄のような気がするけれど」
レイフェリオたちは船から降り、上り坂になっている道を進んでいく。周囲は岩の壁で囲まれており、外の景色を見ることはかなわない。どうやら、閉ざされた場所というのは本当らしい。
あの海図を手にしなければ、ここにたどり着くことはできないということだ。空を飛ぶ以外には。
そんなことを考えながら歩いていると、レイフェリオはふと何かの気配を感じ取った。
「何だ……?」
「兄貴、どうかしたんでがすか?」
怪訝そうにヤンガスがレイフェリオに声を掛けるが、レイフェリオは答えることなく空を見上げた。
見えるのは、青く澄み切った空のみ。
その時だった。
「な、何だ!?」
「えっ?」
ゲルダとゼシカが声を上げる。すぐにレイフェリオは彼らの方を見れば、大きな鳥のような影が過ぎていくのを見た。去っていった方を目で追っても、その巨影はあるが影を作り出しているモノはどこにもなかった。
「……一体どういうことだ?」
「レイフェリオ、どうした?」
「影が去った方、創り出しているモノが存在していないんだ」
「はぁ? 何言って……」
対象が太陽の光により遮られたことで影ができる。その対象自体が存在していないということなど、本来ならあり得ない。影しか追っていなかったため、空の状況を見ていなかったのだろう。何を言っているんだと眉を寄せるククールに、レイフェリオは頷く。間違いないことなのだと強く伝えたのだ。
レイフェリオの様子に、ククールは額に手を当て首を振った。
「……お前がそこまで言うなら間違いないんだろう。影しか見えないなんて、信じたくはないけどな」
「……鳥の影。もしかしたら、レティスと関係があるかもしれない」
ここは伝承の鳥、レティスが住まうといわれている島。可能性はあるだろう。
いまだ、大きな影に興奮しているヤンガスらを連れ、レイフェリオはひとまず先へ進むことにした。
といっても、何があるのか一切情報がないため、まずは開けた場所を目指す。船を降りた場所からは全容が見えない。少しでも高い場所を目指し、目的地を決めるべきだ。
外とは違った魔物たちと戦い、ゲルダの戦闘力を確認しながら高い場所を目指した。
PCが壊れてしまい、環境が整うまでに時間がかかってしまいました。
時間が空いたにも関わらず、字数が少ないのはそのせいです。
今後もマイペースで更新していきます。待っていてくださっている方には申し訳ないのですが、よろしくお願いします。