お久しぶりの投稿になります。
シェルトとアイシアを伴い、レイフェリオはクラビウスの元へと向かった。
王座には難しい顔をしたままのクラビウスが座っている。大臣や文官たちの姿も見える。
「叔父上」
「……レイ?」
「お話があります」
「……ふっ、どうやら吹っ切れたようだな。顔付きが変わった」
クラビウスが座る王座の階段下に立つと、大臣らが前を開けた。レイフェリオは、クラビウスを見据える。
「大聖堂及び聖地への船の停止をお願いします。同じことを、アスカンタへも通達してください」
「……不満が高まる可能性もある。宗教とは信者にとって、時に国よりも深い繋がりを持つ」
「法皇暗殺による包囲網と、危険回避のためとしてください。それと同時に、ある噂を流してもらいます」
レイフェリオは今後のために聖地と大聖堂へ人が集まることを避けたかった。表向き、国が発令する理由は危険だからだ。更に大衆へ噂を流すことで、マルチェロへの疑念を加えることにした。病に倒れたという大聖堂によるマルチェロの報告は虚偽。アイシアがそれを認めている。直前に会っていたレイフェリオとて、直ぐに倒れるような体調でなかったことは証言できる。
しかし、ここでレイフェリオが大聖堂にいたことを伝えることは出来ない。そのため、噂として人々に伝えるのだ。伝言を利用し、法皇の死に疑念を抱かせる。熱心な信者は、法皇を慕っていた者も多い。この上、マルチェロが大聖堂のトップに立つことになれば、出来すぎだと感じる者も増えるはずだ。
レイフェリオの話を聞き、クラビウスは顎下に手を当て考える様を見せる。王として、どう動くべきか考えているのだろう。暫しの長考の後、クラビウスは頷いた。
「良いだろう。一介の修道院における騎士団員でしかなかった者が、大聖堂のトップになることは急すぎる。そこに、大司教への失脚を加えれば多少頭が回る者には、疑心を持つこともおかしくはない」
「ありがとうございます、叔父上」
「して、お前はどう動く? これは情報戦だ。人ではなく言葉が動くもの。その中で、何をするつもりだ?」
何をするのか。そう聞かれれば、本音はヤンガスらを救いに行きたい。だが、まだ早いだろう。ある程度、時期を見なければ逆に足元を掬われかねない。この戦いには時間が必要だった。ならば、レイフェリオはその為に力を蓄えるだけだ。
「……俺は、母上の故郷を訪ねたいと思います」
「なっ!?」
「アイシアの夢見では、そこに何か鍵があると。だから、機を待つ間に行ってみたいのです」
「……レイ、そこがどこか知っているのか?」
眉を寄せるクラビウスは、この場で話をすることに躊躇いを持っているようだった。ここには、レイフェリオだけではなく、大臣たちやアイシア、シェルトもいる。レイフェリオの出生に関わることを知らない者たちばかりだ。だからこそ、レイフェリオはここで話題を口にしたともいえる。
「知りません。ですが、俺には知る術があります」
「……」
「止めても無駄ですよ。俺は行きます。そして、必ず戻ってきます」
譲るつもりはない。クラビウスと視線をそらさずに伝える。先に目をそらしたのはクラビウスだ。
「……昨日までのお前ならそうはならなかったな。こうなったレイは本当に、頑固だ。兄上にそっくりだよ。はぁ……わかった。認めよう」
「叔父上」
納得したわけではなく、どちらかと言えば諦めに近い形の許可だった。それでも、認めるしかないと思ったのだろう。ここでクラビウスから許可を得なくとも、レイフェリオは行くつもりだった。これまでにレイフェリオの身の回りで起きたこと。己の身の内に眠る力のことも含め、判明するかもしれないのだ。自分自身を知るためにも、レイフェリオは行きたかった。きっかけを作ったアイシアには、感謝しかない。
「では、明日には向かいます」
「……一人で行くつもりか?」
「はい」
場所が場所だけに、誰かを伴いたくはない。レイフェリオの出自に関することだ。ましてや、その郷がどういうところにあるかもわからないのだから。
「……仕方ない、か。だが、危険だと察したなら引き返すのも勇気だ。わかっているな?」
「……はい」
「気を付けていくのだ」
「ありがとうございます、叔父上」
頭を下げて、レイフェリオは王座を横切り後ろにある階段から自室へと向かった。その後をシェルトがついて行く。
残されたクラビウスは、大きくため息をついた。
「陛下、宜しいのですか?」
「何も殿下お一人でなくとも」
「騎士を数人──―」
「必要ないとレイが言ったのだ。レイの足手まといを増やせば、危険は増える。あいつは、仲間を置いて逃げることなど出来ん。王としては、間違いであってもあれは絶対にやらん。人を付ける方がレイを危険にさらす以上、その方が安全なのだ……」
クラビウスの言葉に、文官たちは口をつぐむ。 レイフェリオの気性を理解しているからこその判断。それを否定するだけのものが、文官らにはないのだ。
「……クラビウス陛下」
「アイシア嬢?」
「大丈夫です。レイフェリオ殿下は自らの弱さもよくご存知です。己の弱さを知るものは強い。祖父がよく申しておりました。私は、レイフェリオ殿下を信じています」
「……そうだな」
巫女の言霊。アイシア自身も己を理解している。言葉には力がある。だから、アイシアは否定的な言葉を紡がないようにしている。巫女として、人々に伝える時は特に。例え、心の奥が不安で一杯だとしても、それを伝えることはない。
だが、クラビウスには伝わっていた。アイシアの瞳が揺れていたからだ。祖父を亡くし、更にレイフェリオからも離れる。不安を抱かないはずがないのだから。
クラビウスに出来ることは、気づかない振りをすることだけだった。