自室を出て階段を上り外に出た。マントの中に隠れていたリオがひょっこり顔を出す。
『レイ、もう行くの?』
「時間がかかるとはいえ、郷へ行って帰ってくることを考えれば悠長にはしていられない。リオ、どこにあるかわかるか?」
『うん……薄いけど、匂いがするから』
「そうか……頼めるか?」
三角谷でラジュから小さな神殿のような場所だと聞いていた。大きな門と紋章が目印だ。しかし、位置を全く知らないのだから、ここはリオ頼みとなる。
空から確認しながら探すのだ。ある程度範囲がわかれば、それだけ見つけるのも楽になる。
リオが空へ羽ばたき、光を放つ。その眩しさに目を閉じると、次の瞬間には浮遊感を覚えた。光の膜に覆われていると言った方が良いだろう。
『行くよー』
「あ、あぁ」
更に上昇していくリオ。レイフェリオは小さくなっていくサザンビーク城を確認する。意識がある状態で空を飛ぶのは初めてだ。だが、不思議と恐怖はない。そればかりか、高揚感が沸いてくる。まるで、それが当然だとばかりに。
『レイ、あっちにいくよ! 何か、光ってるのが見えた』
「あっち?」
空からリオが示す方向を見る。小高い丘。だが、そこへ辿る道筋はない。その奥には、確かに赤い光が見える。
ドクン。
「っ……」
『レイ?』
心臓が跳ねた。いや、あの光にレイフェリオの中にあるものが反応している。間違いない。あそこが、郷に関係があるものだ。胸元に手を当て、レイフェリオは服を握りしめた。
「……行こう」
『う、うん! わかった』
リオが降下していく。足が着くと同時に膜から解放された。その場所は、まるで神殿のような雰囲気を持っていた。周囲には何もなく、この場所に来るにはレイフェリオのように空から来るしかない。地上からでは、まず見つけることは出来ないだろう。
リオがレイフェリオの肩へと降り立つ。
『レイ、あそこ』
「……わかっている」
示されたように引かれた赤い道を真っ直ぐに進む。竜の石像が誂えられている石碑がそこにはあった。赤く光っているそれは、竜の形に見える。
目の前に立てば、光は更に強くなった。レイフェリオは拳を握りしめる。
『行くの?』
「……行く。何があるかわからない。リオ、離れるなよ」
『うん……』
知らないはずだが、レイフェリオは自然と手を光へと当てていた。手が触れると、視界が歪んでいく。引き込まれるような感触だった。
「っ……? ここは……」
『……レイ、ここ別の空間だ』
「別の?」
今まで居たはずの場所ではなく、岩の洞窟にいた。魔物の気配もある。何より、空気が違う。別の空間というのは、確かなようだ。
「キュキュっ」
「トーポ?」
今まで反応がなかったトーポが突然レイフェリオの服から飛び出した。そのまま走りだしたと思ったら、足を止めレイフェリオを見る。
「キュキュー! キュウ」
「……案内してくれるっていうのか? トーポ、もしかしてここを知っているのか?」
「キュ……キュ」
トーポがいつからレイフェリオの傍にいたのか、レイフェリオにはわからない。気が付いたら傍にいて、離れることはなかった。しかし、郷にいた時のレイフェリオの傍にもいたというのなら、知っていてもおかしくはない。
『どうするの?』
「……ついていく。トーポが率先して動くのは珍しい。意味があるんだろう」
『……わかった』
「ここからは戦闘もある。リオは隠れていてくれ」
『ううん。僕も戦う!』
「リオ……わかった」
バサバサと羽を広げているリオから魔力を感じる。レティスの子だからだろう。ゼシカのような大きい魔力ではないが、確かに戦えるだけの力は備わっていることがわかる。とはいえ、生まれてまだ間もない。支援を頼むだけにした方がよさそうだ。
ここから先、基本的にはレイフェリオ一人での戦闘となる。できるだけ避けることを選ぶが、洞窟内という狭い場所であれば、逃げることは危険を伴うこともあるのだ。様子を伺いつつ、慎重に進むのが一番だろう。
周囲の気配を感じることに意識を集中しながら、レイフェリオは前に踏み出した。
洞窟内には多くの魔物が徘徊していた。
一人で戦うことが初めてではないが、今までククールやゼシカの支援、ヤンガスによる特攻などレイフェリオ以外にも手数があった。それがどれだけ助けとなっていたのかを、痛烈に感じる。多少でもリオの援護は、今のレイフェリオにとって力になる。
「はぁっ!!!」
『レイっ』
「……はぁはぁ」
『……大丈夫?』
「あぁ……」
休みつつ移動しているが、疲れは確実に蓄積されていく。何より一番つらいのが、先が見えないことだ。この洞窟がどれだけ続いていて、その先がどうなっているのかがわからない。精神的につらいものがあった。
そうだとしても、歩みを止めるわけにはいかない。周囲に魔物たちの気配を感じないところで、レイフェリオは腰を下ろし休息を取る。何より、集中力を持続させるにはできるだけ体を休めた方がいい。今の状態で、戦闘中に集中を切らせば、命とりになるのは間違いない。ここには回復をさせてくれる仲間はいないのだから。
数分ほど経ち、レイフェリオは立ち上がる。まだ先は長いだろう。無謀と勇気は違う。もし、今の力で先へ進むことが出来ないのならば、引き返さなければならない。最悪は、リオの力で元の場所に戻ることは出来るらしい。レイフェリオが戻らなければならないと判断すれば、即時に飛ばすように頼んである。あとは、その限界を見誤らなければいいだけだ。
「ふぅ……行くか」
『うん!』
剣を持ち、奥にある魔物の気配へ向かって歩き出した。