ドラゴンクエストⅧ 空と大地と竜を継ぎし者   作:加賀りょう

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郷への道

 自室を出て階段を上り外に出た。マントの中に隠れていたリオがひょっこり顔を出す。

 

『レイ、もう行くの?』

「時間がかかるとはいえ、郷へ行って帰ってくることを考えれば悠長にはしていられない。リオ、どこにあるかわかるか?」

『うん……薄いけど、匂いがするから』

「そうか……頼めるか?」

 

 三角谷でラジュから小さな神殿のような場所だと聞いていた。大きな門と紋章が目印だ。しかし、位置を全く知らないのだから、ここはリオ頼みとなる。

 空から確認しながら探すのだ。ある程度範囲がわかれば、それだけ見つけるのも楽になる。

 リオが空へ羽ばたき、光を放つ。その眩しさに目を閉じると、次の瞬間には浮遊感を覚えた。光の膜に覆われていると言った方が良いだろう。

 

『行くよー』

「あ、あぁ」

 

 更に上昇していくリオ。レイフェリオは小さくなっていくサザンビーク城を確認する。意識がある状態で空を飛ぶのは初めてだ。だが、不思議と恐怖はない。そればかりか、高揚感が沸いてくる。まるで、それが当然だとばかりに。

 

『レイ、あっちにいくよ! 何か、光ってるのが見えた』

「あっち?」

 

 空からリオが示す方向を見る。小高い丘。だが、そこへ辿る道筋はない。その奥には、確かに赤い光が見える。

 

 ドクン。

 

「っ……」

『レイ?』

 

 心臓が跳ねた。いや、あの光にレイフェリオの中にあるものが反応している。間違いない。あそこが、郷に関係があるものだ。胸元に手を当て、レイフェリオは服を握りしめた。

 

「……行こう」

『う、うん! わかった』

 

 リオが降下していく。足が着くと同時に膜から解放された。その場所は、まるで神殿のような雰囲気を持っていた。周囲には何もなく、この場所に来るにはレイフェリオのように空から来るしかない。地上からでは、まず見つけることは出来ないだろう。

 リオがレイフェリオの肩へと降り立つ。

 

『レイ、あそこ』

「……わかっている」

 

 示されたように引かれた赤い道を真っ直ぐに進む。竜の石像が誂えられている石碑がそこにはあった。赤く光っているそれは、竜の形に見える。

 目の前に立てば、光は更に強くなった。レイフェリオは拳を握りしめる。

 

『行くの?』

「……行く。何があるかわからない。リオ、離れるなよ」

『うん……』

 

 知らないはずだが、レイフェリオは自然と手を光へと当てていた。手が触れると、視界が歪んでいく。引き込まれるような感触だった。

 

「っ……? ここは……」

『……レイ、ここ別の空間だ』

「別の?」

 

 今まで居たはずの場所ではなく、岩の洞窟にいた。魔物の気配もある。何より、空気が違う。別の空間というのは、確かなようだ。

 

「キュキュっ」

「トーポ?」

 

 今まで反応がなかったトーポが突然レイフェリオの服から飛び出した。そのまま走りだしたと思ったら、足を止めレイフェリオを見る。

 

「キュキュー! キュウ」

「……案内してくれるっていうのか? トーポ、もしかしてここを知っているのか?」

「キュ……キュ」

 

 トーポがいつからレイフェリオの傍にいたのか、レイフェリオにはわからない。気が付いたら傍にいて、離れることはなかった。しかし、郷にいた時のレイフェリオの傍にもいたというのなら、知っていてもおかしくはない。

 

『どうするの?』

「……ついていく。トーポが率先して動くのは珍しい。意味があるんだろう」

『……わかった』

「ここからは戦闘もある。リオは隠れていてくれ」

『ううん。僕も戦う!』

「リオ……わかった」

 

 バサバサと羽を広げているリオから魔力を感じる。レティスの子だからだろう。ゼシカのような大きい魔力ではないが、確かに戦えるだけの力は備わっていることがわかる。とはいえ、生まれてまだ間もない。支援を頼むだけにした方がよさそうだ。

 ここから先、基本的にはレイフェリオ一人での戦闘となる。できるだけ避けることを選ぶが、洞窟内という狭い場所であれば、逃げることは危険を伴うこともあるのだ。様子を伺いつつ、慎重に進むのが一番だろう。

 周囲の気配を感じることに意識を集中しながら、レイフェリオは前に踏み出した。

 

 

 洞窟内には多くの魔物が徘徊していた。

 一人で戦うことが初めてではないが、今までククールやゼシカの支援、ヤンガスによる特攻などレイフェリオ以外にも手数があった。それがどれだけ助けとなっていたのかを、痛烈に感じる。多少でもリオの援護は、今のレイフェリオにとって力になる。

 

「はぁっ!!!」

『レイっ』

「……はぁはぁ」

『……大丈夫?』

「あぁ……」

 

 休みつつ移動しているが、疲れは確実に蓄積されていく。何より一番つらいのが、先が見えないことだ。この洞窟がどれだけ続いていて、その先がどうなっているのかがわからない。精神的につらいものがあった。

 そうだとしても、歩みを止めるわけにはいかない。周囲に魔物たちの気配を感じないところで、レイフェリオは腰を下ろし休息を取る。何より、集中力を持続させるにはできるだけ体を休めた方がいい。今の状態で、戦闘中に集中を切らせば、命とりになるのは間違いない。ここには回復をさせてくれる仲間はいないのだから。

 

 数分ほど経ち、レイフェリオは立ち上がる。まだ先は長いだろう。無謀と勇気は違う。もし、今の力で先へ進むことが出来ないのならば、引き返さなければならない。最悪は、リオの力で元の場所に戻ることは出来るらしい。レイフェリオが戻らなければならないと判断すれば、即時に飛ばすように頼んである。あとは、その限界を見誤らなければいいだけだ。

 

「ふぅ……行くか」

『うん!』

 

 剣を持ち、奥にある魔物の気配へ向かって歩き出した。

 

 

 


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