これも初期の作品。コメディです。
見上げるような長身。引き締まった、たくましい体。
端正な顔立ち、宇宙の深遠を見通すかと思しき蒼き双眸。
緩やかに肩を流れる髪、精悍な顎鬚。
何事にも自我を貫き通す反骨心。
すれ違っただけの小さき生き物にも注意を払う優しさ。
その上、ライトセイバーを使わせれば右に出るものはいないほどの使い手。
クワイ=ガン・ジンはこのように素晴らしい、当代きってのジェダイ・マスターだった。
ただ、ある一点を除いては ――
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ボンッ!!
部屋の中を凄まじい爆発音が響き渡った。
「マスター、何かあったのですか!?」
隣の部屋から、緊迫したパダワンの声がすかさず飛んできた。
「・・・いや、何でもない。お前はそこで瞑想を続けていなさい」
クワイ=ガンは心を落ち着けるべくフォースを使い、そして、音の出元を見やった。
買ったばかりの電子レンジから黒い煙が上がっている。この前も破壊して買い換えたばかりの電子レンジだ。
彼は溜め息を漏らして肩を竦めた。
(おかしい。加熱時間を間違えたか?)
内心動揺しながらも、レンジから黒焦げになった物体を取り出して、素早く捨てる。
(私のパダワンはお腹が減っているはずだ。こうなったら手っ取り早くできあがる物 ―― よし、あれで行こう)
彼は今までの失敗を気取られぬようにして、鼻歌混じりで新たな料理に挑戦し始めた。
そう、ジェダイ・マスター、クワイ=ガン・ジンの苦手な物 ―― それは料理だった。
いや、彼自身料理をすることは嫌いではない。逆にどちらかと言えば好きな方だ。
―― ただ、うまくいかないだけであって。
「マスター?そろそろお昼、できましたか?」
弟子から催促の声が聞こえてきた頃、クワイ=ガンは天井と格闘していた。
フライ返しで、フェロクリートの天井にくっついてしまった物を取ろうと四苦八苦している。
それがようやく重力に逆らわずに落ちてきた時、彼は素早く皿に受けとめた。
「よし、できたぞ」
ダイニングルームで待つ大事なパダワンの元に、かなりの時間がかかった料理を運んだ。
「待たせたな。」
「マスター・・・これは?」
「パンケーキだ。わからないか?」
弟子の前に腰を下ろすと悪戯っぽい表情で微笑む。
「わかりますけど・・・
そんな笑顔には騙されないぞといった風に、ザナトスは目の前の物を見つめて溜め息をついた。
「折角作ったのだが、いらないのか?」
ふと師の顔を過ぎる寂しそうな様子に、観念したかの如く
「いえ、いただきます」
とザナトスはフォークとナイフでホットケーキを切り始めた。そして、口に放り込む。顔が強張った。
それに気づかず、クワイ=ガンはニコニコと見つめている。
「どうだ?美味しいだろう?」
無理矢理飲み込み、手近にあったジュースで胃まで落とし込むと、ザナトスはようやく声を出した。
「マスター、これ・・・」
「どうした?」
「変わった食感がします」
「おかしいな」
クワイ=ガンはキッチンへと戻った。そして、粉の入った袋のパッケージを見る。
「すまない、ザナトス。小麦粉と片栗粉を間違えたらしい」
聞こえてきた声に、ザナトスの口はポカンと開いた。
(またか・・・)
と内心ゲッソリした彼だったが、やはり気になってもう一つ訊ねてみることにした。
「マスター、これ・・・何故かフェロクリートみたいな味がするんですが・・・?」
「まぁ、いろいろあってな。遠慮することはない。お代わりが必要だったらまた作るぞ?」
ニッコリと微笑む師に、ザナトスは心の中で膨大な涙を流した。
という風に、彼の師は料理に関しては万事こんな感じだった。
そして、ついにその日は来た ――
クワイ=ガンとザナトスは任務のため、ザナトスの故郷、惑星テロスへと赴いた。
父親に会ったザナトスは今の自分の境遇に不信感を抱いた。
テロスで金持ちとして優雅な生活を送っている父に比べ、ジェダイ聖堂で質素に暮らしている自分の境遇に。
とうとうテロスを去る日、ザナトスはクワイ=ガンに食ってかかった。
「マスター、どうして俺をジェダイにしようと思ったのですか?どうして ―― っ!?」
「何故そのようなことを言うのだ?」
「何故って ―― ここの料理がうまいからだっ!!」
クワイ=ガンは頭に
惑星テロスで歓待を受けているうちにザナトスは、今までこんなに美味しい物を食べ損ねていたのか ―― それに引きかえ、自分はジェダイ聖堂でマスターの不思議な手料理を食べさせられている ――
(これは余りにも不公平だっ!!)
と思ったのだ。
そう、実はザナトスはグルメだった。
「ザナトス、落ちついて聞きなさい・・・」
「もう、あんたの言うことは聞くものかっ!!俺は、俺は金持ちになって全銀河に ―― 」
「・・・ぜ、全銀河に?」
「ザナトス・レストランのチェーン店を作るんだっ!!!!」
そう言い残して、弟子はローブを翻して去っていった。
後には魂の抜けたようなクワイ=ガンだけが取り残されていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ザナトスに見捨てられたショックは大きかった。
クワイ=ガンは二度とパダワンを取るまいと誓った。
(もう誰かを信頼することなどできまい・・・)
それでも、料理の研究だけは欠かせなかった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
そんな彼であったが、縁があって再びパダワンを取ることになってしまった。
名前はオビ=ワン・ケノービ。
弟子として迎え入れることに決めたクワイ=ガンだったが、また裏切られるかもしれないことを恐れ、オビ=ワンとは距離を保ち続けた。
そんなある日。
久しぶりにクワイ=ガンとオビ=ワンはライトセイバーの訓練を行った。
その後部屋に戻ってくるなり、オビ=ワンはフラフラとソファーに倒れ込んだ。
「どうしたのだ?パダワン」
眉根をしかめてクワイ=ガンは心配そうに訊ねた。
「お腹が減ってしまって・・・動けません・・・」
耳まで真っ赤になりながらオビ=ワンは囁いた。
ついにクワイ=ガンは覚悟を決めた。大事な弟子のために、封印していた料理の腕を披露する時が来たのだ。
「ちょっと待っていなさい。何か作ってあげよう」
弟子の顔は輝いた。今まで一度もそんなことを言ったことのない師である。これで師弟の距離も若干縮まるかもしれない。そんな希望も出てきてオビ=ワンは心より喜んだ。
しかし ―― 待てど暮らせど料理は出てこない。
おまけに、ガンッやドンッやゴトッなどの奇奇怪怪な音がキッチンから聞こえてくる。
オビ=ワンは不安になったが、直に余りの空腹にそんなことはどうでもよくなった。
「オビ=ワン?出来たぞ?」
ようやくそんな言葉が聞こえた頃には既に2標準時間近く経過していた。
少年はヨロヨロとテーブルに向かうと、皿に乗った物を見つめた。
パンケーキである。
「待たせたな、食べなさい」
優しそうなクワイ=ガンの眼ざしに進められるまま、オビ=ワンは頷くとパンケーキをパクついた。
「うまい、うまいですっ!!マスターっ!!」
目を輝かせて連呼する弟子に、クワイ=ガンは生きていて良かったと内心膨大な涙を流すのであった。
その日からクワイ=ガンはオビ=ワンに料理を作るのが生き甲斐となり、それらの料理をことごとくオビ=ワンは美味しいと言って食べるのだった。
クワイ=ガンは料理の腕が上がったことを銀河の星々に感謝していた。
しかし ――
「マスター、これ、美味しいですね」
オビ=ワンがナイフとフォークを動かす先には、おどろおどろしい料理の数々が。
任務で訪れた所で歓待として出された料理だけに手をつけない訳にはいかない。
クワイ=ガンは引きつった顔で一口食べて、しばらく固まった。
それから、こわごわと視線を、美味しそうに食べている弟子に向ける。
そう、オビ=ワンは味覚がダメダメだったのだ。
クワイ=ガンは人知れず膨大な涙を流していた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
それから月日は流れて ――
クワイ=ガンは惑星ナブーのシード宮殿の動力炉に腹部を抑えながら横たわっていた。
傍らには涙ぐむオビ=ワンの姿。
「・・・オビ=ワン、私はもうだめだ・・・」
「何を言っているんですか、マスター・・・」
「オビ=ワン、頼む。あの少年を訓練してくれ・・・」
「マスター・・・」
「いいか、まず料理訓練学校に入学させて、それから調理師の免許を取らせて、それから腕を上げたら料理の ―― 」
クワイ=ガンの真剣な言葉は永遠と思われるほどに続き、オビ=ワンは人目も構わず膨大な涙を流した。
(マスター、貴方は単なる食中毒に当たって倒れているだけですよ?貴方が作った料理の)
とは、とても今の彼には言えなかった。
End
(2001年頃執筆)
*クワイ=ガンの料理の腕が悪いかは・・・定かではありません(汗)
*JAに登場するオビ=ワンの兄弟子、ザナトスがグルメかは・・・定かではありません(汗) ちなみに、彼がクワイ=ガンと仲違いした理由は、料理ではありません(当たり前)。
*オビ=ワンの味覚がダメダメ・・・ということはないでしょう(汗)
*SWの世界に電子レンジやパンケーキがあるかどうかはわかりません。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
寛大な心でお読みください(苦笑)