宇宙海賊キャプテンハーロック 外典 砂時計の果てへ   作:沖田十三郎

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1st VOYAGE
第一章 海賊・有紀螢①


000

 

 吐き出された息は荒く、目の前は定かではなかった。

 荒い目の紙ヤスリで乱雑に削ったかのような視界は、もはやないに等しい。

 手を、虚空に上げて何かを掴もうとして、その手は空を掴む筈だった。

 死の病に犯され、空気感染という最悪の環境に救い手もなく、死の星と化した筈だった。

 

 だが、その手は掴まれた。

「何をしているのです。大丈夫、貴女を一人で死なせはしません」

それは、懐かしい声だった。

「・・・さん?」

「はい、私は、ここにいますよ」

 ゆっくりと視界が閉じて行く。 体が、なにか暖かなものに抱きすくめられている感覚がする。 だめだよ、死んじゃうよと言うべきなのに、頬に水気を感じる。

「もう、私の目の届かないところで喪うのは御免です」

 と、そんな声を聞いたような気がした。

 

1st VOYAGE はきだめのブルース

 

 001

 

1-1

 独り、こうして宇宙を流離っていると、例えようのない恐怖に襲われる。

 それは、吸い込まれそうな虚無にも似た薄ら寒い一筋の予感。

 そんな不吉の予感を、かつて宇宙に飛び出した一握りの無法者だけが知っていた。

 時を経て今、それを知る者は一つまみ程度。この虚無に対峙できる真の漢は姿を消し、魔女と謳われた彼女もまた消息を絶って久しい。

 

 閉じた瞼の向こう側に今も輝く記憶がある。

 あの広く高い背を、私は今も追いかけている―――

 

1-2

 ――緩く閉じていた瞼を開くと、窓の外、横目にはいつもと変わらない宇宙(うみ)が広がっている。深宇宙と呼ぶにはまだ浅い宙域(海域)だからだろう、窓の外に広がる宇宙は明るい星の光が踊っている。

彼女が仕事前の常として身を清めるのは未だ彼女の身が理想郷と云う名の船に在った頃からの事。それはもう彼女の中で一つの儀礼と化していた。

身を浸(ひた)す湯は熱くもなければ冷たくもなく人肌の様な微温湯(ぬるまゆ)さ。それは外と内とを隔てる境界を曖昧にさせる温度だ。

彼女はそうして自身と世界との境界が曖昧な世界で自らを調律し、己の意志で生まれ直す。そのたびに強(つよ)く鋼(つよ)く柔(つよ)く、その都度ごとに思考の手を伸ばし、自分自身をかき集めて自分を作り出す。

 ―――それは、とても大切な儀式だった。

 

1-3

 宇宙海賊―――

 それは開拓者の名前だ。

 そして冒険者の名前だった。

 どれもこれもそれは昔々の御伽噺の世界の話……ではない。

 天の川銀河の外れにある太陽系第三惑星を出自として持つ知的生命体、通称人類はかつて己の手の届く範囲の中で小さく自足した輪の中から出ようとしなかった。

 そんな事をする必要もないと断じ切っていた。

 未開の地である星系外へと足を伸ばし、道を切り開き、世界を広げたのは海賊と揶揄され嗤われ、今は無法者(海賊)として駆逐されてしまった荒くれ者たちだった。

 そんな折、地球に黒い球体が撃ち込まれた。

 まるで楔のように。

 それはペナントだった。――我ら全能なるマゾーン、第二の故郷へと帰らん。そのような内容だった。

 

 人類は、やはりそれでもなんら危機感を抱くでもなく享楽の海に揺蕩(たゆた)っていた。反旗を翻したのは無法者と呼ばれた荒くれ者の中でもたった一人だけだった。

 

 彼の名は、ハーロック。

 

 理想郷(アルカディア)の名を冠した艦(ふね)を駆り、大宇宙(大海原)の波頭を切り裂いて渡り、マゾーンと対峙し、これを退けた。その後彼は共に戦った盟友らを艦から降ろした。

 「自由に生きろ」と言い残し、一人宇宙(うみ)へ還っていった。

降ろされた折、一時期共に道を歩いた少年もいたが道は分かたれてしまった。

 一度は星の上で地に足付けて生きていこうとも考えたけれど、気が付いたら私は星の海(ここ)にいた。かつて憧れた背中を追って重力の井戸の底から飛び出していたのだ。

 

1-4

 薄く目を開いて、しかし意識は半覚醒のままで(ぼぉっとして)いると、静寂の波をかき分けるように鋭い警報(サイレン)が浴室と言わず廊下と言わず機関室と言わず、艦内に響いた。

接敵したのだ。

 ザバリと薄い水の膜を率いながら、しかしてそれらを振り払い、私は立ち上がった。

 戦闘予備状態時に(今)艦長(私)が居るべきは浴室(ここ)ではない。

 意識の調律は済ませた。

 さあ、行こう。

 ここからは、海賊の時間だ。




そんなワケで再構成モノで御座います。
ま、2000字にも届かない程度では判断なんかできませんわな。
その様なワケで―――

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