KEMU VOXX ~My interpretation ~ 作:中二病20000
・この作品なボカロの曲を題材にしております。
・各曲の歌詞に勝手な自己解釈を付け、話をつなげているものです。
・繰り返し書きますが、自己解釈です。
・「こんなこと考える奴もいるんだ、ふーん」ぐらいの気持ちでご覧下さい。
頬の痛みで目を覚ますと、ボタンのついた四角い物体が、枕元に転がっていた。
金属製の長方形の四角形に、プラスチックのようなものでふたがされている赤いボタンだ。何だろうか、と、その物体をまじまじ見ていると、自分がかなり寝坊していたことに気付き、その物体を机の上に置き、リビングに入った。
リビングの空気は最悪だった。母親は、テレビをじっと見つめたまま、黙って生のトーストをかじり、父親も、何も言わずに新聞の同じページをぱらぱらめくっているだけだ。ニュースでは、『世紀の大発見』などを謳い文句に何かの特集をしている。
母が、こちらを向くと、まるでゴミを見るかのように、僕を睨みつけ、またテレビに視線を戻した。そのまま突っ立っていると、母は癇癪を起し、食べていたトーストを僕に投げつけた。
こんなことになった理由は、昨日の授業参観日の事だった。先に断っておくが、うちの母は、かなり頭がおかしい。世間体が第一の人間で、夫も、息子である僕もアクセサリーの一つとしか考えていないのだ。
自分が中学受験に落ちた時の発言は今でも覚えている。
「死ね」
ただ、これだけを言われた。一瞬、何を言われたのかが分からなかった。だが、やっと、自分が母に「死ね」と言われたことに気がつくと、涙も出せずに、その場に立ち尽くした、あの時も、母は突っ立っていた僕に、物を投げつけた。
その夜、放心状態のまま自分の部屋のベットに入ると、リビングから両親の話し声が聞こえた。いや、話しなんて生易しいもんじゃない。ご近所やママ友にどう顔を合わせればいいのかと、叫ぶ母と、一言も声を発さない父親。自分のせいだ、という自責の念は、だんだん大きくなり、次第に涙が溢れ出た。やがて、愚痴は叫びに変わり、当時の自分は、ベットの中で震えていた。
その時だった、母は奇声を張り上げた。直後、廊下に響く、大きな足音、「止まれ!」という、父の怒声。
母は、包丁を持って僕の部屋に押し入ってきた。鬼のような形相で、甲高い、悲鳴とも怒号とも区別しがたい声を張り上げ、僕に包丁を突き立てんとする母と、必死に母を取り押さえようとする父。
母の眼には、親としての感情など、微塵も感じられず、出来損ないのアクセサリーを買ってしまった時のような怒りで満ちていた。
結局、父がなんとか母親を取り押さえ、その後、母とは別居していた。
その間は、比較的穏やかに暮らしていた。今後も、このまま過ごすつもりだったのだが、突如、母はやってきた。仕事をしていないはずなのに、身につけていたアクセサリーやジュエルは、もっと増えていた。中学一年の春休みが終わるころだった。
母は「もう反省した。これから三人で生きていこう」と、涙をにじませながら、僕たちの前で語った。
そんな矢先の授業参観日だった。
見栄を張ってしまったのだ。母親に、褒めてもらうために、積極的に授業の質問に答えた。質問に答え、成功するたびに、ちらちらと母親の顔色をうかがった。初めは無表情だった母親の頬が緩んできた。自分は嬉しかった。母が、喜んでくれていたのだ。生まれて初めてのことだった。だが、僕はここでミスをした、勢い余って、授業の最後の問題、その答えを間違えてしまった。
そして、奇声が走った。
「なんでそれをまちがえるのよぉぉお!」
体は硬直し、全身から冷や汗が溢れ出た。凍った空気の中、母はズカズカと僕に歩み寄り、顔を殴りつけた。2発も、3発も4発も5発も6発も、ヒステリーな奇声を張り上げて、僕を拳で叩き続けた。
我に返った一部父兄によって、母と僕は、離されたらしい。その時、気絶していたらしい僕は、保健室に運ばれた。母は泣き叫びながら家に逃げ帰ったそうだ。
生きているのがつらい。死にたい。できるものなら人生をやり直したい。自分の部屋からリビングに着くまでに、何度思ったことか。
「……死にたい」
つい、口の端から、言葉が漏れた。
リビング内に走る、緊張感。寒気。
「何を言ってんだ、てめぇはよぉ!」
母は、襲いかかるように、こちらに向かってくる。
リビングのドアを開けようとしても、体がうまく動かない。母は僕の胸倉をつかみ、ドアに押し付けた。
「もういっぺん言って見ろよぉ! もういっぺん言ってみろよぉ!!!」
ドアに連続して叩きつけられる、父親が、なんとかして、僕と母親との間に入り込み、僕は何とかして、逃げ出せれた。
リビングのドアを開け、廊下を走り、自室に入り、鍵を閉め、部屋の隅でうずくまる。
聞こえたのは、ガラスの割れる音と、男の悲鳴、母の狂声、そして足音。
自室のドアが揺れるほど叩かれ、今までに聞いたこともないほど大きな声で、母が、がなり立てる。
もう、何を言ってるのかもわからず、ただ叫び声が聞こえる。ドアを叩く音は、より大きくより早くなった。ミシミシ、という音すらも聞こえてきた。
もう嫌だ、本当に誰か、僕を殺してくれ。でも嫌だ、死にたくない!
やり直したい!人生をやり直したい!一回だけでいい!やり直させてくれ!
ドアに刃物が突き刺さる音が聞こえる、このままだと本当に殺されてしまう。
そして、ふと、上を見た、机に置いた例の物体が目に入った。これがなんなのかは分からない、ボタンを押しても何も起きないかもしれない、だが、これでもいいから、何かにすがりたかった。
物体を手に取る、ずっしりとした重さで、金属の部分が冷たい。そして、プラスティックの蓋をあけ、ボタンに指を添える。
背後から、大きな音がして、ついにドアが蹴破られたのだということが分かった。
僕は、ボタンを押す。
一瞬の暗転の後、視界に移る全てが、高速で逆再生を始めた。
視点がだんだん低くなる、自分の体を見ると、5歳か6歳程度まで縮んでしまっている。まだ、逆再生は止まらない。そして、赤ん坊と同じように目が開かなくなった。
そして、完全な暗闇と無音が続く。
次の瞬間、急に音が聞こえ、僕はだれかに抱きあげられているのを感じた。優しそうに、僕に語りかける声は、母のものだった。今の僕は、生まれたばかりの赤ん坊になっていた。
これが夢でないとしたら、あれはきっと、『人生リセットボタン』なのだろう。
念願の、強くてニューゲームの始まりだった。