ナノガイガー戦記~勇者とエース~    作:かがみん

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第9章 ジェネシック・ガイガー出撃

時空管理局・地上本部。

結界越しに、ガジェットII型の放つ熱線が見えた。光学兵器のビームは対物理障壁に吸収され、散華する。しかし、その衝撃だけは結界内部にも浸透し、護のいる屋上ポートを揺らせた。

ギャレオンは数十キロ上昇したあと、停止した。

そこは結界と外部が接するぎりぎりのラインだ。

護は本部に通信を送る。

すぐに結界の一部が解除され、ギャレオンがその外へ飛び出した。わずか数秒の出来事だった。結界はまた元に戻る。

(よし!)

気合いを入れた護は、己の力を解放する。

髪が逆立ち、全身が淡く緑色に発光する。背には羽が生まれ、まばゆいオーラを発していた。

はやてはおとぎ話に出てくる妖精のようだと思った。

浄解モードになれば肉体的にも強靭となる。そして、護達はガジェットとの攻防する戦場に踏み入った。

天を、鋼鉄の獅子が駆ける。

ギャレオンの機動力は目を(みは)らせた。

ガジェットII型を上空から、鋭い爪で切り裂き、大型のIII型すらも体当たりで打ち落とす。護も本来の力を発揮して戦った。

攻撃を防護の左手で防ぎ、反撃は破壊の右手から強力な念動力を繰り出し、ガジェットを叩く。

(凱兄ちゃんは──)

ギャレオンの傍らで戦いながら、護は思考していた。

(もう一人の僕がどうしたかを、教えてくれた……)

数十機のガジェットの攻撃を捌く。

(レプリジンの護にできたのなら、オリジンの護にも、できるはず……!!)

決意を固めた。

(もう一人の僕が、果たし得なかった思いを。僕は果たす)

ギャレオンがガジェットの翼を砕いた。

護は数少ないI型から攻撃を受けるが、体内を念動力で破壊する。

「ギャレオン!!」

護は叫んだ。

「凱兄ちゃんのかわりに……僕に君の本当の力を貸して!」

信頼をこめて護は言った。

「僕が真にカインの息子なら、君の力を受け止められるはず──」

ギャレオンは咆哮を以って返答した。拒否する反応ではない。

「ギャレオン……!」

護は嬉しそうに頷いた。

ギャレオンが動きを止め、準備駆動に入る。護は距離を取って叫ぶ。

「行くよっ、──フュージョン!!」

護の体が、ギャレオンの内部に収容される。

「食べられた……!?」

それを見た者達が、ギョッとした顔になった。

少年はギャレオン内部へと運ばれ、複雑な機器やケーブルと神経を接続される。ギャレオンと一体化した護の感覚は、今までよりも研ぎ澄まされたものになった。

(これが……フュージョン。凱兄ちゃんはこんなふうに世界を見ていたんだ……)

ギャレオンが変形する。

獅子から人型へ。システムが組み換わり巨大なメカノトイドへと、姿を変える。

『ガイ……ガーッ!!』

額にGストーンが鮮やかに輝いた。

「ほんまに巨大ロボットや」

と、はやては呆然となる。

フュージョン成功。巨人の身体を手に入れた護は、建物を避けて広い道路の上に降り立った。

 

「もう一人の僕にはできなかったこと……」

護の宇宙で、レプリジン・護はパピヨン・ノワールの命を奪った。なおかつ、レプリジン・ガオガイガーにフュージョンし、凱と戦闘すら行ったのである。遊星主パルパレーパに操られていたとはいえ、それはレプリジンにとって、償いきれぬ過ちだったに違いない。

彼は本心ではその力を悪いことには使いたくはなかったろう、と、オリジンの彼は思う。

だから。

今度は僕が、君のかわりに勇者の力を、冷酷な殺戮ではなく、誰かを護るために使ってみせる。

「そのためにも、遊星主を──!」

ジェネシック・ガイガーは、ガジェットに向かった。

「ジェネシック・クロウ」

腕部に装備された鋼鉄の爪が、セットされる。

ガイガーは凄まじい速度でクロウを振るう。遊星主のパーツキューブすら一撃で破壊する爪だ。ガジェット群はわずかな時間で撃破されていった。

(体が軽い──ガイガーの四肢が手足の延長みたいに感じる)

かつてのガイガーとは数段も出力が違う、ジェネシック・ガイガーの猛攻。

護は魔導師達と連携し、地上本部を襲うガジェット群は次々に撃砕されていった。

「これなら本部防衛は我々でもなんとかなります。護さんは、他に苦戦している地区の援護を」

「そうやね。救援要請があちこちから届いてる。護くん──」

『こちら海上隔離施設、ギンガ・ナカジマ』

そこへ、スバルの姉から緊急通信が入った。冷静な彼女にしては焦った表情だ。

『現在、ガジェット百数十機の襲撃を受け抗戦中。でも戦力が足りません。八神長官、増援を寄越してもらえませんでしょうか?』

画面の奥では、ガジェットII型と撃ち合う魔導師の姿が映っていた。

「よっしゃ、解った。いい助っ人を向かわすよ」

はやては即答した。

『助かります。では』

ギンガは通信を切った。

「護くん。さっそく助けに向かったって。座標は──」

『はいっ』

旧ガイガーはステルス・ガオー装備でないと、飛行は不可能であったが、元来、宇宙戦を想定して設計されたジェネシック・ガイガーには推進装置がついている。

ガイガーは海上隔離施設の方角に向かって、飛翔した。

「ついでや──」

と、隔離施設の近傍にいる隊員を確認する。

はやては、さらなる助っ人として、港湾地区で戦っていたシグナムを送り込む事にした。

はやてからの命を受けて、シグナムはエリオ達に現場を任せ海上隔離施設へ、飛んで行った。

 

ウィングロード。

それは、ナカジマ姉妹のもつ先天魔法だ。

これにより、飛行魔法を使えぬ陸戦魔導師でも、空中で戦える。

美しく優美さを持った女性だが、たおやかな外見と違い、ギンガは激しさを秘めた魔導師であった。ブリッツキャリバーを唸らせ、勇躍してガジェットに挑む。

しかし。それでもガジェットII型の機動性に着いていくには、骨が折れた。

近代ベルカ式と、シューティングアーツの優秀な使い手たるギンガも、ガジェットの大群はさすがに手に余る攻勢だろう。

隔離施設の警護戦力では、空戦魔導師は二人で、あとはギンガと同じ陸戦型しかいない。総数二十五名の部隊である。収容者の反乱を怖れての常駐部隊とは言え、囚人への能力封印に安心してそれほど厳重な警護とは言えなかった。警備部隊の保有戦力はB~AAランク止まりで、はやての部隊とは比べものにならない。いや、はやての部隊が異常なのかもしれない。普通の部隊にエース級の魔導師はそう何人もいないからだ。

囚人を逃がさないためか、戦闘より結界などの補助魔法に長けた術者が揃い、現在でもガジェットの侵攻を防ぐため建物全体に張られている。

だが、魔力のみの防御は、海上から現れたガジェットI型によりたやすく破られてしまう。

魔法を無効化するAMFだ。

テロ事件の教訓が生かされていない、と、ギンガは思った。

遠距離戦に不慣れなギンガでは、近接戦に持ち込む必要がある。

ギンガは、ウィングロードの上をブリッツキャリバーで疾走。

その上空を、大型のガジェットIII型が飛び交っている。それが、赤光のビームを撃ってきた。

トライシールドで弾き返し、ギンガは跳躍する。

ガジェットIII型に蹴りをぶち込む。

ガツンと、真下から衝撃を受け、ガジェットは機体制御が不安定になった。そこへ、さらに拳撃が打ち込まれ、ガジェットは大破。そして、飛来したガジェットを踏み台に跳び、別機を葬り、ウィングロードへ着地した。

 

(キリがないわね……)

高町空尉のように砲撃が使えれば、数機まとめて倒せるのだが……。ほかの魔導師たちも、地道に敵機を削っていっている。

──と、

背後からガジェットII型が襲ってきた。

ギンガは振り向きざまに攻撃をしかけようとする。が、横合いから空戦魔導師の放った直射魔法が、ガジェットを消滅させた。

「ギンガ、ここは俺達に任せろ。お前は地上のI型を何とかしてやってくれ」

「わかったわ」

頷き、地面に降り立つ。ガジェットI型はアームケーブルをうねらせ、隔離施設に迫り来る。

ギンガは警備員に加勢し、打撃を、蹴りを、複製された機械兵器どもに浴びせかけた。

「くっ、数が多いな──」

「戦闘機人よりはましよ」

魔力を乗せた拳がガジェットの腹を破壊する。

『緊急、施設内にもガジェットが侵入した!』

「なんですって!?」

『ガジェットは囚人のいる房を目指している。数人、援護に来てくれ!』

悲痛な叫びが、施設警備責任者から漏れた。

「ギンガ、行ってやれ」

「えっ、でも」

「あの戦闘機人達はお前の担当だったろ。万一、逃げ出したりしたらお前にも責任を負わされるぞ」

担当、というのは、ギンガが捕まったナンバーズの教育等の更正の指導の事である。

同じ戦闘機人として、戦う以外の人生を教えるのが、ギンガ自身が己に課した使命であった。前非を悔やみ、更正しようとしている戦闘機人達の新しい生を手伝いたい。その想いの強さに、ナンバーズの面々も彼女には心を許していた。また、ギンガもスカリエッティに改造を受けて悪事に手を貸したという、過ちがある。今回の教育係を引き受けたのは、その贖罪でもあるのだ。

今更、あの子達が逃げ出すとは、彼女には考えられなかった。とは言えこんな混乱した状況である。何が起こるかわからない。懸念は、能力を封印された彼女達が、ガジェットに襲われたらひとたまりもないという事だ。無論、ルーテシアやアギトもだ。

急ごうとするギンガの前に、ガジェットが立ち塞がる。

ギンガは数回の打撃で粉砕して、駆け出した。

「──ギンガ!」

宙から彼女の名を呼ぶ声が。聞き覚えがある。

一人の女性が、ガジェットII型を鮮やかに切り捨て、降り立った。

「シグナム一尉!!」

ポニーテールの女性が、炎を宿したアームドデバイスを手に、短く伝えた。

「助勢に来た」

「助かります!」

「他にも、心強い助っ人がいるぞ!」

言いつつ、ガジェットを撃つ。硝子の様に砕け散るガジェット。

「心強い、助っ人……ですか」

と、首を傾げつつ、I型を倒す。

「お前は早く戦闘機人達の元に向かえ!」

「わかりました」

ギンガは走り出した。

シグナムはレヴァンティンを鞭状連結刃・シュランゲフォルムに変える。

火龍一閃で、薙ぎ払った。

「む、空でも苦戦しているか──」

シグナムはガジェットII型を撃砕すべく飛び立った。

護が到着すれば、戦況は有利になるはずだ。

あらかじめリミッターを解除している為、シグナムの戦闘能力は、他の隊員達の追随を許さなかった。

──その戦いぶりを、さらなる高みから眺めている影がある。

影は大型のIII型に佇立し、冷ややかに戦闘域を見下ろしていた。

茶色がかった髪に、眼鏡をかけた女性である。その姿は索敵にも映らぬ、不可視の状態を維持していた。故にまだ管理局には存在を感知されていない。

「また、機動六課──」

彼女は、忌ま忌まし気に呟いた。

「そろそろ、本気を出させてもらうわ……」

片腕を上げて、影は瞳に炎を燃やした。暗い炎だった。

私のすべてをぶち壊した機動六課には、死の制裁がふさわしい!

「IS発動──!」

「なっ……?」

シグナムの目の前のガジェット群が、不意に分裂した。

少なくとも、彼女にはいきなりガジェットが数百に増えた様に見えた。

「増援!? 一瞬でこれだけの数を転送したのか」

馬鹿な。

ガジェット群は凄まじい勢いで攻めてくる。

「どうなってるんだ!?」

「ちっ、多過ぎるぞ」

「キリがねぇ……!」

対応する隊員達が悲鳴混じりに叫んでいる。一方、シグナムの胸には、疑惑が芽生えた。

「もしや──」

一機にレヴァンティンを振るう。

ガジェットはふっと、煙のように掻き消えた。

「やはり……!」

幻術か。

だが、これ程の大規模な数を幻影で生み出せるとは。

そのような術者が敵にいるのなら、侮れんが……。

とにかく。主はやてのような広域攻撃ができない以上、(しらみ)潰しに叩くしかない。

しかし。

どれが本物でどれが幻惑かわからぬ隊員達は、がむしゃらに攻撃を繰り返し、魔力を無駄に消費しているようにも見えた。

「せいぜいガジェット相手に踊るといいわ──」

影は次は海上隔離施設そのもののコントロールを掌握するべく、己のインフューレント・スキルを放とうとした。

が。

「そんな幻影、僕には通じない!!」

彼方より空を駆け抜けてきた白い巨人が、思わぬ一撃を彼女に与える。

『なっ……』

そう。ジェネシック・ガイガーが、ようやくこちらの施設に到着したのだ。

護は、ギャレオンと知覚を共有している。その、センサーが、確実に姿なき襲撃者を捉えた。

巨大な爪が、空間の一点を凪ぐ。

「きゃぁっ!?」

危うく直撃するところだった。回避は成功したが、掠った衝撃で彼女の不可視の力が解除されてしまう。

「そんな……!? 私のシルバーカーテンが……」

彼女が乗っていた、ガジェットIII型が引き裂かれ、消滅した。

「しまっ──」

彼女に飛行能力はない。たちまち墜落していく。

護は彼女を捕らえようとする。

『待てっ』

「ちぃぃ!!」

彼女は、手近な場所に浮かんだガジェットを操作し、どうにか上に乗る。立ち上がり、少し離れた空域にいた管理局員を一瞥。確か機動六課の副隊長だったか。

「貴様は──!!」

シグナムには、その女に見覚えがあった。

「そうか。衛星拘置所が襲撃を受けたとは聞いていたが……」

昂然と立ったその女に、厳しい視線を向ける。

「ふっ……」

彼女は不敵に笑った。すでに幻影は打ち破れ、ガジェット群は元の数に戻っていた。

「ナンバーズ……No.4……クアットロ」

また、罪業を重ねに出てきたか!

シグナムはレヴァンティンを握る手に力を入れた。

「護隊員のおかげだな……」

クアットロを戦場に引っ張りこんだガイガーが、隔離施設に降り立つ。

そしてレプリジン・ガジェットに、彼は攻撃を振るった。

いまだ、クアットロは余裕だ。 シグナムは何か奥の手を隠しているのか、と訝しむ。

その頃。ギンガは隔離施設内部に入り、地下から侵入した

ガジェットと戦っていた。

一刻も早く、戦闘機人達の元へ行くために。

「邪魔!」

ガジェットは打撃を食らって、粒子と化して散る。

所詮は複製された雑魚機に過ぎない。だが、数が多い。

それでも、一機一機を潰して歩く。

「あの子達は、私が、守る……」

決意を込めた拳が、機械を打ち抜いた。

隔壁を砕き、前へ。

──そんな彼女にも、予想のつかぬ破壊の化身が、すぐ後に現れることになる。

その事は、この場所でクアットロだけが知っていた。

 

──ミッドチルダの太陽が中天に迫ろうという時刻。

(……来る……?)

本局の遥か上空に現れた巨大な影、三層式の飛行空母。

卯都木 命にとって、見覚えのある艦が近づいてくる。

(何よ、これ!?)

名状し難い感覚により、命の意識は別の空間に飛ばされたようになった。

(幻──)

それが、命の秘められた能力が発現した最初の兆候であった。

 

(敵が……来る)

一瞬の現象の後、命は呆然と立ち尽くした。

彼女は本局の食堂に向かう途中だった。凱に食事を届けるためだ。

管理局員が通路を横切る中、命は不安を抱きながら、今起こった事を考えていた。

(今のは、一体……)

頭の中に流れたイメージ。それはソール11遊星主の旗艦《ピア・デケム・ピット》である。

それが、本局の方に向かって来るのだ。

(……まさか……)

予知能力?

パピヨン・ノワールのセンシング・マインドの様な──

(そんな、馬鹿な)

自分はそんな特別な人間ではないと、首を振った。

自分は普通の人間だ、と。

『──!!』

だが。

再びあの感覚が訪れ、命は顔を上げた。

来──

 

はっ、と気づいた時には手遅れだった。本局の外側から隔壁を突き破って、巨大な物体が突入してきたのだ。

見慣れた機械兵器が二体、通路に浮かんでいる。

その卵型の、自律機械について、管理局の人間なら正体を知っていただろうが、命にはわからない。

得体の知れない怪物にも等しい存在だった。

逃げる暇もなく。

構造材が瓦礫と化して飛び散る中、命の身体は紙の様に、吹き飛ばされた。

壁の裂け目から、命は広大な次元の海に放り出されてしまう。

『きゃあぁっ!!』

悲鳴は、誰の耳にも聞こえなかった──

 

 

 

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