ナノガイガー戦記~勇者とエース~    作:かがみん

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第10章 管理局襲撃

「なんたることだ!」

これほどたやすく侵入を許すとは、本局のセキュリティはどうした!? 提督達は混乱し、口々に喚いた。

長い間、本局は敵から進攻を受けた経験が皆無だった事もあり、彼らがショックに陥るのも無理のない話といえよう。

何しろ地上本部がテロにあったのも、イレギュラーな事柄だと思っていたのだから。あの事件は地上の無能者が招いた自業自得だと、海の人間達は嘲笑していたほどだ。

それが、今度は自分達が同じ様な目にあい、まさか自虐するわけにもいかず、やり場のない怒りに苛立つ者が続出した。

「すぐさま迎撃せよ!」

この危機に、冷静な態度で指揮を採ったのはクロノ・ハラオウン提督で、彼がたまたまにせよ、本局に居合わせたのは皆にとって幸いだった。若く有能な彼の存在感が、局員達の士気を大いに高める役割を果たしたからだ。

非戦闘員を避難させ、魔導師達には、襲撃者の攻勢に対処するよう指示を与えた。

「まさか……ミッドに続いて此処にも──」

ガジェット・ドローンI型。

かつて広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティが使用した、自律型機械兵器である。純粋な魔法の産物だけではなく、禁じられた質量兵器の技術すら用いられた機械だ。

スカリエッティは主にロストロギア──レリックの探索と奪取に、ガジェットを使っていた。

最も、本局を襲ったガジェットは、ミッドチルダに現れたのと同様にレプリジン、つまりは複製体だったのだが。

レプリジンは遊星主の基地であるピサ・ソールの物質復元装置の能力から作り出されるコピーである。

 

ガジェットI型は本局内部に侵入、破壊行為に邁進していた。いくつもの爆発と砕音が木霊する。

本局の外に飛ばされた命を救ったのは、フェイト・T・ハラオウンだった。

(危なかった──)

偶然、破壊されたブロックからすぐ近くの宙域に浮遊しているのを発見していなければ、彼女は助からなかっただろう。次元の海に漂い、エネルギーのうねりに翻弄される命は、もう少しで生命を失うところであったのだ。

金の閃光の二つ名の通り、フェイトは神速で飛び、命の身体を抱き留めた。防御魔法のフィールドが、意識のない命を直ちに保護する。

(気絶しているだけか……)

フェイトの腕の中で、命はぐったりとしている。別に擦り傷以外の外傷は見当たらないから、安静にしていれば回復するだろう。

フェイトは命を医務室に連れて行った。

念のため検査を受けたが、異常は感知されなかったようだ……

命の事を知らされた獅子王 凱は、ひどくうろたえた。

恋人が危険な時に、傍で守ってあげられなかった事で激しい後悔を呼んだ。

だが、フェイトはそんな彼に自分を責めるな、と諭した。

いま、凱はジェイアークの為に大切な作業を行っている。遊星主と戦う為には、貴重な戦力の復活が待ち望まれているのだ。こんな状況で、四六時中恋人の身を守ってやれと、彼を非難できる者はこの本局にはいない。凱は凱にしかできないことに集中しろ、とフェイトは言った。

──そのかわり、命は自分達が命懸けで守る、と金髪の執務官は約束した。

『わかった……俺もなんとか一刻も早く、こいつを目覚めさせてみせる』

「進捗具合はどうなの?」

『あと、もう少しなんだ。もう少しで、トモロの中枢にたどり着く──』

凱の声には疲労が滲んでいた。驚異的なエヴォリュダーの能力とはいえ、それは凱の肉体にかなりの負担を強いる。それでも凱は、精神力を振り絞って進めていた。勇者は諦めない。

「すまんが、急いでくれ、凱!」

Jが焦燥感を含んだ声を伝えた。

「奴ら、ジェイアークの周辺を集中的に攻撃しはじめた」

「ジェイアークの破壊が、彼らの目的なの!?」

「おそらく……」

Jはドックの入り口に立ち、ガジェットと交戦していた。

修復作業は中止させよう、という意見が挙がったが、クロノは修復は続行する命を下した。

武装隊を動員して、ジェイアークの守護を貫く構えだ。

『フェイト、君もジェイアークの護りに参加してくれ』

「了解した」

フェイトは艦船ドックに駆け付け、ガジェットの撃退に加わった。

「ジェイアークの停止コマンドが解除されるまで、なんとしてでも持ちこたえないと……!!」

 

AMFを展開するガジェットとの戦闘では、魔導師達が相当手こずっている様子だった。

優秀な人材を擁する次元航行部隊ではあるが、エース級の魔導師がそう何百人もいるわけではない。空戦S+ランクのなのは・フェイトや総合SSランクのはやて達の様な『化け物』レベルの魔導師を数多保有するには、様々な制約が部隊に課せられる。はやてはリミッター制限によるランクの下降という苦し紛れの裏技を使って、機動六課というチームを作ったのだ。

本局にいた部隊はそこまでの戦力では無かったが、それでもよく訓練された逸材揃いであり、フェイトの参戦もあって、徐々にガジェットを退けつつあった。なのはも自ら前に出て協力し、巧みなチームワークで着実にガジェット達を倒していく。

なのはとフェイトは緊急事態につき、リミッターを外す許可を得た。

エース二人は、遺憾なく実力を発揮し、目覚ましい戦果をあげていた。

 

「ジェイアークは、私が守る!」

ソルダートJは気合いと共に、プラズマの剣を振るった。

ガジェットI型のアームケーブルが切断される。

魔導師ではないため、AMFなど意味はもたない。戦闘サイボーグの蹴りが、ガジェットの胴部を易々と凹ませた。

再度、光の刃を切れ込まれ、ガジェットは機能を停止した。

「むっ……!」

戦士の勘でJはそこを跳び退いた。一瞬の差が命拾いとなった。

高速で飛来したミサイルが、先程Jのいた場所を爆破する。

「これは……!?」

ガジェットの攻撃ではない。

「ピア・デケムの艦載機かっ」

 

その頃。

凱は戦いが起こっているのを知りつつ、出撃できない事に苛立っていた。

だが、自分にやるべき事があるのだ。

「待っていろ、ペンチノン……もうすぐ解放してやる──」

全神経を集中し、トモロの停止コマンドを打ち砕かんと戦いを続ける。

 

「遊星主自らお出ましか……」

クロノはモニターに映りこんだ艦影に、苦々しく呟いた。

次元の海を越えて本局の前に現れた巨大空母。

ピア・デケム・ピットの威容は、遊星主のおごましさを象徴しているように思えた。

 

「空間転移とは……便利な技術ですね」

ローブを着た少女──アベルが隣に立つ人影に言った。

「お褒めにあずかり、光栄ですわ」

そう答えたのは、背の高い、美貌の女性である。彼女がガジェットI型の集団を本局へと送り込んだ人物だった。

「時空管理局。我々にどこまで抵抗できるでしょうかね……」

「ところでアベル様、彼女も出撃させますか?」

「もう少し見物してからでもいいでしょう。ウーノ」

冷たい遊星主の微笑に、戦闘機人ウーノは、似たような笑みを浮かべて頷いた。

ピア・デケム・ピットには、無限に小型艦載機を生産できる機能がある。

ガジェットのような半自律型ではないが、体当たりも辞さない攻撃は厄介とも言えた。

その艦載機の群が空母から無数に飛び立っていく。

提督達は緊張の中、稼動可能な艦船を指揮し、戦陣を組んで激戦に備えた。

「ジェイアークを破壊させるな」

クロノは艦隊に命令した。

本局の周囲は、内外が戦場となり、力と力がぶつかり合う。

「ジェイアークは私のモノです。あなたがたの好きにはさせません……」

アベルの声には暗い情念がこもっていた。

「そろそろ彼女を向かわせなさい」

「かしこまりました」

ウーノが一礼し、かつてスカリエッティに対していたように、うやうやしく頭を下げた。

「さぁ。お行きなさい──ジェイアークを取り戻す為に」

ウーノは一人の戦士を転送した。

ガジェットの残骸が散らばる路の真ん中。

彼女は音もなく実体化した。

その場にいた武装局員達は、一様に驚きの表情を浮かべた。

「新手の敵か!!」

魔導師は彼女を囲むように配置につくと、直射型砲撃魔法を放とうとする。

「IS──」

彼女は、短く口にした。

「ライドインパルス」

電光のごとき攻撃だった。

目に追えぬ速度で彼女は武装局員を打ちのめす。

「……!?」

何が起こったのか理解できぬまま、倒れ伏す者達。

「こいつ、まさか!」

「戦闘機人……!?」

JS事件について知識のある者が、青い貌で身を震わせた。

そして──

「はぁぁぁっ!!」

破壊の嵐を撒き散らす様に。戦闘機人トーレは、通路を塞ぐ魔導師を瞬く間に打ち倒し、疾駆した。

目指すは白き箱舟──ジェイアークである。

 

「おとなしく、観念しろ」

シグナムは、レヴァンティンの切っ先を戦闘機人に突き付けている。

ガジェットIII型の上に立ったクアットロは無言でシグナムと相対した。その表情にまだ余裕を崩してはいない。

ジェネシック・ガイガーとシグナムに挟まれ、クアットロは不利な様に見えた。

しばし、時間が凍りついた。

周囲ではガジェットと魔導師との戦いが続いている。

「これ以上罪を重ねてなんになる──」

シグナムは投降を促した。

「せっかく自由の身になったのに、どうして投降する必要があるの?」

外套をはためかせ、クアットロは告げた。燃える瞳で睨みつける。

「私は……今度こそ、ドクターの夢を叶えるのよ」

ギラリ、と彼女の眼鏡が光ったような気がした。

「その前に。お前達を潰す──計画を成就させる儀式として、ね」

完璧なはずだった、スカリエッティと彼女の計画。

しかし、それはエース・オブ・エースの予想だにしなかった力の前に頓挫してしまった。

クアットロにとって屈辱的とも言える敗北だ。

「管理局の牢獄からあの方達に救い出され、今一度、夢を果たす機会を得た……」

(あの方達、だと?)

シグナムは軽く引っ掛かりを覚えた。

「そしてまた、罪なき人々を巻き込むのか」

シグナムの怒気を含んだ言葉も、クアットロにはくだらないざれ言だった。

「ふん……」

軽蔑の視線をベルカの騎士に送り、

「私達の計画の再始動の前段階として、六課全員を皆殺しにする──」

妙にうっとりとした、歌でも歌うような調子で、クアットロは話しだした。

「それからついでに、ドクターを裏切ったお馬鹿な子達を始末してあげるの」

その時の事を考えると、様々に残虐な想像が浮かび、たまらなくなった。

「自分の姉妹たちを手にかけるつもりか──」

外道め、とシグナムは思った。

「あんな馬鹿な子たち、もう妹でもなんでもないわ」

クアットロは鼻で笑った。

心の底から妹機を蔑視しているようだ。

「……ならば、ここで仕留めておく必要があるな」

言いながら、カートリッジを排莢する。

「私を見くびらない方がいいわよ」

彼女は、不敵に発言した。

「いままで散々、姑息な手を使ってきた者の言葉とも思えんな」

ゆりかご戦において、安全な場所に隠れ、ヴィヴィオになのはを倒させようとした。参謀としては優秀だが、戦闘機人としての戦闘力は大したものではなかったはずだ。

「お前みたいな下っ端相手なら、別よ」

なのはやフェイト……あの、化け物エースがいないのなら。勝ち目はあると確信していた。

守護騎士についてある程度、情報を入手していたが、ベルカの騎士など時代遅れのガラクタだと認識していた。

クアットロは手を振り、ガジェットII型を呼び寄せる。

II型とIII型が八十機。

「雑魚をいくら呼んだところで……」

シグナムは跳ぶ。

護が同時に動いた。

挟撃するつもりだ。

「ふっ」

次の瞬間、クアットロとガジェットの姿が掻き消えた。

「奴のインフューレント・スキルか!」

先天技能シルバーカーテンには、大規模な幻術で対象を透明化する能力があった。

シグナムは消えた敵を探ろうとした。そこへ、何もない空中から熱線が発射される。ガジェットIIのビームだ。

すんでのところで回避し、体勢を整える。

(奴自信は自ら戦わない……あくまでガジェットに攻撃させるはず)

敵の位置が掴めないのでは、近接戦が得意な彼女には不得手だ。

(せめてテスタロッサか主はやてがいればな……)

だが。

「僕には通用しない!」

ガイガーはクアットロには騙されない、センサーがその姿を捉えた。

「坊やこそ、私の力を知らなすぎよ」

クアットロはISを発動させた。

「──!?」

ガイガーは突然、動きを停めた。

制御機構が働かない!

すぐに、推進力が失われた。

「うわぁぁっ──!!」

「電子機器を自在にコントロールする……それが私の《シルバー・カーテン》の真骨頂よ……ふふふ」

ほくそ笑む彼女の前から、巨人が墜落していく。

「くっ、間に合えっ」

とっさにガイガーを追いながら、シグナムは防御魔法を展開。

魔法がクッションとなり、地面に衝突しようとするガイガーをどうにか救った。

しかし、ガイガーは破損は無かったとは言え、横たわったまま指一本動かす事ができなかった。ガジェットから機体を守るため、さらにシグナムは結界でガイガーを包んだ。しばらくはもつだろう。

「《カインの遺産》とやらも、所詮は機械。私の力の前では無力も同然──」

シグナムは再びクアットロの声のする方へ飛んだ。

「あの巨人は用無しになった。次はベルカの騎士……お前をいたぶってあげる」

「貴様──」

「八神はやての部下は一人残らず八つ裂きにする……」

狂気とも呼べる妄念が、クアットロを支配していた。

だが、それでもシグナムは怯まない。

「やれるかどうか、試してみるか」

淡々と言い、レヴァンティンを構えた。

姿なき敵群に囲まれてもなお、冷静だった。

クアットロが想像した動揺は全く見られない。

「この……!」

クアットロはその態度に、怒りを覚えた。

 

一方。

海上隔離施設の中では収監されたナンバーズ達が、不安におののきあっていた。

「なぁ、なんで……ガジェットが襲ってきてるの?」

「そもそもどうしやって動いてるんだ」

「あいつらって、ドクターや姉様の指示で行動してなかったっけ?」

「じゃあ、ドクターや姉様達は捕まってないのかよ」

「管理局が嘘ついた、と……?」

「私達を助けに来たのかな!?」

彼女達を別の場所に避難させるため、武装隊員二人が駆け付け、連れられて房を出た直後、ガジェットが通路の壁をぶち抜いて出現した。ガジェットは撃退されたが、ナンバーズ達の動揺は収まらない。

彼女達は姉等が拘置所を脱走したことや、遊星主がそれに介在した事を知らないでいた。ましてや、姉のクアットロが彼女達を抹殺しようと考えているとは、思い付くわけもなかった。

「あいつら私達も破壊しようとしたよね……!?」

「ガジェットは半自律型の機械だったな。それが暴走しているのか……?」

ディエチの言葉に、チンクが首を捻ったが、明確な答えは出ないままだ。

とにかく、避難だ。隊員に先導されて彼女達は通路を先に進んで行った。

 

「ルールー……なんかやばくないかい」

犯罪者の更正を行う施設でもあるこの建物には、レクリエーション用施設もあった。そこをルーテシアはアギトに付き合って散策しているところ、ガジェットの襲撃に見舞われた。二人は慌てて自分達の房へ戻ろうとしたのだが、その途中でガジェットI型が地下から出現し、進路を阻んだ。

戦闘の余波で、周囲に熱線や炎が飛び散ってくる。

「どうなってんだよ……一体っ」

「わからない」

ルーテシアは呟いた。

まさか、別の宇宙から来た者達による計略だとは夢にも思わない。

「ヤバいよ、ガジェットがこっち向かってくる」

「……!」

どうする?

全ての能力が封じられているため、ガリューや白天王を召喚する事も不可能だ。

アギトも炎熱能力が使えない。ならば。──

「逃げるのよ、アギト」

ルーテシアは踵を反して走り出した。

ガジェットの一撃をよけ、施設内に逃げ込む。

(私達の様子は常に監視されてるから……すぐに助けが来るはず)

それまでに、ガジェットに捕まらなければ……。

ルーテシアとアギトは小さな身体を必死に動かし、逃走した。

 

その場にクアットロが居れば、「私達を裏切った罰だわ」と言ったかもしれない。

ガジェットが三機。威嚇するように、ナンバーズ達に凶器を向ける。

「おいっ、早くそいつを倒せよ」

ウェンディがガジェットと戦っている隊員に叫んだ。

遭遇したガジェットは五体。

隊員は各一機と交戦中だ。

「ISが使えないって時に……」

能力の封印で、反撃する余地がない。戦闘機人だから、そうやすやすと破壊はされたりはしないだろうが、それも時間の問題だ。

「畜生、狂いやがって。目を覚ませ、私達は仲間だろ」

かつてドクターに仕えた仲だというのに……。

「聞く耳は持ってないようだ!」

繰り出されるアームケーブルの打撃を回避して、セインが言った。

「ディープ・ダイバーが使えれば脱出もやりやすいんだけど……」

執拗に私達を狙う? なぜだ? やはり狂っているのか。

「妹達は──」

チンクが皆の前に出た。

「姉が守る!!」

例え《ランブル・デトネイター》が使えなくても、戦う。大切な妹達を傷つけさせないという気迫が、小さな背を大きく見せていた。

ソルダートJと同じく、守るべき者の前に立ち、不動の構えをとった。

「チンク姉!!」

アームケーブルが、力を封じられた戦闘機人に襲い掛かる。

 

電子機器を狂わすクアットロのISによって、ガイガーは金縛りにあったかのように、自由を喪失していた。

(身体が動かない……)

唇を噛んで、もがく護。

(くっ。僕じゃ駄目だったのか……)

これが凱兄ちゃんなら、エヴォリュダー能力で機体の制御を取り返していただろうか。

(本当の勇者なら……こんな攻撃に……)

びくとも動かぬ四肢に焦り、煩悶する。

(ギャレオンへのフュージョンは……やっぱり凱兄ちゃんでなきゃ、駄目なのかよ!?)

ギャレオンの意思は、そんなことはないと伝えてきたが、護の胸には悔しさでいっぱいだった。

上空ではシグナムが戦っている。早く、手助けをしに行きたい。

だけど……

(僕だって、凱兄ちゃんみたいに……!)

護は気力を振り絞った。

Gストーンに意識を集中する。

(勇気ある限り!Gストーンは無限の力をくれるんだ!!)

Gストーンが輝きを増していく。

少年は、無限情報サーキット・Gストーンの奇跡を願った。

かつて、物質昇華に苛まれた勇者を、超人エヴォリュダーへと進化させた命の宝石を。──

音なき咆哮がガイガーから響いた。

「はぁぁぁぁぁっ!!」

ジェネシック・ガイガーの額のGストーンが、鮮やかに光を発した。

「……なっ!?」

まばゆい緑光の放射を下方に見て、クアットロが驚愕する。

「馬鹿な。私の……」

澄んだ砕音と共に、ガイガーが立ち上がった。

折しも、曇天の空が緩やかに晴れていき、一条の陽光が地上に差し込んだ。

まるで祝福のように、太陽がガイガーを照らす。

「そんな。シルバー・カーテンの力が……」

クアットロは激しく狼狽した。あれほどの余裕が吹き飛んでいる。

「また──」

私の目的はあと一歩のところで阻害されるのか。

胸中で罵り言葉を叫ぶ彼女に、ガイガーが跳躍した。

「次は負けない!」

ジェネシック・クロウの攻撃は、的確にクアットロの乗るガジェットを引っ掛けた。

「しまった!!」

クアットロはガジェットから放り出された。衝撃に彼女は透明擬装を解除する。

自力で飛行せざるを得なくなった。

「ちっ……」

姿を現した戦闘機人に、シグナムが向かう。

「紫電一閃!」

神速の斬撃が叩きこまれる。

が、シグナムが斬ったクアットロは──

「幻影か……!」

以前にも使った手だ。

クアットロは幻影を操るのを得意とする。

「ふん。なまくらデバイスなんかに私がやられるものか」

数十人のクアットロが、一斉に言った。

「シグナムさん!」

護がシグナムに近寄った。

「……クアットロ、貴様こそベルカの騎士を舐めているぞ」

ガシュッ!!

カートリッジ・ロード。

「見せてやろう。古代ベルカの騎士の本当の力を……!!」

「滅びた文明の騎士風情がなにを」

「烈火の将にして、剣の騎士シグナム、参る!」

レヴァンティンが炎を纏う。

シグナムの先天資質。炎熱変換である。

「ふん」

クアットロはシグナムとガイガーを、ガジェットに包囲させる。幻影を使いその数を増やした。

「まずはお前達の屍を築いて、八神はやてを絶望の淵へ落とし込んでやるわ──そして、殺す」

「させん!」

「とっとと、死になさい──!!」

ヒステリックな絶叫を合図に、四方からガジェットが迫り来る。

「陳風一閃──!」

《Sturmwinde!》

シグナムが、レヴァンティンを振り抜いた。

「やった!」

護がはしゃいだ声を上げた。

シグナムの一撃はガジェットを数機まとめて葬る威力を見せたのだ。

「くっ。距離をとって集中的に熱線を浴びせるのよ!」

ガジェットから雨のようなビームの攻撃が撃ち込まれた。

「うわっ!」

ガオガイガーと違い、ガイガーは防御能力を持たない。

それゆえ彼の分まで、シグナムが防御しなければならない。バリアではないフィールド系ではガードがしにくい。

「レヴァンティン!!」

《Schlangeforme》

刀身がシュベルトフォルム()から、シュランゲフォルム()へ、形状を変えていく。

《Schlangebeisen──》

糸玉が解けるように、長い、刃の連結した鞭と化したレヴァンティンから、近・中距離用攻撃が繰り出された。

掬い上げるような、動作の後に、ビームごと、ガジェットが爆散していく。

「なんだ。この魔力は──カートリッジ式とは言え……」

「生憎だが、事前に主はやてに頼んでリミッターは外させてもらった」

普段は魔導師ランクを下げるため、はやての部隊ではリミッター制限をかけられていたのだ。しかし、未知の遊星主相手であるため、隊長陣や守護騎士達はリミッターを外す許可が出ていたのである。

「す、凄いや!」

歓声を上げた護は、スラスターを吹かせガジェットに立ち向かった。

「僕も頑張らなきゃっ」

ガジェットを鋼爪と拳で打ち崩す。

「ガジェットは僕が引き受ける。だから……」

「承知した!」

シグナムは加速した。

クアットロを撃墜するつもりだ。

「ひっ!」

怯えた彼女は、シルバー・カーテンで再び透明化しようとした。

「そうはいかん」

シグナムはレヴァンティンを鞘に容れていた。

クアットロがいた位置まで一気に飛翔する。

「ロードだ!!」

《Jawohl.》

カートリッジ三本消費。

《Explosion!!》

鞘に収めたままロード。

魔力が刀身に圧縮される。

「──わ、私を守りなさい」

クアットロはまたガジェットに命じて、我が身を守る盾にした。

《Schlangebeisenangriff.》

鞘から抜かれた時、レヴァンティンはシュランゲフォルムになって出てきた。

その連結刃は炎を宿していた。

空を火焔の鞭が(はし)る。

空間全体を切り裂くような。

凄まじい破壊だった。

「そんな……!」

ガジェットは砕かれ、微粒子となって消滅した。

だが。そんな仲間達の敗北も、ガジェットを退かせる事はできなかった。

感情を持たぬ機械故に、怖れもなく騎士に殺到する。

「飛竜一閃!!」

放たれた技が、レプリガジェットの群れを塵埃に還す。

クアットロまで、もう目の前だ。

「覚悟しろ」

紫電一閃を撃つ構えで、シグナムは上空から襲い掛かった。

「ひぇっ」

情けない声を発し、クアットロは逃走する気配を見せた。

ISを発動させ、今度こそ透明擬装を──

「うっ!?」

追撃するシグナムに向かって、炎が直撃した。

まるで、クアットロと彼女とを分かつようなタイミングだ。

炎熱変換の資質を有するシグナムには、何らダメージを与えるものではなかったが、気勢を削ぐ事には成功していた。

「何者だっ」

シグナムが誰何した。クアットロはその正体を知っている。

仰いだ目に、蜂に似たシルエットが逆光の中に浮かび上がった。

「眼鏡ちゃぁん。小物相手になにを手間取ってるの?」

その女は際どい衣装に身を包み、巨大な針を尻から生やしているという、異形の姿の持ち主であった。

「ピルナス!」

「そろそろ、面白い事が始まる時間よ。戻ってらっしゃいな」

「でも、こいつらを──」

「いつでも潰せるでしょ、こんなの」

シグナムを一瞥して、ピルナスは答えた。明らかな蔑みを含んだ口調であった。

悔しがるクアットロだったが、内心では、命が救われた事に安堵している。

「どうして、お前が!?」

ガジェットを片付けたガイガーがシグナムに合流した。

クアットロの隣に遊星主ピルナスを認めて、護は驚いた。

「ラティオ……久しぶりねぇ」

ピルナスはカインの息子に、懐かしがる様な声で呼び掛けた。

「残念ながら、お前の相手は別に用意されてるの。遊んであげられなくてごめんなさい」

なにを企んでいる!?

護は問い質そうとした。

「間もなく、アベルの計画したフェスティバルが始まる。大人しく待っていなさい」

「それは──」

ピルナスはクアットロを促し、戦場から離れようとした。

「ラティオ。あの子猫ちゃんによろしく言っといてね。このピルナスがまた、たっぷりいたぶってあげるって。ふふふふふ……!」

遊星主は、ルネへの伝言を預ける。

「次こそは、お前達を必ず──」

そう言い残し、クアットロが遊星主ピルナスと一緒に上昇していく。

「待てっ!」

護とシグナムが追いかけるが、ガジェットの残機が邪魔をした。

「退け!」

複製された機械兵器は二人の攻撃に、あっさりと倒される。

しかし。その時にはもう遅く、敵影はすでに天空の彼方に消え去った後であった。

「く……」

苛立つシグナムだったが、ふと、地上の騒擾が視界に入った途端、あっとなった。

「そうだ、施設はどうなった!?」

ギンガ達なら大丈夫だと思うが、クアットロの妹に対する憎悪を目の当たりにした彼女は一抹の不安に駆られる。

「私は隔離施設を救いに行く。お前は残ったガジェット共を!」

「わかった!!」

シグナムは急ぎ、施設上に降下していった。

 

魔力で強化された打撃が、ガジェットの胴を貫いた。

鋼鉄を突き刺す貫き手。

「貴様……タイプ・ゼロ」

己の大破を覚悟していたチンクは、呆気にとられた顔で、ギンガを見上げた。タイプ・ゼロとは、以前、ギンガがスカリエッティの13番目の戦闘機人として協力していた時、彼らから受けていた呼称である。

「よかった。間に合った」

続けざまに蹴り技で一体を潰し、最後も髪をなびかせたギンガは、シューティング・アーツで鮮やかに打ち倒した。

「ギンガ!!」

「ふぅ、壊されるかと思ったぜ」

「助かったぁ」

「みんな無事みたいね」

ギンガは笑顔でナンバーズ達を見回した。

「ギンガ、早く彼女達を転送ポートへ」

「えぇ」

武装隊員の言に、ギンガは頷いた。

「すまん。助かった」

チンクが礼を言った。

「私はいわば貴女達の保護者だしね、当然よ。それより皆着いてきて、脱出するわよ」

「どこに?」

ノーヴェが疑問を口にした。

「アルトセイムよ。そこの地下にここみたいな隔離施設があるの」

「山の中かよ。こっちの海のとこのがいいのになぁ」

と、海上の景観が気に入っているウェンディが零した。

「一体、何が起こっている?あのガジェット共は。あんな消え方をするなんて」

「あのガジェットは貴女達の仲間だったものとは違うわ」

と、ギンガはチンクに答えた。

「じゃあ、つまり──」

「あの、ガジェットは複製なの。それを創りだしたのが、別の世界から来た遊星主とか言う存在よ」

一行は立ち止まる。またガジェットが現れたのだ。

ギンガ達はまた戦い、粉砕した。

「遊星主って?」

セインが訳がわからぬ表情で訊いた。

「とんでもない質量兵器を使う、常識外れの連中よ」

「ゆりかごみたいな?」

「ゆりかご以上ね」

ナンバーズ達は絶句した。

「後で映像記録を見せてあげる。信じられないわよ、きっと」

ギンガは軽く苦笑しながら言う。戦闘機人は半信半疑で、彼女の後ろを着いて行く。

やがて。

ずぅぅん、という、鈍い音が遠くから振動とともに聞こえてきた。

空での戦いは護と二名の空戦魔導師に任せたシグナムは、いまだ地上に数多くうごめくガジェットI型に剣を向けた。

II型、III型はほとんどがシグナムとガイガーに駆逐されているため、急務は拘留中の犯罪者達と施設の救援である。

武装隊は健闘していたが、一気にガジェットを殲滅する事はできなかった。

「あれは──」

くぐもった爆音がした。

見れば、施設の奥まった場所から炎と煙が吹き出ている。

「あそこは転送ポートだぞ」

『警告!! 転送ポートはガジェットの攻撃で破壊された』

呻く声を皆は発した。

『本局やミッド各地の中継ポイントに転送する事ができなくなった……』

転送ポートの警護に当たっていた隊員は、自責の念に満ちた顔で、そう告げた。

「なんてことだ」

シグナムは建物の中を駆けながら、ギンガ達を探した。

拘留者を転送ポートから逃せる事が不可能になったため、別の手段をとる必要がある。

そこにヴィータから連絡が入った。

『おい、シグナム。大丈夫か』

「あぁ、なんとかな。だが、転送ポートが破壊された。我々は自力でミッドまで拘留者を護衛して運ぶ」

『あたし達は、首都の敵をほぼ掃討した。いまそっちに向かってる』

通信モニターには、ヴィータが海上隔離施設に向けて高速で飛んでいるのが映っている。

『それと、はやてが海上警備隊の艦をそっちに派遣するよう、要請している』

「助かる」

『あたしももうすぐ着く。それまでしっかり頼むぜ』

そう言うと、通信を切った。

シグナムは苦笑する。

部下の前では上官としての口調を徹底している彼女だが、同じ守護騎士同士だと昔の話し方になった。

「む……」

破壊の爪痕が刻まれる施設内部。その一画に、倒れた武装隊員が転がっている。シグナムが駆け付けると、彼は気絶しているようだった。肩と背中にダメージを受けた傷がある。そこから近い場所で、隅の部屋のドアをアームケーブルで叩き壊しているガジェットがいた。

バキッと頑丈なドアが裂け、破片が散る。

部屋の中から大きな悲鳴が聞こえた。聞き覚えのある声だった。

「アギト!」

シグナムはガジェットの両断し、部屋の中を確認した。

「シグナム~!!」

ルーテシアとアギトが机や椅子で、バリケードを築こうとしている所だった。

「二人とも、怪我はないか!?」

「あたい達はなんともないよ」

アギトの言葉に、ルーテシアが無言で頷く。

「でも、あたい達を助けてくれた局員の兄ちゃんが……」

あの倒れていた魔導師か。

シグナムは二人を連れ出すと、ガジェットに敗れた隊員を介抱した。

「面目ありません……」

息を吹き返した若い武装隊員は、バツの悪そうな表情で言った。

彼は、まだ魔導師として管理局に採用されて間もない新人で、AMF下の戦闘には不慣れだった。

ちなみに、デバイスは汎用的なストレージ・デバイスだ。

「シグナム。あたい達はどうしたら」

現状を聞いたアギトが、ルーテシアにしがみつきながら問うた。

「とりあえず、私はギンガや戦闘機人達を助けに行く」

「あたい達も一緒に」

「危険だぞ。これから行く区画はガジェットがまだ暴れている」

「貴女と一緒の方が、安全だわ」

と、か細い声でルーテシアが言った。幼い容姿に見合わない、落ち着いた挙止であった。

「貴女方に着いて行った方が生存率が上がると思う」

シグナムは二人は敵の少ない外部で守って貰おうとしたのだが、自分の回りにいる方が心配する必要がなくなると考えを変えた。

「わかった。私達の側を離れるなよ」

「あぁ!」

アギトが元気に返してきた。

ルーテシアはこくこく、首を振る。

もう一人の武装隊員と共に、施設深く入って行ったギンガを追ってシグナムは向かっていった。

 

少し時間を巻き戻すと。

ナンバーズをすんでのところで救ったギンガは、戦闘機人達を逃がすため、転送ポートに急いでいた。

だが、すぐ後に転送ポートがある区画がガジェットにより破壊された事を知り、行き先を変更する。

「緊急用の脱出通路から外に出るわ」

シグナムから通信が入った。

『私はルーテシアとアギトを保護した。そちらはどうだ?』

「ナンバーズ達は救出しました。ですが転送ポートが使えないので、魔法でここから脱出するしかありません……」

『とは言え、クアットロがいる。転送魔法だと妨害される可能性があるな』

「クア姉もいるの!?」

と、ノーヴェが目を丸くして尋ねた。

『奴は逃げた……お前達を──いや、その事は後で話す』

姉が、自分の姉妹を抹殺するつもりだった、とはシグナムといえど、この場で口にするには躊躇われた。

『後はガジェットだけだ。ヴィータ副隊長達もこちらに向かっている。我々だけでどうにかできるはずだ』

戦い慣れした魔導師なら、ガジェットはもはや恐ろしい敵ではない。

『ギンガ、いまどの辺にいる』

ギンガは自分達の現在位置を伝えた。

シグナムは合流地点を定めてそこで落ち合おうと、提案した。

「解りました。では──」

ギンガは合流する場所を指定した。了承したシグナムは通信を切る。

「ルーテシアお嬢様、無事だったんだなぁ」

セインがホッとした様に呟いた。

スカリエッティの元にいた時、ナンバーズ達はルーテシアを「お嬢様」と呼び、敬ってすらいた。それは変わらずに至っている。

ガジェットとの遭遇戦をくぐり抜け、ギンガとシグナム達は合流を果たした。

拘留中だった他の犯罪者達も、なんとか護衛されて建物を脱出していた。

 

管理局本局。

凄まじい殺気を放ち、新たな敵が武装隊員達を打ちのめしていた。

がっしりとした体格をした、短髪の女。

光の翼を手足に生やし、縦横無尽に疾走する。

「トーレ!?」

スカリエッティのアジトで戦った戦闘機人の姿を見て、フェイトが驚いた。

では、やはり衛星軌道拘置所を襲い、戦闘機人を逃亡させたのは遊星主なのか。

「しかも、今度は本局にまで……」

「主命により、ジェイアークを貰い受けに来た」

「なんだと!?」

Jが怒った声を上げた。

艦船ドックの発着ポート。

そこに、ジェイアークを守るため戦力を固めて配置していた。

「アベルの差し金か」

Jがプラズマの剣を腕に宿して立ちはだかる。

「ジェイアークは貴様らには渡しも、破壊もさせん」

「面白い……」

異界の戦闘機人と戦うのも一興だ。

「J、そいつは強い。気をつけて」

フェイトの警告が飛ぶ。

「アベルに力を封じられた失敗作が私に敵うと、な……笑止だ」

トーレはISを発動。

「ライドインパルス────!!」

トーレの肉体が音速に匹敵する速度で加速した。

Jも邀撃の態勢に入る。

フェイトも加勢するため、真・ソニックフォームで跳ぶ。

《ZamberForm》

カートリッジをロード。

「ディードとの連携がなければ!!」

スカリエッティのアジトでの戦闘とは逆の状況だ。フェイトは勝利を確信する。

輝く刃が、トーレを挟撃した。

「ぬんっ……!!」

人間の動きを越えた体捌きで、二人の攻撃を受け流す。

だが。

「貴女の攻撃は、あの時に見切っている!!」

フェイトは華麗にライドインパルスの翼を避け、大剣となったバルディッシュを打ち込んだ。

「ぐあっ」

空中で、トーレが傾いだ。

腕を斬られた。

「──もらった!!」

Jのラディアントリッパーが、死角からトーレを切り裂く。

脇腹に斬撃を受けたトーレは、痛みに怯まず蹴りを放ってくる。

Jは蹴りで受け止め、中断から斬りつける。

「ちぃぃっ」

トーレがライドインパルスの翼で弾き、床に降り立った。

Jは久しぶりの白兵戦に、熱くなっていた。

「トーレ。大人しく捕まる気はない?」

フェイトは職務上、投降を呼び掛けるが、トーレは無視。

「ならば。叩きのめせばよい!」

Jが疾った。

フェイトはプラズマランサーを起動させ、トーレに照準を合わせる。

戦闘機人は待ち構えた。

「──どうやら、ここは貴女の力だけでは難しいようですね」

「はっ!?」

トーレは振り向いた。

そこに、ローブをまとった幼い顔立ちの少女がいた。

「アベル……!」

Jが足を止めた。

遊星主の指導者とは、この世界において初めて遭う。

「アベル、邪魔をするな」

と、トーレは釘を刺した。

戦闘機人は忠誠心まで遊星主に捧げたわけではないようだ。

「私は、彼らを圧倒する力を授けに来たまでですよ」

「どうやって、ここに──」

フェイトがランサーをセットしたまま、アベルに問うた。

「ガジェットとやらが派手に活躍してくれたおかげで、楽に侵入できましたよ……ふふ」

「なんですって──」

と、小さく呟いたのは、別の場所でガジェットと戦うなのはだった。ドックの周囲の光景は、モニターで把握出来るように通信を繋いでいた。

「J、これを覚えていますか?」

アベルは懐から何かを取り出して訊いた。

「そ、それは!?」

「ふ。貴方が忘れるはずもありませんか」

Jは押し殺した声で、

「なぜそんなものを持っている」

「懐かしいでしょう? J……」

アベルはトーレに近寄ると、一瞬でその物体を彼女の額に押し付けた。

「あ……あぁ……っ!」

「やめろっ……!!」

Jは制止の叫びをあげた。

しかし、もう遅い。

トーレの身体が変化していく。

「ファイア!!」

フェイトは得体のしれぬ恐怖を感じて、プラズマランサーを撃つ。

アベルはそれを自分の体から生やした、無数の火砲で、ランサーを相殺してしまった。

「うそっ……」

アベルはJに猫撫で声とも呼べる声で、

「さぁ、J。貴方に今一度、戦士の使命を授けましょう。死ぬ前に、ね」

「貴様……!」

「創造主としてのせめてもの情けですよ。……存分に戦いなさい。」

高笑いをあげ、アベルは飛び去ろうとした。Jが追おうとする。

そこへ──

「J!!」

巨大な打撃が振り落とされた。Jは跳躍して回避。

フェイトは、冷や汗を垂らした。

「こいつは……なんなの?」

と、トーレの成れの果てを見上げた。

「く……アベルめ」

Jは歯ぎしりした。

 

首魁は逃したが、手駒となった機械兵器はあらかた消えていた。

「気になるのは、あの遊星主が言った『面白い事』だが」

「本局にも遊星主が侵攻していると言いますし、早くなんとかしないと……」

シグナム達は荒れ果てた海上隔離施設の一隅で、管理局の艦が来るのを待っていた。

護もフュージョンアウトし、ガイガーはギャレオンに戻っている。

そこにヴィータらも駆け付け、施設に侵入したガジェットは全て撃破していた。

「一体、あいつら。何を企んでいる?」

ヴィータはシグナムの横で、苛立だしげに言った。

「わからん……それより、本局の方も心配だ」

「そうだな。なのは達が……」

それは突然だった。。

『ミッドチルダの諸君!! 元気にしてたかね?』

若い男の声が、大音声で轟き渡った。

「なっ、なんだ!?」

「シグナム空尉、クラナガンからの中継を──」

『シグナム、これはどういうことや?』

地上本部から、はやてが青ざめた顔で困惑した思いを口にしてきた。通信モニター越しに、シグナムはわかりません、と答えた。彼女に何が起きつつあるのかなど、推測できるはずもない。

困惑の原因は、首都から送られてきた映像にある。

ガジェットはすでにいなくなり、閑散とした町並みに、一人の男が立っている。

『これは、夢か……』

はやての表情が強張る。

「そんな、まさか──」

ギンガも瞠目した。

「なんでこいつがいるんだよぉ!?」

ヴィータがモニターを凝視する。

白衣を着た、長身の男。

生けるロストロギア。

「ジェイル・スカリエッティ……」

「馬鹿な、死んだはずだろ、奴は!」

その光景を、クラナガン市街内で見ていたゲンヤ・ナカジマ陸佐は、思わず声を荒げた。

「俺ぁ、あいつの首なし死体の証拠画像を、この目で確かめたんだぞ……」

フェイトによれば、スカリエッティは遊星主ピア・デケムの鎌に刈り取られたはず。

「なぜ、奴が再び──」

 

護には、心当たりがあった。

おそらく……

「あの人も、レプリジンなんだ。きっと」

どんな魔導師にも──例えば、プレシア・テスタロッサの様な──にも、死者の完全蘇生は不可能だった。

もし、可能性があるのなら、スカリエッティのレプリジンを遊星主が作り上げた、ということだ。

「ピサ・ソールはデータさえあれば瞬時に複製を創造できる……」

ガジェットのレプリジンが造れるのなら、スカリエッティのレプリジンを造ったとても不思議ではない。

『さて、諸君。これより私の実験を再開する。究極の生命体を造る、という、ね──』

くくく、と楽しげにスカリエッティが笑った。

『私が考えた祭は、まだまだこれからだよ』

「おい、あれ……」

スカリエッティの隣に、逃げたクアットロとピルナスが現れた。

「あいつら!」

『さぁ、この街全てを蹂躙しなさい』

ピルナスは掌に奇妙な物体を握っていた。

まがまがしい紫色のそれを、スカリエッティに取り付ける。

『楽しいお祭りを始めましょう!』

「なんだよ、あれは!?」

ヴィータが喚く。

護は信じられないという面持ちになった。

「どうして──それを……」

『おぉ…………』

歓喜に堪え難い、といった表情でスカリエッティが両手を広げた。

「ねぇ。ドクター、どうなっちゃうの?」

混乱してウェンディが言った。

「人じゃ、無くなる……」

護はぽつんと、呟いた。

その髪が逆立ち、緑に輝く。

「妙な反応が……?」

戦闘機人の目で分析していたノーヴェが、未知の要素をスカリエッティから感じとった。

護は厳しい眼差しで、モニターを見ていた。

「あっ……!」

普段は感情を表にしないオットーが、驚愕した。

紫の石とスカリエッティの肉体が融合し、瞬く間に膨張する。その近くで、クアットロが恐怖に染まった瞳を主に向けていた。

『この世界のマイナス思念を持った有機体を、全て喰らいなさい! Zの力よ!!』

『ぞぉぉんだぁぁぁぁぁぁ!!』

禁断の、滅んだはずの力が、また解き放たれていく。

「なぜだ、なぜなんだ──!!」

護は遊星主に対して、激しい怒りの感情を発露した。

その叫び声に同調するように、ギャレオンが吠えた。

そして、悪夢が蘇る。

 

 

 

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