空高く。
奇跡を起こす輝き。
(これは……まるで……)
騎士は熱く風を巻き起こし、舞い上がる。
(フュージョン──)
天海護はその光景に、不思議な既視感を抱いた。
「いくぞ、アギト!」
シグナムは腕を広げ、融合騎へと合図した。
「おうっ」
胸を高鳴らせ、アギトは新たなロードに応える。
二人の身体が重なった。
「「 ユニゾン・イン!! 」」
古代ベルカの騎士に、アギトが溶け込んでいく。
(熱い……!)
シグナムの裡にあるものに触れ、アギトは震えた。
普段はクール然としたシグナムだが、その胸には、常に燃え盛る火焔が渦巻いていたのだ。
(これ……っ)
融合騎はロードと一体化しながら、力を同調させる。
肉体、魔力、そして記憶──
シグナムの全てがアギトのものと融合する。
(昔、昔の……遥かな記憶?)
アギトの脳裏にフラッシュバックするイメージ。
途切れ途切れのそれらは、戦乱の時代を描いていた。
(シグナムが、見てきた……戦いの……)
流れ込む記憶。そして想い。
(闇の──いや、夜天の書の、守護騎士……ヴォルケンリッターの将──)
主との、出会い、別れ。喜び、悲しみ。死闘、敗北。勝利、消滅。絶望と──
アギトは膨大な記憶に押し潰されそうになった。
(──希望)
シグナムが最後に出会った希望。守るべき希望。
贖罪。
「騎士の……剣に誓って……」
守り、戦う。
「あぁ。あんたは……やっぱり、あたいに似てた……」
この身を託すに足る、主に出会いたい。
「自分の全てを受け入れてくれる……主──」
アギトの魂に温もりが拡がる。
「戦う為だけに生まれてきたあたい達にも、幸せをくれる人は、いるんだな……」
シグナムの中にも、アギトの想いが伝わる。
実験による苦痛。覚えていない過去。長きにわたる孤独。ロードなき融合騎の寂寥。
世界のどこかに自分を使ってくれる主が、きっといる。
ゼストと出会い、初めて幸福を手に入れたと思った。
だけど、ゼストは──
「お前は、こんなにも羨望と絶望を小さな胸に抱えていたのだな……」
アギトの心を見つめ、シグナムは吐息した。
「ならば。私がお前に希望を与えてやる」
己の中に入ってくるものに、強く語りかけた。
「かつて、私が主はやてから与えられたように」
「あぁ……!」
あるいは、星と雷が夜天に与えたように……
「お前にあたいの全ての力を!」
想いと炎が、一つになった。
融合が加速する。
ユニゾンにより、シグナムの外見がかなり変化していた。
騎士服は上着が無くなり、色は青紫色になる。篭手は金色で、髪が薄桃色に変わり、ポニーテールを結ぶリボンも形を変えていた。瞳は薄い紫だ。
背には炎の四枚翼が生え、融合は完了した。
(……力が、満ちる)
(……力が、重なる)
((……力が、溢れるッ!))
そうして、新たなる騎士──アギトユニゾン・シグナムが誕生する。
その姿を皆は声もなく、振り仰いでいた。
「おい──シグナム!」
沈黙を破ったのは、ヴィータだった。
静かに佇んだシグナムに、ゾンダーの拳が飛ぶ。
「──ふっ」
レヴァンティンを上段に構えた。
「紫電──」
炎が刀身に宿る。
「豪閃!!」
振り抜く。
ゾンダーの手が、凄まじい衝撃を受けて粉砕された。
「おおっ!!」
仲間達から、歓声が上がった。
「剣閃烈火!!」
燃える長剣を中段へ。
『火龍一閃!!』
シグナムはゾンダーロボに向かってレヴァンティンを薙いだ。激しい爆炎により、ゾンダーの体が傷を負う。
「あたし達も負けてらんねぇな」
ヴィータやルネが追い討ちをかけるように、ゾンダーに攻撃を加える。
「おぉぉりゃぁぁ──!!」
巨神の鉄槌が振り下ろされる。ヴィータのギガントハンマーは、風をも断ち切る勢いで、叩き込まれた。
バリアすら役に立たず、ゾンダーは脚部を割られて横転する。片膝をつき起き上がるが、すかさずルネに打撃を食らう。
「はぁっ!!」
ブロウクン・ファントムに匹敵する拳撃が光を放つ。
スカリエッティ・ゾンダーのフレームがへしゃげ、開いた傷穴から内部の機器が飛び散った。そこをさらに、スバルやティアナ達が攻める。
「おおおおっ、ディバイン・バスター!!」
「クロスファイヤー・シュート!」
「ルフト・メッサー!!」
「アルケミック・チェーン!!」
集中的に攻撃を浴び、さしものゾンダーも再生速度が追いつかない。
シグナムは大規模な魔法に備え、魔力をチャージしていた。
その手には、弓が握られている。
レヴァンティンがボーゲンフォルムをとったものだ。
シグナムが扱える遠距離用直射魔法。シュトルム・ファルケン。だが、これは少し違った。
「隼よ──さらなる羽ばたきを我に見せよ!」
ユニゾン状態により、通常のシュトルム・ファルケンを遥かに凌駕する、砲撃。
「炎熱の翼よ、焼き尽くせ!! ローエン・ファルケン!!」
光熱に輝く矢が、解放される。射程内にいた者達が、慌てて待避していった。
炎の矢がゾンダーロボの胸部に命中する。
「!」
ローエン・ファルケンは爆発を起こし、ゾンダーの機体を穿つ。
「やった……!」
護が快哉した。
彼は、浄解モードで飛翔し、戦況を見守っていたのだ。
「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ──」
「主はやて……」
振り返ったシグナムが、呪文詠唱を完成させたはやてに微笑んだ。
はやては頷き、
「後はあたしが……引き受けたよ」
魔力のほとんどを先程の砲撃で費やしたシグナムに替わり、はやてが前に進み出た。
はやての魔法は、引き金を引けばすぐ発動する状態になっている。
「フレースヴェルグ!!」
管理局でも一、二を争う魔力の持ち主の魔法が炸裂した。
本来は、超長距離攻撃魔法だが、的が巨大であるうえ、中距離からの発射のため、設定をいくつか改編して、魔力チャージや照準に掛ける時間を省略している。その分威力には手を加えていた。複数の弾がゾンダー一体のみに着弾したのだ。とてつもない閃光と熱が局地的に発生した。
ゾンダーロボの全身を衝撃が揺るがし、金属の装甲が融解する。小爆発によって四肢は砕け、胸から胴にかけて断裂した。
そしてついに、ゾンダーメタルが機械の狭間に露顕する。
「いまだっ!!」
護は見えたゾンダーの核目掛け、高速で突っ込んだ。
しかし、ゾンダーは門を閉じる様に、破壊された部分を再生しようとする。
「させないっ」
護は手を組み合わせ、ゾンダーへと近づく。
みるみるゾンダーロボの巨体が視界を埋め尽くす。
「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……」
破壊と守護、二つの力を寄り合わせる。
「ウィータ!!」
真のヘル・アンド・ヘブン。
ガオガイガーの必殺技をも越えるそのパワーは、ゾンダーの再生しかけた機体を完膚なきまで粉砕し、吹き飛ばした。
完全に姿を顕したゾンダーメタルに護は手を添える。
「クーラティオー・テネリタース……」
命を甦らせる呪文を唱え、Zの力を浄解していく。
その神秘的な光景に、人々は目を奪われた。
「あ……ゾンダーの核が──」
毒々しい紫をしたコアから、徐々に人の形を取り戻していく。
「もう、大丈夫だよ」
護は素体となっていた男に、優しく言った。
機界生命体から人間へと戻った男は、落涙しながら座り込んだ。
「私は……私は……あぁ──」
その男──広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティは、頭を両手で抱え、その場に泣き崩れるのだった。
トーレ・ゾンダーの荷電粒子砲が、放たれた。
白熱した輝きが、ソルダートJとフェイト・T・ハラオウンの網膜を
「バルディッシュ……!」
防御魔法《ラウンドシールド》を範囲を拡大して展開するフェイト。
柱の様なビームが、目前に迫る。ビームはシールドにぶつかり、眩しい光が弾けた。
シールドは数秒間、エネルギーの奔流を塞き止めた後、耐えられずに揺らめいて消滅する。すかさずバルディッシュは、フィールド系の防御魔法で熱と衝撃から、主を護ろうとした。
「フェイト!」
Jは前に出てフェイトを
その時にはすでに、ビームの先端が二人を飲み込もうとしていた。洪水の様なプラズマの流れが、ジェイアークへ至る射線上の空間を、音速で貫く。
それは、まさに、数瞬の出来事だった。
「貴方は逃げて。私は大丈夫だから……!」
その数瞬の間に、フェイトはJの体を押して、ビームから回避させようとした。
プラズマ流の影響はフェイトなら電気変換資質があるため、ある程度はダメージを軽減できるはずだ。また、防御魔法も使える。
一方、Jはいくらサイボーグ戦士・ソルダートとはいえ、あのビームを受けて無事でいられるわけがない。
もはや判断を躊躇っている時間はなかった。
──逃げるには、今しかない。
「お前やジェイアークを捨てて生き延びてなんとする!」
一人だけ助かるのは、Jの誇りが許さない。戦場で死ぬのなら、仲間と共に、と、Jは思っている。
その光景は遊星主アベルの目には、滑稽な庇い合いに見えた。
「神に逆らう者の末路としては、当然の事ですね」
ジェイクォース級の攻撃でなければ、ゾンダー核を一瞬で摘出できないであろう。魔導師とやらが、ちまちました攻撃を与えても、ゾンダーは欠損箇所をすぐに自己修復できる。今のJに決定的な必殺技がない以上、時間が経つ毎にアベル側が有利になっていくのだ。
「そう。無限の再生力を持つ者が、最後には勝つのです」
アベルは勝利を確信した笑みを見せた。
眼下。
ビームはJとフェイトを直撃し、ジェイアークを打つ。
艦船ドックに爆発の光が満ち、なのはは強烈な閃光のため、顔を背けた。
「フェイトちゃん──!」
衝撃波が防御シールドを叩き、突破して、武装隊員達を翻弄する。建材にはひびが走り、壁や床の一部が砕けて割れた。
ゾンダーは展開していた胸部装甲を閉じ、インパルスブレードを構える。さすがのジェイアークも、ひとたまりがなかったはずだ。
「む……!?」
光と爆風が消えてイオン臭が漂う空間。Jとフェイトの姿はどこにも見当たらない。ビームの爆発で蒸発してしまったのか。
だが。
ジェイアークは無傷で在った。しかも、少しずつだが、動きはじめているではないか。
「外したはずはない……もしや──」
アベルの疑問に応える様に、ジェイアークから声が響いた。
『みんな!遅くなってすまなかった』
紛れも無く、獅子王 凱の声だった。
『助かったぞ、凱!』
Jが礼を言った。
『間一髪だったよ』
聞こえてきたフェイトの安堵した声に、なのはは涙を浮かべた。
(よかった……無事で)
「私がトモロに打ち込んだ凍結プログラムを……解除したのですか」
愕然となるアベル。
赤の星の指導者である自分の技術を破られ、信じられない気分になる。
「Gストーンの能力をつかったのですね……あの生機融合体が」
エヴォリュダーが機械の回路に直接、神経を繋げる能力があることは判明している。だが、彼女が設置した、あの無数の罠を潜り抜けてトモロの中枢に到達するのが、あまりに早過ぎた。常人ではもっと時間がかかるはずなのだ。
本人は認めたがらないだろうが、アベルは超人である凱の力を見くびっていたのである。
己らに対する絶対的な過信が、ジェイアークに復旧を成し遂げさせた、と言えよう。
今や、ジェイアークは艦首をゾンダーに向け、数百キロを離れて、対峙していた。