ナノガイガー戦記~勇者とエース~    作:かがみん

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第15章 出撃

「時空管理局機動勇者隊の総力を以って、ソール11遊星主に対する攻勢をここに、決定します」

八神はやての宣言する声が会議室に響き渡った。

 

 

 

 

少し時間を遡る。

 

ミッドチルダを見舞ったゾンダーによる破壊活動は終息した。

「……コクトゥーラ!」

緑の髪の少年──天海護の唱える浄解の呪文が、ジェイル・スカリエッティと呼ばれる人間をZの力から救い出す。

凶悪な広域次元犯罪者として名を馳せた男は、全くの善人として生まれ変わったようだった。

泣いて罪を悔い、罰を請う姿は、一種の異様さを見ている者に覚えさせた。

「ぐぎゃぁっ!?」

その、スカリエッティの口から奇妙な悲鳴が上がった。

同時に、ミッドチルダの平和を震撼させた男の胸から、鮮血が噴き出す。

「なっ……!」

護の眼に、信じられない光景が映った。

スカリエッティの胸から、細い繊手が突き出ていた。手は血で濡れている。

「な、なぜ……」

スカリエッティの掠れた声が問う。

腕が引き抜かれ、致命傷を負った体が光に染まった。

それがレプリジン消滅の運命だと、護は知っている。だが、複製とはいえ、せっかく浄解できた人物が消えていくのは、彼には堪えられなかった。

「どうして!?」

悲しみを含んだ護の叫び。スカリエッティの体は光の粒子と化して、崩壊していった。

「仲間なのに……!」

レプリスカリエッティを殺害した女は、悪びれることもなく言い放った。

「あんなの、私が知っていたドクターじゃないわ」

そう。彼女──クアットロが愛し忠誠を尽くしたドクター・ジェイル・スカリエッティはあのような、柔弱な男ではなかった。ゾンダー化と浄解について充分な知識が無かったクアットロは、スカリエッティが急に変節したように見えたのだ。それゆえ、余計なことを話される前に始末した。

最後までスカリエッティを慕い、ゆりかご戦でも執念深くドクターの夢を叶えようとした彼女だからこそか。泣いて許しを請うスカリエッティは、失望以外の感情をもたらさなかった。

だから殺した。

クアットロは戦闘機人の中では非力な方だが、それでも、その抜き手は人間一人を即死させるほどのパワーはある。そんな彼女の後ろでは、遊星主ピルナスが、嘲笑ともとれる微笑を浮かべて佇んでいた。

「どうせ、ドクターの変わりならいくらでもあるんだから……」

スカリエッティがナンバーズの体内に残した、彼自身の因子だけではない。クアットロはピサ・ソールの能力を知っている。物質復元装置があれば、何度でもドクターは蘇るのだ。

クアットロの余裕はそこに起因する。スカリエッティのレプリジンは彼女の中に在った因子を基に、ピサ・ソールで複製したものであった。

だが、それでも。

あっさりと、自分の創造主を手に掛ける非情さに、はやて達は眉をひそめずにはいられなかった。シグナム等は露骨に嫌悪を表わにしている。

護も、仲間を裏切る行為は、許せなかった。

「ふん、まだ一戦交えたそうな顔をしてるわね」

クアットロは、自分を包囲する面々を冷たく見下しながら言った。

「残念だけど。私達の目的は大方達成されたし。今日は引き揚げさせてもらうわね」

「この状況下で逃げられると思っているのか?」

夜天の主はやて、守護騎士達、若きストライカー達。

精鋭が揃う陣容である。クアットロやピルナスといえど、無傷で逃走ができるわけがないと、誰もが思うだろう状態だ。

「馬鹿め。私達には、ピア・デケムがあるのよ──そして、ウーノ姉様も……」

クアットロはピルナスに、遊星主の旗艦《ピア・デケム・ピット》を呼び出すよう頼んだ。

「ピア・デケムに私達の転送収容をさせるように姉様に──」

「あぁ、それなんだけど……眼鏡ちゃん」

羽を使い、浮かんだピルナスが、不吉さを漂わせる口調でクアットロに告げる。

「ドクターちゃん同様に、貴女ももういらくなったの」

「ど、どういう──」

「用済みってことよ」

クアットロの眼が見開かれた。

「な……!?」

「貴女の力を見せてもらったけど……大して役には立たないみたいだし。ドクターちゃんと一緒に消えてもらうわね」

あくまで明るいピルナスの言葉だったが、その内容は凄惨であった。

切り捨ての宣言に、クアットロはうろたえた。

「ちょ、ちょっと、待って……! 私は──」

「まぁ、例の物を奪う役には立ったけど、あの程度の戦闘しかできないんじゃあねぇ」

ガジェットを操った戦いのことだろうか。

元来、戦闘より諜報工作に向いた能力の彼女には、酷な言いである。

「じゃあね、眼鏡ちゃん」

「ひぃっ!?」

遊星主をあてにしていたクアットロは、捕縛の為に迫る管理局に恐怖の眼差しを向けた。

「私はまだあんた達の力になっ……!?」

「うるさい、静かに捕まれ!」

クアットロの腕を、ルネが掴んだ。サイボーグの怪力である。同じ機械の身体といっても、クアットロには振りほどくパワーが足らない。ルネは慣れた手つきで戦闘機人を拘束する。

「お願い、見捨てないで……」

嘆願するクアットロに、ルネが怒鳴った。

「やかましい! ギムレットかよてめぇは!」

ルネはフランスで倒した、バイオネットのサイボーグ指揮官を思い出し、苛ついた。

ガオファイガーに敗北したギムレットは、見苦しく命請いをした挙げ句、逃げ出そうとしたところをルネにとどめを刺された。

「理不尽よっ……」

クアットロの抗議はピルナスの失笑を買っただけだった。

戦闘機人は救い主の遊星主を仲間だと認識しているようだが、実態は違う。

クアットロは遊星主と協力することで、ドクターの夢が叶うと信じていた。その喜びが、普段の彼女でなら見抜けたであろう、遊星主の魂胆を悟らせなかった。

護やJに対してそうだったように、戦闘機人などアベルには道具にしか過ぎない。

その道具があまり役には立たぬと判明した時、廃棄を決定しても遊星主の心が痛むことはない。

「さようなら。眼鏡ちゃん、この快楽と美の女神から手向けよ。受け取りなさぁい~」

上空から凄まじい火炎の渦が、クアットロに放射された。

それはクアットロを捕らえたルネにも殺到する。

「あぁっ!?」

「うわぁっ!」

高熱に二人は焼かれる。

ルネのデバイス《リオン・レーヌ》がプロテクションを発動した。短い時間だが、プロテクションは金属が融解するような高温にも耐えられる魔法である。クアットロは魔法発動までの間、まともに炎を浴びていた。ルネは彼女を盾にする恰好になったため被害は軽微だ。

「しぶといわねぇ、子猫ちゃんたち!」

ピルナスは襲い来る魔導師をあしらいつつ、クアットロとルネに接近する。心底愉しんでいる相貌だ。

「きゃああっ……!」

クアットロの身体を、ピルナスの鞭が打った。

バインドにより彼女は回避できなかった。

「ピルナス!」

怒りに燃えたルネが、遊星主に一撃を与えんとする。それを素早い動きで避け、ルネを蹴った。

「ぐわっ!」

《獅子の女王》を無視して、ピルナスはクアットロに鋭い針を突き刺した。

「うっ……あっ……」

「できるだけ、痛くないようにしたかったんだけどねぇ」

そう、うそぶくピルナスの声はもはやクアットロの聴覚には届かなかった。

「ピ……ルナ……ス……っ!」

彼女の、天へ指し伸ばされた腕は、誰に向けたものか。

クアットロの胸に突き刺した針から、ピルナスは炎を発した。

「……っ!!」

クアットロが爆発した。

多くの野望を持っていた彼女には不本意すぎる破壊であったろう。

最も、これまでクアットロがしてきた事を振り返れば、因果応報な死だったかのかもしれないが……。

「さすがに外道だな」

ピルナスのもとへ舞い戻ってきたルネが、吐き捨てるように呟いた。

「子猫ちゃん、貴女はまた今度よ。じゃあね」

「そうはいかん!!」

シグナムがシュランゲ・フォルムのレヴァンティンを放つ。

空中で鞭と連結刃が激突した。

「あら、おっかないわねぇ」

それでもピルナスは畏れた様子は見せない。

キャロはバインドを発動して捕らえようとする。

だが、ピルナスの動きは早く、捕獲できない。

「あいつはあたしがやるっ!!」

ルネが拳に魔力を溜めて、跳ぶ。

「でやぁっ!!」

「ちっ……」

ルネの攻撃力は以前より上がっている。

侮っていたピルナスは脇腹に打撃を食らい、失速した。

「逃がしはせえへんで!!」

はやては魔法の詠唱を完了させ、起動させようとした。

「ピア・デケム!」

それよりも一瞬早く、ピルナスの呼びかけが旗艦である空母に届く。要請を受けたウーノはすぐに転送を開始。

魔法陣がピルナスの足元を照らす。

「転送魔法……か」

戦闘機人を味方にすることで、遊星主は魔法すら使えるようになったのか。はやては唇を噛み締める。

「駄目だ……阻止できなかった……」

ピルナスの姿がかき消えた。

「次は必ず……!」

ルネが押し殺した声で言った。獅子の名にかけて、絶対に獲物は仕留めてみせる。バイオネットの幹部をそうしたように。

一矢も報いずに退きはしない、とルネは誓った。

 

護は改めて見せ付けられた遊星主の不義に、心を重くしていた。

(自分達の役にたたなければ、協力者でも容赦なく命を奪う……)

クアットロはたしかに酷い犯罪者だったかもしれない。だけど、殺す必要はなかったはず。

罪を償う機会は与えるべきだった。改心次第では恩情も有り得たのではないか、と思う。

だが、結果的に、クアットロは夢と呼ぶ野心への執着で、身を滅ぼすことになった。

例え裁きを受けねばならなかったにしても、遊星主に殺されるのではなく、裁判によってなされるべきだった。彼女により人生を狂わされた被害者のためにも。

護の胸に、悲しさと悔しさが去来する。

「護くん」

はやてが疲労した表情で、護に言ってきた。

「ここでの戦いは終わった。護くんには、本局の応援を頼むわ」

本局にもゾンダーが現れたと、通信で知らされていた。

「後のことは皆に任せたらええ」

「はい。わかりました」

先にギャレオンが本局に行っているが、ゾンダーの浄解には護の力がいる。

首都を後にした護は、本局に駆け付けた。

そこでは、管理局と遊星主・ゾンダーとの戦いが繰り広げられた痕跡が認めらた。

やがて。

ES空間での苛烈な戦闘が終結し、帰還したキングジェイダーの手には、ゾンダーメタルが握られていた。

護はゾンダーの素体にされたトーレを浄解。マイナス思念を全て洗い流されたトーレは別人のような従順さを見せた。

管理局は尋問を開始し、様々な質問が彼女に浴びせ掛けられる。それらにトーレは素直に答えていった。

戦闘機人が知り得たアベルの策謀。

それについて、トーレは洗いざらい話したが、その口述は、護や凱、Jに衝撃を与えるのだった。

 

 

 

遊星主襲撃事件からは、数時間が経過していた。

未だ被害の調査と復旧が続くなか、組織の関係者は緊急召集を受けた。

本局よりは被害の少ないミッドチルダ地上本部が遊星主対策会議の開催場所だ。

司令官はやてを筆頭に、提督、隊長クラスが出席し、さらにはかの「伝説の三提督」もこの会議に参加していた。何しろ本局が直接進攻を受けたのは開局以来、初めての事なのだ。三提督といえど黙って見ていることはできない。

レオーネ・フィルス、ラルゴ・キール、ミゼット・クローベル。

創設期に活躍した三提督は、管理局の名誉職であるが、隠然たる権勢を持ち、非公式にだが、はやての六課設立にも協力してくれた恩人でもある。次元世界の平和を護りたい、という気持ちは誰よりも強い人物達だ。

さて。

先の襲撃事件の陰で、本局とミッドチルダから盗まれた物体がある。

「迂闊でございました。まさか遊星主が襲って来るとは思わず……油断いたしました」

警備の責任者が報告してきたその奪われた物体とは、なのはとフェイトには因縁のあるロストロギアだった。

「ジュエルシードの……強奪!?」

魔力の結晶体であり、複数を用いて起動させれば次元震をも引き起こせる、強力なロストロギア。そして、なのはが魔法に、フェイトがなのはに出会うきっかけを作ったロストロギアでもある。

なのはが九歳の時遭遇したPT事件の解決後、ジュエルシードは管理局によって厳重に保管されていた。

それから数年後。スカリエッティはジュエルシードを奪い、機械兵器の動力に組み込んで使用した。

JS事件後は、回収されたものを含め、全てのジュエルシードは新たに封印を受け、厳しくセキュリティを施された各管理施設に保存された。悪用されれば恐ろしい結果を生むのは自明だからだ。

しかし。

遊星主にそれを奪い盗られてしまう事態が発生していた。それが何の目的の為かは不明であったが、捕獲されたトーレの証言で判明した。

それによると、本局と地上の襲撃は、どうやら陽動と考えられる節がある。

管理局の戦力がゾンダーに集中していた間隙を縫うように、アベルは遊星主ピア・デケムとポルタンにガジェットを率いらせ、ジュエルシードを奪わせたのだ。保管所を守る警備隊も精鋭だったが、遊星主には叶わず、みすみすロストロギア奪取を成功させてしまった。

アベルの目的は三重連太陽系の再生である。だが、次元世界からの帰還方法が解らない現在、この世界に三重連太陽系を復活させるしかない。そのようにアベルは断を下した。

そのために、次元世界を滅ぼす。

だが、如何に遊星主が強大とは言え次元世界滅亡には手がかかる。

そこで、この世界で生まれた力を使い、次元世界を滅亡させる──アベルの言い方では「浄化」させる。

ジュエルシードは儀式により持ち主の願いを叶えるが、次元震を起こしてしまっては時空連続体(つまり一つの次元そのもの)という「器」ですら破壊されてしまう。それでは、三重連太陽系を再生させる事はできず本末転倒になる。

それで、アベルはジュエルシードの力により、次元世界の機界昇華する方途を選んだ。

「機界昇華だと……?」

ソルダートJはアベルの考えに、信じられぬ思いだった。

故郷に還れぬ焦燥で自暴自棄になったのか。

アベルのやり方には理性を感じられない、とJは言った。

(ゾンダーといい、なにゆえZの力を頼る……!?)

Zマスターと相打ちすら躊躇わず戦ったJには、

理解不能である。

(それだけ、三重連太陽系を再生させる念いが強いのか──だが)

罪なき他者を滅ぼして得た再生に、価値はあるのか。Jは疑問に思う。

(アベルは間違っている。そのような計画のために、アルマを利用させはせん!)

アルマ──戒道幾巳は現在、遊星主に捕われ、《ピア・デケム・ピット》のメインコンピューターの代わりに使われていた。いわば人質にとられたようなもので、Jを苦悩させる材料の一つになっている。

「奴ら、機界昇華の後、アルマに浄解させる気か?」

遊星主パルパレーパは人間を操る技術に長けている。ケミカルボルトを埋め込まれた凱がそうであったように、本人の意に介さず、戒道の肉体を操作するだろう。

「だが、この広大な次元世界を、彼一人に浄解させるのか。膨大な時間がかかるぞ」

凱が疑問を呈した。それに護が答える。

「……遊星主には、ピサ・ソールがあるよ、凱兄ちゃん」

「そうか──!」

物質復元装置であるピサ・ソールには、複製を生み出す能力があることはすでに周知である。一人のアルマならば、世界全ての浄解には、途方もない時間と労力がいるだろう。

だが。それが百のアルマ……千のアルマならどうだろうか。

レプリジンを造り、操れば極めて短期間に次元世界の機界昇華を浄解できる。

機界昇華により全生命は機界化し、浄解によって有機体を取り戻してももはや戦う力などありはしない。遊星主は蟻塚を踏み潰すように、簡単に次元世界を亡ぼせる。

あとは白紙のごとき世界が遺るはずだ。

そして、データを上書きするように、新しく、ピサ・ソールを使って三重連太陽系を再生させればいい。

これが、トーレの証言により得られた、アベルの計画の大まかな筋書である。

「ひどい……」

フェイトはあまりに非道な計画に、怒りより哀れみが湧きあがるのを覚えた。

人造魔導師としての出自から、フェイトは「生命」の重たさと価値を常日頃から尊んでいた。実母に失敗作として廃棄させられそうになったからこそ。生命を玩具の様に扱う者を許せない。スカリエッティのような者を。

そして、彼ら遊星主はスカリエッティをも越えた、人間の尊厳を踏みにじった大量殺人を行おうとしている。

「どうして……遊星主は自分達の故郷を滅ぼした力を平気で振るえるの、かな」

ぽつんと、なのはが呟いた。

忌引すべきZの力。アベルはなによりそれを憎んだのではなかったのか。

「それは、この世界が三重連太陽系じゃないからだと思う」

護が遊星主と戦う事を決意したのは、アベルがはっきり地球を見捨てる発言をしたからだった。

護の真の故郷はたしかに三重連太陽系だ。しかし、彼という人間を育ててくれたのは、紛れもなく地球という星である。地球こそ、護にとってかけがえのない故郷なのだ。

だから、彼は戦う。

正義のためではなく、大切な故郷を守るために──

「自分と関係のない世界ならば、平然と滅ぼす……それが遊星主なんだ」

「この世界はいけにえみたいなもんって訳か……吐き気がするね。連中には」

ルネは腕組みしたまま、憮然と言った。遊星主の傲慢な性根が、彼女を不快にさせる。

(まるで、あたしの身体をこんなにした、バイオネットみたいじゃないか、ええ?)

返すべき借りが遊星主にはたっぷりあるのだが、この会議でそれがさらに膨らんだようだ。

「未曾有の災厄……たくさんの文明の消滅……住人は全て死に絶える……」

かつて。

ロストロギアや質量兵器が制作され戦争に使われた旧時代。次元そのものが滅んだ事もあった、狂乱の時代。

「絶対に、停めなあかんな……」

はやては、膝の上で拳を強く握った。

彼女の言葉に一同が頷く。

「こう後手に回ってたら、遊星主の思う壷や」

はやては決めていた。

「遊星主と戦う際にネックになるのはピサ・ソールや」

複製・再生能力のあるピサ・ソールが存在する限り、遊星主はいくらでも勢力を回復できる。

「うちらの総力をあげて、ピサ・ソールを叩き潰す。そうすれば遊星主とて敵ではないはず」

管理局から先制的に仕掛ける。それがはやての考えだった。

遊星主の脅威を取り除くため、電撃作戦が考案され、他の諸提督・部隊長らも賛同を示した。

はやては改めて、三提督に協力を求め、伝説の英雄達は支援を約束してくれた。

彼らは管理局の暗部を承知しながら放置し、評議会の暴走やスカリエッティの跳梁を許した事について、自責の念を覚えていた。名目だけの職とは言え、何か行動していれば悲惨な事件の数々を防げていたかもしれないのだ。

辛い役目をはやて達後進に押し付ける形となった。

次元世界滅亡がかかった今こそ、自分達の権限を惜しみなく使い、若き次元の守護者達を(たす)けたいと思う。

三提督は自由に管理局を動かす裁量権をクロノやはやてに付与した。上層部の承認を受けた機動勇者隊は、かつての六課よりもさらにスタンドアローンな組織としての認可を得た事になる。

そうなると、次はピサ・ソールを攻略するために必要な兵器だ。

管理局の草創期より、覇者たらんとして乱を起こせし者やテロリスト等はたくさんいたが、異世界から来た未知の文明からの侵略など、歴史上経験したことがない。ことによると、禁断の技術である質量兵器すら投入しなくてはならないかもしれないのだ。

これについては、はやてはすでに手を打ってある。

これまで、緑の星の技術をミッドチルダの技術に組み込む実験や試作品は行われていた。

はやてはデバイス製造メーカーとして名高い企業に、密かに新兵器開発を打診していたのである。

惑星級のピサ・ソールを破壊する事を考え、強力な殲滅兵器の開発を依頼した。

もちろん、Gストーン等のオーバーテクノロジーの情報も一緒にだ。

企業の中には、禁じられた技術であるいにしえの質量兵器を研究する部門があり、ある程度の成果を修めているらしい。

ヴァイゼンのデバイスメーカー・CW社に、はやてはピサ・ソール級の敵と戦える新兵器の開発を発注していた。

後、CW社はACE兵器を開発するが、それはこの時の研究開発が基になっているという。それはまた別の物語になるのだが……

企業にとって、三重連太陽系のテクノロジーとミッドチルダの技術を融合させるのは困難な課題だったが、開発スタッフは見事にやりこなしていた。それは、GGGのハイテクツールを次元世界の技術で再現したものに他ならない。

はやての手元には陸続と新しいデータが届いていた。

一方で、隊員のデバイスの調整も進められ、フェイトのバルデイッシュはG式デバイスとして改良を受けた。

はやては早くとも五日以内に、ピサ・ソールに進攻する事を決め、通達した。さすがに、出撃準備が整うには時間がいる。

遊星主に逆襲する第一歩がしるされた、その夜。

獅子王凱と天海護はともに夜空を仰いでいた。

二人が居るのは、隊舎として割り当てられた建物の屋上だ。

銀砂の瞬きは、見なれた星座ではなく、ギャレオリア彗星の軌跡も見えないけれど、神秘的な輝きには、つい、魅入られてしまう。

星の世界こそ、凱が目指した世界なのだから。

「すごく星が綺麗だね、凱兄ちゃん」

「あぁ。地球の都会じゃこんなに澄んだ夜空は見れないよな」

清澄な空気は、やはり自然に囲まれたミッドチルダゆえか。

「なんだか、すごく遠いところに来ちゃったね、僕たち」

木星に旅した時もこのように思ったが、今度は遥か時空を隔てた異世界だ。

両親の待つ地球に、無事帰還できるのか。いまさらながら、その不安が少年の胸に去来した。

「心配するな」

ぽん、と、護の背中を叩き、凱が明るく言った。

「きっと戻れる方法があるはずだ。絶対に、諦めるな」

「うん……」

「俺が必ず、お前をご両親の元に送り返す。約束する」

凱は知らなかっただろうが、大河幸太郎は天海夫妻に、護を連れて帰ると告げていた。

図らずも同じ内容の約束を凱は護に誓ったことになる。

「ありがとう、凱兄ちゃん。僕は信じるよ。みんなで、地球に帰るのを──」

「あぁ。そのためには……」

「遊星主の計画を阻止しないと!」

そうだ。

遊星主の野望をなんとしてでも打ち砕き、次元世界を守らないと。

(戒道、君も……)

囚われの身の彼を救う。

そして一緒に帰るんだ。地球の子どもとして……!

「でも、本当によかったの? ギャレオンと戦う役目をなのは姉ちゃんに渡しても」

「寂しくはある。正直に言えばな」

これまで共にフュージョンして戦場を生き抜いてきた仲間だ。ギャレオンとともある限り、ガオガイガーは無敵の機神たりえた。

「でも。彼女がフュージョンしたほうが、俺の時より強力になるのは確かなんだ」

スター・ガイガーの実力は彼も垣間見ている。

優秀な魔導師であるなのはがフュージョンしたガイガーは、強化ゾンダーを圧倒したと聞いていた。

ならば。

ギャレオンと、ジェネシックマシンとフュージョンするのは彼女に任せたほうが良い。

凱はそう判断し、なのはにギャレオンを託した。

なのはの方は迷うそぶりを見せたが、承諾してくれた。

「今、彼女はギャレオンと話している……。俺がそうしたように、ギャレオンに胸の内を明かしていることだろう」

「ギャレオンが勇者と認めたら」

「認めるさ。そして、誰も見たことのないような勇者王が誕生するんだ……!」

漆黒の天上を見上げると、星がキラキラと輝きながら流れて言った。

「新しい勇者王……か」

その姿は、護には想像もつかなかった。

ガオガイガーを越えたガオガイガー。

それは果たして、どのような機体なのだろうか。

護は大いに好奇心を刺激された。

「俺はこの、新しい力をもっと使いこなせるようにならないと」

凱は視線を《ガオーブレス》に転じた。

凱専用のデバイスだ。

「これで、魔法が使えるんだ」

不思議そうに、凱のブレスレットを眺める。

魔法使い、というとお伽話やゲームのものしか思いつかない。

「事象を任意に書き換え、物理現象を自在に操作する技術……」

信じられないような技術だが、しかし、その点でいえば三重連太陽系のオーバーテクノロジーや、護やカインの超能力とて地球の常識を越えた存在である。

「少なくとも、この世界の人々は、遊星主みたいに『神』とは僭称してないようだな」

「次元犯罪者にはそういうのもいるみたいだよ。フェイト姉ちゃんから聞いたんだけど、僕が戦ったゾンダーの素体にされた人がそうだったんだって」

スカリエッティはまさに神のように振る舞い、たくさんの命を玩んだ広域次元犯罪者であった。

「まだ、悔やんでいるのか。その男を救えなかったことを」

レプリスカリエッティは浄解後、彼が創造した戦闘機人によって殺害されている。

「だが。トーレとかいう素体は無事に捕獲できただろう。これからはもう、奴らの思惑通りにはさせないぜ」

「そうだね。凱兄ちゃん──」

地球もZマスターや機界新種の脅威から解放されたのだ。流れ落ちる星の光を見ながら、Gストーンの絆で結ばれた勇者たちは、この世界に早く平和が訪れればいい、と祈っていた。

「凱、護。飲み物持ってきたよ」

後ろから、声が聞こえてきた。

金髪を伸ばした美しい女性。フェイトだった。

手にはカップが握られている。

「すまないな」

「熱いから気をつけてね」

凱はコーヒー、護にはホットミルクが手渡される。

「……美味いな」

カップを啜った凱が呟いた。

美味いが、やはり苦みの効いた命のコーヒーがいいとも思った。むろんそれを口に出すことはない。

「あったまるね」

護が微笑んだ。フェイトはどういたしまして、といった様子で頷いた。

「ルネはどうしてる?」

「訓練室でJと模擬戦だって」

「……あいつも元気な奴だな」

いとこについて彼はそう述べた。

フェイトは苦笑。

「むしゃくしゃして、身体でも動かしてないとたまらないんだって」

「付き合わされるJもいい迷惑じゃないか?」

「そんなことないよ。Jもけっこう模擬戦闘楽しんでるみたいだったよ」

「同じサイボーグ同士、気が合うのかな」

凱は二人は似た者同士かもしれない、とふと思った。

孤高の戦士と激情家の捜査官。だが、どんな状況でも戦うことを止めない闘志の強さが共通していた。

「いいコンビになるかもな」

「そうだね」

ルネについて、護はよく知らないが、Gストーン・サイボーグである頼もしさは感じていた。

「君のバルデイッシュはもう全て済んだのか?」

「いま調整中なの。明日には完了すると思う」

バルデイッシュ・アサルトは、レイジングハートと同様のGSライドが組み込まれることが決定し、実行された。

Gストーンの出力が加わったデバイスは機能が飛躍的に高まることは、レイジングハート・ジェネシスの起動で実証済みである。

さらに、GストーンはJジュエルと共鳴することで、莫大なエネルギーを発生させることも確認されていた。

この現象をジェイアークに応用すれば、失ったジェイクォースを補えるかもしれなかった。

それは戦力の補強という意味においても重要な事柄だ。

G式に改良されたバルデイッシュは、ジェイアークの能力向上にも期待されていた。

フェイトはデバイスを開発スタッフに任せ、部隊の編成や作戦指導等に尽力している。

「そうか……それは凄そうだな」

「ねぇ、遊星主がまた襲って来ることはないかな?」

護が危惧を漏らした。

「ゾンダーに、パルパレーパとカインを打ち破られたんだ。奴らも早々には……」

あくまでそれは願望だ。

「ピサ・ソールでまた復活させられている可能性が強いと思うけど……」

「その時は──」

凱は拳を突き上げて見せた。

手の甲には、鮮やかな緑色をしたGの紋章が、光り輝いていた。

「また迎撃するまでだ!」

勇者として。

凱は未だ昏睡状態に陥っている命へ向けて、そう胸で叫んだ。

最後まで俺は勇者として戦う。お前が俺を信じてくれる限り。

「凱兄ちゃん……」

この青年は今まで何度倒れても立ち上がり、敵を倒してきた。来たる遊星主との決戦においても彼はそうするだろう。

勇気ある者として。

だから。自分も彼のように、戦おう。

護は思いを肯定するように頷いた。

僕もGGGの一員なのだから──

「大丈夫。きっと私たちは勝つよ」

フェイトは夜風に髪をなびかせながら、言った。

「私たちには──」

根拠ある答えではない。

これは直感。

経験から解る、直感だ。

「勝利の鍵……エース・オブ・エースがついているのだから」

フェイトは地上本部の地下格納庫にいる幼なじみを思い浮かべながら、二人に言った。

 

その光景を第三者が見れば、高町なのはが瞑想に耽っているように捉えたかもしれない。

淡いライトに照らされた空間に、沈黙のカーテンが巻き付いているようにも思えた。

しかし。

余人の知覚できない領域では、なのはとギャレオンとの対話が、行われていたのだ。

宇宙メカライオンの前に立つなのははいま、胸の想いを腹蔵なくさらけ出し、語った。

「貴方はあの時、私を勇気ある者と認め、カインの遺産を使う権利を与えた……」

本局。スター・ガイガーが生まれた戦いでのことである。

ギャレオンは遊星主と戦おうとしたなのはを、真の勇者としてフュージョンさせた。

「お願い。もう一度、あの力を私に貸してほしいの」

ヴィヴィオを取り返すために。その理由をはっきりと告げた。

「たぶん……私は初めて、私の力を、自分のために使おうとしている」

これまでなのはは誰かのためだけに手にした力を使ってきた。そのために、飛ぶ力を失いかけたほどだ。

だけど。今回は違う。

正義だとか、他人のためだとか、関係ない。ただ、ヴィヴィオを助けるという目的のためだけに力を振るおう。

ギャレオンには嘘はつきたくない。

ヴィヴィオのためにという我が儘ともとれる思いを、打ち明けた。

ギャレオンはじっと、なのはの声に耳を傾けているようであった。

「私はこう決めたの。ヴィヴィオを救うためなら、いかなる力をも行使しようと──」

遊星主を撃ち破るには、ジェネシックの力が必至になるだろう。

「貴方が承知しないというのなら、仕方がないと思う。でも……ギャレオン、私の大切なものを取り返すには貴方が必要なの!」

遊星主はジュエルシード強奪に並行して、魔導師の身柄をも狙っていたという。

強力なロストロギア、ジュエルシードを発動させられる魔力の持ち主が必要だからであるが、その候補の中には、なんと、なのはも含まれていた。

拉致したヴィヴィオから聞き出したからか、それとも管理局から情報を盗んだかは不明だが。遊星主は魔導師として、極めて高い能力を持つなのはに目星をつけたようなのだ。

エース・オブ・エースの異名は高名であり、はやてやフェイトに次いで目的に適う人材と言える。

ギャレオンが戦闘に介入しなければ、パルパレーパは彼女を連れ去る予定であった。

遊星主に捕えられたとて、おとなしく言うことを聞くはずもないが、たとえ抵抗してもパルパレーパにはケミカル攻撃が有る。

レプリジン・護、凱等もケミカルボルトを埋め込まれ操り人形にされた。

もしも、なのはが同じ目にあえば。皮肉な事に、因縁のロストロギアをなのはが起動させて次元世界の滅びに手を貸すこととなるであろう。

勿論、なのはには、遊星主の手先に堕す気はない。

万が一。なのはが、或いは誰かがパルパレーパの支配を受けた場合、その者ごとピサ・ソールを破壊する様に言い渡されている。

非情だが、次元世界を守るためだ。管理局の皆が、覚悟を決めている。

「でも、私は誰も死なせたくはない。だから。ギャレオンの力が欲しいの」

遊星主を滅ぼす、Gの力が!!

ヴィヴィオがさらわれた時。なのはは絶望感に浸り、勇気を無くしかけた。

だが、先の戦いで、なのははまた勇気を取り戻した。

スター・ガイガーとフュージョンした時、激しい闘志が胸に湧き上がってきたのだ。

新しく生まれ変わったかのような、熱い感覚だった。

「お願い、遊星主からヴィヴィオを取り戻す力を……」

おそらく、遊星主はなのは達を手に入れるために襲い掛かって来るだろう。しかし。なのはは敢然と(むか)え撃つつもりだった。

「遊星主と戦う力を──私に」

ギャレオンの双眸に光が灯った様に、なのはは思った。

静かに。

鋼鉄の獅子は星光の娘に、己の意志を伝えはじめた。

 

──格納庫より遥か天上では。

数多の輝きが、空を埋め尽くしていた。

星々の光が美しい夜だった。

その煌めきを眺めるものたちには、まるで未来を祝福してくれているように眼に映っただろう。

そうならいい、と、護は思った。そうなるようにしたい、と。

遥か彼方から届いたあの光が、遊星主により消されないように死力を尽くすと。幼い胸に誓う。

凱は、フェイトと護に言った。

「さぁ、明日も早い。もう眠ったほうがいいんじゃないか?」

「そうだね」

各人にそれぞれ疲労が溜まっている。

三人は星澄める夜の屋上を降り、自分の部屋に戻っていった。

無人となった屋上を、二つの月の光が、儚い夢のように照らしていた。

そして。

勇者たちの旅立ちの()が、訪れる。

 

 

 

闇のなか。幼き少女が泣いている──

そのようなイメージが、戒道幾巳の脳裡に浮かんでいる。

柔らかそうな金髪に、左右の瞳の色が違うオッド・アイ。

(何故、泣く?)

戒道は疑問を持って訊いた。

(ママが……ママがいないの)

(母親が──)

その時、ちくりと、戒道の胸に痛みがはしった。

(母さん……)

地球に残された養母の穏やかな顔立ちが思い出される。

(ヴィヴィオのママ……助けに来てくれたのに……あの人たちが……)

あの人?

(あの怖い人が命じるの……私は嫌なのに……体が言うことをきいてくれないの……)

(もしや──)

戒道が思い当たる存在は、ただ一つ。

(奴に……何かされたのか?)

(怖いの……私が私じゃ、無くなる……!)

恐怖に震える声に、戒道は。

(やはり……!?)

彼は、高町なのはとこの少女との関係も、Jが管理局と接触していることも知らない。

だが、少女が遊星主に利用されようとしているのはわかった。

(ママも、もう私をどうすることもできなくなるの……私はあの人達に逆らうことすら──)

少女の意識は絶望に押し潰されそうになっていた。

(諦めるな)

戒道はヴィヴィオにそう、意思を送った。

(肉体を支配されてるのは僕も同じだ)

アベルに囚われ、ピア・デケム・ピットに神経を接続され、遊星主の意のままにされている。

(だけど……心までは奴らの思い通りにはされない)

戒道は必死に、精神の奥底で遊星主の支配力に抵抗していたのだ。

(必ず……必ず、Jが……ラティオ……が助けに来る)

それまで、絶対に遊星主には完全に屈しない。護に感化されたのか、彼は決して諦めないと強く思った。

(仲間を信じろ……!)

(……)

(君は帰りたくないのか、母の元へ──)

(帰りたいよ! ママのところに……)

悲痛な叫び。

(僕も──母さんの元に帰りたい)

戒道の胸には苦いものが拡がっている。

戦士として生きる途を選んだ彼は、養母をあえて省みなかった。情が残れば、戦いが辛くなる。Zマスターとの決戦と遊星主との遭遇。

激しい運命にさらされた戒道だったが、つかの間、複製された地球で過ごす時間を得た。

その時、養母が病から入院を余儀なくされたことを知った。

すべては彼が不在中に起こったことだ。書き置きから、養母は行方不明の息子の身を最後まで案じていたことが伝わってきた。

その日。

母のいない部屋で、母を想いながら戒道は泣いた。

素直に、彼は母への思慕を吐露した。

そして、戦いが終わったら、今度こそ母の元で暮らそうと決めた。天海護と同じ、地球人の子どもとして……

(だから、僕は負けるわけにはいかないんだ……遊星主なんかには!)

(でも……だめだよ……あの人の《力》には勝てないよ)

少女の心はまだ昏い。

(信じるんだ、君の仲間を、友を、母さんを!)

(ママ……)

(アベルがいかに……僕の創造者だとしても……僕の《勇気》だけは停められない!)

勇気は奇跡を起こす源だと。

護から何度も教えられた。

なら僕は、勇気を忘れない。必ず、アベルの支配を脱し、Jに──

(……私も、戦える?)

(戦えるさ)

(あの人達と?)

(あぁ──)

気休めではない。彼は本心からそう言った。

(だから。負けるな……)

Jはきっと、遊星主に勝つ。

(不死鳥は……炎より蘇る……か)

信じている。

(そうだね。私も……ママのもとに帰るために、戦う!)

少女の声には、凜としたものが含まれていた。

どうやら、遊星主に抗う強さが湧いてきたようだ。

(そうだ。僕も、絶対に諦めない)

幼いながら、戒道は数多くの戦場を経験してきた。それが少年に驚くべき勁強さを備え付けさせた。

(ラティオ……いや、天海 護はきっとここに来る)

遊星主の飛行空母ピア・デケム・ピット。そして、ピサ・ソールへ。

(勇者達を伴って──)

勝機は必ず訪れる。

その刻を待ちながら、アルマ・戒道幾巳はアベルの支配に抗い続けた。

いつの間にか。

少女・ヴィヴィオの声は熄んでいた。

眠った……?

戒道は閉ざされた闇の中、いま、Jや護はどうしているだろうと、考えた。

彼にはむろん、判らないが、外の世界では、機動勇者隊による遊星主逆襲の準備が着々と進められていたのである。

 

 

アベルは、この期に至ってもなお、人間の力を蔑視し、軽侮していた。

彼女は、いやプログラムである遊星主は、プラス思念のもたらす力を、量り間違えていたのだ。

まさか、無限の勇気が存在することなど思いもよらぬ。

──その認識から、後に手痛い反撃を被ることになる。

だが、この時のアベルは、わが計略が成就することを疑わず、ピア・デケム・ピットのブリッジにて、三重連太陽系再生の悲願が達成される、と昂揚しながら、夢見ていたのであった。

 

 

 

払暁の空に、曙光が射した。

透明な、澄んだ色の光である。

──機動勇者隊の会議が行われてから、五日が過ぎていた。

この間、懸念されたソール11遊星主の再襲は全くなく、その行動は管理局の監視網にも観測されなかった。

そのおかげか。

はやてはどうにか、攻勢準備を完了させることが出来、ほっとした思いで朝を迎えている。

態勢を整えた機動勇者隊は、双つの部隊にまとめられた。

一つは、ピサ・ソールを攻める管理局艦船アースラを主力とする部隊。

もう一つは、遊星主旗艦ピア・デケム・ピットを牽制する、赤の星の戦艦ジェイアークを主力とする部隊である。

ジェイアーク艦長、ソルダートJにはまた、ピア・デケム・ピットに捕われたアルマ・戒道幾巳の救出も、目的の中には含まれていた。

そうして、五日目の午後、ミッドチルダの管理局地上本部で打ち合わせを済ませ、翌朝部隊は出立と相成った。

「やっと戦える……ヴィヴィオを取り返すための」

高町なのはの心境を偽らずに記せば、このようになる。

が、隊長である彼女が公的な場で私欲を優先させるような発言をすることはない。

エースとして、遊星主の野望を阻止し「全てを守る」ことが任務だと心得ている。

母の顔を封じて、管理局の魔導師を貫いた態度を取っていた。

ただ、幼なじみのフェイトだけは、彼女の胸の内を読んでいる。

「大丈夫、きっと、ヴィヴィオは無事に助けられるよ」

別れる前、フェイトはなのはにそう囁いた。

なのはは小さく頷き、微かに微笑んだ。

 

次元空間航行艦船・巡航L級8番艦アースラ(正確にはアースラ改)には、なのは、凱、そしてスターズ分隊・ヴィータ、スバル、ティアナ、シャマル医師が搭乗する。艦長はJS事件に引き続いて、はやてが指揮する。副官にはリインフォースIIが就く。

オペレーターにアルト、パイロットはルキノが担当する。

一方。

超弩級戦艦ジェイアークには、フェイト、護、ルネ、ライトニング分隊・シグナム、エリオ、キャロ、シャリオが乗った。

ソルダートJと生体コンピューター《トモロ》が艦体制御を統括して行っているため、アースラの様にオペレーター人員はいない。

かわりに戦闘要員である武装隊が数十人、フェイトの指揮の下乗艦している。アースラの方も同様であった。

このあたりは、次元航行部隊の標準に則った配置にしてある。

「よし。全員乗り込んだな」

はやては艦長席に腰を沈め、最新状況をチェック。

部隊は次元空間での戦いを想定して、二艦にそれぞれ四隻の艦船が付き従っている。この、二個の分艦隊が作戦遂行にあたるのだ。

「じゃあクロノくん、あとは任せたよ」

「あぁ。気をつけていけよ」

次元航行船クラウディアのブリッジから、クロノ提督が返してきた。

クラウディアはいま、第一世界ミッドチルダの衛星軌道上にいる。

そこから、旅立つ艦隊の姿を見守っていた。

ミッドチルダの守りをクラウディアに委ね、アースラ、ジェイアーク率いる部隊は、遊星主の基地たるピサ・ソールに向けて出撃を開始しようとしている。

それより少し前。

獅子王 凱は、未だ昏睡状態にある卯都木 命を見舞っている。

「それじゃあ、俺、行ってくるよ。……帰ってきたら、起きてくれてるといいんだけど、な」

凱は恋人に口づけを与えると、決然とした表情で、聖王医療院の病室を後にした。

それから。しばらく時が経ったあと。

眠る命の額に、星の様な煌めきが輝いていた事を、凱は知る由もなかった。

 

「発進」

部隊は、遥か次元の海の彼方、物質復元装置・ピサ・ソールを目指して出立した。

奇襲作戦では速やかなる攻勢が要となる。それには、ジェイアークのES兵器を用いたエスケープ空間を経由した攻撃が最適と決められた。

緊張感を孕んだまま、艦隊は飛ぶ。

目標地点まで、艦隊は極めて隠密を心掛けて進んでいった。

だが。

ミッドチルダを少し離れたところで──

「巨大物体、接近!」

「ソルダートJ、この反応は……ピア・デケム・ピット!」

「来たか!」

「やはり、うちらの行動を読んどったか?」

威容を現した、飛行空母ピア・デケム・ピット。

アースラを邀撃(ようげき)するような進行である。

これまで何の音沙汰もなかったのが不思議だったのだが、ついに動き出したようだ。おそらく、密かに管理局を監視していたのであろう。連中がおとなしく静観を決め込むはずはない、と、これははやての思っていたことである。

彼女等には預かり知らぬことであったが、実は遊星主は、本局で失った戦力を復活させ、地上への大攻勢を仕掛けるつもりだったのである。

その用意が整うまで、彼らもまた、管理局と等しく日数を要したというわけだ。

そして、アベルはミッドチルダを破壊し、ジュエルシードを用いた儀式を執り行う所存である。

 

こうして。

ミッドチルダ防衛を懸け、ソール11遊星主と機動勇者隊との間に、戦端が開かれた。

 

 

 

 

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