赤の星で産まれた艦たちの戦いは、ES兵器の応酬よりスタートをきった。
「J!」
超弩級戦艦ジェイアークはアースラの身を庇う様に軌道を変え、敵の巨大な飛行空母ピア・デケム・ピットと応戦した。
ソール11遊星主の旗艦ともいえるピア・デケム・ピットは、ジェイアークにも匹敵するほどの戦闘能力を有する。
「こいつの相手は、私が引き受けた!」
Jは創造主・アベルと対決する意思を告げた。
ESミサイルが互いの艦体から発射される。空間跳躍能力を持つこの兵器は、エスケープ空間を通過する事で、ミサイルは障害物に邪魔されずに目標を直接、爆破できるのだ。
光爆の連鎖が、闇の世界を鮮やかに照らしだす。
それは美しくも戦慄を伴う光景だった。
強力なジェネレーティングアーマーと自己修復力があるピア・デケムとジェイアークはさほどのダメージを受けずに、軽度で済んだ。
しかし、はやてが指揮するアースラ等、管理局の次元航行船は防戦一方であり、被害もあったようだ。
「反中間子砲!」
主砲斉射をJは指示した。
アベルもまた、ピア・デケムに次の攻撃を命じた。
「小型艦載機を出しなさい!」
空母の甲板から、夥しい数の艦載機が飛び出してきた。
これは無人で動く兵器であり、ピア・デケム・ピットは内部でこれを無限に生産する事ができる。ジェイアークは、反中間子砲、十連メーザー砲を駆使して撃ち落とそうとした。
ガジェット同様、感情なき兵器ゆえに、我が身の大破を顧みることない体当たりを仕掛けてくる。
ジェイアークの迎撃により次第にその数を減らしていくが、殲滅には時間がかかる。
「はやて、早く……ピサ・ソールに向かえ!」
Jは後方で防御陣形を取るアースラに言った。
「アベルは私が倒す。貴様は一刻も早く、ピサ・ソールを……」
アースラと他の管理局の艦艇は、特に武装を施してはいない。もともと、管理局には戦艦という概念が希薄である。古代ベルカならいざ知らず、現代のミットチルダには質量兵器を抱える理由がない。
ただ、アースラには魔導砲・アルカンシエルが装備されている。これは対象を完全に殲滅するためのもので、過去に《闇の書》の防御プログラムを破壊する等に使用されていた。
強力すぎるため、おいそれとは使えず、管理局から許可が下りないと発射できない。
例えば、GGGがバイオネットの獣人にゴルディオン・ハンマーを振るえないのと同様に、対生物に使うのを暗黙的に禁じられていたのだ。
また、チャージにも時間がかかる。
ピア・デケムに放っても、威力が大きすぎて、人質となった戒道幾巳やヴィヴィオまで消滅させてしまうだろう。
むしろ、それはピサ・ソール破壊に使うべきだ。アースラには、それ以外にも対ピサ・ソール用の装備が積まれている。
「ここで貴様らができる事など、たかがしれている」
いささか、辛辣な口調ではやてに言う。
「ピア・デケムを抑えるのは、我等に任せてもらおう!」
「わかった」
はやては頷き、艦隊に全速力でピサ・ソールの方向を目指すように指令する。
「ピサ・ソールに向かうつもりですね。なれど……」
アベルは、控えていた遊星主たちに出動を命じる。
「私たちに刃向かう愚かな連中を、撃破してくるのです!」
ピルナスを除いて、一言も発さず、遊星主たちが次元の海に乗り出す。
艦外に出た遊星主はパーツキューブで移動し、滑る様に管理局艦隊に近づく。
「敵襲来ます!」
はやてのいるブリッジに、ルキノの緊張した声が響いた。
「臨戦体制」
「ソールウェーブ発射」
パーツキューブからラウドGストーンのパワーを集めたエネルギー波が放たれた。
「!!」
船体を護る防御フィールドを最大にして、アースラは攻撃に耐えた。
だが、これでは手足を封じられたも同然。
反撃が必要だった。
「俺が出る!」
獅子王 凱は素早く立ち上がると、船外への転送を頼んだ。
「俺ならいける!!」
通常の魔導師ならば、フィールド系の防御魔法を使ったとしても、次元の海での活動は危険が付き纏う。いかに、高ランク魔導師であっても人間にはかわりない。無重力、空間の歪み、人体に有害な物質や放射線……万が一、魔法で対処しきれなければ一貫の終わりである。
だが。超人エヴォリュダーなら、話は別だ。
生身でありながら真空の宇宙で自由に動ける、強靭な肉体。そして全身の神経がネットワークを形成した特殊な生体能力。
かてて加えて、今は魔法もある。
凱なら、船外でも遊星主と戦えるだろう。
「僕も行くよ」
天海護も名乗りをあげた。
浄解モードになれば、凱と同じく生身でも宇宙に出れるのが彼だ。しかも、サイコキネシスなどの超能力が使える。
「宇宙での戦いなら僕にもあります。凱兄ちゃんと一緒に戦わせてください」
「よっしゃ、あんたたちに任せるわ」
はやては手早く断を下し、二人を次元の海に転送した。
「短時間なら、私たちも外で戦えるよ」
と、高町なのはが進言したが、
「たぶん、うちらでもいけるやろうけど……ここは奴らの得意なフィールドや。万が一。こんなところで切り札を失ってしまったら……」
はやては唇を噛んだ。
「隊長、ルネさんが……」
「消えた?」
Gストーンサイボーグ・ルネ・カーディフ・獅子王は、このような時におとなしくしているようなタマではない。
シャッセールでは独断専行をよく注意されていたが、ここでもその性格を発揮している。
こうと思ったら許可も待たずに動いてしまう。
それは地球を離れる前、オービットベースにおいても見られた事だった。
サイボーグである事実が無茶な行動を起こさせるのか……ルネは魔法の助力もあってか、熟慮もなく、ハッチからアースラの外に出た。
(今度こそ、遊星主をぶっ潰してやる──)
ルネの姿に、凱は驚いたが、戻れとも言えず、共に遊星主と戦おうと決めた。
少し離れた宙域では、ジェイアークがピア・デケム・ピットと交戦している。
やがて、パーツキューブに乗った遊星主が迫って来るのがアースラから見えた。
遊星主……ピーヴァータ、ポルタン、ペルクリオ、ピルナス、ペチュルオン等と、凱、護、ルネ達が一進一退の攻防を続けている。
ジェイアークはピア・デケム・ピットの小型艦載機の群に苦戦していた。
戦闘中、遊星主達は突如、向きを変え、後退をはじめる。
(逃げる……!?)
戦力差では、あちらの方が有利なはず。
それなのに、彼らは相手から離れ、逃走としか思えぬ速度で去っていく。
「逃がすかよ!」
魔力で加速したルネが、遠ざかるピルナスを追う。
凱と護も、逃げた遊星主を追いかけた。遊星主たちは、高速で闇色の空間を駆ける。
その軌道は当初ばらばらであったが、次第に向きを相転じて、同じ方向へと一直線に加速していった。
「ミッドの方に向かって……!」
罠か?と、凱が思った時には、すでにアースラからかなり引き離されている。
アベルはにやり、とほくそ笑んだ。
「首都を襲うつもりか──!?」
はやてはミッドチルダに引き返すべきか、逡巡する。
「私たちの役目はピサ・ソールを破壊することよ、はやてちゃん」
なのはの言葉は、叱責を含んでいるような気がする。
「迷わず、進むのが……」
戦いを終わらせる早道なのか。
「ミッドチルダにはクロノ君もいる──それに、凱さんたちも追っている……」
地上には、留守を守る部隊も警護を厳しくしているはずだ。
それでもはやての不安は消えなかった。
そこで、増援として、スターズ・ライトニングの精鋭をミッドチルダに送ることにした。
ピサ・ソールの方は、ギャレオンが居ればなんとかなるだろう。
「スバル、ティアナ、ヴィータやシグナムと一緒に地上を守って」
「お任せください!」
声高く、胸を張って彼女達は答えた。
艦艇の一隻に移り、急いでミッドチルダに飛ぶ。
一方、Jも、キャロとエリオに同じ事を命じていた。
「おそらく、地上でジュエルシードの儀式を行うのだろう……」
Jはそれを阻止しなければならない、と強く言った。
「わかりました。僕たちが必ず儀式を止めてみせます!」
JS事件で逞しく成長したエリオが頷いた。
「よし、私について来い!」
シグナムが二人を促す。
「テスタロッサ、そいつの相手とピサ・ソールの方は任せたぞ」
「ええ。地上の平和を頼みます」
そう告げるフェイトはみんなの勝利を祈りながら、敬礼した。
遊星主はただならぬ速度で、ミッドチルダに向かっている。
それを部隊を乗せた艦艇は猛追した。
「アースラも急ぐで!」
はやての号令の下、艦は出力を上げる。
その行方を妨害する様に、ピア・デケム・ピットが立ち塞がろうとした。
「ここでジェイアーク共々破壊してあげます……!」
アベルが攻撃の激しさを増した。
「貴様の相手は私だという事を忘れるな!」
白き戦艦は苛烈な反撃を敵へと食らわせる。
「お前達はピサ・ソールへ……!」
「わかってる。アースラ最大艦速!!」
「さぁ、アベル。決着をつけてやるぞ!」
Jは不敵に叫んだ。
「懲りない人ですね」
アベルの冷笑は崩れない。
「徹底的な敗北を与えてあげましょう……創造主の手で!!」
冷徹な瞳に、黒い炎が一瞬、踊った。
「ギガ・フュージョン!!」
ピア・デケム・ピットは、アベルの命令により変型していく。
「ピア・デケム・ピーク!!」
超巨大ロボットへと変わったピア・デケムは、ジェイアークに鉾先を向ける。
「ふっ……望むところ」
Jは遠ざかっていくアースラ分隊の姿を確認した。
「勇者よ、行くがいい……希望とともに──!」
「J、ピア・デケムが……」
フェイトの声に頷き、Jはペンチノンに言った。
「こちらもフュージョンするぞ」
「新しい機能を試すの!?」
「あぁ……!」
対遊星主戦のために組み込まれた新機構を、いま、試してやろう。Jはフェイトを振り返った。
「いくぞ、フェイト」
「ええ──」
フェイトがバルディッシュを取り出す。
「見せてやろう、アベル。ジェイアークの新しい力を、な!」
ジュエルジェネレーターの出力が上昇した。
「何をするつもりです?」
怪訝そうにアベルが呟く。
「雷光よ、不死鳥に──」
「新たなる翼を与えよ──」
重なる、力。
「バルディッシュ!!」
《Fusion Mode.GetSet》
二人がいるブリッジを……いや、超弩級戦艦自身を、まばゆい金色の輝きが包み込む。
「こ、これは?」
瞠目するアベル。
「いつものフュージョンではない……!?」
Jと、バルディッシュを構えたフェイトが手を握り合う。
そして、跳躍した。
「「テラ・フュージョン!!」」
宇宙最強と謳われる戦艦が、姿を変える。
不死鳥は、金の閃光をまとって復活した。
「ゴッド……ジェイダー!!」
……かつて。
ヴォルケンリッターと初めて干戈を交えた際、《魔導師の杖》と《閃光の戦斧》は手酷い敗北を喫した。その時、デバイス達は二度と主を傷つかせまいと、ある決意をした。
さらに速く。さらに強く。護るために。
当時、一部の者のみに受け継がれていた、古代ベルカ式の技術。カートリッジ・システム。
それを自らの意思で自分達に取り入れさせたのだ。
そうして新生したデバイス達は、極めて強力な力を発揮するのだった。
それからも、デバイス達は戦う度に進化し続けてきた。
今度もまた……。
バルディッシュ・アサルトは、レイジングハート・エクセリオンに続いて、Gストーンを組み込んだ新しいデバイス《G式》として生まれ変わった。
新しき名は、バルディッシュ・ダイナスト。
Gストーンの特性として、機械との親和性が挙げられるが、GSライドをデバイスに組み入れたことにより、レイジングハート同様のフュージョンが可能となった。
フュージョン・モードに移行したバルディッシュは、フェイトの防護服を生機融合に適したものへと改変する。
黒を基調にした、フュージョンジャケットの胸元に、バルディッシュが金色に輝いていた。
ジェイアークは、ジェイバードとジェイキャリアーに分離、同時に変型しながら合体を果たす。通常と変わらぬ、ジャイアントメカノイド・キングジェイダーの合体プロセス。
だが。
それにより誕生したのは、いつものキングジェイダーではなかった。
フェイトがフュージョンしたことで、魔力運用が可能となり、バルディッシュもジェイアークのシステムにも干渉できるようになった。
バルディッシュは己の形態変型機構プログラムをペンチノンにインストールし、キングジェイダーは戦闘状況に合わせた変形を獲得。そしてさらに、GストーンとJジュエルの共鳴で発生する莫大なエネルギーが、キングジェイダーを強大に進化させる。
王を超え、皇帝を超え、神へ生まれ変わる、その威容──
巨神ゴッドジェイダーがここに降誕した!
白と黒の機体に、まばゆい黄金の光が混ざり合う。
右腕部はレプリファイガー戦で失ったジェイクォースに替わって、ジェイストライクが装備されている。それは、金色の鎗といった風情の武装だ。
背には、輝く赤焔の翼。巨神は悠然と四枚からなるその翼をうち振るわせる。
(力が……)
(湧いてくるっ!)
GとJの共振現象が、無限大ともいえるパワーを二人に与える。
闘志が充満したサイボーグと魔導師は、
「どんな改造を施したか知りませんが……それでこのピア・デケム・ピークに克てるとでも──」
一瞬の動揺を沈めてアベルが攻撃を命ずる。
「この世界の塵と化しなさい!」
ピア・デケム・ピークはこの敵に強力な重火器を全て撃った。
「バルディッシュ!」
《Defensor》
すかさず、《ディフェンサー》を発動。ゴッドジェイダーの前に展開したそれは、通常の数百倍の大きさを誇っていた。
G式デバイスにより変換される魔力量は、人間単体を遥かに越えたものだ。
故に、普通の魔導師では扱えぬ、効果を拡大した魔法が操れるのである。
光の爆発がゴッドジェイダーを覆い隠した。
「効きませんか……」
ミサイルとビームによる攻撃は防がれた。
ならば、と、アベルは格闘戦に打って出る。
だが、それこそ、ゴッドジェイダーの思う壷だった。
「うっ!?」
突然──アベルにはそう思えた──ピア・デケム・ピークは衝撃と共に吹っ飛んでいた。
「どうした? 我らを倒すのではなかったのか」
Jには余裕がある。
「な……今のは」
アベルには、ゴッドジェイダーの動きが感知できなかった。
接敵する前に打撃を食らっていた。
「今度はこちらから行くぞ!!」
消えた。少なくとも、遊星主にはそういう風に感じられた。
そして、ピア・デケム・ピークは再び横殴りの一撃を受けてよろめいた。
「ぐわっ……!?」
遊星主において屈指の速度と攻撃力を誇るピア・デケムが、ゴッドジェイダーの動作を見切れない。それは、まさに、闇を裂く稲妻。
その攻撃を回避すること叶わず、一方的に翻弄されている。
「ば、馬鹿な。なんなのです……この力は!?」
愕然とする、アベル。
炎の翼を広げ、ゴッドジェイダーはピア・デケム・ピークの胸を打ち砕いた。
金の閃光と異名を持つ空戦魔導師フェイトがフュージョンしたゴッドジェイダーは、物体加速の魔法を使用できる。音速を凌駕するスピードを手に入れたゴッドジェイダーは、凄まじい猛撃により、ピア・デケム・ピークを追い詰めていった。
「い、いいのですか……このまま攻撃を与え続ければ、アルマの身も……」
「それは即刻承知だ!」
Jの鋭い声が飛んだ。
「アルマも戦士として生まれてきたのだ。敵を倒すためならば、死ぬのは本望であろう……」
(J……!)
その言葉に、フェイトは驚き、アルマは憎々しげに返した。
「ソルダートが忠誠を誓ったアルマを見殺しにするとは。やはり、貴方は機能が狂っていますね」
「欠陥品の創造主に言われたくはないがな」
「アルマを本当に殺すつもりですか!?」
「……貴様もろともな!」
ゴッドジェイダーが疾駆する。右腕のジェイストライクを起動。
光の槍が放たれる。
ピア・デケム・ピークは砲撃で撃ち落とそうとした。
だが、その弾幕を振り払い、ジェイストライクはジェネレーティングアーマーを貫いて、ピア・デケム・ピークの肩を破壊する。
『うわぁぁっ!!』
戒道の苦痛に満ちた悲鳴があがった。
「くっ……本当に、アルマを……!?」
アベルは唇を噛む。
戒道は苦しみながらも、Jの行動を意識の底で讃えていた。
(そうだ……それでいい、J)
メインコンピューターの替わりにピア・デケム・ピットに接続された戒道は、機体に受けるダメージを直接フィードバックされる仕掛けになっている。
その痛みに喘ぎながら、戒道はJの勝利を願っていた。
(僕の事など構わず……アベルを……倒し……!)
「J、本気で彼を──?」
「もとより、覚悟の上ではある」
冷厳と、Jは言った。
「だが、それはあくまで最後の手段……」
「じゃあ……」
「この私が本当に、仲間を見殺しにするような者と思ったか?」
「いえ……」
と、答えながらも、フェイトは一瞬でもJを疑った自分を、密かに羞じていた。
(もう、仲間を信じられなくてどうするのよ! 私ったら……)
「フェイト。魔法でここからアルマを転移させられないか?」
Jが訊いてきた。
フェイトは眉をしかめ、首を振る。
「転送魔法なら、私の使い魔のアルフか、ユーノの方が得意なんだよね……」
フェイトは幾つか、次元転送や転移の魔法を使えるが、それらの補助系魔法はどちらかと言えば不得手なほうだろう。
技術的に細かい調整が必要であり、フェイトといえど戒道のみ転送させるのは難しい。
どのみち、ピア・デケム・ピットにはナンバーズのウーノが乗艦していたのだ。恐らくなんらかの対魔導師用に抵抗策(AMFのような)を講じてあるに違いない。
「では、できないのだな」
得心し、Jは次の質問をした。
「では、奴の動きを停められるか?」
「拘束ってこと?」
あのように巨大な物体に、バインドを使った魔導師が、さて、果たして存在したであろうか。
「それなら出来ると思う」
今のフェイトならば。ゴッドジェイダーから溢れるパワーがあれば。
バルディッシュが可能と計算した。
「よし。では奴を拘束してくれ。私は、ピア・デケム・ピークに乗り込む」
決然と、告げた。
「わかった」
虎穴に入らずんば、虎児を得ず。幼い頃に習った故事を、フェイトは思い出した。
「だが、アベルには私がアルマを見殺しにした、と思わせねばならぬ」
こちらの意図を悟られず、ピア・デケム・ピークに侵入するためには、あくまで、アルマごとアベルを攻撃すると見せ掛けねば救出に失敗するかもしれない。
それゆえにJは演技とも思えぬ冷徹さを貫き通した。
「この……!」
ついに怒りをあらわにしたアベルが逆撃を
ESミサイルと五連メーザー砲に加え、フェイトは無数の発射体を作りだし、相手を牽制する。
「プラズマランサー!!」
数百の発射体から雷光を纏った矢が、ピア・デケム・ピークの巨体を狙った。
「ぐああっ!」
被弾した痛みに、戒道が悲鳴を上げた。
「アルマ……すまん、許せよ」
Jは呟き、再度ジェイストライクの発動準備に入る。
「くっ──パルパレーパを呼び戻すのは……間に合わない……」
今頃、パルパレーパはアースラ勢力と交戦中であろうか。
「ライトニングバインド」
かつて。なのはと戦った時、フェイトはライトニングバインドで動きを封じ、フォトンランサーで畳み掛けるという戦術を選択した。
今回のは、それをさらに大掛かりにしたもので、雷撃の戒めが巨体を拘束する様は類例のないスケールだ。
「っ……! 機体が動かない!?」
バインドの拘束力でピア・デケム・ピークは攻撃ができない。そこを、ゴッドジェイダーが撃つ。
「バルディッシュ……!」
ゴッドジェイダーの周囲に幾つものスフィアが生成された。それらには雷が弾け、白熱した輝きを放っている。
同時に。
ジェイストライクから数百メートルはあろう雷光の刃が生まれた。
「雷光一閃!!」
出力最大っ!!
「プラズマザンバーブレイカー!!」
対《闇の書》事件で使われた、砲撃魔法!
「はぁぁっ!」
「うわぁぁぁ」
ピア・デケム・ピークの胸に、プラズマを纏った砲撃が叩き込まれた。
その威力は凄まじく、ジェネレーティングアーマーを崩壊させ、堅固な装甲を破砕した。
「今よ、J!」
「うおおおっ」
フェイトが魔法でピア・デケム・ピークの一部を破壊し、そこから内部にJが侵入する。そのような計画を二人は立てていた。
飛鳥の如く、フュージョンアウトしたJが飛び出す。
ゴッドジェイダーの操作はフェイトに任せていた。
「ぬおおっ」
砕けた装甲から、ピア・デケム・ピークの中に入る。
目指すは、メインコンピュータールーム。
むろん、ただで通してくれるはずがない。
ミッドチルダに向かわなかった別の遊星主がJを阻止しようと、現れた。
だが、彼らは地上と違い、ピア・デケムの機体を破壊するのを憚り、充分な攻撃ができない。
「Jめっ……」
アベルは不敵な行動を取ったJに、苛立ちを覚えた。
(J……僕の救出は置いといて、早く……アベルとピア・デケムを……)
朦朧とする意識のなかで、戒道は自分より遊星主を倒す事を優先するように願っていた。
だが、ソルダートがアルマ守護の誓約を破ることは有り得ない。
Jはまず、戒道を救い出してから、ピア・デケム・ピークを完全破壊するつもりだった。
「そうそう、貴方の思惑通りに進めてたまるものですか……!」
アベルは切り札の使用を決めた。
「いいでしょう。貴方がピア・デケム・ピークを破壊したいのでしたら、やらせてあげますよ」
ただし。
「ここで滅びるのは私ではなく、貴方ですがね!!」
至急に、アベルはピサ・ソールに命令を送った。さらにはフュージョン中のピア・デケムにも指示を出す。
「ジュエルジェネレーターの出力を──」
ピア・デケム・ピークの巨体からエネルギーの上昇を読み取ったのは、ジェイアークの生体コンピューター《トモロ》である。
「これは……ジュエルジェネレーターが暴走しているようだ」
計測されたデータから、ペンチノンはピア・デケム・ピークの異変を感じ取る。
「どういう事?」
フェイトが疑問に思って訊いた。
「ピア・デケム・ピークの動力……ジュエルジェネレーターの出力が上昇を続けている。このままリミッター限界を越えたエネルギー放出を続けると、機体が爆発する」
「じゃあ……」
「おそらくは、自爆だ」
間もなく、ジュエルジェネレーターはピア・デケム・ピークの制御限界を越えた。
「J!」
フェイトは急いでJを救う手立てを講じた。
「くっ。アベルめ、同じ手段を使うか……」
蜥蜴の尻尾切りだ。
Jと戦っていた遊星主は、アベルの指令を受けて戦場を離脱している。機内に残されたJは、戒道の姿を求め走った。
「アルマにはまだ利用価値はあるので死なせはしません。だが、J-002。貴方はこの場で消えてもらいます」
既にアベルらは撤収する準備を終えていた。
ピア・デケムもフュージョンを解いている。
ピア・デケム・ピークは、ピア・デケム・ピットに戻っていった。
Jはアベルが戒道を連れて脱出したことを知らぬ。
戒道はピア・デケム・ピットから引き出され、遊星主と共にピサ・ソールに長距離転送されていった。
「このままピア・デケムの抜け殻と自殺などしてたまるか」
メインコンピュータールームに至ったJは、アルマは連れ去られたと判断。
自らも脱出すべく駆け出す。
その間にも、ピア・デケム・ピットの出力は上がり続け、異様な熱量に包まれている。
ピア・デケム・ピットを自爆させ、逃走。
それは、まさにピサ・ソールを爆発させた時と同じ手法だった。
「同じ手に二度もひっかかるとはな」
自嘲的にJは呟いた。
ピア・デケム・ピットはもうあと幾許もなく、動力炉の暴走により爆発するだろう。
Jを救ったのは、ペンチノンが発したESミサイルによってである。
弾頭を外したESミサイルは、しばしば救出用に使われるのだが、この度も見事にJを助け出した。
「急いでここを離れるぞ!」
ゴッドジェイダーに回収されたJは、爆発するピア・デケム・ピットから距離を取るよう指示した。
ジェイアークに戻り、高速で離れる。
ESウィンドウを展開し、短距離ワープでさらに足を稼ぐ。
そして。
ついに、ピア・デケム・ピットのジュエルジェネレーターは爆発した。
超新星爆発にも匹敵する光が、闇を白色に染め上げた。
その余波は空間を伝わって、遠くを飛んでいたジェイアークにも衝撃を与える。これまで戦闘に預からなかった管理局の艦隊も、衝撃波に巻き込まれて出力ダウンを強いられていた。
「だけど、アベルはピア・デケム・ピットを失っても平気なの?」
「おそらくは、ピサ・ソールで複製させるつもりだろう」
ピサ・ソールを爆発させた時には、その複製を瞬時に作りだし自爆させたが、それはピサ・ソールが側にあったが故の計略だった。
今回、ピサ・ソールとピア・デケム・ピットは離れすぎていたためか、複製を作って爆発させるわけにはいかなかったのだが、J達に真相を確かめる術もない。
「これからどうする、J」
「ピサ・ソールに向かう」
そこにアベルがいる。
はやてにも協力したほうがいいだろう。
「これが最後だ。次こそアルマを奪還し、アベルを倒す!」
「わかった」
フェイトは頷いて、アースラに通信を送った。
事の経緯を報告し、ピサ・ソールに向かうアースラ隊に合流する旨を伝える。
「ここから先はジェイアーク一隻のみで行く」
残りの艦隊はミッドチルダに引き返し、地上部隊を助けるように、と、告げた。
はっきりと足手まといとは言わなかったが、アベルとの戦いでは何ら活躍もできなかったので、指揮官達は敢えて異議を唱えなかった。内心、忸怩たる思いを胸に仕舞い、承服の言をジェイアークに伝えた。
「わかりました。執務官らの武運を祈ります」
敬礼し、分艦隊の航行艦は踵を返してミッドチルダに急進していった。
「我らも行くぞ!」
ジェイアークは加速し、最終決戦の舞台になるであろうピサ・ソールに向かって突き進んだ。
ふと。
この時フェイトは、なのはは──エース・オブ・エースは大丈夫だろうかと、頭の片隅で思っていた。
なのはやはやてたちの前にも卑劣な罠が待っているのではないかと、心配になる。
「負けないで──」
そう、親友の勝利を願うフェイトだった。