ナノガイガー戦記~勇者とエース~    作:かがみん

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第19章 超魔王黙示録

「ヴィヴィオまで……」

その巨躯を見たアースラのクルー達は、これから始まるであろう戦いに不安を隠しきれずにいた。

だが、はやてだけは親友の勝利を信じている。

(……なのはちゃん、頼んだで)

「「ブロウクン……」」

ヴィオファイガーが非実体型のファントムリングを右手に発生させた。そして、ナノガイガーは既に発射モーションに入っている。

「ファント──ムッ!!」

「マグナムッ!!」

双方に撃ち込まれる拳は、両者の中間地点でぶつかり合い拮抗した。

激突の余波で見えざる衝撃波がアースラの方にまで押し寄せる。

「っ!」

相手に届かぬ拳を戻し、ナノガイガーが急進。ヴィオファイガーに肉薄し、蹴りを放つ。

「く──」

ヴィヴィオは腕でキックを受け止めた。スパイラルドリルがヴィオファイガーの装甲を削る。

(くっ──近接戦闘は私の方が上のはず)

魔力がヴィオファイガーの腕に宿る。

ヴィヴィオは猛然と反撃を開始した。ベルカ式の魔力付与は攻撃の威力を数倍に上げる。

「たぁぁっ!!」

「さすが、技のキレが良いね……でも」

なのはは余裕でそれらの打撃を防いでいた。

「私を倒すには力が足りないよ」

「わかってる……ママと戦うには……全開の……フルパワーが必要だって」

ヴィヴィオはエヴォリュアルウルテクエンジンの出力を限界まで引き上げた。

機体の一部が負荷に悲鳴をあげるが、ヴィヴィオは無視する。

(砲撃こそ、なのはママに対する最大の敬意──)

ヴィオファイガーは数多の光球を生み出した。

「これは──なのはちゃんの……!!」

アクセルシューター。なのはが得意とする、誘導操作弾。

はやてはヴィヴィオがなのはとフェイトの魔法をかなりコピーしているという事に思い至った。

「八神隊長……あの誘導弾、大きさが──」

「でかい、な……」

アクセルシューターの大きさは人間がすっぽり入ってしまう程、巨大だ。

それが数百と浮かぶ光景は、美しくもあり、また恐ろしくもあった。

「シュート!!」

光球が一斉にナノガイガーに向かう。

ナノガイガーは移動を図るが、全方位からの攻撃により着弾は必至。

少しくらいのダメージは与えられる、とヴィヴィオは踏んでいた。動きを止めれば、一瞬の勝機がそこに生まれるはず。

ヴィヴィオは新たなる砲撃のチャージをはじめた。光が伸ばした両手の先で輝きを増していく。

スターライトブレイカー……なのはの必殺魔法でナノガイガーを撃つつもりだ。

「これは……自動追尾型みたいだね」

なのはは冷静に防御態勢に移る。

「プロテクトシェード!」

ガオガイガーのバリアの原型となったジェネシックの防御フィールドを四方に展開した。同時に爆発がナノガイガーを覆い隠した。

「む……」

パルパレーパに不審の表情が浮かぶ。

「アベルの話では、破壊神の防御は、ジェネシックオーラによる情報攻撃だったはず……」

ジェネシックガオガイガーが放つ防御フィールドは対遊星主用の技であり、いわばアンチウィルスの様な働きをする。故に、プロテクトシェードは遊星主の身体を破壊してしまう効果を持っていた。

しかし、それ以外の物理/魔法攻撃への対応力は低いはずだったはずだ……

「なにがしかの改良を施してあるようだな」

レイジングハートは、プロテクトシェードに対物理/魔法攻撃に備え防御魔法の効果を織り込んでいた。《プロテクションEX》などより遥かに強固な防御力で、広範囲をカバー出来る。

アクセルシューターの被害は抑えられ、傷一つつかない。

そして。

なのはもまた砲撃の準備を始めていた。

爆発の中から現れたナノガイガーに、ヴィオファイガーがスターライトブレイカーを解き放った。

「……ディバイン」

なのはがギガンティスハートを突き出し、唱えた。

「バスター!!」

ぐわっ──

柱の様な砲撃が相手目掛けて発射される。

「っ……!!」

ディバインバスターGXは、ヴィヴィオのスターライトブレイカーに衝突。

光の飛沫がしぶいた。

「私の砲撃を、押し返している……!?」

ヴィヴィオは驚愕し、慌てて防御に入った。

スターライトブレイカーはディバインバスターに飲み込まれ、ヴィオファイガーに逼迫する。

「プロテクトウォール!!」

かざされた左手から防御力場が放出された。

バリアにディバインバスターがぶつかる。その凄まじい衝撃にヴィオファイガーが吹き飛ばされそうになった。

「ぐあああっ」

バリアが、もたない……

「おおおおっ!!」

ヴィヴィオは右拳にGストーンとレリックのパワーを集中させた。

「ブロウクンファントム!!」

至近距離からの打撃。

魔力付与された勇者王の武装を、思いっきりディバインバスターに叩きつけた。

「消し飛べぇぇ──!!」

崩れたエネルギーの奔流が、ヴィオファイガーを包み込んだ。星が破裂したような、まばゆい閃光が(はし)る。

「ヴィヴィオ……!」

なのはが叫んだ。

戦っていても、やはりその身を案じてしまう。

「うっ──」

爆発の余光が舞う中、ヴィオファイガーが傷付いた姿を現した。プロテクトウォール、聖王の鎧で致命的なダメージは避けれたものの、無数の細かい損傷が装甲に見られ、右拳はヒビが走っていた。

GSライドは限界以上のパワー放出に疲弊し、ヴィヴィオの魔力も消耗が激しい。

だが、それでも彼女は戦うことを止めようとはしなかった。

それが遊星主の命令だったから。

ケミカルボルトはほとんどヴィヴィオの身体に埋まっている。完全に入りきらないのは、聖王の鎧が「異物」として排斥しようとしているからだ。しかし、それでも浸蝕を食い止めることは出来ず、押し止めるのが精一杯である。

(遊星主の呪縛と戦えっていっても……私には)

ヴィヴィオはピア・デケム・ピットで語りかけてきた声を思い出していた。

声はケミカルボルトに負けず、戦えと言ったのだ。

(無理だ……身体のコントロールが……)

パルパレーパのナノマシンが彼女の神経細胞を侵し、肉体の制御を乗っ取っていた。

自我はあっても、身体は遊星主の操り人形に等しい。

(マ……マ……)

ヴィヴィオはナノガイガーを見た。

不思議とその、破壊神の貌は穏やかに微笑んでいるように感じられた。

(なのはママ、本当に私を助けられるの? その──悪魔の力で)

もし、その疑問をなのはが聞いたとしたら、どう答えただろうか。

大丈夫、と安心させるように頷いたのかもしれない。

(なのはママ……私、は──)

「何を手こずっている。悪魔王に容赦は要らぬ。貴様の力を全て使って倒すのだ」

パルパレーパから叱責が飛ぶ。

「私の……」

ヴィヴィオが躊躇いがちに動き出した。

「なにか、まだ奥の手があるのね」

なのはは攻撃に備え、ギガンティスハートを前に突き出した。

「……来て」

ヴィヴィオが魔法を使う。

(召喚?)

魔法陣が浮かび、巨大な物体が転送されてきた。

「私の、最強ツール!」

「あれは──」

間違いない。レイジングハートがギャレオンから送られた知識の内にあったものと同一のものだ。

「そうだ。その、破壊神の力で悪魔王を倒すがいい」

パルパレーパが嘲笑う。

「──高町なのは、娘に倒されるのなら本望だろう……むう!?」

突如。パルパレーパ目掛け、光条が飛んで来る。

「奴らか?」

回避したパルパレーパは、アースラの方を向いた。

アースラから砲撃が来たのだと思ったが……

「いや、攻撃はその背後から──」

アースラの後方、白い戦艦が闇を裂いて登場した。

「ジェイアーク! 追いついたか」

超弩級戦艦ジェイアーク。その威容を誇らしげに見せながら、悠然とアースラに並んだ。そしてパルパレーパに艦砲を合わせる。

「残念だが、パルパレーパ。貴様にのうのうと見物させてやる訳にはいかんのでな」

Jは戦意ある声で告げた。

「ほう。欠陥品のソルダートが創造神に挑むか……面白い!」

パルパレーパの気が変わった。

「傍観者も時に退屈でな。ちょうどよい」

ケミカルフュージョン。

「アベルに代わり、貴様を処分してやろう。神に逆らった反逆者として、な」

「私もピサ・ソールへの障害となる貴様を放ってはおけんのでな。ここで貴様を倒せばピサ・ソール攻略も時間の問題」

Jは隣のフェイトに頷きかけた。

「うん。いこう、J」

フェイトがバルディッシュを乗せた掌を差し出す。

Jはしっかりとその手を握った。

「テラフュージョン!!」

重なる力。

巨大なるゴッドジェイダーが誕生する。

「貴様が創造神と言うのなら、ゴッドジェイダーは戦の雷神!」

雷光を纏いし巨神が、翼を拡げる。

「我がいかづちが貴様を焼き尽くす!!」

「やってみるがいい! そして、創造神に刃向かう愚を思い知ることだ」

パルパレーパ・プラスは、ゆっくりと右手のメスを持ち上げる。

「来い、雷神よ!!」

 

転送されて来たのは超巨大な鎚だった。

「マーグハンド!!」

鎚から離脱したパーツが巨掌となってヴィオファイガーの腕に合体する。緩衝ユニットであるマーグハンドだ。勇者ロボ・ゴルディーマーグが変型したパーツだが、彼のAIは封じられていた。

「ハンマーコネクト!!」

金色の鎚が、巨掌に握られた。

「ゴルディオン……ハンマー!!」

 

「ゴルディオンハンマー……!」

金色の粒子が鎚とヴィオファイガーを輝かす。ゴルディオンハンマーとヴィオファイガーのGストーンがリンクした事で凄まじいパワーが生まれ、それが余剰エネルギーとなって機体表面に溢れ出したのだ。

「まるでヴィータのギガントハンマーやな……」

はやてはヴィオファイガーが装備した切り札にそんな感想を抱いた。

だが、ハンマー型といっても、グラーフアイゼンとは性能はまるで異なる。

ゴルディオンハンマーの正式名称はグラヴィティショックウェーブ・ジェネレイティング・ツール。

即ち「重力衝撃波発生装置」──重力波を造りだし、その中に置かれた物質を光子レベルにまで分解してしまう、強大なるツールだ。

たとえ、ジェネシックの機体といえど例外ではあるまい。

金色の破壊神が、ナノガイガーに巨大鎚を見せる。

「これは……私でもちょっと不利だね」

《Yes, Master》

「でも、負けられない。いくよ、レイジングハート!」

なのははゴルディオンハンマーの迎撃体勢を取る。

「ママ。これで、最期よ──」

金色の破壊神が巨鎚を構えた。これで、決着をつける。

ヴィヴィオは涙と共に、悪魔王に立ち向かって行くのだった。

 

普通の人間の目からすれば、それは数瞬の事としか認識できなかっただろう。

その、瞬き程の時間に幾つかの現象が並行して行われたのだ。

──遊星主ポルタンの巨大な刀がスバルに振るわれ、ティアナの脳裏に最悪の事態がよぎる。

「く──」

スバルは強引に身体の向きを変え、刀の軌道から脱出しようとする。打撃を前方に叩き込み、反動を使って後方の空間に自らを放り出す。そして自由落下により攻撃の回避を試みる。

風を裂き、ポルタンの刀が落ちるスバルを猛追した。

速く鋭い斬撃。

ティアナは誘導操作弾でスバルを援護するため、必死に弾道を計算した。

スバルもウィングロードを発動させ、対抗の構えを見せる。

ポルタンは音速に近い速度で武器を振り込む。そこから発生する衝撃波ですら敵には有効な攻撃となることを知っていたからだ。

「シュート!」

ティアナが魔法を撃つ。

スバルがウィングロードの上に立った。刀を跳ね上げるための一撃を放つモーションに入っている。

突如──ポルタンの姿が掻き消えた。

光学迷彩だ。

一瞬、スターズは標的を見失う。

スバルが感知した時には、既に横殴りの斬撃が迫っていた。

(しまった──)

凄まじい衝撃音が轟いた。

(スバル!!)

ティアナは悲鳴を上げそうになった。

だが、吹き飛んだのは、遊星主の方だった。

「これは……」

スバルは、眼を見開いて驚いた顔つきをしている。

彼女はポルタンの刀の側面に、何者かが蹴りを叩き込んだのを目撃していた。

その蹴りを食らったポルタンは、態勢を崩してビルに衝突し、転倒している。

迷彩は解除され、その手にあったひと振りは破壊されていた。いかに凄まじい攻撃か、威力を物語っていた。

「危なかったな、タイプゼロ!」

「この声──」

「あ、あんたは……」

あんぐりと口を開き、いささか間抜けな表情になって、ティアナが誰何する。

「よぅ、オレンジ頭。加勢に来てやったぜ、感謝しろよな」

照れ隠しの笑いを浮かべながら、スバルとよく似た顔立ちの少女がティアナの方を向いて言った。彼女の機械仕掛けの瞳には、困惑するスターズ2の顔がはっきりと見えているはずだ。

「ナンバーズ……」

スバルは自分を基に開発された戦闘機人を呆然と見た。

「No.9──ノーヴェ……」

赤い髪をなびかせ、ノーヴェはスバルの隣に跳んで着地。

「どういうことよ?」

と、疑問を発するティアナの背後から声がし、ぎくりとなって振り返ると──

「ノーヴェったら、あたしもいるんだけどなぁ……」

苦笑しながら現れた人影は。

「あんた、戦闘機人の──」

それはNo.6。セインであった。彼女は気軽な動作で手を振り、

「共通する敵と戦うんだ。せいぜい仲良くしようじゃないか」

 

性懲りもなく、ベルカの騎士が立ち上がり闘う姿勢を見せてきた。それを認めた遊星主・ペチュルオンは嘲りも油断もなく、淡々とした動作で攻撃を再開する。

電磁石とスクリューから生み出す電磁竜巻が、騎士──ヴィータに襲い掛かった。

暴風、そして雷。

暴れ狂う龍の様に、ヴィータを飲み込まんとする。

(来やがれ──)

ヴィータはグラーフアイゼンを手に闘志を沸き立たせた。

(今度こそ、奴の懐に)

防御魔法展開。

グラーフアイゼンをラケーテン・フォルムに。

「いくぜ!!」

ヴィータが飛びかかろうとして。

「!?」

とっさに動きを変え、真横に移動する。

それまでヴィータがいた空間を、エネルギーの奔流が通過していった。

「これは……!?」

振り向く。そこに、誰かの気配があった。

「こいつは」

放たれた直射砲は電磁竜巻と衝突し、爆発を誘発した。

凄まじい轟音と強風がヴィータを揺るがした。

その影響で近辺の樹木が薙ぎ倒され、地形も変えられてしまっている。

「大丈夫?」

言いながら『砲』を抱えた娘がヴィータに寄ってきた。

「てめぇ、ナンバーズの──」

険しい眼で見上げる。

少し眉根を下げながら、No.10……ディエチが、ヴィータが疑問に感じているであろう事の説明をしようとした。

だが。その時間は後にする必要となった。

「危ない」

防御形態で爆発のダメージを防いだペチュルオンが、二人の元に向かってきたのだ。

巨体に似ない速度は亜音速にも達していようか。

瞬速で間合いを縮め、腕のスクリューを振るう。

「跳んで!!」

「だぁぁっ」

二手に跳躍し、攻撃を逃れる。直後、土砂が爆発したように爆ぜ、砂塵が乱れ舞う。

攻撃を躱した二人は距離をとって着地。体勢を整える。

「またくるぞ」

ヴィータは電磁竜巻に備え、防御フィールドを発動。

フェイトの様な電気系技能を持つ相手に対して張る魔法だ。

ディエチはイノーメスカノンを構え、チャージを始める。

ペチュルオンが両腕の電磁石とスクリューを回転させ、竜巻を発生させようと、した。

だが──

「結界!?」

突如、巨大な結界が、ペチュルオンを包み込み、電磁竜巻を阻んだ。

「これは……」

ディエチは知っている。これは魔法の結界とは違う。

「プリズナーボクス──」

と、いうことは。

「オットー!」

ディエチは仲間の名を呼んだ。驚くヴィータ。

二人の目の前に姿を現したのは、髪を短くしたボーイッシュな戦闘機人だった。

No.8、閃光の術師オットーである。

固有武装のステルスジャケットで隠れていたのだろう。

戦況を見守り、情報を収集していたのだが、姉妹であるディエチの危機にはさすがに動かずにはいられなかったのである。

いま、オットーが使用した結界は先天固有技能・プリズナーボクス。

対象捕獲用のISで、機動六課を翻弄した技能のひとつであった。

「助かった、オットー」

ディエチの言葉に頷く。

「でも、長くはもたない」

「おい、なんでお前達がいるんだよ。捕まったはずだろ」

まさか、脱獄してきたんじゃ……だが、それならば管理局員のもとに来る理由がわからない。

「それは──」

ディエチが口を開きかけた瞬間、激しい轟音を伴ってプリズナーボクスが歪み、撃ち破られた。

「オットー、どいて!!」

イノーメスカノンの砲口が光り輝く。

ISヘヴィバレル。

その破壊力はSランクの砲撃にも匹敵する。

いけっ──

放たれた直射砲は真っすぐに、遊星主の巨体を撃った。

 

ペイ・ラ・カインと天海 護。

攻撃と防御の力が、両者の間で拮抗する。

ラウドGストーンのパワーは、地下の岩盤すらも易々と貫く。その威力、それを怒涛の如く、護に向けて解き放つ。

少年はその力をバリアを張って防ぎ続けた。さきほどはどうにか押し返せたが、カインも今度は限界を越えて力を引き出してきている。

バリアを破る勢いの攻撃に、護は必死に抵抗した。

(ぐっ……このままじゃ、もたない)

防戦一方ではやられてしまう。攻勢に転じるチャンスがあれば……

「どうしたラティオ。苦しそうだぞ? そなたの勇気もこれまでだな……」

カインは憐れむように、息子に声をかけた。

(ちくしょう……こんなところで、負けるわけにはいかないんだ!!)

護は渾身の力を振り絞ってカインに抗った。

「──む」

カインは突然、護へ突き付けた腕を反転させた。背後からの襲撃を察知し、振り向きざまに攻撃を放つ。

その力と襲撃者の持つ双剣同士がぶつかり合い、火花が散った。

「!?」

その状況に困惑する護。

「──スカリエッティの戦闘機人だな」

カインを襲撃した娘は無言のまま、交差した刃をカインのパワーに叩きつけた。衝撃に弾かれ、彼女の体が上空に跳ぶ。空中で体勢を変え、放物線を描いて護の側に着地した。そして、再び双剣を構え、カインと相対する。

「貴女は?」

「No.12・ディード」

そう、彼女は短く名乗る。

ジェイル・スカリエッティが創造した、戦闘機人。ナンバーズの末娘。

「──どうして、ここへ?」

「お前たちに加勢するためだ」

「でも──」

ナンバーズは管理局に捕らえられ、拘束されているのではなかったか。

「管理局に敗北した戦闘機人がなにゆえ、管理局に味方する?」

その問いに、ディードは殺気を込めた視線でカインに返した。

「……ソール11遊星主。貴様らを、倒す」

「神である我等に敵対するか。愚かな選択だ」

カインの言葉にも動揺せず、強い口調で言った。

「遊星主はすべて倒す。ドクターの無念を晴らすために」

「それは逆恨みだな」

『IS──ツインブレイズ』

問答無用。ディードは赤い双つの刃を構える。

「私たちの神はドクターただ一人……貴様たちなど邪神にすぎぬ」

「いいだろう、ラティオごと葬ってくれる」

カインは攻撃の意思を、力として解き放った。

 

──かろうじて。

キャロの発動させた魔法は、海水に落下する皆を衝撃から守らせた。

「フリード!」

「ギャゥ……」

竜はキャロを乗せ浮上。

冷たい飛沫が一面に飛んだ。

「エリオ君は……!?」

急いで、パートナーの少年を目で探した。

広い海原、そのどこかに落ちたはず……

「あっ」

空に舞い上がったフリードの上から、キャロは海水が弾けるのを目撃した。

(あれは……ストラーダの?)

だが、それは別の者が起こした衝撃だった。

(……!)

強靭かつしなやかな肉体の持ち主が、傷付いた少年を担いで空中に踊り出たのだ。

「あなた、は──」

その姿に愕然とするキャロ。

しかし、直後、さらに驚くことになった。

「大丈夫……?」

小さな声が傍からかけられ、キャロがビクッと背中を震わせる。

「ど、ど、ど……」

「落ち着いて」

長い髪を揺らした小柄な少女が、平板な口調で言った。

「ルーちゃん、一体どうして──」

頭が混乱しているキャロは冷静になれない。

「……」

少女、ルーテシアは俯き、なにやら言い出しかけたが、やはり口を閉ざしてしまう。

「ルー……ちゃん?」

不安な表情で問うキャロ。

「ガリュー、助かったよ」

一方、エリオは自分を海中から救い出してくれたガリューに、素直に礼を述べていた。

「でも、どうして君たちが」

疑問が出るのも当然だ。

ルーテシアたちは次元犯罪者・スカリエッティに協力して逮捕され、施設に収容されていたはずだ。

「それは……」

ルーテシアが言いかけた時。

「!」

上空の遊星主、ペリクリオが再び動きはじめた。

ルーテシアたちを敵の増援と認めたのか、エリオたちを完全に殲滅するためか。

ソルタリーウェーブを放ち出す。

「……あいつを倒すのが先決ね」

「一緒に……戦ってくれるの?」

コクリ、とルーテシアは頷いた。その頬が若干紅く染まる。

キャロは嬉しそうに、

「ルーちゃんありがとう!」

顔を輝かせるキャロに、ルーテシアは照れ臭いのか、ぷいと面を背け、

「……アスクレピオス」

キャロに応えずデバイスを発動させた。

「キャロ、僕たちも──」

「今度こそ……」

「ギャオッ!!」

今一度。勇気ある者たちが、遊星主に立ち向かう。

 

砂塵を巻き上げてシグナムは立ち上がった。

突風が後頭部で結んだポニーテールをなびかせる。

──わが闘志、未だ衰えず。

その口許には、不敵な笑みさえ浮かんでいた。

「なぁ、レヴァンティン。昔を思い出さないか……?」

《Jawohl.》

「はるか昔の……ベルカの戦乱の時代を──」

古代ベルカ。聖王の位を求めて争われた覇権戦争の時代。

シグナムたち守護騎士は、主を護りあまたの強兵(つわもの)と戦い、恐るべき騎士たちと剣を交わしあった。

そんな過去の自分を思い起こし、シグナムが愛剣に語りかける。

「この程度の敵にやられては、かつて、わが剣に斃れた者たちも憤激しよう──」

自嘲気味に笑う。

「《ヴォルケンリッター》の主将……烈火の将はこれほどにも不様な様態を見せる騎士だったのか、とな」

そうとも。

主はやてと、いつか撃ち破ってきたあまたの騎士たちの名誉と誇りにかけても──

「このシグナム、必ずや勝利を御手に携えんことを……」

レヴァンティンを掲げ、誓う。己の力と、誇りと、主と仲間の信頼に。

「レヴァンティン、カートリッジロードだ!」

《Explosion!》

炎の魔剣の名の如く、火炎が渦を巻いて刀身に這い上がる。

「いくぞ」

《Jawohl!!》

疾駆。

風を裂き、レヴァンティンが唸りをあげる。

「はぁぁっ!」

ピーヴァータはチェーンソーアームを巧みに操り、シグナムの斬撃に打ち合わせた。

速く、重い。

レヴァンティンをシュランゲフォルムに変えて攻撃するが、致命的な一撃を与えるには、程遠い。

「このまま小競り合いを続けていても……くっ」

いつかは敗北する。だが、確実に勝機を掴める「でかい一撃」があるならば──

(やはり……あれしかないか?)

シグナムの切り札とも呼べる魔法はある。

しかし、使用には難点があった。

(《隼》ならば、奴を仕留められるとは思うが──)

シグナムが有する最大の直射魔法、《シュトルムファルケン》。その威力は、なのはの《スターライトブレイカー》にも匹敵するだろうか。

だが、問題は「チャージに時間がかかる」という事だ。つまり瞬時に発動させられない。

かつてフェイトと闘った時、彼女はこの切り札を出すべきか迷った。

発動に時間がかかり、また命中精度はミッドチルダ式と較べると低い──

そのような条件から、高速機動ではシグナムをも凌ぐフェイトには使えなかった。例え発射出来てたとして、当たらなければ意味がないからだ。

だが、対「闇の書の闇」には安心して使用できた。それは相手の行動を足止めできうる仲間の存在と、その場から移動をしない巨大な敵だったからである。小山の様な「闇の書の闇」は、的がでかい故に命中精度を気にする必要すらなかった。

ピーヴァータも、動きは遅く、巨体であり、闇の書の闇と状況は酷似している。

しかし、魔力のチャージの間に攻撃されれば、闇の書事件時と違って、なのはもフェイトもいないシグナムには厄介だろう。

(だが、それでも……)

やるしか、ない。

そんな決意を浮かべた瞬間、ピーヴァータがパイルドライバーをシグナムに向けた。重力衝撃波を放つつもりだ。

(──くっ)

シグナムは上空に飛び、回避しようとする。

彼女がまさに空へ翔け上がった時だった。

爆炎の華が、咲いた。

ピーヴァータの前面に、いくつもの爆発が起こり、遊星主は後ずさる。

「この炎は……」

まさか、というシグナムの表情だった。

「へへっ。けっこう苦戦しているみたいだな!」

小生意気、とも言える口調で声が降ってくる。

「……!」

驚いたシグナムの顔を見て、彼女は面白そうに笑った。

「ま、アタシが来たからには、こんなデカブツには負けないだろうけどな~」

シグナムの前に現れたのは、妖精の様な姿の少女。

「お前、なぜ……」

呆然と、シグナムは訊いた。

「それだけどな、じつは──」

炎熱の使い手たるベルカ式融合機──《烈火の剣精》アギトは、悪戯っぽくシグナムに片目でウインクしながら話し始めた。

 

……間一髪だった。

(プロテクションが間に合わなかったら……)

ただではすまなかっであろう。

ルネはまだ熱の立ち込めるなか、(きっ)とピルナスを睨みつけた。

「あらら、本当にしぶとい子猫ちゃんね」

今度こそ仕留めたと思っていたピルナスは、意外そうな声で呟く。

「この程度でくたばっていられるか」

吐き捨てるように言い、ルネは戦闘態勢に入る。

イークィップ──

「おおおおっ!」

Gストーンの光を煌めかせ、彼女は跳んだ。

サイボーグボディに力がみなぎる。

GSジェネレーターの超過駆動。ハイパーモードだ。

サイボーグ用の《弾丸X》とも言えるそれは、強大なパワーが発揮できる。これまでルネは怒りが頂点に達した時にしかハイパーモードに移行できなかった。つまり、自分では自在に制御出来ない機構なのだ。

しかし、今は《リオン・レーヌ》のサポートがある。

そして、ピルナスへの闘志は沸騰しかけているルネだ。

限界まで己の力を出さないと勝てない、という思いが、ルネをハイパーモード化させた。

(熱い……)

軽々と宙を舞い、ピルナスに接近する。

「ふん……悪あがきね!」

鼻で嗤ってピルナスは針を繰り出す。

「はぁっ」

ルネに巨大な針が襲い掛かる。それを両腕で受け止めた。

「なっ」

「うぉぉぉ!」

腕に、拳に、意識を集中する。すべての力を、一点に込める。

「砕けろぉぉぉ!!」

獅子の咆哮。

そして、緑の輝きを宿した拳が、ピルナスの針を粉砕した。

「馬鹿なぁ!?」

動転するピルナス。

「食らえっ」

すかさず、体重を乗せた蹴りをピルナスの胸に打ち噛ます。

「ぐぁぁぁっ」

巨体が衝撃に吹っ飛ばされる。ピルナスは地面に仰向きに倒れ込んだ。

「はぁはぁ……」

ルネは荒い呼吸を繰り返している。苦しそうな顔に汗が流れた。

ハイパーモードは超パワーと引き換えに、ルネの身体に大きな負担を負わせる。

ヘル&ヘヴンを使ったサイボーグ時代の凱同様に、機体に極端な負荷を強いるのだ。

さらに、ルネの場合は放熱機関が不完全な為に、莫大な熱量が体内に溜まる。かつて、親友のパピヨンが戦闘モードで無茶をしすぎるルネを、たしなめる事があったが、それはメンテナンスを受けねば、ルネの身は危険な状態になるからだ。

「だけど、こいつは、命を棄てる覚悟でないと倒せない……」

だからあえて、自分の機体が危なくなるのを承知でハイパーモードを選んだのだ。

「よくも……!」

激昂したピルナスが鞭を振り回す。

素早い動きで攻撃を避け、

(がら空きの脇腹へ──)

拳を放つ。

「ぐああっ!!」

ピルナスの苦痛の叫びにも斟酌することなく、ルネは打突を続ける。

「がぁぁっ」

堪らず、遊星主は逃れようとした。

ルネはそれを追撃する。

「観念しな!」

わが身を庇う様に折れ砕けた右腕の針を前にかざす。

ルネはその腕へ打撃を与える。ピルナスの右腕は、砕け散り、破片をばらまいた。

「このっ……」

鋼の鞭がルネの身体に巻き付いた。

「ぐぅぅっ──てめぇ……っ!」

鞭はルネのサイボーグボディを締め付ける。物凄い力でルネの機体を潰そうとする。

だが、ルネもただのサイボーグではない。

「ぬぁぁぁぁっ!!」

Gストーンの力を呼び起こす。

「馬鹿な……私の鞭が……!?」

驚愕するピルナス。

その左腕が軋んだ。

ハイパーモードのルネからパワーが溢れ──ついに鞭を引き千切った!

「お前の負けだ! ピルナス」

「ありえない!」

胸に魔力弾を受けながら、ピルナスは己が敗れる事を認めなかった。

「とどめだっ!」

最大の一撃を。

魔力で強化された拳を突き出す。

ピルナスの体が、爆発した。

「なにぃ!?」

直後、ルネは背後に攻撃を受けた。針が、刺さっている。

「……ピル……ナス!?」

「勝つのは神である私よ!」

元の姿に戻ったピルナスが、勝ち誇った笑みを表わにした。

彼女はルネに打たれたと同時にフュージョンアウトした。

パーツキューブがほとんど破壊されたため、巨大ロボ形態にはもうなれない。しかし、一瞬の隙をついてルネの背後に移動できた。

「ぐっ」

再びピルナスの鞭がルネの首に巻き付く。

ハイパーモードにより疲労が激しいルネは、苦しげに悶えた。

「形勢逆転ね」

──ちくしょう……

ルネが魔法を起動させようとした、その刻だった。

「!?」

どこからか飛来した光弾が、鞭を分断した。

自由を得たルネはすぐさま距離をとって構える。

「今のは……誰かいるのね!?」

管理局の者が援護に駆け付けたか、とピルナスは思った。

「この世界の人間に私が倒せるとでも……!?」

ピルナスの周囲を、無数の光弾が取り囲んでいた。

淡く発光するそれは空を漂う風船を想起させるが、むろん、無害なものではありえなかった。

「おっと、下手に近寄らないほうがいいっすよ?」

知らない声が忠告してきた。

「お前は──」

サーフボードに似た物体に乗った娘が、ルネの目の前を飛んでいた。

「フローターマイン……「浮遊する地雷」ってとこっスかね。ちょっとでも触れればたちまち、ドカーン……っ! てね」

髪を後ろで束ねた娘が、ピルナスに向けて無邪気そうに言った。

「おい、お前──いきなりなんなんだ」

ルネが険しい声で誰何した。

「危ないとこ助けたのにひどいっスね~」

「スカリエッティの戦闘機人ね?」

ピルナスがすぐさま、正体に感づいた。

「そうっス。あたしはNo.11、ウェンディ」

と、名乗ってから、

「お姉さん、遊星主に苦戦してるんでしょ。ここはあたしと協力して──」

「横からしゃしゃり出て人の獲物かっさらおうってのかよ!?」

嫌悪感を隠そうともせずに、ルネはウェンディを睨んで言った。

ルネはスカリエッティの情報を管理局で見ている。

それで思ったのは、

(こいつらはバイオネットの連中と同じだ……)

人の生命を弄んできたスカリエッティを、ルネは彼女の身体をサイボーグに改造したラプラスやメビウスと同種の悪魔として、憎んだ。

だから、その創造物であるナンバーズを見やる目も、バイオネットの獣人やメタルサイボーグに対するものと変わらぬ。

蔑視の対象だった。

「こいつはあたしが倒す敵だ。関係ない奴は消えな!」

「ところが、そうでもないんスよねぇ……」

「なに?」

「ほほほっ! どっちでもいいわぁ。狩る子猫が二匹に増えただけ──」

おっと。早くも敵認定すね。望むところっスよ!

ウェンディは不敵に笑みを零した。

「おい、どういう──」

問い質そうとしたルネの言葉が終わる前に、ピルナスが動いた。

「げげっ!」

ウェンディは驚愕した。

フローターマインの重囲を押し切って向かって来る。

空間にばらまかれた反応弾は少しでも衝撃を与えられれば、瞬時に爆発する。その際の破壊力も高いものだ。

しかし、ピルナスは構わずに突進してくる。

当然、次々に反応弾が誘爆していくがそれでも遊星主が停まることはなかった。

「捨て身……!?」

「てめえ!」

光と熱の咲き誇る間を突き抜け、二人に向かう。

「これなら──」

ウェンディがライディングボードから砲撃を撃った。

エアリアル・キヤノンだ。

「やった!」

砲撃は、命中した。ピルナスの肩が弾ける。

「いや……待て!?」

ピルナスは怯みもせず間合いを狭め、ウェンディに火炎を放つ。

「うわぁっ」

ライディングボードで炎を防いだウェンディが、逃げるように後退した。その顔には困惑が浮かんでいる。

「撃たれても平気っスか!?」

「ぐ──ピルナス、お前は死ぬ気か」

「ふっ……」

鞭でルネを打ち据え、ピルナスが感に堪えた様に告げた。

「どれほど傷つこうと、私達は負けない。なぜなら、私達にはピサ・ソールがあるのだから!!」

「なんだと……」

「ピサ・ソールの光ある限り私達ソール11遊星主は不死身……そう、有限の命しか持たない貴女たちが、無限の再生力をもった私達に勝つことは絶対に無い!」

ルネは歯を食いしばり、ウェンディは動揺している。

「私達は神なのだから──故に、貴女たちの敗北は定められし運命……」

高い哄笑が、ルネの不快を煽るように響き渡った。

「何が神だ……ならば再生する片っ端から、あたしがぶち壊してやるよ」

ウェンディの視界で、《獅子の女王》が獰猛に牙を剥いた。

 

追い詰めた──

獅子王 凱はそう思った。

遊星主プラヌスは凱の攻撃を巧妙に避けながら、逃げるかの様に移動している。それを追って駆ける凱。

と、突然、樹々の葉を蹴散らしてプラヌスが制止した。

(観念したか……?)

自然豊かな景観のなか、凱はついに追い詰めたのだと、そう思った。しかし、それは逆であった。

(ここは──)

周囲の地形には見覚えがある。緑の色も優しい、ベルカ自治領の光景は数日前に目にしたばかりだった。

(そうだ、あの──)

凱の思考を遮るように、プラヌスがミサイルを発射した。

「はぁっ!」

防護の魔法がミサイルを逸らし、凱の後方に墜落する。

プラヌスはまた逃げ出した。

凱が疾走する。

「待てっ」

そこで、ガオーブレスから警告が告げられた。

《It warns》

「なんだ……!?」

《A stretch of refuge is not completed from this》

「っ……!」

聖王教会施療院を含めた地域の一般人の避難がまだ終わっていない、というのだ。

(あそこには命が……)

情報によると、健康な民間人の退避はほぼ終了しているが、問題は数百人居る入院中の患者たちである。避難先の受け入れ体制がなかなか整わず、素早い移動が出来ていない。

重病患者は特に扱いも難しく、最新の医療設備を完備した病院を各地、各世界に緊急手配しなければならず、医者たちもてんやわんやであった。

そして、そんな取り残された患者のリストには、卯都木 命の名も入っている。

凱は焦燥感に駆られていた。

(くっ……下手な戦い方をしたら、逃げ遅れた患者たちを危険にさらしてしまう……!)

プラヌスはむしろ彼らを巻き込むように動けばよかった。

いかに無関係な人間が落命したとして、遊星主は痛痒も感じない。民間人を盾に取られ兼ねない状況は、凱を苛立たせるのだった。

(こんなときに、ディバイディングフィールドに奴を閉じ込められたら……)

凱の防御魔法は空間湾曲を再現し利用していたが、ディバイディングドライバーほどに広範な使い方は無理だ。

ならば、ここは何としても遊星主を人々に手の届く範囲へと入れさせてはならない。

凱は跳んだ。いや、飛んだ。

風を切ってプラヌスの頭上を翔け抜け、医療院のある方向を守るように立ちはだかった。

「貴様は絶対にここで食い止める……いや、倒す!!」

闘志を燃えたたせ、相対する。プラヌスはそんな彼にビームを撃ち込んだ。

「プロテクトガード!!」

防ぐ。

それを意に会さず、プラヌスはミサイルを発射。

「うおおっ」

音速に近いその弾頭へ、凱は跳躍して追い付き、魔力を蓄えた右拳をぶちあてた。

腹を叩かれたミサイルは「く」の字に折れ、墜落していった。

──だが。

「しまった!」

ミサイルは森林と森林との間にある草地に落下し、爆発が起こった。その爆風で近在にあった古い建物が破壊されてしまう。それはベルカ領でも年代物の騎士の館で、現在では史料館のような趣になっている。

幸い管理者は避難した後だったため無事だったが、残念ながら歴史ある品々は喪われてしまった。

それらは後日に判明したわけだが、いま、凱は己の片手落ちだと青ざめたのである。

もし、建物に人がいたら、悔やんでも悔やみきれなかっただろう。

「くっ……」

次から、奴が撃ったミサイルは、誰かがいるかもしれない場所に到らないうちに、全て破壊しなければ──

「俺は超人エヴォリュダー、そして魔導師だ。ここでみんなを護る力があるのは俺だけ……ならば、絶対に負けてはならないんだっ!!」

遊星主事件の渦中、聖王教会騎士団は医療院を中心にベルカ一帯の警護を、管理局地上部隊は民間人の移送及び護衛を担っていた。

遊星主以外の次元犯罪者へも対応を迫られているため、どこも人手不足が言われている。

機動勇者隊の者に加勢したくとも、なかなかうまくいかないのが管理局の悩みだった。

「っ!!」

プラヌスがスピアーを突いてきた。目にも止まらぬ速さの突きだ。

凱は槍撃をバリアで受け止めつつ、光弾を撃つ。が、それはプラヌスのシールドに弾かれる。

「ぬぅ……」

攻めあぐねる凱が舌打ちをする。

──その時、だった。

「戦えるのは、貴方お一人だけではありませんよ!」

声がしたのと同時に、流星のように飛び込んできた影がある。

「君は!?」

誰何に応えたのは、影が放った蹴りだった。

「たぁっ!!」

凄まじい一撃であった。

食らったプラヌスの巨体が、森のある方に吹き飛んだ。

バキバキと、樹木が砕け折れる響きが轟いた。

「援護に参りました、勇者凱」

凱の前に降り立った女性が、生真面目な表情で言った。

「そいつは有り難い……君がいればとても心強いな、シスターシャッハ」

聖王教会シスターにして騎士。古代ベルカ式の魔法を受け継いだシャッハ・ヌエラであった。

「さぁ、共に邪悪なる敵を討ちましょう」

勇ましくシャッハが構える。その手には双剣型デバイス《ヴィンデルシャフト》。

「あぁ──」

立ち上がったプラヌスが、反撃の動きに出ようとしている。

二人は隙なくその瞬間をうかがった。

 

『大丈夫よ……凱。勇気ある限り、貴方が必ず勝つわ』

 

プラヌスが猛烈な勢いで間合いを詰めてきた。

(くる……!!)

プラヌスがミサイルを連続的に発射した。

「数が多い……!」

「いえ、打ち落とします」

凱とシャッハがミサイルたちを破砕していく。

「だめだ……間に合わ──!?」

「あっちには、医療院が……」

間に合ってくれ。

凱が疾駆する。

早くあれをどうにかしないと……!

しかし、凱の祈りも虚しく、ミサイルは宏大な敷地をもつ聖王教会医療院の一画に着弾し──

「命ぉぉぉぉ!!」

勇者が絶叫した。

奇跡が起こったのは、それからだ。

 

『大丈夫よ凱……私は大丈夫……』

 

「命……?」

爆発の衝撃は医療院を揺るがした。咄嗟に聖王教会の騎士たちが発動させた結界により、どうにか死傷者をださなかった。

医療院は倒壊は免れたけれど、ひび割れや揺れによる転倒などが発生したのだが、大事にいたらなかったので重畳と言えよう。

さて。

一人の患者が治療を施されていた一室なのだが……。

部屋のガラスが割れ、棚の備品が幾つか床に散乱している。

患者が寝ているはずの白い寝台のなかは、からっぽだ。

彼女は、その傍らに立ち、穏やかな相貌で彼方にいる恋人に意思を送り込んでいた。

『私は無事よ、凱……』

そう、心で述べた命の額には、不思議な光が点っていた。

いまこそ、覚醒の刻がきたのだ。

「神話の終焉が、始まる……」

命の声が、確かな予感に震えていた。

 

(これで……ママとの戦いを──)

黄金の鎚が輝いた。

(終わらせるんだ!)

全てを終わらせるために。

ヴィオファイガーはゴルディオンハンマーをナノガイガーにうち振るった。

「光になれぇぇぇ──」

それは慟哭ともよべる叫び。

ゴルディオンハンマーがナノガイガーを粉砕するために発動する。

ナノガイガーはギガンティスハートを掲げ、

「プロテクトシェード!」

防御フィールド発生。さらに加えて──

「レイジングハート、ジェネシックアーマーとプロテクションを全開に!」

《Yes MyMaster》

ジェネシックアーマー、プロテクトシェード、プロテクション、機体を護る三重のコーティングを形成させた。

その、ナノガイガーの防御フィールドとゴルディオンハンマーがぶつかって、光が乱舞した。

「くっ……」

さすがに三重の防御層を一瞬で分解は出来ず、ゴルディオンハンマーの破壊力はナノガイガーにまで届かない。

だが、少しずつだが、表層から防御フィールドを削り取っていき、ナノガイガーを包む力場が揺らめいた。

「でも、それだけでは足りないよ、ヴィヴィオ」

「うぉぉ、ウルテクパワー全開──!!」

残された力を全て注ぎ込むかのように、リミッター限界を遥かに超えたパワーをゴルディオンハンマーに回した。

金色の光が輝度を増す。そして凄まじい量のエネルギーを得た巨鎚は、防御フィールドを断ち割るようにプロテクトシェードの盾に穴を開けた。

「このまま……本体へ!」

「ヴィヴィオ、貴女の攻撃では私を倒せない。それを証明してあげる」

ナノガイガーが右腕を前に突き出した。

突出してくる黄金の破壊鎚に向かって──

「なっ……!? ゴルディオンハンマーに」

五指を拡げたナノガイガーの右手が、なんとゴルディオンハンマーの頭に押し付けられたのだ。

「何を……!?」

ヴィヴィオは惑乱した。

重力子の波動は順次、ナノガイガーの防御力場を光子に変換し続けている。

防御フィールドが崩壊した時、直接ゴルディオンハンマーの威力がナノガイガーに襲い掛かるだろう。

「貴女にゴルディオンハンマーがあるように、私にも『これ』がある!!」

ハンマーヘッドに触れた指先が金色の光を放った。

「ゴルディオンネイル!!」

それはGGGの開発したゴルディオンハンマーの原型となった、ジェネシックガオガイガー専用ツールであった。その名の通り、ジェネシックガオガイガーの十指の先端に装備されている。重力衝撃波により触れた対象を局部的に破壊するのだが、地球の技術で再現する際には、さすがの獅子王麗雄博士らも小型化できなかったものであった。ゆえにゴルディオンハンマーはあのような超巨大なツール(それもオプション)になってしまったのだ。

そのかわり、ゴルディオンハンマーは出力や分解範囲が大きく、ゴルディオンネイルの方は局部的にしか使用出来ないため、広範囲を破壊できない。

なのはは、エネルギーアキュメーターに蓄えられた力を用いて瞬間的に出力をヴィオファイガーに凌駕するレベルにまで引き上げた。

「あ……あっ!?」

ヴィヴィオが瞠目した。

「Gストーンは勇気をエネルギーに変換してくれるの、それは同じGSライドを搭載した機体に乗っている貴女ならわかるわよね?」

なのはが静かに、諭すように、語りかけた。

「だけど、勇気がなければ、それはただの石にも等しい……」

ゴルディオンネイルが、鎚の進攻を押し止めた。

「ヴィヴィオ、いまの貴女のなかにあるのは勇気じゃない。不安、絶望、恐怖……そして憎しみ」

なのはが一喝して叫んだ。

「そんな、マイナスの思念では、Gストーンは応えてはくれない!!」

勇気──生きる力の源、命のほとばしり、魂の熱さ。プラスの思念こそがGストーンを輝かせられるのだ。

「だから!!」

ゴルディオンハンマーに、ナノガイガーの爪が食い込んだ。

「Gストーンの真の力を発揮できる私に、貴女は勝てない!!」

ナノガイガーの逆撃。

「勇気ある限りGストーンは無限のエネルギーを与えてくれる。これが私たちの持つ、絶対勝利の力!!」

怯えて自暴自棄に陥ったヴィヴィオには、娘との戦いに全ての躊躇いと迷いを振り切ったなのはを……ナノガイガーを越えられない。

「ゴルディオンハンマーが……」

突き立った悪魔の爪を起点に、光と化していく。

「うわあっ……!」

ヴィヴィオはマーグハンドごとゴルディオンハンマーを分離した。

『感謝する……』

ヴィヴィオではない低い声が、ナノガイガーに謝意を伝えた。

『同じ過ちを繰り返すのは、もうごめんだぜ──』

声は、粒子となって消えていくゴルディオンハンマーを握る巨掌──マーグハンドから聞こえてきた。

それは、戦闘中に目覚めたレプリゴルディーマーグの意識だった。

勇者ロボの一人、ゴルディーマグはゴルディオンハンマーの衝撃からガオガイガーを保護するために生み出された緩衝ユニットである。

彼はかつて、三重連太陽系で遊星主にレプリジンとして複製され、レプリファイガーと共にキングジェイダーと闘った。勇者ロボの超AIといえど、パルパレーパの呪縛を脱するには時間がかかる。故に自らの意思に反する操作を受けた。

そして、再び彼は勇者にあるまじき行動をとらされたのである。しかし、それもナノガイガーによって解放された。

ゴルディオンネイルはゴルディオンハンマーを粉砕した。

光に分解されながら、ゴルディーマーグは、なのはに礼を告げる。

『ありがとう……俺を救ってくれて……そして、さらばだ。異世界の勇者よ』

「さようなら……GGGの勇者──」

『凱に……俺たちの隊長によろしく言っといてくれ。あと、ずっとあんたに助けてもらいたがっていたヴィヴィオとかいう娘……それも頼んだぜ』

ヴィヴィオの心の叫びをゴルディーマーグはGストーンを通じて聞き取ったのか……彼女もまた遊星主の被害者と知りながらも、自由を封じられた彼にはどうすることもできなかった。

「えぇ、ヴィヴィオは私が必ず救うわ」

『じゃあな。勇気あるお嬢ちゃん』

「貴方の言葉。絶対、凱さんに伝えます」

『……』

こうして。

レプリゴルディーマーグは、ゴルディオンハンマーと共に消滅した。

「そんな……」

ヴィヴィオが愕然とする。

ナノガイガーはゆっくりとした口調で、言った。

「さぁ──決着を着けましょう、ヴィヴィオ」

なのはの声が、決意を秘めて発された。

 

 

 

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