……ゴルディオンハンマーは消滅した。
勇者王最強ツールが破壊されたためか。ヴィヴィオの動きが停まる。
「ゴルディオンハンマーが……」
キングジェイダーですら苦闘を余儀なくされた黄金の鎚。
それも、なのはにより完全に消失した。
「決着をつけましょう」
なのはの言葉には厳然とした響きが含まれていた。
「う……」
「それとも、戦うのはもう無理? なら、降伏しなさいヴィヴィオ。武器は失ってはもう貴女に……」
「まだよ!」
ヴィオファイガーは無理矢理機体を奮い立たせた。
残存するパワーをすべて両掌に回す。
勇者王に残された最後の力だ。
「ヘル・アンド・ヘブン!!」
破壊と防御の力を一つに束ねて放つ、特攻技だ。
そして、ペイ・ラ・カインの知識にあった奥義。それを伝授されたヴィヴィオが叫ぶ。
「ウィータ!!」
虹色の《カイゼルファルベ》の光芒をまといながら、ヴィオファイガーがナノガイガーに突進する。
「はぁぁぁぁ!!」
組み合わされた拳がナノガイガーに迫る。
「なんで、なのはちゃんは動かへんねん!?」
「このままだと直撃して……」
ナノガイガーはじっとしたまま、何の行動も見せなかった。
ヴィヴィオはギャレオンの口蓋を貫きコクピットを破壊するつもりだ。
(ママ――)
いかになのはといえど、ヘル・アンド・ヘブンアンリミテッドを喰らい、命があるとは思えなかった。
(これが最後の……)
彼女の攻撃だった。
なのはに喝破された通り、もはや充分な戦闘力は残されていない。捨て身の賭けしかヴィヴィオにはなかった。
「おおおおっ!」
高速の突撃。必殺のヘル・アンド・ヘブンがナノガイガーを破壊すると思われた、その瞬間。
ナノガイガーの胸からまばゆい輝きが、拡がった。
「こ、これは……!?」
桜色の閃光が、組み合わされたヴィオファイガーの手の隙間からほとばしる。
「あぁっ……」
内側から弾ける様に、鋼鉄の指が砕けて散る。
光の勢いは止まらず、ヴィオファイガーの腕を破壊しながら突き進む。
「っ!」
ヴィヴィオは瞠目した。
ギャレオンの口蓋内に立つ人影を、その眼に認めたからだ。
それは、レイジングハートを構えた高町なのはの姿であった。
「……この魔法は!」
母の足元に輝く魔法陣、それを見てヴィヴィオは瞬時に悟る。なのはの必殺の魔法。
「スターライトブレイカー!」
砲撃のなかにおいても桁外れの威力を秘めた収束砲。
「そうか……それで」
ナノガイガーが動かなかったのは、収束砲に必要な魔力チャージのためだったのだと判断する。
おそらく、Gストーンの力も上乗せされているのだろう。
スターライトブレイカーは真っ直ぐに、ヴィオファイガーを射貫く。
光が直撃した。
「あああっ!」
くろがねの装甲は光の粒子となって飛び散り、光条は減殺もせずヴィヴィオを襲う。
「うわぁぁ!」
激しい痛みが全身を駆け巡り、悲鳴を上げた。
「痛いけど、ちょっとだけ我慢して」
なのはは娘の苦痛を知りながらも手を緩めない。
身体が軋み、神経が焼き切れそうな痛撃。
ピシッ――
ヴィヴィオの感覚はほとんど麻痺しているが、ただ、体内の一角でなにかに亀裂が入るのは感じられた。
「うっ……」
そして、ついに「それ」は間断なく撃ちつけられる衝撃に耐え切れず、ヴィヴィオの内部で砕けていった。
「ぁぁぁっ――!!」
高魔力の結晶は負荷に耐え切れず、粉々に崩潰した。
「やりました! レリックの消滅を確認しました」
「ヴィヴィオは……!?」
新星が爆発するかのような、拡散する光爆の連鎖に、ヴィヴィオは包まれていた。
「ヴィヴィオ!?」
《スターライトブレイカー》による破壊の輝きが収まった。
ヴィオファイガーの機影は跡形もなくなってい、一人の幼子だけが空間に残された。
聖王ではなく、普通の、小さな少女に戻ったヴィヴィオが。
「ヴィヴィオ――!!」
なのはは、力を失って漂うヴィヴィオのもとに駆け付けた。
抱き留め、彼女の無事を確かめる。大丈夫だ。うっすらと汚れているが、レイジングハートは生命に別状はないとなのはに告げた。なのはは安堵する。
「よく頑張ったね……ヴィヴィオ」
「マ……マ……」
意識を取り戻したヴィヴィオへ、なのはは微笑んだ。
その瞳が潤んでいく。
なのはは、杖になったレイジングハートを掲げた。
「――クーラティオー……」
子守唄を謡うように。穏やかで優しい声がヴィヴィオの耳朶を満たした。
「……コクトゥーラ」
浄解の呪文である。
無機物と有機物とが融けて混ざり合った生命から、異質なものを分離し、浄化する、聖なる呪文。
Gストーン特有の緑の輝きが、少女に埋め込まれたケミカルボルトを消し去っていく。
こうして、ヴィヴィオは完全にパルパレーパの呪縛から解放された。
もはや苦しみは無く、母の腕に抱かれたヴィヴィオの胸には大きな安らぎが広が
っていた。
(帰って……来れたんだ……ママのもとに)
また、涙の雫が頬をつたった。
「お帰りなさい……ヴィヴィオ」
「ただ……いま」
この温もりを二度と離したくない。
二人はそう思いながら、互いを掴む手に力を込めた。
(でも――)
遊星主との戦いはまだ終わってはいない。
名残惜しげに腕を解き、なのははヴィヴィオに告げた。
「ごめんね、ヴィヴィオ。ママはやらなくちゃいけないことがあるの」
「ソール11遊星主と……戦うの?」
なのはは頷き、
「すぐに終わらせるから。だから、ヴィヴィオは良い子でママの帰りを待っててね」
「私も一緒に――」
「だめだよ。もうヴィヴィオは危険な事をしなくてもよくなったの。いい? ママの言う通り、私達のお家で……おとなしく待っているのよ」
「ぅぅ……」
不服そうだが、自分がなのはの役に立たないことは彼女自信が理解していた。
戦闘により、ヴィヴィオの魔力と体力は限界以上に酷使され、一刻も早い治療が必要だった。
「なら、約束してママ」
少女は手を差し出しながら言った。
「無事に……すぐ帰ってくるって」
「ええ、わかったわ」
母子は指切りをした。
「絶対、絶対にだよ」
「約束する」
真摯な声で、なのはは答えた。
「なのはママは強いから……きっと大丈夫だよね」
「そうだよ。エースだもの。遊星主をあっという間にやっつけて戻ってくるわ」
ようやく、微かな笑みをヴィヴィオは浮かべた。その頭を撫でながら、
「帰ったらヴィヴィオの好きなキャラメルミルク、作ってあげるね」
「ほんと?」
「ええ……」
にこり、と、なのはは微笑した。
それからアースラと交信してヴィヴィオを艦内に収容させた。医師であるシャマルは急いで診断を開始した。はやてはミッドチルダに通信し、ヴィヴィオを送り届ける航行艦を寄越すよう依頼する。治療をするなら設備の整った地上の方がいいと考えたからだ。
そして、なのはは再びギャレオンとフュージョンした。
ピサ・ソールに対し、ナノガイガーの力を振るわなくてはならない。
使命も新たに、なのはは最終戦に向けて決意を固めた。
必ず、遊星主の野望を阻止すると――
――全ての攻撃が外れる?
遊星主プラヌスはその奇妙な状況に疑問を感じていた。
敵であるエヴォリュダーが戦い慣れしているのは判る。
だが、いくら優秀な戦士といえど、自分の攻撃を悉く回避し
凱が予知能力を持っているとは、プラヌスは考えていなかった。エヴォリュダーにその力があれば地球での戦いでGGGが後手に回ることはなかったはずだからだ。
しばらく考えてから、純粋に身体能力の向上によるもの……と、結論付けた。
だが、真相はまさに予知能力によるものだった。命のリミピッド・チャンネルによって得られる情報を元に、凱はプラヌスの一撃、一撃を避けることに成功していた。
ときおり、シスター・シャッハがプラヌスを攻めるが、あまりダメージを与えられていない。凱としても、巨大なプラヌスを葬るに足る手段に窮していた。大規模な魔法を使えば周囲の地形を変えてしまう恐れがある。
(だが、急がないと……)
焦りが浮かぶ。
(こんな時にGGGのサポートがあれば――)
苛立ちと不安がよぎった。
それを打ち消すかのように、管理局から報せが届いた。
マリエルからの通信だ。
『凱さん、遅くなりましたが、ようやく完成しましたよ!』
「おおっ!」
凱の顔色が晴れた。
ついに、あれが完成したか。
かねてより開発が進められていた装置が、勝利の鍵になりそうだった。
「よし、すぐこちらに寄越してくれ!」
『転送します、《ガオーブレス》の準備を――』
「わかった!」
数瞬ののち、転送されてきた装置が《ガオーブレス》とドッキングを果たした。
「よっしゃあ!!」
凱はその装置――《ユニット・ディバイダー》を起動させた!
「空間湾曲! ディバイディングスフィア!!」
「く、空間が……!?」
「歪んでいく。これは……そう――!」
シャッハが驚きの声を上げる。そして、命にはすぐに装置の正体に、見当がついた。
「ディバイディングドライバーをミッドチルダの技術で再現したのね」
プラヌスと凱達は、半径数十キロメートルに渡って展開される湾曲空間に閉じ込められた。
それは、GGGが原種大戦において幾度となく使用した戦闘域――即ち、ディバイディングフィールドと同じ空間であった。
市街や民間人に被害が及ばぬように作られたハイテクツールの賜物である。遊星主と戦う為に必須であると凱が提案したのを受け、結界魔法の専門家のユーノと優れたデバイス技師であるマリエルが共同で開発したものだ。
《ガオーブレス》機能拡張ユニット、《ユニット・ディバイダー》により、凱は全力で力を振るうことが可能となったである。
シャッハは命を戦闘の中心から離れた空間内縁部にまで運び、反転して凱の助太刀に跳んで行った。
「シャッハ、砲撃の準備が整うまで奴の足止めを頼む!」
「わかりました」
ヴィンデルシャフトを構え、プラヌスに立ち向かう。
その間に凱は魔法を起動。
凱の拳の前方に出現した光球は、小さな点から瞬く間に巨大なものへと成長する。
戦いながらそれを目に入れたシャッハが感嘆の声を上げた。
「凄い……!」
それが広域用の殲滅魔法に類するものと見当をつけ、息を飲む。
(凱! 遊星主の弱点はラウドGストーンよ、それを完全に破壊すれば――)
「よっしゃあ!! 解ったぜ命!」
ラウドGストーンは遊星主の動力源であり、高く安定した出力を効率よく生み出す機能があった。だが、その分限界値が設けられてしまったのも事実だ。Gストーンは逆に、使用者の勇気が続く限り限界なき力を与えてくれるのだ。
命がリミピッドチャンネルで教えてくれたことを噛み締めながら、凱は極限にまで《勇気》の力を魔法に込める。
まばゆく輝く緑の光が、ディバイディングフィールド内を照らす。
光球の周りを、魔法陣が発光しながら重なり合って回転していく。
それは、ガオガイガーのファントムリングと同種の働きを持ち、砲撃を加速、威力を増幅させる。
「うおおおっ! 食らえ――」
発射態勢が整った。
あとは、撃つのみ。
「ブロウクン……」
魔法陣の回転が速まる。
「ファントォォォム!!」
拳をプラヌスに向けて打ち出した。
光の砲撃は一直線に遊星主に飛んだ。
回避しようとしたプラヌスを、シャッハが邪魔した。
『!!』
避けるのに失敗し、プラヌスは直撃を食らう。
「いっけぇぇぇぇっ!」
叫びに同調するかのように、《ブロウクンファントム》はプラヌスの胸部を文字通り粉砕していた。
遊星主の身体が、爆発する光に飲み込まれた。プラヌスの巨体は粒子状に崩壊し、空間に溶け込むようにその姿が消えていく。
ついに凱達は、プラヌスを倒したのだ。
戦いが終わった事で、ディバイディングフィールドが解除された。
「おおっ……!」
「やったわ……」
「よし、命。行くぞ、次元の海へ!」
命の前に降り立った凱が、荒い息を吐きながら言った。
遊星主が蘇るたびに全て破壊する、というルネの言葉を虚勢とみて、ピルナスは一笑に付すのみであった。
ルネは本気である。
剛毅な光を眼に浮かべ、あくまでも立ち向かう。
「小癪な……」
ピルナスはとどめを刺す為に鞭を振り上げた。
「《リオン・レーヌ》!」
限界を越えて輝くルネのGストーン。
「お前の牙を撃ち込んでやれっ」
ルネの身体に巻き付くはずだった鞭は、ルネによって断ち切られた。
「なっ!」
ピルナスとウェンディに驚愕の表情が浮かんだ。
「あれは……魔力刃っスか!?」ルネの指先から光の爪が伸びていた。まさに獅子の鋭い爪を思わせる、鋭利な刃である。
「こ、この……」
焦るピルナスにルネが迫った。
「喰らえっ」
ルネが指を揃えた。光爪が一つに束ねられ、剣のように収束する。
猛き、獅子の爪牙。
真横に、ルネは光を
「あ……ぐっ」
ピルナスの身体に、裂傷が走った。
「いまっス!!」
撃ち込む好機と判断したウェンディは、砲撃を放つ。
狙い違わず、ピルナスの切断面にヒットした。
「……!!」
この瞬間、ついにピルナスは己の敗亡を
赤と橙の混ざり合った爆炎が、ピルナスの身体を引き裂き、焼き尽くした。
もはや悲鳴すら形にならぬ。
これまでルネをいたぶり続けてきた遊星主は、熱い爆風のなかに散った。
「や、やった……」
息も粗く、ルネは地面に膝をついた。重い疲労感が彼女を苛んだ。
その隣にやってきたウェンディが、
「いやぁ、見事な一撃でしたっスよ、お姉さん」
と、ねぎらってきたのへ、
「てめぇ、奴に倒すのはあたしだっていうのに余計な手をだしやがって」
不機嫌に言ってのけたものだから、ウェンディは冷や汗をかきながら謝り、すぐにその場を離れようとした。
その時ギンガから通信が届き、
『遊星主を倒したのなら、約束通り、すみやかに管理局の施設に戻りなさい』
と警告を含んだ指示が告げられた。逃亡抑止のために協力を申し出た戦闘機人たちは逐一トレースを受けている。
「了解っス」
どのみち逃亡したとして帰るべき家もない。
管理局は好かないが、ギンガには友誼と恩義がある。素直に従うことにした。
「じゃあお姉さん、これで失礼するっス」
敬礼して、空へ飛翔する。
「勝手に行やがれ」
ルネは立ち上がった。
まだ彼女の、いや彼女たちの戦いは完全に
ソール11遊星主を一体残らず破壊する。それが最終目的なのだから。
だから。ここで休んでいるわけにはいかない。
「……」
手負いの獣さながらの姿で、ルネは歩きだした。
上空からその動きを目で追ったウェンディは、なにを胸中に思ったのか。
ただ、獅子の女王を見送る彼女の相貌には、眩しいものを見ているような、畏敬にも似た表情が浮かんでいるのだった。
カインが攻撃態勢を取るのと同時に、ディードが仕掛けた。
「ああっ!」
弾き返してしまった。
「そんな……!」
驚愕するディードに、
「その程度か、戦闘機人とは……」
「!!」
ディードが剣身を引き戻すよりも速く、カインが右腕を叩き込む。
腹部にサイコキネシスを放つ。
「ぐあぁっ」
力が、ディードを貫通した。
食らった衝撃により、彼女は吹き飛ばされる。
彼女の身体は礫砂の上に、仰向けにたたき付けられた。
「がはっ」
それでもツインブレイズは手放してはいない。しかし――
「う……」
その身が動かせない。
「無駄だ」
断然と、カインは宣告した。
「動力機関の中枢を破壊した。もはや満足に動けまい」
その通りだった。ディードは立ち上がることも出来ず、ただ、険しい眼でカインを睨みつけるだけ。
「ラティオを葬った後で、完全に破壊してやる」
そう言い、カインは護の方に向き合った。
「さて。これで最後だ、ラティオ!」
カインはラウドGストーンから強烈なパワーを解放した。
「僕は、負けない」
迎え撃つ護もまた、力を振り絞る。
『ヘル・アンド・ヘブン!!』
緑の星に伝わる必殺技で、護とカインが互いに挑んだ。
両掌に、それぞれ攻撃と防御の力が集められ、一つに縒り合わされる。
『ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……』
対峙する二人は、手を組み合わせ叫んだ。
『ウィータ!!』
そして、ぶつかり合う、ヘル・アンド・ヘブン・ウィータ!
「……!!」
かつて、時の庭園が存在した窪地に、まばゆい光が満ちた。
「ぐぅ」
「ぬぉぉぉっ」
力を籠めて、カインと護は攻めた。
そのパワーの余波で周囲の砂塵や石が宙に浮かび、あるいは吹き飛ばされる。
両者の力は拮抗していた。
(確かに……ラウドGストーンのパワーは凄まじい。だけど――)
歯を食いしばり、力を放つ護。
(ラウドGストーンの出力は一定量!)
わずかにだが。カインは護に押されつつあった。
(勇気ある限り無限のパワーを発揮するGストーン……それが僕の力の源ならば!)
一歩、護は前に踏み込んだ。
これまでにない圧力を感じて、カインは危惧を抱いた。
「まさか……ラティオにこれほどの――」
遊星主としては、認めるわけにはいかない。だが、事実ではある。
護の力がカインを凌駕していることが。
「馬鹿な……!?」
「僕が勇気を失わない限り! Gストーンは貴方にも負けない力をくれるんだ!!」
「小癪な!」
ラウドGストーンの出力を最大に。
敵である少年を完膚なきまでに破壊する、その目的のためにカインは全ての意思を注ぎ込んだ。
しかし、護の姿は揺らぎもしない。真っ向からカインの攻撃を受け止め、押し返そうとする。
「負ける……もんか!」
その時。聞き慣れた声が、頭に響いてきた。
護がよく知る女性の声が。
(遊星主の弱点はラウドGストーン。それを破壊すれば彼らは――)
「命姉ちゃん!?」
驚くが、幻聴の類ではないと護の勘が告げていた。
重要なのは、遊星主の弱点。
「ラウドGストーンを壊せば――」
ソール11遊星主は倒せる。機能は停止する。……
「ラティオ――」
カインがなにかを言いかけるのへ、護はさらにパワーを強くし、父の姿をしたプログラムを追い込んだ。
「みんな……!!」
護の中に、強い力が溢れ込むのを少年は感じていた。
Gストーンを通じて、仲間たちの想いや勇気、闘気が、心を満たしてくる。
「そうか――」
全てのGストーンはリンクしているのだと、いま、緑の少年は悟った。
命あるものが抱く、勇気ある誓いを分かち合う仲間たちの諦めない声が、無限情報サーキット・Gストーンから空間の隔たりを越えて共鳴してくる。
それは莫大なエネルギーを生み出し、護の手からほとばしった。
「……おおおぉっ!! カイィィィン!!」
護のGパワーは、ついに、ペイ・ラ・カインの力を遥かに超越し、戦況を覆す。
均衡は破れた。
「ぬぅ――」
カインの腕が、護のヘル・アンド・ヘブンの威力を受けて、消し炭の様に崩壊していった。
「なぜだ……!」
なぜ、私が負ける!?
「貴方はっ!、いちゃいけないんだ」
偽物のカイン……アベルの操り人形。
それが、護の攻撃によって滅されようとしている。
哀しみや憐れみが護にないわけではない。しかし、ここでペイ・ラ・カインは倒さなければいけないのだと、彼は思う。
「わ、私はそなたの、父――」
カインとの戦いの最後に護が解き放ったのは、怒りの感情だった。
「その顔で……本当のお父さんみたいに、喋るなぁぁぁ!!」
「……!」
絶叫とともに、護は両手を突き上げる。
そして、ヘル・アンド・ヘブン・ウィータは、カインの頭部へと叩き込まれた。
遊星主ペイ・ラ・カインの額に輝くラウドGストーンの紋章は、圧倒的ともいえる程の、Gストーンの光に塗り潰され――
『……』
戦場一帯を緑の光が包み込んだ。普通の人間ならとても眼を開けていられない眩しさだ。それでも、機械の眼を持ったディードの双眸には、はっきりとその光景が視認できた。
遊星主の身体が粒子状に崩れ去り、音もなく消滅していくのを……
光が収まったあとには、肩で息をする少年の姿のみがそこにはあった。
かつて少年を
「はぁはぁ……」
重い疲労感に浄解モードも維持できず、護は窪地に膝をついた。
地に滴り落ちるのは、汗か、涙か。
それより早くディードは目を閉じたので判断はつかなかった。瞑目してディードは胸中にため息と、悔恨と、諦観の念いを吐き出した。
(結局――私はドクターの弔いすら叶わなかったわけ、か……)
姉から最も完成された戦闘機人だと評された自分が、あっさりと遊星主に敗れたことに、悔しさと情けなさを味わった。
(このような、動けぬ私に、戦うべき使命や価値があるのだろうか……)
ドクター・スカリエッティの野望も、ナンバーズの夢も、儚い幻の様に失われてしまった。
(私には、もう生きる目的も、戦う理由も、姉妹も、なにもかも失われたのか……?)
空虚な思いがディードの思考を駆け巡った。
このまま、機能を停止して永遠の眠りを選んでしまいたくなった。
(あぁ……)
だが、それをさせなかった者がいる。
「大丈夫……ですか?」
護だ。彼は立ち上がり、ディードの傍までやって来ていた。
「……身体が動かないだけで、まだ死んではいない」
答えたディードに、護は少しだけ安堵の表情を浮かべ、手を差し延べた。
治癒の力を送り込む。
「なぜ、私を助ける。君は管理局の者だろう」
それならば敵同士である。わざわざ治療する必要など――
「管理局には協力してるけど、それとは関係なく、僕は自分の意思で貴女を助けたいと思う」
護は、微かに笑みをつくり、
「もし、貴女が生きることを諦めていないのなら、僕は残った力を全て使って、貴女を助ける」
「生きる、こと……」
彼女が果たすべき使命はすでに霧散した。あとは管理局に逮捕され裁判を受けるか、あるいは自死するか、もしくは――
「貴女のお姉さんたちは、貴女を必要としてるんじゃないかな……」
ディードは、その言葉に、はっと目を見開いた。
(姉様たち……)
こんな情けない姿を見ても、姉たちは自分を必要としてくれるのだろうか。
(だけど……)
例え拒絶されても、もう一度だけでいい……
(会いたい)
だからせめて、今一度、姉たちに遇うまで、死にたくない。
ディードはそう思った。
「機械部分の修復は難しいけど、生体部分の再生ならいけるかもしれない」
護は力を注ぎ続けた。
「……感謝する。異界から来た少年」
やがて、治療は終わり、ディードは静かなまどろみの中へと引きずりこまれていった。
「……さすがに、もう、へとへとだよ」
ディードの身体が安定したのを確かめた護は、疲れに倒れそうになる。
「でも、だめだ」
まだ、全部の決着はついていない。
「そのためには――」
震える脚を無理矢理に起たせ、護は天空を仰いだ。
空は濃紺に拡がっている。
あと数時間も経てば、橙に染まっていくことだろう。
「行かなきゃ……」
最後の、決戦の場へ。
「そうだ、護」
不意に、少年の耳朶を打った声。
「あ……」
振り返れば、長髪をなびかせた若き獅子の勇姿が視界に入ってきた。
「凱兄ちゃん!」
喜びに飛び上がりそうになった。
「凱兄ちゃんも、遊星主を倒したんだね!」
「あぁ――」
頷く凱は、決意を浮かべた表情で、
「命が教えてくれた。全ての決着はあの、宇宙の彼方でつくのだと。そして、俺達が故郷に帰るための鍵も、そこにあると」
「本当!?」
「えぇ。そうよ」
命が凱の手を握りながら、言った。
「ピサ・ソールのもとにこそ。この戦いの全てを終わらせるものが揃っている」
「だから、俺達はいますぐ、アースラのいる次元の海に急がなくてはいかないんだ!」
護は再び闘志が沸き立つのを覚えながら、
「わかったよ。行こう、次元の海へ……!」
そこで、シスター・シャッハが眠るディードを抱え上げ、
「彼女のことは私にお任せください。教会で保護すれば、安全ですし、治療に専念できるでしょう」
管理局に渡せば、治療を認めず逮捕、拘留が執られるかもしれない。
それで他のナンバーズと同じような更正の機会が得られなくなることを、シャッハは心配したのである。
「頼みます」
護はシャッハに頭を下げ、ディードの身を託した。
「あなたがたの御武運を、お祈りいたします」
生真面目な口調で告げ、シャッハは近くの教会施設へ向かった。
「よし。俺達も――」
その時だった。砂埃を巻き上げ、空から凱たちの元へと、一人の少女が着地したのは。
「おい、ぼさっとしてんじゃねぇぞ」
ルネ・カーディフ・獅子王は、急かし気味に従兄弟に怒鳴った。
「とっとと艦を呼べよ。奴らをぶっつぶしに行くんだろう?」
「あ、あぁ……」
「他の遊星主どもはスバルたちに任せとけばいいさ。あたしらの本命はピサ・ソールとアベルなんだろ」
「ルネ。私たちの加勢は不必要、だと?」
命が問うた。
「あいつらも、それなりに訓練も場数も踏んでんだろ。だったら信じて任せるのも、仲間ってもんだろ?」
拳を交えてわかったことは、連中もGGGと同じく相当、諦めが悪いってことだ。そして、強い意思と不屈の力が、彼らを成長させていくことも。
「どのみち、ピサ・ソールさえ破壊できれば遊星主は二度と復活できない。なら優先課題は自ずと明らかってもんだ」
ルネの考えることは、
自分に屈辱を舐めさせた遊星主を殲滅する戦いの場に、絶対にいなくてはならない。それは機動勇者隊発足時からルネが抱いていた気持ちだった。
「……すでに管理局に連絡して艦を寄越すように手配は済んでる」
凱はその前にルネを探しに行くつもりだったが、彼女から現れてくれたことで手間が省けたというわけだ。
「なら、いいさ」
ルネは不敵な笑みを浮かべた。因縁の敵ピルナスを倒した次は、J共々、ルネを弄んでくれたアベルにお返しをする番だと、好戦的に笑う。
「それにしても……」
凱は周りを見渡した。
アルトセイムの豊かな自然。
静寂さの中に佇んでいると、本当にいま戦いが起きている最中なのかと、疑問が湧いてきそうだった。
(この自然を、壊させちゃいけないよな……)
その、数分間は勇者たちにとって、つかの間の休息となった。やがて、時は来たり、地上から彼らの姿は消えた。
世界を滅ぼす災いを取り除くため。
目指すは元凶の源、ピサ・ソールである。
更新が遅れてすみませんでした・・・・・・・(>人<;)