ペチュルオンは、イノーメスカノンの直撃を喰らった。
「どうだ!?」
ヴィータは、少しは効いて欲しいと願った。
直射砲の衝撃でもうもうと、土砂や石が巻き上がる。それらが遊星主の周囲を覆った。
「これは……」
やがて視界が晴れた。
ペチュルオンの体からは白い煙が吹き上がり、ダメージが確認できる。しかし、行動するのに支障をきたす程ではないようだ。
まだ、攻撃力が足りないのだ。
ペチュルオンは電磁竜巻を作り出すべく両腕を掲げようとした。
「あの竜巻をまた撃つってのか!」
ヴィータは急いでカートリッジをロードした。
「おい! 奴が竜巻を生み出す前に、同時に攻撃して腕をぶっ壊すぞ」
言うやいなや飛び出した。
あの厄介な電磁竜巻が無ければ、勝てる。
ヴィータは凄まじい勢いでペチュルオンのもとへ翔けた。
グラーフアイゼンは形態を《ツェアシュテールングスフォルム》に変更。魔力のありったけを初撃に叩き込むつもりだった。
「オットー」
ディエチがイノーメスカノンを構えながら、促した。
頷いたオットーが、レイストームを放つ。
ペチュルオンに光の乱舞が降り立った。
その爆発的な光圧が、遊星主の動きを阻害する。
「いまだっ」
上空から急接近したヴィータが、ペチュルオンのスクリューにグラーフアイゼンのドリルを叩きつけた!
それと数瞬の差で、ディエチの砲撃が炸裂する。
砲撃は電磁石の付け根を打った。
「――おぉぉりゃぁぁぁっっ!!」
「……!!」
二人の猛攻に、ペチュルオンは耐え切れなかった。
彼の双手は破壊された。
これで電磁竜巻は起こせなくなる。
だが、それでもペチュルオンは戦おうとした。
「上等だぁ」
ヴィータは、グラーフアイゼンをペチュルオンの胴体に食らわせた。轟音がした。
ペチュルオンの機躯に亀裂が穿たれ、ドリルの削撃がさらに傷口を拡げさせる。
「ぬぁぁぁぁ!!」
騎士が吠えた。
胴体半ばに機体がめり込み――
「うおりゃぁっ!!」
力任せに、鋼鉄の伯爵を振り抜いた。
遊星主の巨体が、宙空に跳ねる。
数十メートルは吹き飛ばされただろうか、放物線を描いて墜ちたペチュルオンが、大地に激しく衝突した。生み出された破砕音と衝撃音が、耳をつんざいた。
「……っ」
空に舞い上がった砂塵が、滝水の如く降り注ぎ、地を叩いた。
……そして。
地上に横たわったペチュルオンは、沈黙していた。
もはや動けないのか
、否、動かないのか。
「倒した、のか?」
「ここは徹底的にやったほうがいい……」
オットーが呟くように言った。渋々、ディエチもその意見に賛同する。
そうして、力尽きたヴィータに替わり、戦闘機人二人が遊星主ペチュルオンにとどめを刺した。
「……ったく。ユニゾン無しで戦うのはきついぜ」
ぜぃはぁ、肩で息をしながらヴィータがぼやいた。
膝が笑っているのを堪えるのが精一杯、といった様子だ。
レイストームとヘヴィバレルの攻撃を受けて、遊星主の体はもう、燃え尽きて眼前には存在しない。
「でも、ちったぁ、はやてやなのはの役に……たったんだよ、な」
小さな体躯が崩れ落ちそうになる。
「……そうだね」
ふらりと、倒れ込む赤い騎士を、ディエチが優しく受け止めていた。
「共通する敵って――」
どういうことよ? と、ティアナはセインに問い質した。
「あの遊星主って連中は、ドクターの仇でもあるんだよ……」
「だから、アイツを潰す!」
ノーヴェが気勢を上げる。
「それであたし達と共闘を……ね」
ティアナは信用していない。遊星主とグルでない確証が得られていないからだ。
「まぁ、あたしらは別にてめぇらの手なんか借りなくても、充分だけどな」
ノーヴェは、挑発的に言い放った。
「そう。なら……奴らの仲間じゃない証拠に戦ってもらいましょうか」
「ティア!」
「てめぇ……先にぶっ飛ばすぞ!?」
憤るノーヴェに、
「こらこら。落ち着けって……悠長にじゃれあってる暇はないみたいだよ!」
セインが手で指し示した場所には――
「起き上がってきたか!」
遊星主ポルタンは立ち上がっているところだった。
「ティア、ここは彼女達にも協力してもらったほうが……」
「あぁもう、わかったわよ」
ティアナは自棄気味に言った。
「いい、作戦はあたしが決める。あんた達はその指示通りに従って貰うから」
「なんだと――」
不服そうなノーヴェを制してセインが頷いた。
「了解した」
「ティア、来るよ!!」
ポルタンが飛来する。
皆が避けて散開した。
「スバル、切り札はあんたよ」
スバルの振動破砕は、遊星主に最も効果的な技と言えた。
「あたし達は奴を牽制するから、スバルが仕留めて」
「うん、わかった!」
固い決意を浮かべて、スバルが了承した。
ウィングロードで空を駆ける。ポルタンが残った刀を手に、攻めてきた。
「来やがれ――」
ノーヴェの戦意が燃え上がる。ポルタンは刀を手に旋回を始めた。
高速の回転。
風を切り裂き、砂塵を巻き上げ、激しく回る。
巨大な独楽と化して襲い掛かってきた。
ポルタンと共に回転している刀が、空中にいたスバルに触れた。
そのとたん。
シャボンの泡が弾け割れるように、その姿が消滅した。
それが合図だったかのように、無数のスバルが空に出現した。無数のスバルは同時にポルタンに殺到する。
これがティアナが先程言っていた牽制なのだろうか……
ポルタンは幻影の類と判断。構わず攻撃を続ける。
――ギャリギャリギャリ!
鋼鉄の独楽が幻のスバルを一体一体、消滅させていった。
本物がこの中にいるのだろうか、ポルタンは考えるが、それもまとめて
ポルタンの攻撃によりスバルの幻影は五体ほどのみになった。それにしても、他の仲間はどうした。なぜ戦闘に加わらない……?
ポルタンが疑問を呈した時だ、刀が最後の幻影を切断しようとした直前、不意に刃が停まった。
いや、刃は留められた。
スバルの両手が、白刃取りよろしく、がっちりと刀を受け止めていたからだ。
やはり本物のスバルが幻影に混ざっていたようだ。
横回転する刃の動きを見切り、力づくで止めるとは戦闘機人だから可能なのか。
驚異的な膂力といえた。
「へっ……」
にやりとスバルが笑う。その姿がふっと掻き消え、ノーヴェがあらわれる。スバルの幻影をまとっていたのだろう。
刀を押さえられたポルタンが全体の動きを停止した。その反動でポルタンの周囲の塵埃と瓦礫が吹き飛んだ。
そのままだと、刀を支点に彼の体は回転運動により、かえって自身に衝撃を食らってしまっただろう。
刀も離さざるを得なくなる。
ノーヴェにしても巨大なポルタンと刀をその場に留めるのは、エアライナーとジェットエッジを最大限に活かしたとしても、至難の技に等しい。それを気合いでどうにかしてしまうのだから、恐ろしい。
「てめぇのその刀……もう一本も壊さしてもらうぜ」
刀に向かって足を蹴り上げる。
「食らいな!」
固有武装のジェットエッジにより、蹴りが加速する。
ポルタンは刀を引こうとするが、それよりも早くノーヴェの蹴りがヒットした。
刀の側面を強打され、甲高い金属音と、大気が震えるような轟きが発生する。
刀身に亀裂が出来、それは砕けた。
ポルタンが刀から手を離す。
だが、武器を失っても、徒手でノーヴェにたち向かう。
「そうでないと」
むしろ、嬉しそうにノーヴェが歯を見せる。それは闘いを好む者に特有の、獰猛なる笑み。
彼女はビルとビルの間を、遊星主に挑発を投げつけながら飛び
「来いよ、叩きのめしてやる!」
一転して逃亡を図っているかのような行動に、ポルタンは罠の可能性を見出だした。
しかし、罠であろうと遊星主が怖れることはない。
風のように、ポルタンはノーヴェを追う。
追いながらも周囲の索敵を怠らなかった。
遠方、ノーヴェより遥か向こうの高層建造物の頂上に、敵性体をひとつ確認。
遊星主の眼は、数メートルの距離をものともせず、視認する。オレンジ色の髪をツインテールに括った少女――ティアナ・ランスターである。
ティアナはクロスミラージュを構え、屋上に立っていた。
顔には、少し疲労の色があった。
「……あれだけの幻術を維持するのは、やっぱり疲れるわね」
スバルの幻影の操作のことであろう。あまり使われることがない幻術魔法だが、魔力の消費が激しいというのも使用者が少ない理由だった。
「遊星主がここまでたどり着いたら……あとは二人が」
ティアナの役目は幻術だけではない。あとで、もう一度魔法を使わねばならない。ティアナはその瞬間に備えてか、クロスミラージュのマガジンを交換する。
「あの遊星主に対して、あたしの攻撃が効くとは思えない……たぶん回避されるか、弾かれる」
でも。
「スバルの振動破砕があれば――」
そこに、勝機があると、ティアナは踏んでいた。
「さぁ。ソール11遊星主……飛び込んできなさい」
深呼吸。緊張に高まる精神を沈め、いつでも思い描いた通りに動けるように。クロスミラージュを握る手から力を抜く。
「あなたを砕く、決着の地へ――」
ティアナの呟きに応じたわけではなかったが、ポルタンは真っ直ぐ――隠密行動が基本の遊星主にしてはあまりに直線的に、疾走するノーヴェに追い縋っていった。
速度を上げれば風は壁のように立ち塞がる。それを強引に突破してポルタンは追走する。
彼はティアナを危険対象から外した。なんら戦闘動作を行っていないので、近接のみの攻撃しかできないか、戦闘力を持ち合わせていないのだと考えた。故に、まず赤い髪の戦闘機人を破壊することを優先した。
前を
あと二人。敵がいたはずだが、どこかへ潜んでいるのか。気配は感じられないでいた。
猛スピードで駆けるノーヴェは、
「そろそろ、この辺だな」
と、辺りの地形を確認。
前方、ビルディングの屋上で待つティアナに叫ぶ。
「おい! 仕掛けるぞ!!」
「わかったわ」
ティアナはちらりと、隣のビルを見た。古ぼけた五階建てのビルだ。
「全てはタイミング次第――」
汗を拭う。
「……っ!」
ポルタンとノーヴェとの距離が縮まった。
ティアナでは見切れぬ速さの拳撃が、遊星主から飛んだ。
だが、戦闘機人の反射速度と視覚により、ノーヴェは充分対処できた。
「戦闘機人、舐めるなっ!!」
振り向きざま、拳を振り抜いた。
爆発的な加速と剛力が、空気を穿って打ち込まれる。
ティアナに敗れたものの
、己のブレイクライナーに絶大な自信を抱いていた。
「はぁぁっ……!!」
両者の中間で打音が響いた。
拳と拳がぶつかり合い、閃光すら伴って拮抗する。
「……っ、この、デカブツがぁっ」
ノーヴェの拳の周りに光球が生まれる。
右手の篭手《ガンナックル》によって生成される、エネルギーの弾丸だ。
「唸れ、《ガンシューター》!!」
計5発の弾丸を射出。
直射弾がポルタンを撃った。
威力はさほど高くないため、その程度ではポルタンは怯まなかった。
「来い!」
渾身の蹴り技を、ポルタンへと叩き込む。狙うは頭部。それを察した遊星主は手で頭を庇った。ガツンと、重たい衝撃に、ポルタンの装甲が歪んだ。
「こりゃ、あたしだけでも倒せるかもな」
余裕が出てきたノーヴェに、ポルタンは強制リンクシステムを試みた。
諜報や情報操作に長けたポルタンが持つ、強制的にAl等にハッキングを行い、遠隔支配する能力である。
戦闘機人も機械部分がほとんどならば、強制支配ができると判断したのだろう。
「ぐ……な、なんだこれ」
ノーヴェが不快感をあらわにした。ポルタンはリンクを強めようとした。
その、一瞬の刹那に、ポルタンの体が止まった。
「あたしを……支配……だとぉ!」
徐々に強まる支配力に抗いながら、ノーヴェが視線を動かした。ビルの上。ティアナが毅然とした表情で立っていた。
――時は来た。
(いまよ、セイン、スバル!!)
念話でタイミングを伝えた。
ポルタンの脇のビルから、セインと共にスバルが飛び出した。無機物を透過できるセインのIS《ディープダイバー》により、二人は壁の中に潜んでいたのである。このため、二人の位置をポルタンも感知できなかった。
「いけっ、タイプゼロ・セカンド!」
突進するスバルに声援を送って、セインは直下のビル上に着地する。
この、不意打ちは成功した。
「やぁぁぁっ!!」
ノーヴェへの強制遠隔システムに専念するあまり、攻撃を撃つ隙を作ってしまった。
ポルタンが意識をスバルに向けて対応しようとした時には既に、間合いに入られていた。
剛拳一打。
スバルのリボルバーナックルが、ポルタンの胸部を殴打した。《振動破砕》発動。
「うぉぉぉ!!」
魂の奥底から、スバルが吠える。
まるで。熱き闘気が、陽炎のように彼女を包んでいるかのような――ティアナにはそんな錯覚をおこさせる光景だった。
「振動拳!」
遊星主の胸部装甲は、打突された部分を中心にひしゃげ、ひび割れが生じ、引き裂かれた。
装甲を破って内側まで腕が食い込み、振動破砕の効果で砕け散る。
ポルタンが無事な手でスバルを掴もうとしたが、ノーヴェが彼女を引っ張って助けた。
「貸しはこれだけだからな」
「ありがとう――」
胸に大穴が開いたポルタンは、攻撃体勢を調えようと、一旦、後ろに退こうとしていた。
だが。
「……逃さない」
ティアナが、砲撃用の照準を合わせ、告げた。
発射準備は完了している。
クロスミラージュ長距離狙撃形態《ブレイズモード》。
「なのはさんの砲撃、使わせてもらいます!!」
JS事件以降、使用許可が下りた第三形態である。
放つは、師が得意とした必殺の砲。
魔力を極限にまでチャージした、集束砲。
クロスミラージュの
「スターライト……ブレイカー!」
トリガーが引かれ、白の輝きが解き放たれた。
エースが用いる伝説の魔法は、光の飛沫を飛ばして宙空を進む。
そして、ポルタンを直撃した。魔導師相手なら、魔力ダメージを与えるだけでいいが、相手は遊星主である。それゆえ、物理破壊に特化した設定が為されているので、質量兵器に相当する遊星主でも破壊できるはずだ。なのはから伝授されたとはいえ、砲撃は未だ不完全な代物といえた。しかし、ノーヴェやスバルたちが戦っている間に、ティアナは充分なほどに魔力を溜めている。
おそらく、なのはが初めて使った時とも遜色ない威力を持っているであろう。
「あ……!」
スバルが歓声を上げた。
振動破砕で砕けた傷口に当たった砲撃は、内部まで深くえぐって貫き達し、力を解放した。
『……』
破壊の調べを奏でながら、ティアナの《スターライトブレイカー》はポルタンの機体を内側から破裂させた。
集められた膨大な魔力、その全てが、空間の一点で爆発するのだ。ポルタンの体は塵ひとつ遺さず、膨張しながら華開く、暴力的な光に飲み込まれて消えていった。
「や……」
「やったぁ!」
スバルは思わずティアナに抱き着いていた。
「さすがティア、なのはさんみたいだったよ!」
「もう、でっかいの撃ってしんどいんだから、くっつかないでよ」
魔力の消耗が著しいティアナは、その場に倒れ込みたくなった。スバルがそんな彼女を支えて立たせた。
「……とどめはあたしが刺すはずだったのに」
と、ノーヴェは小声で不満を叩いた。
「そう言うな。見事な砲撃だったじゃないか」
セインが賞賛するように拍手した。
「まぁ、確かに……大した魔法だよ。でも……」
「ほら、遊星主は倒したんだし、戻るよ」
「……わかった」
どうやら、管理局との約定は違えぬようだった。
ティアナはもっと信じてもよかったのだと、反省した。
「ティア、これからどうする?」
「他の皆に連絡を入れましょう。まだ戦ってる人がいるかもしれないから」
「加勢に行こう!」
とは言え、ティアナは歴戦の副隊長たちや同僚が負けるなど、微塵にも思ってはいなかった。こんな楽天的に考える自分は、いつの間にか隣にいるパートナーに毒されていたのかと、苦笑した。
それをスバルは不思議そうに見ていた。
海上が静かに凪いでいる。
上空では、遊星主ペルクリオが攻撃を放っていた。
彼の、音波による攻撃は、特定の物体のみを破壊する。
故に海原には影響がなく、海面だけを見れば、激しい戦いの最中とはにわかに信じ難いといえるだろう。
しかし、空にいる若き騎士たちにとっては、危険こそが現実であり、負ければ生命を失うことが真実なのだった。
だが、彼らに怖れや怯えの色はない。
毅然とした表情で遊星主を倒す為に行動を開始する。
キャロが結界を張り、ソルタリーウェーブからエリオたちを護っていた。ペルクリオは物体固有の振動数を計測し、それに合わせた超音波振動で目標を砕く。
当初は魔法に対し抵抗力がなかったペルクリオだったが、アベルが魔法の原理を知って彼のプログラムを改良した。魔力素の働きによる現象から固有の振動パターンを検知、調整したソルタリーウェーブで魔力結合の分解を可能にしたのである。
だが、魔力を行使した際の運動の振動数計測にはやや時間がかかる。
そのため、エリオたちには策を考え行動に移る準備を整えるだけの時間的猶予があった。
やがて、ペルクリオが結界の振動数を割り出し、ソルタリーウェーブが魔法を破壊し始める。結界崩壊と同じタイミングで超音波振動がエリオやキャロに襲い掛かるだろう。
「ストラーダ、行こう!」
騎士の少年はパートナーに呼び掛けた。
「キャロ、ルー、頼む」
「任せてエリオ君」
「わかった」
二人の少女が頷く。
ペルクリオに向かって、エリオが飛ぶ。
「戦士を護る強固なる盾よ」
超音波を打ち消すフィールド系のバリアをキャロが。
「勇気ある騎士に風の速さを」
肉体能力を上昇させるブーストをルーテシアが。
それぞれにエリオに施す。
加護を受けた少年は、遥かな空へと駆け上がっていく。
ストラーダは第三形態《ウンヴェッターフォルム》に展開。
加速、加速、加速し、そして天空の高みへ、騎士の槍が主のために、道を切り開く。
「いっけぇぇぇ――!」
ブルブルーンに乗ったペルクリオのいる空域にまで到達する。ペルクリオはブルブルーンとボシュボッシュを駆使して、立体的なサウンドウェーブを放ってきた。
「音」が巨大な破壊兵器と化して叩きつけられるのだ。
しかし。
超音波振動は、結界に護られたエリオを傷つけられないでいた。
数瞬の間に、騎士は蒼天を昇る
エリオがペルクリオに近づいた瞬間を見定めたキャロが、広域結界を張った。
円形の結界は、遊星主ペルクリオとエリオをすっぽり包み込んで形成される。
閉じ込められる形になったエリオが、ストラーダを振るった。
《Speer schneiden.》
稲妻の様な斬撃が空間に刻まれた。
ブーストされたエリオの槍尖が音速を越える。
それは、ペルクリオ自身を狙った攻撃ではなかった。
空気。斬撃が結界内の空気分子を悉く破砕していく。
直後、ペルクリオが奏でるジャズの音色が減殺された。
結界の内側が真空状態となり、「音」の伝播を弱められたからだ。
そして、すかさず、ペルクリオにエリオが突進する。
《Messer angriff.》
速度が尋常ではなかった。
ペルクリオは回避できず、ストラーダの突槍を受けた。
その、尖端は電撃をまとっていた。
袈裟掛けに、エリオが切り裂き――
結界内で、輝きが爆発した。
光が終息すると。
ペルクリオとブルブルーンに無数の、煙を吹き上げた傷ができていた。
明らかに多大なダメージを負っている。
最初に作り出した真空により、サウンドウェーブを弱体化。さらに、真空では電気が流れやすい特性を利用して雷撃を増幅し、広範囲に叩き込む。
これにより、一気に遊星主を追い込んだ。
だが、遊星主は損傷に怯まない。
ひび割れた体を動かし、反撃しようとする。
「サンダーレイジ」
その機先を制するかのように、エリオがフェイトから伝授された魔法を撃った。本来はバインドで拘束してから敵を撃つのだが、今回は雷のみを発射するように改編している。それゆえ本来より短時間で発動できた。
全身を雷撃に撃たれ、もはやペルクリオはソルタリーウェーブライザーを起動することもできなかった。
「ストラーダ、全力で離脱!」
《Jawohl.》
エリオがペルクリオから離れた。同時にキャロが結界を解除。音速でストラーダは皆のもとへ。
エリオとの合流を果たし、キャロとルーテシアが広域結界を張った。
ペルクリオがエリオの姿を求め、ブルブルーンに移動を命じるが……
瞬間。ごぉん、という重い低音を響かせて、大気の圧が押し寄せてきた。
真空によってできた空白地帯を埋めようと、空気が雪崩こんできたのだ。
結界でせき止められていた空気の塊が、怒涛のように遊星主を押し潰す。
巨大な波濤がどよめくような。そんな轟きに包まれながら、遊星主は負荷に耐え切れず、砕け散った。
大気の衝突で生じる光と衝撃。エリオたちはどうにかそれを、結界で防ぎきった。
「やった!」
「これも……ルーちゃんのおかげだよ。ありがとう」
笑顔で礼を述べるキャロに、ルーテシアは顔を伏せながら、
「私はただ……罪の償いをしたかっただけ……よ」
照れ隠しに、わざと冷たい声を作って言った。
それでも、エリオとキャロはにこにこ、嬉しそうに頷いていた。
それに対し、ルーテシアは頬を真っ赤にして顔を背ける。
そんな主人を、ガリューは優しい眼差しで見守っていた。
遊星主ピーヴァータは、不意の闖入者にも構わず、攻撃態勢を立て直した。
「アギト、いくぞ!」
シグナムは炎の
「おーよ!!」
威勢よく、アギトが応えた。
「「 ユ ニ ゾ ン ・ イ ン !! 」」
シグナムにアギトが融合した。髪や瞳の色が変化し、甲冑もデザインが変わっている。
燃える四枚の翼をもつ、アギトユニゾン・シグナムが誕生した。
「速攻で叩く!!」
レヴァンティンを手に、ピーヴァータに突っ込む。
遊星主はチェーンソーアームで対抗してくる。
「爆ぜよ、炎の魔剣っ!」
カートリッジロード。刀身が鮮やかな炎に包まれる。
チェーンソーと剣がかちあった。
「おおおおっ!」
レヴァンティンに魔力がみなぎる。
ついに。
チェーンソーに刃が食い込んだ。
「紫電……一閃!!」
力任せに剣を押す。刃はバターのようにチェーンソーを切り裂き――両断した。
「はぁぁっ! 剣閃烈火!!」
そのまま勢いを止めずに、ピーヴァータの懐に飛び込み、
「火龍一閃――」
凄まじい炎の斬撃が、ピーヴァータを打ちのめした。
火炎の爆発により、ダメージを負う。
「まだだっ」
パイルドライバーから発される重力衝撃波。あれを使われると厄介だ。ピーヴァータに反撃の機会を許さず、連続して攻める。
「レヴァンティン、第三形態!」
《Bogenform.》
シグナムは新たにカートリッジを装填。
レヴァンティンが弓の形態へ姿を変える。
「隼よ!」
そのかわり、至近距離からの射出で、かなりの破壊力を得た。
「二撃目だ!」
同じ箇所に、再びシュトルムファルケンをヒットさせた。
ピーヴァータの外装が砕け、穴が開いている。
そこへ、シグナムが強襲をかけた。
レヴァンティンはシュベルトフォルムに戻っている。
「全てのカートリッジをロードしろ!!」
残筴消費により莫大な魔力が生まれた。
「猛れ、レヴァンティン!」
刀身をピーヴァータの傷口に突き刺した。
『剣穿號火!!』
シグナムとアギトの叫びに気迫がこもった。
「受けよ……煌龍一閃!! 」
まさに、荒ぶる龍のよう
に破壊の炎を撒き散らす。
炎熱の温度は、数千度は達していよう。とっくに鋼鉄の融解点を越えている。
ピーヴァータの機体は、輝く高熱のなか、プラズマ化した気体となって蒸発していく。
「貴様と私はよく似ていると思った……人ではないプログラムとして生まれ、そして主のために命を尽くした」
遊星主と守護騎士とが決定的に違うのは、主が非情かどうかだった。
「貴様らの主は、世界の全ての人々を犠牲にしようとした。自分達のために、生命を踏みにじった……されが我等の主との違いだ」
遊星主はもがいたが、重力衝撃波を放つほどの力はなかった。
「貴様らは、慈悲や優しさという感情を持たされなかった。だから、貴様ら自身を非難したとて
ただ、アベルに忠実なプログラムとしてのみを欲されたのが遊星主だった。
そして、アベルやパルパレーパに対しては怒りを覚えつつも、他の遊星主には同情を禁じえないシグナムである。
あるいはシグナムはリインフォースIの姿を、彼らに投影していたのかもしれない。
理不尽な主のために他者を傷つけざるをえなかったプログラムだと。
「だが」
剣の騎士が鋭く告げる。
「たとえ、ヴォルケンリッターの一人として同情はしても――主はやての騎士として、管理局に属するものとして、私は貴様らを……許すわけにはいかぬ!」
遊星主には己の所業を悔やむ心も、倒した敵への敬意もない。だからこそ。
「私は誇り高さ騎士の名において、貴様らを最大の敵として記憶しその力を称えよう……そして我が名を、滅びゆく貴様への手向けとしようぞ」
炎に照らされながら、熱のなかで崩れゆく遊星主に宣した。
「我はヴォルケンリッター烈火の将。剣の騎士。主たる八神はやての守護騎士シグナムなり!」
古代ベルカの儀礼に
「これなる得物は我が魂。炎の魔剣レヴァンティンぞ。あまたの戦を制してきた業物なり。
汝よ、その焔に抱かれ――消えるがいい」
ひときわ明るく、火炎が燃え盛った。
「さらばだ……ソール11遊星主」
シグナムの言葉が終わったとき。
ピーヴァータと呼ばれる遊星主の存在は、いまや完全に消滅していた。