宇宙最強とうわたれる超弩級戦艦≪ジェイアーク≫。
それを上回るとされる飛行空母≪ピア・デケム・ピット≫。
アベルが設計した、計り知れぬ能力を持った戦闘兵器たち。
本来ならば、戦場を制したのは、ソール11遊星主の旗艦たるピア・デケム・ピットのはずだった。
しかし、アルティメット・ゴッドジェイダーの登場が、アベルの思惑をひっくり返してしまう。
不本意なる形勢逆転に、アベルは眉をしかめた。
「信じられません」
空母からメカノイドに変形した、ピア・デケム・ピークを凌駕するパワーとスピードに、愕然とした。
劣勢に立たされたいま、さすがの彼女もアルティメット・ゴッドジェイダーの力を認めないわけにはいかなかった。
「……キングジェイダーを越える火力と防御力を備えたピア・デケム・ピークが、ここまで押されるとは」
アベルの表情が
「なるほど。パルパレーパが敗北するのも無理はない……ということですか」
だが。
それだけの力を有しながら 、なぜ奴は致命傷に達する攻撃を仕掛けてこない?
先程からアベルが抱いていた疑問がそれであった。
ジェネレーティングアーマーに護られているおかげで、ピア・デケム・
ピークは微小なダメージのみで済んでいる。
(やはり……)
以前、J-019はアルマを犠牲にしてでも遊星主を倒すと言った。
(だが、奴はまだアルマへの忠誠心を喪失したわけでは無かったのだ)
Jの大言壮語が偽りであり、本心ではアルマを救いたいのだとしたら――
「ソルダートの規範から外れたあの欠陥品といえども、アルマ守護の誓いを放棄出来ない……なら、そこに付け入る隙があるはず」
アベルはJに戒道少年の苦痛の声が届くよう、調整をおこなった。
「ア、アルマ!」
Jの動揺を誘い、勝機に繋げるのがアベルの目論みだ。
「どうしました? アルマごと私達を倒すのではなかったのですか」
アベルの口角が、にやりと歪んだ。
「……」
「私が組んだプログラムを脱して独自の進化を遂げた貴方でも、アルマを見捨てられない……いや、私によって刷り込まれたアルマへの忠誠心を超克出来なかった!」
ゴッドジェイダーの動きが停まる。
「パルパレーパ同様に私達を撃破できぬ貴方ではないでしょう。しかし、アルマを収容したこの機体を貴方は本気を出して攻撃してこなかった――」
「その通りさ、アベル」
「アルマを破壊してしまう事を恐れる貴方に、私達は倒せない」
アベルの目が光った。
「最後に勝つのはやはり我々……」
「だからだ、アベルよ」
Jが嗤った。
「今度こそ、アルマを返してもらうぞ!」
ソルダートJの声に、並々ならぬ覚悟を感じたアベルは、
(仕掛けてくるか!?)
警戒を強めた。
直後。
「何かが接近してくる……っ!」
気付いた時にはすでに遅い。
轟音、そして衝撃がピア・デケム・ピークを揺るがせた。
「Jの攻撃ですか」
よろめいた身体を立て直しながら、アベルは信じ難い思いを味わっていた。
「……貴方は――」
ここで、しばし、時を遡る。
はやて達の艦隊が出立したのと同じ頃。
ミッドチルダの地下深く。
ユーノ・スクライアはレプリジンスカリエッティと対峙していた。
光放つジュエルシードを操作しながら、スカリエッティは冷笑とともに問うてきた。
「さて。ユーノ教授……君は私を捕らえに来たのかね? それとも――」
「ジュエルシードを封印する。それは禁忌の存在、滅びの力だ」
厳しい表情でユーノが答えた。
「管理局に命じられて来たのだろうが……無謀な行為ではないのかい?
スカリエッティはくっくっくと
「管理局の記録を、以前、拝見した事があるのだがね……」
かつてユーノが当事者として関わった事件――PT事件についてスカリエッティは話し出した。
「当時。君はジュエルシードをろくに封印できず、現地協力者の手を借りてようやく対処できた、と報告書にあったよ」
一体の暴走体すら手こずり、高町なのはがいなければ、地球に大惨事が起こっていただろう。
「そんな君が、だ」
スカリエッティは可笑しくて仕方無いという風に口を歪ませた。
「これだけの数のジュエルシードを封印するだって? 虚勢を張るのも大概にしたまえ」
「やれるさ」
ユーノは表情を動かさず、足元に魔法陣を輝かせた。
「ほぉ……たいした自信だ」
指揮者よろしくスカリエッティは腕を操って、宙に浮かんだロストロギアを発動させる。青白く脈打ちながら魔力を放ちだす。
スカリエッティが儀式を行うのを阻止しなければ、次元世界は滅亡する。
ユーノは空間全体に結界を張り巡らせた、
「ジュエルシード、封印!!」
展開した魔法がジュエルシードに干渉する。
「む……」
スカリエッティの表情が変わった。
ユーノの封印魔法は、徐々にジュエルシードを抑え始める。光が明滅し、魔力のスパークが発生した。
「くぅ……」
汗の粒がユーノの肌を流れた。
さすがに一筋縄ではいかないな――
だが、やらなければ、この世界は終わる。
「まさか、本当に」
スカリエッティの驚く声には感嘆の成分も含まれていた。
ついに。ユーノはジュエルシードの魔力を押さえ込み、制御下に置くことに成功した。
「これは凄いな。それほどの力を君が持っていたとは」
「遺跡の発掘中は危険だらけでね。ドクター、君なら判るだろう」
「ふむ。確かに、古代期の遺跡には凶悪な罠やロストロギアが存在することが数多あるね
」
「そう。そのため、結界や封印の魔法を鍛練する必要に迫られたのさ……」
初めてなのはに出会った時。彼はジュエルシードとまともに打ち合えなかった。
また、ユーノが張った結界をなのはのスターライトブレイカー+がいとも容易く貫いたこともあった。
その後に起きた闇の書事件以降、彼は自分の力不足を痛感し、自身の魔法の練度を高めるよう、努力を重ねていく。
ジュエルシード級のロストロギアを封印し、スターライトブレイカーですら破壊できない結界を造る。
熱心な、地道な鍛練の果て、ついにユーノはそれを完成させた。
それゆえ、今ではミッドチルダ屈指の結界魔導師と呼ばれるに至ったのである。
「なるほど……大した技量だ。それは認めるよ」
スカリエッティは口許を歪ませた。
「だが……攻撃の方はどうかな!」
右手に装着されたグローブ型のデバイスから魔力糸を紡ぎながら、スカリエッティはユーノへ嗤いかけた。
「君の能力は補助魔法に特化している。私のような戦闘力は持ち合わせていまい!!」
ユーノはジュエルシードの封印に集中しているため、身動きがとれない。
「私の勝ちだ、ユーノ教授」
以前、フェイトを窮地に陥れた魔法で襲いかかるスカリエッティに、しかし、ユーノは冷静な表情を崩さない。
「わかってるさ……だから」
「……!」
「戦いは彼に、任せる」
「なっ……!」
スカリエッティは自分に放たれた灼熱の光弾を、着弾のすんでで弾いた。
射撃魔法はユーノの背後から放たれていた。
「やれやれ……僕も忙しいんだがな」
闇から現れた青年は、わざとらしく溜め息を吐いた。
「これは。まさか、提督自らお出ましとは」
「ジェイル・スカリエッティ。大人しく投降しろ」
時空管理局・次元航行部隊、クロノ・ハラオウン提督はデュランダルを突きつけながら勧告した。
「嫌だと言ったら?」
「痛い目に合いたいか」
クロノは生け捕りが目的だが、抵抗するなら腕の一本くらいは折らせてもらうつもりだ。
「私を攻撃するのは辞めたほうが良いね。どうせ私をが持っている遊星主の情報が目当てなのだろう」
クロノの考えを見越したようにスカリエッティは言った。
「私は……この身体は遊星主に生かされるレプリジンだ。もし攻撃を受けた場合、元の暗黒物質に還元されてしまう。あるいは、パルパレーパが私を必要としなくなった時も同様だ」
遊星主に生殺与奪を握られている事を逆に盾にした。
「無論、君たちの目的が私の抹殺なら、すぐにでも攻撃を放つべきだろうがね」
「僕達の目的はお前を捕らえることだ。そしてソール11遊星主について洗いざらい話してもらう」
「無駄だね!」
「レプリジンについては、獅子王凱から詳しく聞いた」
二人はこの時のために、対策を練ってきた。
それにはクロノの力が不可欠だ。
「どのみちこの《私》は消える。だが、新たに生まれる《私》が私の志を継いでくれるだろう」
スカリエッティは自分の因子を戦闘機人などに植えつけていた。《無限の欲望》の名を体現するかのように何度でもこの世界に現れ、究極の生命創出を目指す。それは、まさに神の所業に他ならない。
探求の果てに神になる。
それを、己の運命と信じるからこそ、いま、この瞬間に命を捨てる行動を躊躇しなかった。
「さらばだ、ユーノ教授」
スカリエッティはユーノとクロノに、防御を無視した攻撃を放った。
「クロノ!」
「おぅ」
デュランダルに白銀の輝きが灯る。
「凍気を司るいにしえのものよ……全てを氷界に閉ざせ」
クロノの詠唱が静かに流れた。
「フリームスムス!」
ほとばしった光が、スカリエッティを捉えた。
「……」
その身体が白色に染まっていく。まるで、色素だけ分離させたような状態だ。
そして、スカリエッティの動きが止まり、精巧に造られた彫像のようにその場に立ち続けた。
クロノの魔法が彼を凍りつかせた、そう思える現象であった。いや、むしろ空間から切り取られたというべきか……
《エターナルコフィン》のような魔法なら、スカリエッティは崩壊していないとおかしい。暗黒物質からなる構成組織に衝撃が与えられるだけで砕け散るはずだからだ。
これは、クロノがはやての協力を得て独自に編み出した魔法である。
対象を、その身に流れる時間ごと《凍結》させる、クロノの切り札とも言うべき魔法だ。
使用するには予め呪文の詠唱を行わなくてはならない。そして術者に多大な負担をかける。クロノは平然とした表情をしていたが、実際には根こそぎ魔力を費やしていたので、もし発動に失敗すれば簡単な射撃魔法すら撃てるかどうかという瀬戸際であった。
何しろ完成したのがつい数日前でろくに試す時間がなかった。幸い上手くいったおかげで、スカリエッティを捕らえることができた。
この状態ではたとえ遊星主がレプリジンを崩壊させようとしても、クロノが《凍結》を解除しない限り彼の肉体が消滅する心配はない。アベルやパルパレーパといえども、凍りついた時間には干渉できないからだ。
「あとはヴェロッサに任せればいいか」
ヴェロッサ・アコースの固有技能で、スカリエッティの脳裏に蓄えられた知識と記憶を取り出せば、遊星主についての真相が得られることだろう。
「僕達の役目はこれまでかな」
「はやてたちがピサ・ソールを破壊できれば……次元世界は護られる」
二人の若者は顔を上げた。その眼が見据えるのは薄暗い天井ではなく、遥か時空の彼方だ。
「頼んだぞ、みんな――」
「大丈夫。彼女たちなら、きっと」
希望は、勇気あるものたちに託された。
ジャイアント・メカノイド、キングジェイダーから、流星のように飛び出し、ピア・デケム・ピークへと翔けていく光が三つあった。
輝きを放ちながら、一直線に向かう。
そのうちの一つは、長髪を靡かせた若き獅子のものであった。
超進化導力体エヴォリュダーにして魔導師たる勇者・凱。
高速でピア・デケム・ピークの頭上に接近する。
「おおおおっ」
咆哮に呼応して、デバイス《ガオーブレス》が眩しい緑光を放出した。
赤の星のメカノイドは厚い装甲に加えジェネレーティングアーマーという強固な防護フィールドを纏っている。
凱はこれを砕くつもりだった。
「ゴルディオンスマッシャー!!」
黄金の魔法陣が展開した。
それは、ゴルディオンハンマーと同等の効果をもつ破壊魔法であり、それに触れた物質を全て光子に変換し、分解する。
流石にゴルディオンハンマーに比べると効果範囲は限定されるが、ジェネレーティングアーマーに穴を開けるには充分な威力があった。
ピア・デケム・ピークの外殻ごと粉砕しても、凱の勢いは止まらず、さらに加速して機体内部へと突入していく。
「ファントムシューター!」
身体の全面に魔力弾を形成し、遮るものを破壊しながら突き進む。
その速度は音速にも達しようか。
(ピア・デケム・ピークの構造は、基本、キングジェイダーと変わらないはず……)
凱は真っ直ぐ、アベルの居所を目指した。
その軌道上には、ピア・デケムがフュージョンしているコクピットも存在している。
侵入を察知しながら、ピア・デケムは、まともに直撃を食らった。
そのまま、なす術もなく凱に撃ち抜かれ消滅する。
全ては一瞬の出来事だった。
構造材を打ち破り、ブリッジに降り立ってようやく凱は動きを止めた。
敵エヴォリュダーの出現に、アベルは動揺を隠せない。
「まさか、ここまで乗り込んで来るとは……」
もはや。残った遊星主は彼女とピサ・ソールのみ。
「観念するんだな、アベル」
アベルの背後で爆発が起こった。機体を破壊して、フェイトとともに護が侵入してきたのだ。
「戒道っ!」
「ラティオ……!」
アベルは憎悪を緑の髪の少年に向ける。
護は浄解モードのまま加速、戒道の元へ一直線に翔けた。
「戒道――!!」
「ラ、ラティオ」
戒道は僅かに残る意思を振り絞り、必死に腕を動かした。彼を拘束しているコード類がぶちぶち音をたて引き裂かれる。
「うおおっ」
渾身の力を込めて、彼は護に向かって手を伸ばした。
その手を、飛び込んで来た護が掴んだ。
「……!」
鮮やかな緑の光が、繋がれた二人の手からほとばしる。
その光は艦橋に満ち溢れ、凱たちを瞠目させた。
「これは……!」
アベルはすぐに理解した。
「GとJ、二つの力が合わさった……」
ソルダートJを解放した、あの光。
そして、アベルは見た。少年たちが毅然とした表情で、自分に相対しているすがたを。
二人から発される、緑と赤の相乗した力を。
「くっ……なぜ、このような事態に」
険しい眼で、アベルは敵を凝視する。
「こんなことは、あってはならない!!」
アベルの身体から砲身が生えた。
怒りとともに、砲撃を二人の少年に放つ。
「貴方たちさえいなければぁぁぁ」
「ラティオっ」
「うん」
二人は同時にバリアを展開した。
凱とフェイトは何もしない。
二人は、護たちの無事を確信していた。
その判断は正しかった。
二人は、アベルの攻撃を完全に防ぎきっていたからだ。
「このパワー、まるで、無限に湧いてくるみたいだ」
「これが、GとJの合わさった力だよ。Jを復活させた、奇跡の光なんだ」
その力でもって、キングジェイダーはさらなる進化を遂げることができたのだ。
「さぁ。アベル。もう辞めましょう。これ以上の戦いは無意味よ」
フェイトは大剣となったバルディッシュを向けながら、アベルに投降を促した。
大人しく本局まで連行されるなら、丁重に扱うつもりであった。
だが、アベルはフェイトの言に従わなかった。
彼女はまだ負けていないと、自分にいいきかせていた。
「やむを得ません。三重連太陽系の蘇生は後回しです」
いまは、敵を倒すのを最優先しなければ。
「ピサ・ソール。敗れた遊星主たちを再生させなさい!」
パルス・アベル最後の切り札。
物質再生マシンがもつ、無限の再生能力。
「圧倒的な、数で押し潰しなさい」
かくして。ソール11遊星主全員が、いま、ここに蘇ったのであった。
それと同じくして、なのはから通信が入った。
『クラッシャーへのチャージ、間もなく完了します。発射まであと、三十秒!!』
三十秒――その短い時間での攻防が、全ての運命を分ける。
生き残るのか、滅びるのか。
この戦いにより、それは、決するだろう。
更新遅くなってすみませんでした。
もちっと続きますですじゃ