ついに、アベルは切り札であるピサ・ソールの能力を使う事を決意した。
複製体には暗黒物質を消費する為、三重連太陽系再生に支障をきたすが、やむを得ない。
ナノガイガーに撃たせれば、こちらの敗北なのだから。
「だが。そうはさせん」
ソルダートJが座視したままでいる訳がなかった。
ナノガイガーに殺到する遊星主のレプリジンたちに、アルティメット・ゴッドジェイダーが攻勢に出る。
「いくぞ、ルネ」
「あぁ!」
Jとルネ、二人のサイボーグが固く手を握り合わせた。
赤と緑に戦士たちは輝く。
ゴッドジェイダーの右腕に装備された、ジェイストライクが眩い光を放ちながら変形する。
「行けっ、不死鳥よ」
発射されたそれは、まさしく翼を拡げた鳥を思わせた。
ジェイクォースに似ているが、それより巨大で、力強い。
高速で飛び出したそれは、遊星主たちにぶつかっていった。
《ブレイブフェニックス》の軌跡のあとには、砕け散った遊星主の残骸が微粒子となって漂った。
まさしく一撃で、遊星主を殲滅し、ゴッドジェイダーの元に帰還する。ナノガイガーに群がった遊星主は全て消滅していた。
これで、ピサ・ソール破壊のための障害は排除されたのである。
「決着は……あと僅かで着く」
Jは、ピア・デケム・ピットの方に視線をやった。
そこでも、一つの戦いに、終止符が打たれているはずである。
「今度こそ! 貴様を倒す! 獅子王凱!」
5人のパルパレーパが、青の星の勇者に飛び掛かる。
鋭利なメスで、凱を四方から狙う。
「あぁ……俺も同じ気持ちさ」
彼は静かに右手を掲げた。
Gの紋章が鮮やかに輝く。
「おおおおっ!! 死ねぇぇ!!」
パルパレーパの動きは速い。
しかし、魔導師にしてエヴォリュダーの勇者は、不屈の表情で魔法を放つ。
「ファントム・シュート――!」
緑の光に包まれた魔力弾が飛ぶ。
それは、ジェネシックオーラで構成された、対遊星主用の射撃魔法であった。
魔力弾は分裂し、複数のパルパレーパを同時に穿った。
「が!?」
魔力弾は遊星主の動力源、彼のアイマスクの奥に隠れたラウドGストーンを、正確に射抜いていた。
「ぬがぁぁ……こ、これが……!」
パルパレーパは、ついに、凱に完敗したことを認めた。
「これが……物質世界の掟……」
傲慢さは滅びの刻にあたって消え去り、敗北を受け入れた諦観がパルパレーパの貌にあった。それも一瞬のこと。
ラウドGストーンを砕かれた遊星主は光と化して散っていく。
そして。
ピルナスはフェイトを攻撃していた。
得意のスピードで翻弄し、いたぶる。
ルネを襲撃した時と変わらぬやり方だったが、ピルナスが思うほど《金の閃光》は甘い敵ではなかった。
真ソニックフォームのフェイトは、ピルナスの動きに対し、容易に追いつき、凌駕した。
「そんな、馬鹿な……」
焦るピルナス。
双剣で羽根を落とされ、叩きのめされる。
「この……!」
怒り、鞭を繰り出すも、フェイトは易々と捌いた。
「ぬぅ」
「もはや、貴女方に勝ち目はない。大人しく投降をーー」
「するものか!」
執念を燃やしてピルナスがフェイトに跳んだ。
「ならば……容赦はしない」
執務官は冷徹な声で呟くと、魔法を発動させた。
「プラズマランサー」
発射された直射魔法がピルナスを直撃する。
「あああっ!!」
バルディッシュが算出したラウドGストーンの位置を、狙い違わず撃った。
女神を自称する遊星主は、美しいと自負する肉体が崩れていくのを嘆きながら、消えていった。
死神を想起させる容姿のピア・デケムが、護と戒道に鎌を振るう。
2人の少年はバリアを張り、受け流す。
だが、死神は一体ではない。三体、連携しながら護たちを襲う。
「戒道!」
「あぁ」
固く。
少年たちは手を結びあった。
ともに浄解モード。GストーンとJジュエルのパワーを最大に引き出していく。
さらに。手を繋ぎ共鳴させる事で、莫大な力が発生する事を、護はJとルネから教えられた。
その状態で、彼が知る最大の必殺技を放ったならば……!
「ゲム・ギル」
「ガン・ゴー・グフォ……」
護は防御の力を。戒道は破壊の力を。
互いに練り、一つに縒り合わせる。
『ウィータ!!』
ギャレオンから回収されたガオガイガーのボイスコマンド。
本来は護の実父カインの技であり、護が遊星主ペイ・ラ・カインを倒す時に使用していた。
『ヘル&ヘブン!』
アンリミテッド。即ち、無限の力放つ真のヘル&ヘブン!
ジェネシック・ガオガイガーの必殺技たるその技を、2人は死神ピア・デケムに向けて解き放ったのだ。
「!!」
凄まじい衝撃が、黒の遊星主を包み込む。
ただ一瞬で、三体のピア・デケムは滅んでいった。
「戒道が呪文を覚えていてくれて助かったよ……」
「うろ覚えだったが、上手くいってよかった」
いましめから解放され、戒道はやれやれといった仕草で、護に言った。
その口許は僅かに緩んでいる。
「ありがとう……」
救出に来てくれた礼を述べるが、照れが先立ってか声は小さい。
護は微笑し、告げた。
「当たり前だろ。僕たちは……同じ地球人の友達なんだから」
はっと、目を瞠る戒道。
彼は握る手に力を込め、重ねて「ありがとう」と言った。
この時、戒道幾巳は完全に、故郷との決別を自覚したのだった。
遊星主との戦いが終わったら、星の子供として……地球人として生きる。
三重連太陽系は、もはや戒道にとって遥か過去の、滅びた歴史に他ならなかった。
そこには未来はない。
彼が生きていきたい世界は、アベルが求めた世界ではあり得なかった……
「何故です!?」
嘆きと怒りを、アベルは護たちに叩きつけた。
「三重連太陽系はあなた方の故郷なのですよ! その復活に、なぜ手を貸さないのです……」
アベルには護たちの言動は理解不能だった。
「この宇宙などしょせん、我等とは無関係。義理立てしたところであなた方に何の利益があるというのです」
「それは……僕がカインの意志を継ぐ者だからさ、アベル!」
護は、厳然と告げた。
「カインだって、故郷を護ろうとした。だけど、君たちの様に他の宇宙を滅ぼしての延命など望まなかった」
それは、かつてGクリスタルにおいて聞かされた真相だった。
赤の星は、次元ゲートの彼方から、暗黒物質を奪い、彼らの宇宙の滅亡を遅らせようとした。
だが、それは、他の宇宙を犠牲にして生き残る道である。
カインはその計画に反対し、もう一つの宇宙との共存共栄を謳った。
カインとアベルの意見は対立を深め、溝を埋めぬまま、やがてZマスターの脅威により具現化する暇も無く、三重連太陽系は滅びを迎えたのである。
「君たちのやり方は、間違ってる」
「そんな甘い事を言っているからーーー」
アベルはハリネズミのように、武装を展開し護と戒道に砲火を与えた。
「三重連太陽系は……!」
憤怒と共に放たれた攻撃は、しかし、GとJの力が合わさった防禦壁に阻まれ少年たちには届かなかった。
「この、わからず屋っ……!」
護は哀しみと怒りをないまぜに、叫んだ。
その彼の熱を冷まそうとするかの様に、隣の戒道が言った。
「何を言おうと、無駄だ。天海」
アベルは、憎悪を瞳に浮かべ、彼を睨んだ。
「僕達の言葉すら理解しているか……奴等、ソール11遊星主は人工的に創られたプログラム。与えられた役割を実効するしか出来ない……いや、そのように創られた存在」
アベルは戒道の視線に威圧を覚えた。
「そうだな。パルス・アベル、赤の星の指導者アベルの複製体よ」
「……!」
アベルの眼が険しくなる。
「私が……アベルのコピーだと仰るのですか?」
「前から疑問だった。カインの複製がいるのなら、アベルもまた複製ではないのかと、ね。……赤の星が滅亡する前に、バックアップとしてレプリジンを遺していたとしたら」
「なにを……私こそ赤の星の導き手たるアベル……」
「どちらにせよ、今となってはどうでもいい話か。間もなくピサ・ソールは破壊されるのだから」
「……っ!」
アベルは巨大なエネルギー反応を感知し、首を廻らせた。
其処では、悪魔王がピサ・ソールにエクセリオン・クラッシャーを構えているはずだ。
「あれだけ遊星主を再生しても、Jを食い止められなかったと……!」
憎々しげに歯噛みするアベル。
「さぁ……終わりの刻だ、アベル」
「戒道……」
護は哀しかった。彼らと分かり合えなかったことが。共存の手を差し伸べたかった。しかし、もう手遅れだった。
ナノガイガーが、チャージを完了してしまった今となっては……
『こちら、なのは。エクセリオン・クラッシャー、発射します!』
「よっしゃぁ! ぶちかましたり、なのはちゃん!」
はやてが檄を飛ばした。
「待ちなさい……!」
アベルが叫ぶのと同時に、ナノガイガーが膨大な魔力を解放する。
『シュート!!』
「やめろぉぉぉぉ」
次元世界最大最強の魔導砲、エクセリオンクラッシャーが白い光条を放つ。
その光は、まっすぐにピサ・ソールへ向かい、貫いた。
その瞬間、眩い輝きが、次元の海を真っ白に染めた。
「……」
フェイトが魔法で外の光景を映し出した。そこには、光の球と化したピサ・ソールの姿だ。
護は、昔、父の勇から教わった知識を思い返していた。
星はその寿命を終えるとき、赤色巨星に変化を遂げ、光り輝く超新星へと姿を変えるのだと。
やがて、爆発により星間物質が撒かれ、新たな星が誕生する……
「新、星……」
クラッシャーを受け、光球となったピサ・ソールは、まさに超新星を想起させた。
「破壊は、新たなゼロへの希望……」
Gクリスタルの意思“マザー”はかつてそう語った。
ピサ・ソールの消滅は、彼らの生き延びるための希望となり得るか――――それは、これから試されるだろう。