時空管理局執務官フェイト・T・ハラオウンは、広域型次元犯罪者ジェイル・スカリエッティを追い詰めんとしていた。
真・ソニックフォーム。
極限まで速撃性を追及した最終形態。ふた振りの双剣と化した「閃光の戦斧」バルディッシュを構え、不遜なる技術者に相対する。
ここはスカリエッティの本拠地であり、古代ベルカの遺産「聖王のゆりかご」が眠っていた場所でもある。迷宮のような地下施設に数々のラボと、人造魔導師素体のオリジナル達が物言わず、佇んでいた。
ジェイル・スカリエッティ。全ての事件は、この男が元凶だった。
自分の出生さえも、だ。
見た目は知的で穏やかな風貌の研究者、といったいで立ちだが、彼によって玩ばれた生命は数限りない。
恐らく、生命創出に固執していたこの技術者は、幾度も管理局の追及を逃れ実験を繰り返してきた。
プロジェクトF。そう呼ばれる研究を行ったのも彼だ。
この、究極の人造生命を創り出す実験の過程において、フェイトは誕生した。
スカリエッティが築いた人造魔導師創出の基礎理論を発展させ、完成させたのが、プレシア・テスタロッサだった。天才的な技術者であり、フェイトをこの世に生み出した創造主。
かつて、事故で愛児を喪ったプレシアは人造生命創出の技術を用いて娘のクローン体を純粋培養で創りあげた。生前と変わらぬ姿のクローン体に、保存しておいた記憶を転写する。これで娘は甦えるはずだった。
しかし。目覚めた娘は生前とは違っていた。
……こんなのは私の愛したアリシアではない。忌まわしい鏡像の如き娘をプレシアは「失敗作」として廃棄しようとした。だが、どうせなら真にアリシアを復活させるための道具として使うのがいいと、彼女は思いついた。
そうして、人造生命創出実験の名称から「フェイト」の名前を与え、偽の記憶を植え付け、戦闘訓練を受けさせた。
こうして、若干九歳にして優れた空戦魔導師フェイト・テスタロッサが誕生したのだ。
フェイトは母親の命令を受け、強大な力の源である遺失物ジュエルシードが散らばった、地球に向かう。そこで、ジュエルシードの捜索を行っていた高町なのはと出会った。
それは、フェイトの運命を変える出会いでもあった。
それから、数年。
彼女は時空管理局の執務官として、自らの父ともいえる男と戦っている。
皮肉なことだ、と、フェイトは思う。
彼が生命操作の技術を確立しなければ、プレシアは人造魔導師の素体を産み出せず、自分はこうしてここにいられなかったかもしれない。
勿論、この男を父と認めるフェイトではない。母、プレシアならまだ理解できる。理解しようと努められる。
二人の狂気の度合いは正反対と言っていいだろう。ただ愛する娘と取り戻したかっただけのプレシアと、自身を神として生命を操る、己の知的好奇心を満足させるために命を玩び、奪うスカリエッティとは、そもそもベクトルが違うのである。
フェイトは人工の生命として生まれてきたからこそ、眼前の男を許せなく思う。
望まれて誕生したのに役立たずと解れば棄てられる。
そんな可哀相な子供達の運命を誰よりも知っているから。
自分やエリオのような子たちをこれ以上増やさないためにも。この男を、倒す。
「どうしたのかね? 私を捕らえるんじゃなかったのかい? いや、殺したかった……のかな?」
自分の魔法拘束を抜け出し、自慢の作品を倒されても、スカリエッティに動揺は見られない。飄々と立ち尽くすフェイトに訊ねる。
追い詰められた犯罪者とは思えない。
実際にスカリエッティにはある勝算があった。
フェイトは与り知らぬことであったが、彼の開発した戦闘機人達の体内には彼の複製体が納められていた。
彼が万一、死んだところで新たなジェイル・スカリエッティが誕生するだけだ。
「……!」
フェイトがスカリエッティに、バルディッシュを叩きこもうとした、その時。
地下施設が大きく揺れた。
続いて、鈍い破壊音が遠くから響いてくる。
「!?」
「おや……」
フェイトは思わず足元を掬われそうになった。
「ドクター」
今まで黙って推移を見守っていたナンバーズの長姉ウーノが、モニターを観測して報告した。
「こちらの近くで、巨大な物体が落下しました」
「おや?」
「聖王のゆりかごとも、連絡が取れません」
「ほほぅ」
目を丸くして、スカリエッティは考えた。
「どういうことだ!?」
フェイトが詰問した。
「さぁ、ね」
と、そっけない回答が返ってくる。
いずれにせよ、スカリエッティ一味を逮捕しなくては。
フェイトはバルディッシュを構え、攻撃態勢を整える。
──が。
フェイトは奇妙なモノを見た。スカリエッティの背後に、ゆらりと立つ長身の影がある。
(死神?)
その姿は伝承に語られる死神の外見によく似ていた。
黒い細身の体に、赤い双眸。長大な鎌を持ち、音もなく現れる。
「ドクター!」
「ん?」
振り向く時間もなかった。
一閃した鎌が、天才技術者の頚を切り取った。
「ああっ!?」
「スカリエッティ!」
驚愕の悲鳴が地下に木霊した。首は放物線を描いて地面に落ちる。頭を失った身体は、しばらくして下に倒れた。
死神はなんの感情も見せずに、フェイトの前に出る。
「貴様……何者だ。スカリエッティの仲間か?」
答えはない。
(仲間割れなのか、それとも)
外界に落下したという巨大物体と関係あるのか。
犯罪者とはいえ、命を奪ったのなら、執務官としては、捕らえる以外に選択肢はない。
だが。勝てるのか。
こいつの腕前は相当なものだと、フェイトは見ていた。
(こいつも戦闘機人なんだろうか?)
疑問は、戦えばわかる。
「はぁっ」
剣が閃く。一瞬で間合いを詰めたフェイトが死神に斬撃を見舞う。死神は鎌を操ってそれを受け流した。
「くっ」
さらに攻撃を仕掛けようとした時だ。
「!!」
天井をすり抜けるように出現した長い物体が地面に衝突し、そこから二人の人物が飛び出してきた。
「ピア・デケム!」
「遊星主は、こいつ一人だけか!?」
死神は素早く間合いを開け、次なる戦闘に備えた。
「一体、これは……」
現れた戦士たち。
ESミサイルを使って地下施設に駆け付けた、赤の星のソルダートと、Gストーンのサイボーグ。
「……!?」
フェイトは何が起こっているのか、起こりつつあるのか、わからなくなってきた。
「……」
死神の双眸が微かに揺らいだ。それは強敵と戦う事ができる喜び故か。
ソール11遊星主ピア・デケムは、自分たちを追ってきたソルダートJ-002に鎌の切っ先を向けた。
機動六課スターズ分隊副隊長「鉄槌の騎士」ヴィータは、満身創痍の身体を引きずりながら、聖王のゆりかごの動力源がある駆動炉を目指して、艦体後部を進んでいた。
ゆりかごを護るガーディアン、ガジェットIV型との戦いによって傷ついた彼女は、著しく体力と魔力を消耗している。
だが、それでもゆるぎない足どりで目的の場所へ向かう。
(この船の動力源をぶっつぶして停める……そして、なのはもヴィヴィオも、護る!)
強い意思で体を支え、たどり着いた駆動炉。
そこは、天井の高い、宏大な部屋だった。巨大で幾何学的な赤い結晶をした推進機関が鎮座している。これを破壊すれば聖王のゆりかごの飛行を止められるはず。
「いくぞ、アイゼン!」
古代ベルカ式アームドデバイス、鉄(くろがね)の伯爵グラーフアイゼンに呼び掛けた。
(……ん?)
結晶を見上げたヴィータの目に、人影が映った。
(蜂?)
いや、人間?
駆動炉の上に一人の女が立っていた。
アイマスクに隠された目。深紅の唇。妖艶な雰囲気を纏っているが、そのフォルムは普通の人間ではなかった。
背には四枚の翼、右手には針が生え、それよりさらに尻にも大きな針が生えている。それは蜜蜂のものに酷似していた。
「いらっしゃぁい、子猫ちゃぁん」
粘着質な声で女は言った。
「てめぇ、スカリエッティの仲間か」
「知らないわねぇ、そんな名前」
「なんだと……!?」
警戒しつつ、ヴィータはグラーフアイゼンの形態を変化させる。
「アイゼン!」
《Raketen form!!》
尖端はドリルに、後部は噴射口を備えたロケットに変型する。
「ラケーテンハンマー!!」
「ふふふ……この舟を調査するのも、もう飽き飽きしてたところなのよねぇ」
わざとらしく女がため息を吐いた。
「退屈しのぎに私とあそびましょう、子猫ちゃん」
女は左手から鞭を繰り出す。
「てめぇに構っている暇はねぇんだよ!!」
ヴィータはロケットから爆風を吹かせながら、跳び上がった。一撃で決める。
「つれないわねぇ」
女は余裕だ。
鞭を巧みに操作し、ヴィータの体を打つ。
ヴィータは鞭の攻撃を魔法で防御しつつ、ハンマーのドリルを女にぶち込む。
「おりゃぁぁぁ」
しかし、羽根を震わせ飛行する女は力任せの打撃をするりと避して、天井高く移動した。
そこから無数の鞭をヴィータに浴びせる。
「うわぁぁ!!」
赤い騎士甲冑が破れ、皮膚には血が滲んだ。
「くぅっ」
苦痛に呻きながら、ヴィータは床面に降り立った。
「くそっ、あいつに食らった傷が……」
これより前、ガジェットとの戦闘で、ヴィータは胸に重傷を負っている。このままいつまで戦えるか、疑問だった。
「てめぇ、何が目的だ」
「子猫ちゃんには関係ないことね」
女は空中をジグザグに飛び回り、ヴィータに迫った。
「なにしろ、これから死んじゃうんだもの!」
ごおっ!
右手から炎が噴き出し、ヴィータを包みこんだ。
「うわぁぁぁっ」
ヴィータはフィールドを発生させ、炎を打ち消そうとした。
防御魔法のうち、フィールド系は特定の効果を持った現象(高温など)を遮断する場を形成させる魔法である。
「ふざけんな!!」
蜂のひと刺しを避けたヴィータは、反撃に出た。
「炎には炎だ!!」
再びハンマーフォルムに戻したアイゼンで、発生させた数発の鉄弾を叩く。
《Flamme schlag!!》
加速した弾は孤を描きながら、八方向から女を急襲する。
「ふっ」
凄まじい速さで鞭を旋回させ、弾を弾いていく。
──しかし。
鞭捌きに捉えきれなかったひとつの弾丸が、彼女の脇を打った。
「なにぃ」
ボアッ!!
着弾と同時に炎が燃え上がる。
通常の打撃に加えて触れたものを可燃させるフランメ・シュラークの一撃。
「この餓鬼ぃ」
口汚く罵りながら、ヴィータに復讐の鞭を振るう。
「だぁぁっ」
カートリッジ・ロード!。
薬莢を一つ吐き出し、ハンマーが唸る。
《Todlich schlag!!》
ヴィータの最も得意とする攻撃。
魔力で強化された疾風の綱弾が、防御ごと相手をぶち抜き、破壊する必殺の魔法だ。
「もう通じないわね!」
弾の軌道を見切った女は、全ての弾を弾き返し、あるいは粉砕した。
弾かれた弾丸はゆりかご内の壁の何箇所かを穿ち、ひびをいれる。
「なんてやつだ」
奥歯をかみ締め、ヴィータが睨む。
「あなたの攻撃はこれだけ?」
馬鹿にした言葉遣いに、ヴィータは拳を震わせた。
「てめぇ……」
「遊びはここまでよ、子猫ちゃん」
女は次こそとどめを刺さんと、構えた。
その時である。
テートリヒ・シュラークによって崩れた壁の向こうから、緑色の光が差し込んだのだ。
そして力ある波動が女に注がれる。
「ぐわぁぁ!?」
女は思わぬ攻撃を食らい、驚愕した。
「……まさか!?」
ダメージを負って、女は地面に墜落した。
そして、壁を砕いて巨大なモノが、ゆりかごの中に入って来る。
ゆりかごの駆動炉に勝るとも劣らぬ大きさの──
「鋼鉄の……獅子?」
金色に輝くたてがみ。白き四肢。雄々しき勇姿が艦の壁面を砕き、女の前に立ちはだかる。
「ギャレオン!」
女は仇敵の名を呼んだ。
宇宙メカライオン・ギャレオンの口蓋から、柔らかい緑の光が溢れていた。
一人の小さな少年が、気を失った女性を抱き抱えて、外へ出てくる。
緑の光に包まれた体。頭上には天使の輪のような光輪があり、翼もつ髪を逆立てた少年──
「ラティオ……」
女の顔に初めて焦りが浮かんだ。
「ソール11遊星主ピルナス──君たちの好きにはさせない」
強い口調で少年は訴えた。
「ほざけ!」
少年に、ピルナスが鞭を放つ。
少年の額に浮かぶGの紋章が、輝きを増した。
左手を突き出し、防御力場を生み出す。
「ちぃっ」
ピルナスの攻撃は少年に届く前に防がれてしまう。
「うぅっ!」
ギャレオンと少年の姿に、ピルナスは躊躇を覚えた。
「ジェネシック・ギャレオン──対遊星主アンチプログラムにラティオとはね……。私一人じゃあ、ちょっと厳しいわね」
不利を悟ったピルナスは、跳躍して、天井に蹴りを食らわした。天井が破砕して出口を造った。ピルナスは建材の雨を降らせながら、ゆりかごの外へと逃走する。
「逃げられるっ……」
追おうとした少年であったが、傷ついたヴィータの姿を認めると、追跡を諦めた。
女性をそっとギャレオンの口蓋に置き、ヴィータに近づく。その背中にはピルナスとよく似た羽根があった。
ヴィータの傍らに着くと、癒しの力を注いで、彼女の傷を治していく。
ヴィータは不思議な安らぎを感じた。
「お前たち……一体何もんなんだよ」
「それは、話すと長くなるから……」
そもそも彼自身、自分たちに起こった現象を詳しく把握していない。
「まぁ、いいさ。助かったよ。礼を言うぞ」
「うん。……君はどうするの?」
ヴィータはグラーフアイゼンを握りしめ、言った。
「こいつをぶっ壊す」
ハンマーフォルムからラケーテンハンマーに変える。今度こそ、駆動炉を破壊してやる。
「いくぞ、おりゃあ!!」
振り下ろされたドリルの一撃。結晶にぶち当たり火花が散る。
「うわぁ」
しかし。駆動炉には傷ひとつ付かず、かえってヴィータは吹き飛ばされてしまうのだった。
「ちきしょう、この野郎」
ヴィータは立ち上がり、またアイゼンを掲げる。
「待って!」
少年がヴィータを制止した。
「ねぇ、これを壊せばいいの?」
「あぁ……こいつを破壊すれば聖王のゆりかごは推進能力を失うはずなんだ」
「僕にやらせて」
「お前が?」
少年はすたすたと駆動炉に近づくと、精神を集中した。
「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……」
破壊の力、防御の力。その二つを一つに結び付ける技。
彼がGクリスタルに蓄えられていた知識に触れた時に知った、攻防一体の技。
「ウィータ!!」
組み合わせた掌を、駆動炉に突き出す。
緑の閃光が、部屋を満たした。
「……!!」
ヴィータは瞠目した。
ゆりかごの動力源である駆動炉が、音をたててひび割れていく。そして、粉塵を撒き散らしながら、細かい結晶へと化して砕けていった。
「真のヘル・アンド・ヘブン……オリジンの僕も使えたよ、凱兄ちゃん」
少年は感慨深げに呟いた。
「これでよかったかな?」
振り向いて少年は、ヴィータに訊いた。
「あ、あぁ……」
ヴィータは呆然と、頷き返す。
少年……天海護(あまみ まもる)は、ギャレオンの口蓋部に乗り込むと、女性の顔を凝視した。
「早く目覚めて、命(みこと)姉ちゃん……凱兄ちゃんを助けるために」
「そいつ怪我してるのか?」
「うぅん。気絶しているだけだよ。はっ……!」
ギャレオンが首を動かした。
隔壁の向こう側に鋭い眼差しを向ける。
「ずっと前の方に……他の遊星主がいる!」
「おい、そっちには、なのはが……!!」
ヴィータは顔を真っ青にしてギャレオンを見た。
「あんな化け物にやられたら……」
数年前の、なのはが重傷を負った出来事が脳裏を掠(かす)めた。
もうあんな光景は、二度と見たくはない!
「お、おい!」
「ギャレオン、命姉ちゃんをお願いするね」
戦場に行けない不満か、ギャレオンはやや行動を渋ったが、結局は護の言う通りにした。
「行こう!」
二人は宙に浮かぶと、ゆりかごの艦首の方に向かって飛んでいった。
一方、部屋に残ったギャレオンは、動力源が破壊された時に自動的に作動する防衛システムから、命を守り抜く戦いを、開始する。
「全く、なにがなんだかが解らなくなってきたよ」
「!」
突然、傍らから聞こえてきた声に、ジェイル・スカリエッティの作品・戦闘機人No.1ウーノは、その身を強張らせた。
「っ!?」
バインドが、ウーノの全身を絡みとる。
「見たこともない連中が次から次に現れる……一体何がどうなっているんだろうね」
降って湧いたように出現した髪の長い青年は、そう言って肩をすくめた。
「さて、ちょっと君の頭の中をあらためさせてもらうよ……あの、死神みたいな奴らの手がかりがあるかもしれないからね」
時空管理局の査察官ヴェロッサ・アコースは、魔力光で輝く手を、ウーノに向けた。
一方。
少し前。機動六課の若きフォワードたちは、それぞれの場所でこの世界に訪れた異変を察知していた。
洗脳が解けたギンガを抱き起こしたスバルが。
戦闘機人たちを打ち倒したティアナが。
気絶したルーテシアを抱えたキャロが。エリオが。
ヘリに乗るヴァイスが。アースラにいたシャーリーたちクルーが。
シグナムやシャマル、守護騎士たちが。
皆が、天空から峡谷に落下していく巨大な飛行空母の姿を目撃していた。
空母はスカリエッティのアジトの近傍に墜ち、土砂の中に埋まった。
その、巨大空母を追いかける様に出現した飛行物体が、アジトのある断崖の上に墜落していく。
白い飛行物体の正体は、三重連太陽系の赤の星で生まれた、宇宙最強の超弩級戦艦ジェイアークであった。
その、ジェイアークは危機の渦中に見舞われていた。
敵の巨大空母……ピア・デケムを追跡してきたものの、充分な出力が得られず、航行能力も低下している。
彼ら、赤の星の戦士たちの創造主アベルによって、エネルギー源であるJジュエルを凍結されたソルダートJ-002、さらにジェイアークの管制を司るコンピューター、トモロ0117にも機能停止を命じられたのだ。
艦はこの世界の重力に引きずられ、墜落を余儀なくされる。あと数瞬で激突しそうになった時、Jは奇策を使った。
ES空間を通ることで、物質を透過できるESミサイルを利用したのである。
手動でだが、手早くミサイルを起動、Jと同乗していたルネ・カーディフ・獅子王はESミサイルで地下に広がる空間に逃れ、ジェイアーク自身はESウィンドゥから別の平野に軟着陸させた。
その地下空間には、ソール11遊星主の反応があったのだ。
地下──スカリエッティのアジトへと乗り込んだソルダートJは、宿敵たるピア・デケムを発見する。ルネも彼に続いた。
ルネ・カーディフ・獅子王。フランスの対特殊犯罪組織シャセールの捜査官であり、地球で唯一のGストーンサイボーグだ。
コードネームは《リオン・レーヌ》すなわち、獅子の女王である。
そう、この17歳の少女の体内には、熱き獅子の血が流れていたのである。
彼女は自分に敗北の屈辱を舐めさせた遊星主に対し、怒りを燃やしていた。
必ず、やられた借りを返す。
もちろん、数倍にして、だ。
そのためにも、ここで負けてなどいられない。
そのような事情を一切知らないフェイト・T・ハラオウンは、困惑の表情を浮かべて、新たな闖入者を見たのだった。一瞬、彼女の手が止まる。その隙をついて死神がフェイトに刃を放とうとしたが、横から現れた戦士の蹴りによってその斬撃は阻止された。
鳥の姿を思わせる装甲を纏った俊敏な戦士に、赤い髪をたてがみのように逆立てる、コートを着た少女。
二人は普通の人間とは思えない部分が認められた。
(戦闘機人?)
フェイトの目の前で、薄緑の装甲の戦士が死神に立ち向かう。死神は鎌を振るい、戦士が回避する。
頭部装甲によりその表情は伺い知れぬが、なにか焦ってる風に見えた。
「J!!」
少女が叫び、死神に拳の一撃を繰り出す。
強力なパンチを食らい、わずかに死神が後ずさった。
だが戦士は腕を振り上げた格好で、固まっていた。
「くっ、Jジュエルが……このまま戦っても……」
「J……!?」
決定打がない。彼は戦闘能力のほとんどを封印されてしまっている。
(加勢したほうがいい)
フェイトの勘が告げていた。
だが、AMF下でザンバーフォームから、真・ソニックフォームまで、限界を振り絞って魔力行使を続けてきた。バルディシュにも相当な負担がかかっているはずだ。
これ以上の行動はフェイトにとって、苦痛以外の何ものでもない。
だが。
二人の戦士を見捨てる訳にもいかない。
それに、エリオとキャロがこちらに向かっているはずだ。あるいは局員たちも。それまでにこの死神を牽制できれば。
「はぁっ」
真・ソニックフォームでの彼女ならば、ソルダートJをも越える。
神速で移動したフェイトは、プラズマの剣刃を死神──ピア・デケムに叩き込む。
がきぃぃ!
死神の鎌と剣が火花を散らす。
斬撃を受け流されたフェイトは、瞬時にフォトンランサーを起動。威力は地下内なので崩落を恐れて低く設定した。
「ファイア」
ランサーの数は十二。
雷の矢がピア・デケムに発射される。
「うわっ」
慌ててルネは死神の側から離れた。ピア・デケムがランサーを回避しながら打ち落とそうとするが、ランサーには自動追尾機能を付加してある。
AMF下の魔法はフェイトに疲弊を強いたが、気力でカバーした。
「!」
ランサーがピア・デケムの胴体に着弾。彼を数メートル吹き飛ばした。
倒れたピア・デケムにルネが駆け寄る。
胸を踏み潰すつもりだった。
しかし、人間離れした速さで起き上がり、逆にルネの足元を鎌で薙いだ。
「くっ」
跳躍して避けたルネに、死神の回し蹴りが向かう。
その蹴りを、彼女は同じ蹴りで受け止めた。両者は交錯し、着地。
フェイトは、その瞬間を狙ってピア・デケムのもとへ、踏み込んだ。
フェイトのライオットザンバー・カラミティが、鎌の柄を両断し、刃を砕いた。
空手になったピア・デケムは素手で攻撃するが、シールドに阻まれる。
「──ピア・デケム」
だが新たな声が降ってきたことで、その戦闘は中断させられる。
「きゃあぁっ」
「うわぁ」
緑の光がフェイトとルネを撃ったのだ。
「貴様は!?」
その男の相貌を見て、Jが驚いた。
「緑の星の守護神!」
衣装のフードから覗くその顔は、穏やかな壮年の男性のものだ。
だが、しかし……彼は遊星主。Jの味方にはなりえない。
「……カイン!!」
Jジュエルの力を封じられたJには、二人の遊星主と戦うことは難しい。
ルネも疲労が激しい。
この世界の原住民とおぼしき娘も、事情は同じに見えた。
「ピア・デケム、アベルが我らを呼んでいる」
死神の隣に降り立ったカインは、威厳のある声で告げた。
「この場所での用事は済んだ。アベルの元へ戻るぞ」
彼は自主的に喋っているように見えるが、実は彼に意思と呼べるものはない。すべて、アベルの望む通りに動く操り人形がこのペイ・ラ・カインだった。
ここでもそれらしく伝えただけで、単なるメッセンジャーに過ぎなかった。
ピア・デケムは承知した
。と、同時に、この部屋に小柄な少女が入ってくる。
「フェイトさんっ」
「キャロ!」
ライトニング分隊ライトニング2キャロ・ル・ルシエ。機動六課フォワード、フルバックを担う少女である。
その後ろから、同い年くらいの少年、エリオ・モンディアルが姿を現した。キャロと共にフェイトの部下を務めるライトニング1、ガードウィングの若き騎士。召喚士ルーテシア・アルピーノとの戦いを制して、フェイト救出に駆け付けたのだ。
二人に続いて地上部隊の武装局員たちが、円陣を組んで遊星主たちを包囲。
他に、倒れ伏した戦闘機人の拘束も行っている。
「アルケミックチェーン」
キャロの拘束魔法が発動。
煉鉄召喚。
魔法陣から飛び出した鎖が、ピア・デケムとペイ・ラ・カインに巻きつく。
だが、カインの発した念動の力は、ブーストされたアルケミックチェーンを易々と破壊した。
「そんな!!」
「ストラーダ!!」
エリオはデバイスを構えて突進した。電撃を穂先に纏わせ、カインに狙いを定める。
カインは余裕の表情で、右手を頭上に上げ、ラウドGストーンの力を解放。緑の光が天井を打ち抜いた。
「うわっ」
爆発で飛散する瓦礫のために、エリオは止まらざるを得ない。防御魔法で身を守りながら、カインたちの行方を追った。
ピア・デケムとカインはすぐさま破壊した天井から脱出したようだった。
(奴め、地上まで貫通する力を放ったのか)
Jが戦慄する。
もやはどこにもその影が見当たらない。 残念だが、遊星主には逃げられたようだ。
「崩れる!」
破壊された天井から、瓦礫と土砂が落ちてきた。フェイトたちのいる空間が、腹に響く振動とともに小刻みに揺れはじめる。
「アジトが崩壊するかもしれない。ここを出よう」
フェイトが全員を促した。
キャロが結界で瓦礫から皆を守り、局員たちと共に待避する。
「執務官」
地上部隊を率いるリーダーらしい局員が、報告した。
「現在、ゆりかご内以外の戦闘機人をすべて逮捕、またこのアジトに実験用に保管されていた者たちを全員保護しました」
「わかった。ありがとう、助かった」
フェイトは短く言い、
「とにかく、脱出しよう。早くゆりかごを停めないと……」
(なのは……)
フェイトの胸に心配が込み上げてくる。
親友の無事を願いながら、スカリエッティの本拠地を走る。
その後を、Jとルネが追いかけた。
(なんとかして、Jジュエルの機能を復活させないと……)
「J、大丈夫か」
ルネが訊いた。
「あぁ……。それにしても、ここは三重連太陽系ではないようだな」
「地球でも……なさそうだ」
Jには異界に来たという実感が、まだなかった。
この世界については、少し後になってから、知ることになる。
「どこであろうと、我々の目的は変わらない」
きっぱりと、Jは宣した。
「遊星主共を倒し、アルマを取り返す!」
どのような苦境に立たされようと、ソルダートJの闘志は衰えることを知らない。
「……そうだな」
獅子の女王の口元に、小さな笑みがこぼれた。
この男も自分と同じく、諦めが悪い性格らしい。
だが、そんな男だからこそ、命を預けられるとも、彼女はおもっていた。
聖王のゆりかご。
パルパレーパに追い詰められた獅子王凱と、高町なのは。
ゴッド・アンド・デビルの猛撃により、凱は重傷を負い、なのははブラスター3で、パルパレーパを撃とうとしていた。
しかし。その前に、強力な援軍が壁を突き破って現れた。
流線型をした、イルカと鮫を模した、巨大な漆黒の機体。
「お前たちは……!!」
凱が叫んだ。
それは、緑の星の切り札のひとつ。破壊神のからだを為すもの。ジェネシック・ギャレオンとの対話のなかで知った、自律型マシン。
ジェネシックマシン。
ブロウクンガオーとプロテクトガオーであった。
二機は左右からゆりかご内部に進入、パルパレーパを挟み撃ちするポジションをとる。
プロテクトガオーが不可視の波動を放出した。
「ぬうう、ジェネシックオーラか!」
情報攻撃の一種であるジェネシックオーラは、ソール11遊星主の機構を破壊する。
今も、パルパレーパ・プラスの両手の鉗子が、砂粒の様に分解されていく。
「ぐおぉっ」
凱の体が自由になった瞬間を見逃さず、なのはは彼を抱えて飛翔した。距離をとって後方に着地する。
「ジェネシックマシンめ!!」
パルパレーパが憤激した。
いつかのようにまた邪魔するというのか。
パルパレーパは両腕が使えなくなったために、やむなくフュージョンを解いた。
「パルパレーパ!!」
そこへ、緑の輝きに包まれた少年と、赤い騎士服の少女が聖王のおわす玉座の間へと飛び込んできた。
「ヴィータちゃん!!」
「なのは、無事だったか」
ヴィータは、なのはの傍に降りる。安堵の息を吐きつつ、尋ねた。
「ヴィヴィオはどうした!?」
「彼が……」
視線を上げたヴィータは、白衣の男性が、聖王として覚醒したヴィヴィオを抱き抱えているのに気がついた。
「あいつも……あの蜂女の仲間か!?」
激しい眼で、白衣の遊星主を仰いだ。
そして。傷ついた凱の側には、護が降りて来る。
「護!!」
「凱兄ちゃん、大丈夫? すごい血が……」
胸の酷い傷を見た護が、心配そうに駆け寄った。
「待って、いま治すから」
彼は、治癒の力で凱の肉体を癒そうとした。
「いや、奴を倒すほうが先だ」
凱は護の治療を断った。
「ラティオか……」
パルパレーパは憎々しげに少年を見た。
「パルパレーパ、ここで何をしている? その人をどうするつもりだ」
護の質問に対し、彼は素っ気なく答えた。
「余興だ」
薄く嘲笑を浮かべ、パルパレーパはラティオ……護にラウドGストーンの衝撃波を放った。
その攻撃はプロテクトガオーによって防がれる。
そこへ──
「そろそろ退き上げますよ」
と、低い少女の声が割って入ってきた。
いつの間に、ここへ出現したのか。
幼い顔立ちに、フードを被った小柄な体格の遊星主。
「アベル……」
「ラティオ、あなた方もこの世界に来ていたようですね」
アベルは揶揄するような口調で護に言った。
「パルパレーパ、もうこの艦でやることはありません。ピア・デケムへ戻りますよ」
「承知した」
「ピア・デケムは墜落したはずじゃ……」
護はゆりかごへと至る前、巨大空母ピア・デケム・ピットが猛スピードで地上に落下していくのを目撃していた。
「ジェネレーティングアーマーのおかげで艦のダメージは軽微で済みました。逆に私たちを追ってきたジェイアークは、機能の損傷が著しく、我らが空母ピア・デケムに抵抗する力はないでしょうね」
「Jが……!?」
「間もなく、ピサ・ソールの修復も完全に終わります。あなた方に勝利はありえません」
「あれは消滅したはずじゃ!?」
凱は三重連太陽系での攻防のさいに、ピサ・ソールが爆発する光景を見ている。
「それはあなたの見間違いでしょう」
アベルは面白そうに笑みを浮かべた。
「行きましょう」
アベルとパルパレーパは、空中へ上昇していく。
「待てっ!!」
「逃がさない!!」
凱が、護が、アベルたちを追いかけようとする。
「ヴィヴィオを返して!!」
なのはもアクセルフィンを羽ばたかせ、急追しようとした。
「なのは、あいつらは危険だ、あたしが……!!」
親友を留まらせ、自分が追跡する意思を見せた。
パルパレーパは無造作に、ゆりかごの壁を破壊、外へと向かう。
「ヴィヴィオ───っ!!」
なのはが後を追う。
「!?」
アベルとパルパレーパ、そして彼等に合流したピルナスは、ゆりかごの上から自分達の天敵の姿を見出だした。
巨大な黒鳥──ガジェットガオーと、二対の土竜──ドリルガオー、スパイラルガオー。
即ち、これで五体のジェネシックマシンが揃ったということだ。
「破壊神を誕生させるつもりか」
聖王のゆりかごの周囲を、楕円の軌道を描きながら、三体のジェネシックマシンが飛び回る。あたかも遊星主を閉じ込めるかのようなフォーメーションであった。
「ですが、勇者はフュージョンするほどの力が残っているでしょうか?」
アベルは冷静に指摘した。
パルパレーパの攻撃で敵エヴォリュダーは瀕死の状態だったはず。
「たとえ破壊神が誕生したとしても……私たちの勝利は変わりません、絶対に……!」
その、アベルの言葉に呼応するかのように、空の彼方から飛来してくるものがあった。
遊星主ピア・デケムが素体である、三層の甲板をもつ巨大飛行空母ピア・デケム・ピットである。
ピア・デケム・ピットは、艦砲射撃をジェネシックマシンに発射した。回避行動のためマシンたちの軌道が乱れる。その隙を狙って、遊星主たちがゆりかごから離れ、ピア・デケムへと飛ぶ。
一方、凱やなのは、そしてギャレオンとプロテクトガオー、ブロウクンガオーたちもゆりかごから脱出してきた。
「シュート!!」
天空に消えていく遊星主に、なのはがアクセルシューターを放つ。
しかし、ピア・デケムから撃たれた艦砲射撃によって、尽く相殺されてしまう。
遊星主たちはまんまと、空母のなかに逃れたのだった。
悔しがるなのはたちに、六課の隊長、八神はやてが寄ってきた。
ゆりかご内部で何が起こっているのか。
外側から見守るはやてには、憶測でしか考えられなかった。
現在、ゆりかごは速度を落とし、崩れた破片を空中にばらまきながら、上昇していこうとしている。
はやてが爆破された箇所から、中に侵入しようとした時だ。
突如にしてガジェット群が機能を停止させた。
そして。
流星のように落ちてきた、巨大な鋼鉄の獅子が、破損した外装を突き破ってゆりかごに突入していったのである。
続いて二対のマシンが側面から内部に侵入し、後続する三機は楕円軌道でゆりかごを旋回し出す。
はやてにとっては予想外の現象であり、さらにミッド軌道上に布陣していた次元航行艦隊との連絡も途絶して、混乱に拍車をかけた。
「一体、どないなっとるんや……」
リインフォースIIが、ゆりかごから奇妙ないでたちのものたちが飛び出してくるのを捉えた。
「あれは」
「スカリエッティの仲間か……?」
騎士杖シュベルトクロイツを構えながら、はやては不審がった。
「あ、なのはさんたちです!!」
リインが旧知の顔を見つけ叫んだ。
「助けにいこう!!」
はやては加勢に向かうが、上空に現れた空母からの攻撃に急停止する。
なのはが放った魔法から仲間を擁護するための砲撃だったのか、誘導制御弾のみを粉砕した。
はやてが気づいた時には、連中の姿は、すでに無い。
次の攻撃が来ないうちに、はやてとリインはなのはたちの元へと飛んでいった。
そうして、数時間ぶりに再会した親友の所には、見知らぬ人物が立っていた。
ゆりかごの上には、競技場ほどのスペースが広がっている。それほど巨大な艦なのだ。
はやては、その一角に集まったなのはたちの傍らに降り立つ。
大量の血で己の身体を染めた青年と、厳しい顔つきでその傷を治療する少年。
「リイン、手伝ったって」
「はいです」
負傷した青年、凱の隣に移動したリインフォースIIが、フィジカル・ヒールを発動させる。
護とリインの力で凱の肉体は辛うじて死を免れた。だが、夥しい出血と疲労により、凱には戦う力が残されていなかった。戦う意思はあろうとも、肉体は限界を越えていた。
「あんた達は一体、なにもんや?」
疑問を吐くはやてに、護が答えようとする。
「僕たちは──」
「来る!!」
ヴィータが絶叫した。
無数の飛行物体が、凄まじい勢いでゆりかごに殺到してくるのが見えた。
「ガジェット!?」
いや、違う。
「ピア・デケムの艦載機!!」
護はすぐにわかった。
何度もその襲撃を受けていたからだ。
「まずい……」
反中間子艦載機は衝突した相手と追消滅を起こして爆発する、危険な兵器であった。
「あんなに……ゆりかごごと、うちらを攻撃する気か!」
「あいつらにはもう必要ないんだ、この艦は」
護は凱の腕を掴んで言った。
はやては一瞬で判断する。艦載機がゆりかごに接触する数秒の間に、すべてを撃墜するのはいくらエースがいるとはいえ、不可能だ。はやてはすぐに、艦載機への攻撃を断念した。
「ここから離れよう。ギャレオン!!」
カインの遺産たる鋼鉄の獅子は、頷くように吠えると、スラスターを噴かせ、浮かび上がる。その背に護は凱を連れて乗った。
「みんなも、早く、逃げるんだ!!」
「全員、ゆりかごから待避せよ!!」
はやては戦っている魔導師たちに指令した。
なのはたちは、高速飛行でゆりかごの背中から離脱。
ジェネシックマシンたちも急な加速で戦闘空域から離れていった。
「リイン、広域結界いくで!!」
「はい!!」
ユニゾンしたはやては、急いで結界の魔法にとりかかった。
攻撃と違い、照準を合わせる必要はなかった。時間もない。
とにかく、この空域全体を結界で覆う。そのために、完全な詠唱は諦めるしかない。
はやてはなのはとヴィータにも広域結界を頼んだ。
多重の結界を張ることで、被害を食い止めようという算段である。
「守護する盾。風を纏いて鋼と化せ。すべてを阻む祈りの壁。来たれ我が前に!!」
《Wide Area Protection》
はやてが発動させる前に、いち早くなのはが結界を完成させた。ほぼ、ゆりかごをすっぽり包み込むために、カートリッジを二発以上ロードしなければならなかった。
オーバーSランクの魔力を振り絞ったはやての結界が、起動する。ヴィータも主に続いた。
部隊長をサポートするべく、戦闘空域にいた空戦魔導師たちが強装結界を張る。
数百の艦載機がゆりかごに特効していく。
閃光と爆発で空はまばゆい輝きに覆い尽くされた。
古代ベルカの遺産。巨大質量兵器。強大なロストロギア。
聖王のゆりかごは、装甲を、艦体を、駆動炉を、兵装を、防衛機構を、すべてを、追消滅させられていった。
放射線状に光の爆発が拡散、周囲の物質をも誘爆して、連鎖を巻き起こした。
「くっ……」
広域結界とゆりかご消滅の余波が衝突する。
エネルギーの暴風を、結界が受け止めた。