ナノガイガー戦記~勇者とエース~    作:かがみん

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第3章 新しき神話

沈みゆく夕陽が、ジェイアークが横たわる平原を、紅く染めていく。

宇宙最強と呼ばれた超弩級戦艦ジェイアークも、今は精彩を欠いた姿で、夕闇に飲み込まれつつあった。

 

「アルマ……」

艦体の表面に手をついて、ソルダートJ-002は、苦い気分を味わっていた。みすみす奪われてしまった戦友。契約を交わしたパートナー。

だが、奴から助け出すこともかなわなかった。

「せめてペンチノンが蘇ってくれるなら……」

ジェイアークの制御を司る生体コンピューター、トモロ。ペンチノンはゾンダリアン時代からの名称であり、朋友としていままで戦場を駆け巡ってきた。

「アベルの強制停止コマンドさえ予想できていれば……いや、やはり無理だったか……」

創造主アベルの力により、ジェイアークは全ての動力源を遮断され、トモロも意識を回復することはなかった。

Jも能力を封じられ、一切の武装が使えない状態だ。

これではソール11遊星主と満足に戦えない。

(どうすればよい?)

ジェイアークは大破を免れたものの、艦体のあちこちに損傷が見られた。ジュエルジェネレーターがダウンしたために自己修復機能も作動できない有様である。

(もう一度、お前を空へ羽ばたかせたい……!)

熱く、Jは胸に叫んだ。

その彼を、Gストーンサイボーグの少女ルネが、黙ったまま、見つめていた。

かつて、ルネは遊星主と戦い、負けた。その時に感じた敗北感や屈辱感をJも噛み締めているのだろうか。

確実に言えることは、反撃の思いを失わなければ、それは真の敗北を意味しないということ。

そうだ。私は次こそ……遊星主を倒す。

鋼の拳を握り締め、ルネは戦意を燃やした。

 

「ごめん、遅くなった」

そう言いながら、二人のもとに近づいて来た影がある。

黄金色の髪を伸ばした、美しい女性。時空管理局執務官、《心優しき金の閃光》フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウン。

現在は機動六課に出向し、ライトニング分隊の隊長を勤めている。

ジェイル・スカリエッティ本拠地での制圧戦において、事件後の収拾と重機の手配などの処理に追われ、一時間ほど時間を取られた。彼女はJとルネについて、スカリエッティを殺害した者たちとは敵対関係になるとして、保護と事情聴取の許しを上からもらってきていた。ここら辺、人望篤い執務官だからこそ、すんなり願望が通ったともいえよう。

「やっぱり、何回見てもこの艦はすごいね」

巨大なジェイアークを見上げ、フェイトは感嘆の声をあげる。

伝え聞いた大きさや出力は、アースラやクラウディアといった次元航行艦と較べても、遜色ないどころか、凌駕さえしているだろう。

「だが、この状態では翼を折られた猛禽に等しい──」

Jは自嘲気味に呟いた。彼にしては弱々しい言い方だ。

「折れた翼……」

フェイトは数年前の事故を思い出した。あの時も、翼を失った友が、二度と飛べないのかと絶望に泣いた事があった。

けれど。

フェイトは知っている。

「たとえ一度は折れた翼でも、再び空へと羽ばたけるはず……」

諦めなければ。不屈の心があれば。必ず、復活する。

──だったよね、なのは。

「私もジェイアークがまた飛べるように、協力するから」

だから。立ち上がろう。

「……助かる。ありがとう」

フェイトの誠意を感じ取ったからか、Jは素直に礼を言った。それとも、と、ルネは思う。

この男も、美人には弱いって、ことか?

(あたしだって悪くないはずなんだけどな……って、なにを考えてんだよ……!)

「どうした、ルネ?」

ルネの表情が変わったのを目で捉えたJが聞いた。

「なんでもねぇよ。……それより、捕まえた害虫どもはちゃんと檻ん中に放り込んできたのか

?」

と、ごまかすように、ルネはフェイトに質した。

「ええ」

フェイトは首肯して話し出した。

「六課や地上本部はまだ完全な修復が済んでないから、近隣の地上部隊の建物を使わせてもらったわ」

「ふーん。しかし、そいつらはテロリストなんだろ? その場で処分しないのか」

ルネは銃を撃つ仕草をした。

「とんでもない。犯罪者でも裁判を受けてから、その後の処置を決めないと、私たちは何のために法の番人なのかが見失われてしまう」

少なくとも、その場の感情で犯人を処刑するような権限は、管理局員には与えられていない。かなり自由な捜査権をもつ執務官でも、あくまで「逮捕」が基本である。

ルネは同じ捜査官ということでフェイトには親近感を覚えていたが、犯人に対する考え方に関しては微妙な乖離があった。

「あたしなら、逮捕なんて生温いことはしない。害虫なんだし、追い詰めたら駆除するのが世の中のためだろう」

ギムレットを倒した時もそうだった。ルネはいつでもそう思いながら、バイオネットと戦い続けてきた。

フェイトはその思いは怨恨からくるのだろうかと、推測した。

「ルネ、だったら私も……あの時に処分されてなきゃだめだったってことになるね」

「え?」

ルネはフェイトの顔を見た。

少し寂しげな瞳に、なぜかうろたえる。

「私はね、どんな罪を犯した人にも更正する機会は与えるべきだと思うんだ。昔の私みたいに」

あるいは。夜天の主や守護騎士たちのように。

「――あんた」

「それが執務官としての、私のスタンスよ」

「……まぁ、それはあんたの勝手だしね。差し出がましいあたしが悪かったよ」

謝りながら、では、バイオネットについて知っても、彼女はそう言えるんだろうかと疑問に思った。

後になって、彼女の生い立ちを聞いた時に、やはり彼女ならバイオネットの連中も許すんだろうな、とルネは得心したという。

「ところで、そちらの手配はどうなっている?」

「ロングアーチの整備チームが急いでこっちに向かってる。整備用ドックに運んだら修理が開始できるから、もう少しだけ待っててね」

「わかった」

Jは頷いて了承した。

フェイトは二人が共にサイボーグであり、ルネがある組織のエージェントである……ということしか知らない。他に情報を聞き出していないため、二人は謎めいた存在であった。

このジェイアークは遺失物なのか、二人の関係は、遊星主とは何者なのか……等々、好奇心が大いに刺激される。

ただ、これはフェイトの執務官としての直感なのだが、

(二人共、悪い人ではない)

というのが彼女の抱いた印象である。

どのような事情があるのかは明らかではないが、遊星主とは敵対関係にあるのならば協力して良いはずだった。

「それでね。二人には悪いんだけど――」

事件の全容を掴むために、本局でJとルネから詳しく事情聴取をしたいというのだ。

「仕方ない……か」

シャッセールという組織に属するルネには理解はできないにしろ、最もな命令だと思い、渋々ながら、首肯した。

一方、Jは焦っていた。

「しかし、早く遊星主を追わねば……」

「その身体でか?」

パワーを封じられ、ジェイアークも損傷している。なおかつ、全く未知の世界だ。がむしゃらに動いたところで、遊星主に追いすがれるわけもない。

ルネらしからね思考ではあるが、捜査官として培わ(つちか)れた部分が、いまは情報の収集と休息が必要だと告げていた。

「――わかった」

Jも彼女の意を汲んで、従うことに承知した。

「ありがとう。悪いようにはしないから……」

フェイトは車を手配した。

管理局本局までの間にいろいろと聞き出したいところだ。

「そうだ」

フェイトはバルディッシュを取り出して言った。

「ずいぶん疲れてるみたいだから、リカバリーかけておくね」

ほんの親切心から思い付いたことだった。

「どういうことだ?」

と、訊いた時には、すでに、バルディッシュから放たれた魔力がJジュエルへと吸い込まれていた。

「うっ……!?」

直後、Jジュエルからまばゆい閃光がほとばしった。

「な、何を……」

「これは!?」

フェイトも驚愕した。

このような現象は初めてだった。

 

『それじゃあ、クロノは無事なの?』

時空管理局本局。

総務統括部に勤めるリンディ・ハラオウンは、人事部のレティ・ロウラン提督より、ミッドチルダで起きた事件の詳細を受け取っていた。

「中規模の次元震に巻き込まれたものの、艦隊は奇跡的に全滅を免れたらしいわ。シールドを全開にしたせいで、艦艇に負担がかかって、航行機能がほとんど麻痺してるみたいだけど──」

『死傷者も、ゼロなのね』

「ええ。でも、艦隊は全く無力化された状態だから、もし何か起こったとしても、満足に対処できないと思う」

眼鏡の奥に懸念が過ぎった。

『でも、今のところは大丈夫なのね』

クラウディアとはつい先程、通信回線が繋がったばかりであり、レティ提督にも断片的にしか情報は伝わっていない。

「クロノ君からは早急な救助と援軍の要請が来たわ」

人事を司る彼女にしたら、急な仕事が入ったといった状況だが、無論、無下にするはずもない。クロノの口調から、かなり喫緊を要する事態らしい。

『急な手配だと思うけど、私からもお願いするわ』

親友に、リンディは頼みこんだ。

「わかってる。手の空いてる次元航行艦をかき集めて、人員と共に送り出すわ」

『それと、ミッドの地上なんだけど……』

そこでは彼女の娘たちが、次元犯罪者と戦っているはずだった。

「広域指名手配されてる、ジェイル・スカリエッティの件ね。古代ベルカの遺産《聖王のゆりかご》を掘り起こした技術者……」

管理局ミッドチルダ地上本部を襲撃し、機動六課に打撃を与え、甦った巨大戦艦でミッドチルダそのものを危機の渦中におとしめた。

「現場から入ってくる情報はどれも錯綜していて、私もあんまりよく理解してないんだけどね」

彼女は、リンディにJS事件の顛末を聞かせた。

にわかには信じ難い話なのだが……。

聖王のゆりかごを巡り、六課とスカリエッティが交戦していた時である。

事件の首謀者スカリエッティは、突然現れた人物により殺害され、そのアジトも崩壊した。

同時刻。ミッドチルダ上空を飛行していた聖王のゆりかごは、正体不明の飛行空母から攻撃を食らい、破壊される。

他にも、ゆりかご埋設地の近辺に墜落した白い艦艇についても報告されていた。

「地上は市民の避難が的確に進んだのと、地上部隊の奮闘で死傷者は極僅か、アースラも被害はなかったそうよ」

『そう』

リンディは安堵感を覚えた。

「建物とかは次元震や戦闘の余波で倒壊なんかもあったみたいだけど、まぁ、最悪の事態には及ばなかったから、良しとしないと」

地上部隊が必死に頑張って被害を食い止めようとした結果だと言える。

「残念ながら、地上の護りを指揮していたレジアス中将は殉職なさったみたいだけど──」

『まぁ……』

リンディは悼ましげに目を伏せた。

黒い噂は絶えなかったが、リンディはレジアス・ゲイズを辣腕家として評価していたのである。

「現在、はやてさんたちが治安回復のために動いてるけど、六課はスカリエッティとの戦いで受けた痛手から完全に立ち直ってないらしいの。海だけでなく、陸に対しても、本局から応援部隊を派遣するつもりよ」

『陸のひとたちは嫌がるかもしれないわね』

「そんなこと言ってる場合でもないしね」

そこらへんの折衝はクロノに任せればよいだろう。

リンディも息子が押し付けられた責任を立派に果たすだろうと、信じて疑わなかった。

リンディはそのクロノやはやてが充分に力を発揮できるように、裏方としてサポートするつもりだ。

「その、クロノ君なんだけどね……」

次元震によって発生した衝撃波に翻弄され、クラウディアら航行艦隊は態勢を立て直すまで、しばらく時間をかけねばならなかった。ク

ラウディアの索敵機能が復旧したので、クロノは直ちに周辺空間のスキャンを命じた。すると、驚くべき代物が発見されたのである。なんと、全長数万メートルはあろうかという、巨大な天体が観測されたという。

「まるで恒星のようだけど、スキャンによって、普通の天体ではないと判断されたわ」

詳しく走査しようとしたが、バリアのようなものに妨害され、上手くいかなかった。

『それは本当に天体なの?』

「おそらく人工天体だと考えられるわね」

データ不足で安易な結論は裂けるべきだとは言われたが、ただ、

「機動六課から報告された《ソール11遊星主》となんらかの関係はあると見做していいでしょうね」

『遊星主?』

「わからないけど、とんでもない連中みたいよ。ゆりかごを呆気なく破壊したとか」

『……』

とりあえず、クロノ率いる艦隊は問題宙域に留まって、謎の天体の観測と地上の支援を続ける事に決まったという情報をもって、この話は打ち切られた。

「まぁ、クロノ君から連絡がきたらまたすぐに知らせるわ」

『ありがとう』

リンディは短く頷いて、礼を言った。

「心配だと思うけど、あの子たちは強いからきっと大丈夫だと思うわ」

レティの息子グリフィスは機動六課に所属している。

しかし、彼女は息子の能力を信じていた。母親のひいき目かもしれないが。

『そうね。強いものね。私たちよりも、ずっと──』

かつて、彼女が担当した難事件が解決できたのも、彼らエースがいたからだった。

そして、今回もきっと、エースたちと彼らに鍛え貫かれたストライカーたちによって、事件は終息に向かうだろう。

リンディはそう思いながら、通信をオフにする。

レティはため息を吐くと、再び各部署に連絡して、手配を依頼していく作業に戻った。

管理局本局は、にわかに慌ただしく動きはじめた。

 

ミッドチルダ上空。

聖王のゆりかご。

その崩壊には、莫大なエネルギーの暴発が伴っていた。

大地が焦土と化さなかったのは、なのはたちが最大出力で展開させた防御結界のおかげだった。破壊力の波及を、ギリギリで阻止したのである。

「ふぅ。危ないとこやったわ~」

八神はやては、額から流れる汗を拭いながら呟いた。

「さて、と。ゆりかごは消滅したし、もうここにいる理由もないかなぁ」

はやてはロングアーチスタッフに連絡。地上への帰還を指示した。すぐにヘリが飛んで来るだろう。

「あとで、あんたたちのこと、たっぷり聞かせてもらうで」

と、ギャレオンに乗った天海護や獅子王凱らに言った。

「は、はい」

その時、なのはの口から悲鳴が零れた。

「レイジングハート!?」

なのはの愛杖、《魔導師の杖》レイジングハートに異変が生じていたのである。

杖の基幹である赤い宝石部分から、緑と赤の輝きが断続的に放射され、鼓動のように点滅を繰り返した。

「これは……どないしたんや!?」

「わからない。こんなの初めて見るよ」

なのはは不安そうに言った。

「魔力の負担が機体に影響してるんじゃねぇのか?」

ヴィータが傍らから呟いた。

「リイン、なんかわからへんか?」

「私にも、何が何だか……」

「マリーかシャーリーなら、わかるかも……」

ヴィータのことばに、なのはは頷いた。

「うん。そのほうがいいと思う」

レイジングハートになのはが呼びかける。

「レイジングハート、大丈夫?」

《Dangerous.Dangerous.Dangerous……》

同じ内容だけが返ってきた。

「レイジングハート、わかる? 待機モードにリリース……お願い!」

《Dangero……Da……Mode……Relea……se……!》

ばしゅぅぅっ!!

一瞬、光を放ってから、レイジングハートは杖から待機モードへ変化した。

「レイジングハート……大丈夫なの?」

《No Problem.My'Master》

問題なしと答えるレイジングハート。だが、その声質が若干変わったような気がした。

「ほなら、ヴァイス君を悠長に待っとられんな。彼には悪いけど、さっさと下に降りよう」

はやてが促した。

普段はレイジングハートが自動的に起動させるフライアーフィンだが、レイジングハートの身を慮り、なのはは自ら魔法を使い、皆と降下を開始する。

それに凱たちも続く。

なのはは最後に、空の彼方を振り返った。

もはや姿は確認できないが、遥か大気の向こうに遊星主たちがいるはずだった。

(ヴィヴィオ……)

我が子とも呼べる、娘。

取り戻せなかった、娘。

(待っていて)

今度こそ。

ママが。

(助けるから──)

その顔を、ギャレオンの背から、凱が見ていた。

(あの輝き……もしや)

いや。そんなことがあるのだろうか……。

だが。

(あの時。俺の体のGストーンが反応した……)

そうだ。かつて源種大戦終結後の自分がそうだったように。──

彼は奇跡は存在すると、知っていた。

ひょっとしたら、あれは奇跡の片鱗なのではあるまいか。

(待てよ……)

ならば。可能性としてGGGのみんなもこの世界に来ているとは考えられないだろうか。

希望が湧いてきた。

もしも。GGG機動部隊と、この世界で合流できたなら。

遊星主とも戦える。

(探すか、皆を──)

そうさ、俺たちだけがこの世界に飛ばされたなんて。

信じられない。

(奇跡は起こせるんだ。勇気があるのなら、必ず)

 

……Jジュエルの機能が一部、回復した!?

平原に横たわるジェイアークの側。沸き上がる力に、ソルダートJは驚愕した。

まるで身体が軽くなったような、感覚だ。

「ど、どうしたの!?」

事情がわからぬフェイトは狼狽した。

「おい、ジェイアークもか」

「いや、ジェイアークのジュエルジェネレータは停止したままだ。どうやら私だけパワーが戻ってきたようだな」

「でもなんで、奴が仕掛けた凍結コマンドが解除されたんだ?」

「もしかして私のリカバリーのせい……?」

ルネはおどおどとするフェイトに、尋ねた。

「さっきのあれは、何なんだよ」

「なにって」

フェイトは目をぱちくりとさすた。

「魔法だよ。回復の」

「魔法……」

そんなもの、本当に存在するのか?

半信半疑にルネは眉をしかめた。

「えっと。と、とりあえず、マリーに見てもらおう。きっと何が起こったか、わかるはずよ……」

「もしかすると、力が完全に回復するかもしれないのか」

「どうする、J。私はついていこうと思うけど。いろいろ聞きたいこともあるし」

「あぁ、いいだろう」

Jジュエルのパワーを確かめるJが、頷いた。

「よし。じゃ、決まりだな。その、魔法について教えてもらおうか」

勇者たちとエースたちの運命は、ゆっくりと絡みはじめていた。

そして。

いま、伝説は終焉を迎え──

神話が、はじまる。

 

ソール11遊星主の移動母艦、三層式空母ピア・デケム・ピットの艦橋。

「それでアベルよ、これから先をどうするつもりだ」

白衣を着た医者に似た風貌のパルパレーパが、小柄な少女の姿をした赤の星の指導者に問うた。彼女の周りに、ポルタンやピーヴァータ等遊星主たちが取り巻いている。

「この世界の住人が持つデータを収集したが、三重連太陽系へと戻るために必要な情報に関しては、あまり芳しいものはなかったぞ」

「そうですね……」

アベルもゆりかごなる艦から情報を引き出したが、彼の計画に役立ちそうなものは少なかった。

「まさか、異なる次元の世界に飛ばされるとは、思ってもみませんでしたね」

三重連太陽系。彼女たち遊星主は、圧倒的な力で、GGGやソルダートを敗北させんとしていた。

ただ、Gクリスタルの速やかな破壊が遅れたせいで、ジェネシックオーラをギャレオンに充填されたのは悔しいが失策だった。

とは言え、こちらのペイ・ラ・カインがギャレオンにフュージョンしてしまえば、勝ったも同然である。ジェネシックの力なきラティオなど赤児にも等しいからだ。

だが。さすがのアベルも、葬り去ったはずの勇者が生きていたことは思考の埒外だった。

あまつさえ勇者はギャレオンに選ばれ、ジェネシックの力を我が物にしていたのだ。

苦しい戦いを悟ったアベルは、態勢の立て直しを計った。

ピサ・ソールを爆発させてめくらましに使い、ESウィンドウを開いてレプリ地球に逃れるつもりだった。

地球には、彼らの仲間がいる。まさか仲間ごと我々を攻撃するのは躊躇するはず。

過失があるとすれば、ピサ・ソールの爆発によって生じる衝撃が予測を越えていたことだ。

生身の生命体を凌駕する人工のプログラムならば、至近での爆発でもダメージは少ないと計算していた。それに、爆発するのは、いざという時のために複製させたレプリジンのピサ・ソールだ。これを爆発させればラティオも油断するだろう。オリジナルはパーツに分解して移動すれば、奴らも気づくまい。

だが、アベルの目論みは外れた。

ピサ・ソールの爆発は、時空の歪みを引き起こし、次元の壁を揺るがした。

ディバイディング・ドライバーの空間湾曲などの比ではない、空間そのものの捻れに、彼らは巻き込まれたのだ。

時間と空間を飛び越え───

遊星主はこの世界に落ちていった。

ギャレオリア彗星は時間を越える次元ゲートではあったが、異次元世界にまで繋が

るような代物ではない。

偶然の産物がギャレオリア彗星では到達できない世界へと遊星主たちを飛ばしたのである。

「この、次元世界と呼ばれる場所には、様々な宇宙への入り口があり、それを時空管理局という組織が押さえているようです」

「では、そこを襲うのか」

「ピサ・ソールが完全に回復するのを待ってからですが」

物質復元装置であるピサ・ソールは遊星主の切り札だ。

ラティオらとの戦いには欠かせないだろう。

「それで、もし。三重連太陽系に戻れることができなかった場合ですが……」

「ふむ」

「その場合は、この世界を、新たな三重連太陽系として再生させましょう──」

アベルは、狂気にも似た光を双眸に浮かべて、言った。

「三重連太陽系は必ず再生させなければ、なりません……」

にやりと、唇を吊り上げる。

「たとえこの世界を滅ぼして、でも……」

──そのための、宇宙再生プログラムなのだから……。

「さぁ、ラティオ。私たちを止めれるものなら来なさい。あなた方の勇気など、無力なものでしかないことを、私が証明して差し上げますよ」

パルパレーパやピルナスら遊星主たちに囲まれながら、アベルは冷たい微笑をいつまでも浮かべていた。

 

──かつて、次元世界には幾つもの文明が興隆し、そして滅んでいった。

滅亡の原因の一つに、質量兵器の存在が挙げられる。

新歴1年、その使用を一切禁止されるまでは、質量兵器がほとんどの世界における主流であった。

質量兵器とは、現代の定義において「魔法を使わないすべての技術を用いて制作された武器兵器」の総称である。

では「魔法」とはなんなのか。

あまたの魔導師を擁する時空管理局が発行する辞書によると、「魔力素を特定の技法で操作し作用を発生させる技術体系」だという。

世界には魔力素と呼ばれるエネルギーが点在し、魔導師はそれを基に物理法則を任意に書き換え、望んだ現象を起こすのである。

それに較べ、魔力を全く介在させない質量兵器は、純粋な科学技術のみで作られていた。

魔法の場合、戦闘用でも「非殺傷」設定などで「命を奪わぬ」ように調整が可能だ。

しかし、質量兵器にはそのような加減は難しい。

旧暦の時代には、ボタン一押しで都市が灰燼と化す大量破壊兵器や子供でも簡単に扱える実弾武器が次々と造られ、戦争を加熱させていった。

たとえ世界が残っても、危険な物質で汚染された挙げ句に、環境が手痛い打撃を受けて生存者を苦しめたという記録もある。

新歴に至り、そういった悲劇を回避するために質量兵器の製造も使用も、法で固く禁止されたのであった。

魔法は使用後は熱と魔力素を放出するにとどまるため、環境に対し、ほぼ影響を与えることがない。もちろん、大規模な魔法による破壊も行われたりする。

しかし、それは主に犯罪者が違法に実行するケースがほとんどであり、それに対処するのが管理局の職務といえた。

次元犯罪者と定められたる魔導師や技術者たちは、己の野心や欲望を果たす為に、非人道的な魔法の使用を繰り返す。なかでも、旧暦より伝わるロストロギアを手にしようという人物は、管理局にとって最も警戒を必要とした。

時には質量兵器より危険なロストロギアは、現在の技術では復元不可能な「オーバーテクノロジー」の産物である。

蒼の星・地球にもたらされた、緑の星の超技術と立場的に同じと言えようか。

時空管理局戦技教導官・高町なのは一等空尉は、これまでそうしたロストロギアとしばしば遭遇してきた。

PT事件のジュエルシード──大規模な儀式魔法に使う高密度の魔力結晶体。

闇の書事件の闇の書──真の名を夜天の書と呼ぶ、魔導書型デバイス。マスター本人にも負担を強いる故障により、世界そのものを破壊に導く。

そして、先頃終息した、JS事件の聖王のゆりかご──古代ベルカ時代の最終兵器。

何れも容易に世界の破壊が可能なロストロギアであった。

とは言え。ロストロギアは発掘も稀であり、出土した遺失物は管理局により厳重に保管される。

発掘や違法手段以外の方法ではまず入手は無理で、使用には魔法の素養が必要だ。

一方質量兵器なら、赤子でもスイッチを押すだけで起動する。

なればこそ、伝説の三提督の時代から、質量兵器根絶の為の努力がずっと続けられてきたのだ。その甲斐もあって、新歴も半ばを過ぎた現在、質量兵器は世界の表舞台から姿を消していた。

だが。

魔法全盛の中に生きる彼らの前に、再び強大な質量兵器が現れる。

ソール11遊星主。

その存在を知った管理局の人々は一様に恐れを抱いた。

純粋なる科学技術で創られた、異質なる生命体。

遥かな次元の彼方より訪れた、異邦人。

物質を瞬時に再生させ、数百の飛行兵器を自動生成し、巨大なメカニズムと融合する能力……魔法を使わずこれだけのことが実現できる技術に、時空管理局は戦慄した。遊星主の目的はミッドチルダの人間には不明瞭だったが、天海護少年には、三重連太陽系の再生のみが狙いであると直感している。

元来、滅亡した三重連太陽系の再生が遊星主に与えられた使命であり、その為ならば他の宇宙が滅びようが構わないという非情ぶりだった。

護が大切に想う地球は、三重連太陽系再生のために犠牲となり、滅亡の淵に立たされた。それを阻止するため、あえて護は生まれ故郷を守護する遊星主に逆らったのである。

そしていまや、地球だけではなく、護が偶然にも訪れる事となった次元世界もまた、遊星主の前に存続を危ぶまれていたのだ。

護は凱と共に、現地の司法組織である時空管理局と協力する事に決めた。管理局はこの世界におけるGGGのような組織だと護は理解している。

管理局の魔導師たちも熱い勇気を持った「勇者」なのだと、少年はゆりかごでの出会いで知った。

かくして。

地球から次元世界の存在を賭けた戦いへと、護と凱の戦闘はシフトしていったのである。

 

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