ナノガイガー戦記~勇者とエース~    作:かがみん

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第6章 模擬戦

会議の翌日。

機動六課のある敷地には、訓練施設として陸戦用の空間シュミレーターがあり、様々な地形を再現できるのが自慢のひとつだった。

六課のフォワード、スバル・ナカジマは、街を写した訓練場の中に佇んでいた。

彼女の周りでそびえ立つビル群は、かつて魔導師Bランク取得試験の時やガジェット用訓練で見た風景を思い起こさせる。

スバルの出で立ちは、なのはとの訓練で着ている、動き易いトレーニングウェアだ。

一方。

彼女と対峙している女性は、いつもと同じコートを纏った姿である。

ルネ・カーディフ・獅子王。

スバルの祖先がいた地球の出身で、ひょんなことからミッドチルダにやって来る事になった、数奇な娘だ。

 

朝焼けに照らされながら、二人は模擬戦の開始を待っていた。彼女達を見守る様に見つめているのは、スバルの相棒ティアナ・ランスターである。彼女はこの戦いの判定役にされたのであった。

フォワードの二人は交代任務の時間まで暇があり、やはり暇を持て余していたルネから模擬戦の相手を頼まれたのである。

元気だけは有り余ったスバルは、すぐに承諾した。ティアナはしぶしぶといった顔で付き合うことにした。

 

シュミレーターの使用許可はわりと簡単に降りた。隊長陣の内、なのは、フェイトは本局に行っている最中で、シグナムやヴィータら副隊長たちはエリオやキャロを連れてクラナガン市内の警備を行っている。夜まで、スバルもティアナもせいぜい書類仕事があるくらいだった。

そんなわけで、動く事の方が得意なスバルは、ルネの申し出を歓迎したのだった。

そもそも。ルネは、興味本位から本局に付いていったが、特にやることもなく、サイボーグボディの検査に協力した後、ミッドチルダに戻ってきていた。会議等の、堅苦しい雰囲気は苦手だし、まだ警備でも手伝ってるほうがましだと思ったのだ。好きか嫌いかは別として、シャッセールのエージェントだったルネからすれば警護や捜査は慣れたものだった。

さらに、ルネは特別な訓練施設があると聞いて見てみたくなったらしい。この世界の人間と模擬戦をぜひやってみたいと、考え、その願いは叶えられた。

そして。

スバルは緊張感を表わにした貌で、ルネは無表情な貌で、ビルの谷間に立っている。

「──あんたも、あたしみたいなサイボーグなんだってな……この世界じゃ戦闘……機人、て言うんだっけ?」

と、スバルに訊ねた。地球ではサイボーグは彼女一人しかいなかった。むろん、バイオネットは開発に躍起になっていたし、事実、何人かのメタルサイボーグと交戦した経験がある。

だが、完璧な意味でのサイボーグは、やはり彼女だけだった。

「えっと、まぁ、技術は違うみたいですけどね」

スバルはちょっと戸惑い気味に答えた。

「魔法なんてあたしらの世界にゃなかったからな」

この世界のサイボーグは、自分と比べてどんな境遇なのだろうか。味方や敵組織から獅子の女王と呼ばれ、畏れられ、また忌まわれる、このGストーンサイボーグの自分とは……

「そろそろ、いきます?」

ティアナがおずおずとルネに()いた。

「……あぁ」

彼女が自分とどのように違うのか。それは拳を交えてみれば解るだろう。

「じゃあ、スバル。準備して」

「うん。マッハキャリバー、いこう」

スバルはペンダント状のマッハキャリバーを手にした。

《OK'buddy》

「それがあんたの《デバイス》か──」

ルネは珍しげに、喋るデバイスを見た。

(GGGの、超AIを搭載したロボットみたいなものか)

インテリジェント・デバイスについて、ルネはなんとなく、そう理解していた。

《Set'up》

待機モードからデバイスモードへ。

スバルの体を、白を基調にした防護服が覆っていく。

それは師であるなのはのものを基にしたデザインと機能を持っていた。

腕に装着されたリボルバーナックルが駆動音を上げ、ローラーブーツに浮かびあがったGストーンにも似た姿のマッハキャリバーのコアが、朝の光を反射した。

と、同時にルネも形態を変えていた。

「イークィップ!!」

突き出した右腕のGストーンが輝く。

冷却コートが翼のように展開し、ルネの身体は戦闘モードにシフトした。

「ここんとこ、だいぶ鈍ってるから、力加減が上手くいかないかもしれないが、まぁ勘弁してくれな」

と、冗談ともつかぬ事をフランス人は言った。

「は、はぁ」

スバルは曖昧に答えた。

ルネの姿は獅子の事実の異名の如く、しなやかでありながら、力強さを感じさせる。

だが、スバルのやる気は掻き立てられたようだ。

真剣な表情で拳を構えた。

「では」

ティアナはクロスミラージュを頭上に掲げた。

「始めっ!」

バァンと、銃声と共に開始が告げられた。

「ウィングロード!!」

スバルは先天魔法(インフューレントスキル)を発動。

翼の道が、ビルに向かって伸びる。飛行魔法を使えないスバルが空中を移動するためには、必須の魔法であった。

「はぁっ!」

ルネも跳躍した。ビルを駆け登り、スバルの元へ疾走する。

対バイオネット任務には銃器を使用するルネだが、スバルに合わせて素手で戦う。

第一、ルネが地球で使っていた銃器の数々は、次元世界では質量兵器として使用を禁じられている。ここでは、拳しか武器はないのだ。

二人は明るくなっていた払暁の空へと跳ぶ。

 

尋常ではない、普通の人間を遥かに凌駕する、機械の体ゆえのポテンシャル。

Gストーンと魔法の力。

サイボーグと戦闘機人。

生身を越えた能力の戦士たちが、風を裂いて渡り合う。

その様子を判定役のティアナは、固唾を飲んで見守っていた。

(これが……Gストーンの力。

すごいプレッシャーを感じる!)

「戦闘機人とやらの力、見せてもらうよ!!」

久々に暴れられるのが楽しいのか、ルネは笑みを浮かべていた。

二人は天空で衝突した。

跳躍の勢いをつけた上段の蹴りを、スバルへ叩きつける。

「くっ」

シールドで防ぐが、その衝撃力は凄まじいものだった。

スバルはシールドごと横に吹っ飛ばされかけた。

ルネはウィングロードを蹴って、すぐそこのビルの屋上へ着地。床が砕け、破片が舞った。

「うおおおっ」

そこへスバルがリボルバーナックルを唸らせ突っ込んで来た。綱拳の一撃を、同じく拳で迎い撃つ。

溢れるパワーが電光を生み出し、烈風が二人の周りを走った。

二人は再び離れ、間合いをとろうとする。

スバルは後方へ跳び、ウィングロードでさらに上に行こうとした。

猛追したルネはそこへ蹴りを繰り出す。

腹にヒット。飛ばされたスバルは、隣のビルの壁にぶつかった。

「ぐはっ」

追い撃ちを掛けようと、ルネがスバルを追っていく。スバルは地面に降り立ち、ウィングロードを作り出そうとしていた。

それよりも速く、ルネが弾丸のように上空から急襲する。

かつて、バイオネットの鳥の獣人と戦った時に似ていた。最もその時には夜の戦いだったのだが。

「はぁぁぁぁっ」

Gストーンが緑に輝いた。

「いくよマッハキャリバー!!」

ウィングロードを中断し、スバルは別の魔法を使う。

《Knuckle Duster》

魔力がリボルバーナックルに流れ込む。

強化された拳撃がルネの攻撃に打ち込まれた。

「うおぉっ」

「ひゃぁっ」

スバルとルネは、衝撃に吹き飛んだ。だが、すぐさま立ち上がり、構える。

(まったく、タフねぇ……)

自称凡人のティアナは、呆れるように二人の動きを追った。

戦いはさらに続く。

 

時空管理局。本局内の研究施設では、リインフォースIIとシャリオ・フィニーノが張り切っていた。

これほど楽しそうな様子は、スバルたちのデバイスを調整していた時以来だ。

シャーリーは、はやての命を受け、ここで新部隊の装備強化のために来ていた。リインはその手伝いだ。それとは別に、先日まで居たルネのメンテナンスデータも取っている。戦闘機人とは異なる未知の機構について、分析と解明を行っている。

もちろん、凱のエヴォリュダーの肉体も検査の対象である。

二人は彼等のデータを元に、新しい兵装の開発を進めていた。

その一つは、今、シャーリーの目の前の培養槽に漂うデバイスたちである。

これまでに造られたデバイスとは機能やデザインがだいぶ違う。完成すれば、常識を覆すデバイスとなるだろうと、シャーリーは思った。

そして。

その中の一つには、《魔導師の杖》レイジングハートの姿も見受けられた。

待機状態のレイジングハート。

彼女は何を想うのか。

その中心には、ぼんやりと緑の光が浮かんでいた。

「レイジングハート……新しき、私たちの希望」

静かにリインが呟いた。

シャーリーは微笑して、

「さて、ジェイアークの方はどうなっているのかな?」

整備ドックのある方角に顔を向けて言った。

 

ミッドチルダ。

地上、陸戦用空間シュミレータ。ビルの街では二人の女性が戦っている。

サイボーグのルネのスピードはほぼ亜音速に達する勢いであり、スバルはその速度に追いつきながら反撃した。

ティアナの目には捉えきれぬ、高速の戦闘だった。

生身を越えた身体能力ゆえの模擬戦。ティアナは戦いの余波で飛び散った建材や攻撃の衝撃波から、自身を守るためバリアを張らねばならなかった。

「全く……二人とも、よくやるわよ」

ティアナは呆れてるのか、感心してるのか。ため息を吐いて戦況を見つめる。

「カートリッジロード!」

魔力カートリッジを一発消費。スバルの直射型魔法。

《Revolver Shoot》

射程距離が短いが、威力は抜群だ。

「来るか」

ルネは拳に力を入れた。

「いっけぇぇ」

スバルは真っすぐ、ルネに突っ込む。

「おもしれぇ」

ルネのGストーンが輝く。

「リボルバーシュート!!」

衝撃波をルネの体に撃ち込み、ルネは拳撃で応ずる。

魔力にGストーンパワーが衝突し、互いに噛み砕き合った。

だが、魔法が相殺された時にはスバルは次の動きに出ている。スピードと体重を乗せた蹴り。ルネはそれを、腹に受けた。

だが、それは、彼女の思惑通りでもあった。

「あいにく身体は頑丈でね!!」

がっしりと、スバルの脚を腕で掴んだ。

「わわっ」

慌てるスバルだが、ルネはサイボーグらしい力で、スバルを持ち上げた。

彼女は敢えて攻撃を受ける事で、スバルの動きを捉える瞬間を作り出したのだ。そして、ルネはスバルをぶん投げる!

「ひゃぁぁぁ~」

悲鳴は風に引き裂かれる。

ルネは突進。

投げ飛ばされたスバルの前に追いつき、

「さっきのお返しだよ!」

蹴りを放つ。

サッカーボールよろしくスバルは遥か上空へ。

「これで最後だ!!」

跳躍し、渾身の打撃をルネは与えようとする。

自由落下により、不利な態勢のスバルは、だが諦めていない。

「マッハキャリバー!!」

カートリッジロード。

「この一撃に賭ける!」

《Yes'baby》

師であるなのはの技を、見よう見真似で体得した魔法。

「ディバイン……バスター!!」

「おおおっ」

ティアナが仰ぐ空の一角で、強力な力がぶつかり合った。

そして。

光が、弾ける。

 

一方。本局に無事着いたなのはたちは、ジェイアークが修復を受けているドックの方に向かっていた。宇宙最強の戦艦の威容に、なのはは圧倒された。いま、ジェイアークは着々と改修され、往時の様相を取り戻しつつある。

凱や命は、Jとの再会に顔を綻ばせた。三人は、Jに案内されて、ジェイアークの艦橋へ歩いて行った。

時空管理局。

その本局は、次元の海のチョークポイントに浮かぶ巨大な建造物だ。

次元航行艦隊の本拠地であり、次元世界を守る提督たちの基地である。

そして、艦船が収容されるドックに、異世界から来た白い艦が繋がれていた。

三重連太陽系に生まれた、超弩級戦艦・ジェイアークである。現在、ジェイアークは先の戦闘で受けた傷を修復中だった。

常ならば、光子を吸収して自己修復できるのだが、動力をほとんど断たれているためにそれもままならぬ状態だ。

対遊星主用装備に腐心する機動勇者隊の八神はやて隊長は、本局に依頼してジェイアークの完全復旧及び改装を急いでいた。

次元世界に来たる前。

遊星主の首魁、アベルはジェイアークの動力を封じ、自らに従順な道具に変えようとした。

ジェイアークの艦長・ソルダートJが忠誠を誓うアルマ・戒道幾巳を使い、緊急停止コマンドをジェイアークに入力したのである。

動力源であるジュエルジェネレーターを強制的にダウンさせられ、Jとジェイアークは力を奪われた。まさに翼をもがれた鳥にも等しい窮地に陥ったのだ。その後、ピサ・ソールの爆発に巻き込まれミッドチルダへと墜落したジェイアークであったが、時空管理局の手を得てやっとのことで修復の目処(めど)がたったと言えよう。

しかし、管理局の技術をもってしても、ジェイアークを縛る停止コマンドを解除できず、艦体制御を司るコンピューター《トモロ》も目覚めない。とは言え、緊急停止コマンドを解除できるのはアルマか、創造主のアベルのみ。ソルダートJにとっては実に歯がゆい状況だ。

しかし。一人、ジェイアークを蘇らせられる可能性を持った男がいた。

獅子王 凱。超進化導力体、エヴォリューダーの力を獲得した蒼の星最強の勇者。

その能力は生機融合と呼ばれる。即ち、機械と己の神経細胞を直接繋ぐ事で、人機一体となるのである。その能力あったればこそ、勇者王ガオファイガーにフュージョンすることができたのだ。

そして、凱は地球を去る時の戦いの最中、国連の掌中にされたオービットベースの制御を、メインコンピューターにエヴォリュダー能力で侵入することによって見事、GGG艦隊へ奪取させている。その実績から、凱はジェイアークの停止コマンド解除に協力すると名乗り出たのだ。

藁にもすがる思いでJは申し出に応じた。誇り高い戦士であるが、ジェイアークなくしてソルダートの真価は発揮できぬと心得ていたからだ。

かくして、凱は命と共に、高町なのは一等空尉の案内で時空管理局本局を訪れる事になった。

艦体外部の換装作業が進む中、凱はジェイアークのメインコンピュータールームに足を踏み入れた。凱も始めて知る、超弩級戦艦の中。トモロは沈黙したまま、奇妙な静寂に艦内は包まれていた。

トモロ・コンピューターの外板の一部を外し、複雑な回路を表わにする。生体コンピューターの名の通り、有機的な趣の神経回路が内部に張り巡らされていた。

「よし。始めるぞ」

凱は右手をトモロの神経回路に当て、Gストーンを介して接続する。

「頼む」

Jは祈るような口調で言った。

「我が友を、起こしてくれ」

「あぁ」

頷いて、凱はアクセスに集中した。

「頑張ってね、凱」

はらはらしながら、命が見守っていた。

凱が作業を開始してからしばらくが経ち、不意に彼は苦い顔つきになった。

「アベルめ、厄介な置き土産を……」

「なんだと?」

「停止コマンドをどうあっても、解かれたくなかったんだろうな。《ペンチノン》の中枢部に入るルートに、恐ろしく複雑なロックを仕掛けていきやがったぜ」

決められた暗証コードを入力しないと、ロックは外れず、中枢にアクセスできない。それでは、ジュエルジェネレーターを復活する為に必要なコマンド解除が難しくなってしまう。

凱が、ジェネレーターを起動させるには、入り口を塞ぐ鍵を壊し、停止コマンド解除の為のパスワードを打ち込まねばならないのだ。管理局の技術者もなんとか方法がないか試行錯誤を繰り返したが、芳しくはなかった。

凱はアベルの意地の悪い微笑を思い起こした。彼女はよほど、ジェイアークを取り戻せないのが許せなかった様だ。

アベルはトモロが自分に反逆しないよう、改造を施すつもりだったらしい。かつてJに対して行ったように。

だが、途中で邪魔が入り、改造は中断された。

ひとまずジェイアークを無力化できたことに満足してその場を退いたのである。

後には翼を失った艦とソルダートが残った。

最も、Jに関しては一部、能力が回復している。

フェイト執務官による魔法で、どのような理由が生じたのか、Jジュエルの機能が少しだけだが甦ったのだ。

そこで艦のジュエルジェネレーターに治癒系の魔法をかけるのはどうかと、意見が上がったのだが。

万一、なんらかの副作用が生じた場合(例えば、暴走なり爆発なり、だ)を鑑みて、実行はされなかった。

したがって、今のところ、凱に頼むしか方途は思いつかなかったのである。

「これは、かなり時間がかかるな……」

凱は眉をしかめた。

中枢ルートに至るアクセス回路には、無数の暗証ロックが侵入者を防いでいたのだ。何重も設置された見えざる鍵は、数百桁の暗証コードを入力しなければ外れない仕組みになっている。凱は鍵の突破を一つ一つ、行わなければならない。非常に、骨が折れる作業だった。

「すまん。すぐには無理みたいだ」

「私の方こそ、なんの力も貸せず、すまない」

いつになく自信を無くした声でJは言った。自分の艦でありながら、何もできず、他人任せな状態に不甲斐なさを感じているのだろう。

「とにかく、頑張ってみるさ」

凱は不敵な笑みを浮かべ、アクセスを続けた。

彼の意識はすでにトモロの内部に入り込んでいる。鍵で鎖された扉を開けるため、勇気を沸き立たせ、尋常ではない速度でコードを打ち込んでいく。

(アベルよ──)

Gストーンが輝いた。

(いつまでも、お前の思い通りにはさせないぜ!)

全身の細胞に融合したGストーンの結晶が、彼に力を与えた。

(光の翼よ、今一度、戦士のために……羽ばたくために)

そして。朋友の想いに応えるために。

(目覚めろ! 《ペンチノン》!!)

鍵が砕ける。凱は眠るトモロへ、一歩一歩、着実に近づいていった。

同じ頃。

 

なのはは、Gストーンの研究分析が行われているラボに来ていた。

「シャーリー、どう、進んでる?」

「なのはさん、いらっしゃい」

機動六課ではロングアーチの纏め役を勤めた、眼鏡の女性局員シャリオ・フィニーノは、本局で新装備開発と、緑の星の技術について、その研究主任を任されていた。

アシスタントには、八神はやて隊長の融合騎・リインフォースII(ツヴァイ)が手伝っている。

「なのはさん、おはようございますですぅ」

小さな妖精のようなリインの挨拶に、なのはは思わず顔を綻ばせた。

「おはよう、リイン」

笑顔で返すなのはだったが、僅かにシャーリーは目元に(かげ)が射すのを見た。やはり、心では嘆きばかりが生まれているのだろうか。……

「なのはさん、レイジングハートさん、調整終わってますよ」

「もう、なんともないの?」

なのはの愛杖、レイジングハートはゆりかごの一件以後、不調をあらわしていた。六課隊員の中では真っ先にレイジングハートの修復・調整が行われていたのだ。

シャーリーは待機状態のレイジングハートをなのはに手渡した。その外見は赤い宝石のペンデルムフォーム。以前と変わらぬ慣れ親しんだ姿だ。

「お帰りなさい、レイジングハート」

優しい声でなのはが呼びかけた。正常に戻ったのを確かめるように。

《Master.It has slowed. Worry or I'm sorry for disregarding it.》

なのはは「貴女は悪くないわ」と、レイジングハートを慰めた。

「実戦には支障はないと思います。ただ、未知の機能に関してははっきりとはわかりませんが……」

「未知の機能?」

《Master……》

レイジングハートがいつもの冷静な声で、主に告げてきた。だが、なのはは、微かな戸惑いをそこに感じたような気がした。

《I seem to have acquired the ability to exceed an apparently usual device.》

「どういうことなの?」

「それには、まず、Gストーンについて説明したほうが良いと思います」

シャーリーの合図を受けて、リインが映像と数値データを示したディスプレイを宙空に立ち上げた。

「──レイジングハートさんの制御機構には、微細なGストーンの欠片が癒着しているんです」

「えぇっ!?」

なのはが驚いた表情になった。

「私達はずっと、Gストーンの性質を分析してきました……」

「ここでの実験には、凱さんの細胞から培養して抽出した、微小のGストーンを用いていますぅ」

「調べれば、調べるほど凄いんですよ、Gストーンって」

技術に目がないシャーリーは、驚嘆の思いで語った。

「この拡大した画像を見てください」

と、映像の一つを指で示す。

Gストーンの結晶の表面を映し出したものだ。

緑の結晶体の内部に回路状の模様が浮かび、光が規則正しく脈動している。

「無限情報サーキット……護くんはそう言ってました。文字通り、数億語に換算される特殊な文字情報がGストーンには収録されていました。極小の結晶にです。まさに、情報の回路ですよ」

フェイトのバルディッシュに協力してもらい、文字情報の解析を進めたところ、緑の星の技術に関するデータが読み解けた。それによって、地球でも開発できたGSライドを、シャーリーも再現することができた。そして、ミッドチルダの技術を応用して、すぐに簡易のGSライドを完成させたのである。

「なのはさん。ほら、この映像のように、Gストーンの結晶に特定の電磁波を照射すると、安定させるのが難しいものの、莫大なエネルギーが取り出せます」

「すごいね……」

データでは、魔力に頼らずとも、巨大な機械を動かし、長期の維持が可能な高出力を生み出す動力機関が造れると、証明されていた。

それは、次元世界では喪失した、驚異的な質量兵器の理論であった。

ところで、GSライドの実態については最初、護に従うジェネシックマシンを分解して調べる予定だった。しかし、凱の細胞からGストーンが取り出せると判明してから、技術者の気が変わり、実験計画は多少、変更された。また、サンプルのGストーンが豊富な為、実験は格段にやりやすくなったという。おかげで貴重な緑の星の遺産を壊されずに済んだと、護は胸を撫で下ろしたとか……。

Gストーンは細かく分割しても機能を失わないという特徴がある。おかげで様々な実験を試すことができた。

ミッドチルダにいるはやてのデスクには、数時間毎に子細な報告書が山のように届けられたのだった。

そうした結果に基づき、次にはやては新しい装備の開発を打ち出す。ゆりかご級やピサ・ソールにも対抗しうるデバイスと、最終兵器だ。

シャーリー達はさらに忙しくなり、研究は昼夜を問わず、続行された。

 

──かつて、遥か昔の次元で、一つの宇宙が滅亡の危機に頻していた。

古代ベルカが戦乱によって滅びたのとは違い、その宇宙は純然たる自然の法則から消滅に向かって進んでいた。

如何なる宇宙も年老い、やがては死んで新たなる宇宙へと生まれ変わる。だが、三重連太陽系の人々はそれに抗おうとした。高度な科学力を持つ赤の星と緑の星。彼らは共同で研究を進め、幾つかの成果を収めた。

そのひとつが、ギャレオリア彗星と地球人が呼んだ次元ゲートである。

数億年の距離を越えて異なる宇宙と三重連太陽系を繋ぐ技術だ。しかし、その使用法に関しては、赤の星と緑の星で意見が食い違った。

赤の星は別の宇宙から物質を奪い、衰退していく三重連太陽系の宇宙を再生させる。緑の星は逆に三重連太陽系から若い宇宙に移住し、そこの人々と共存する道を模索した。

それから、赤の星は万が一を想定して三重連太陽系再生のためのプログラム(人工知性体)、ソール11遊星主を開発。しかし、緑の星ではその能力を危惧し、対策を密かに講じていた。

そして。

二つの星が検討を続ける間に、紫の星においてゾンダークリスタルが開発されていた。

滅びゆく宇宙に不安と恐怖を覚えていた紫の星では、それからくるストレスの波動……マイナス思念を払拭するための機構として、Zマスターというプログラムを創りあげたのだ。

だが。

それは結局、三重連太陽系の滅亡を早めただけであった。

機界昇華を促すマスタープログラム、Zマスターが暴走……その分裂体である機界31原種は紫の星を滅ぼした。

この脅威に、赤の星は迎撃の用意を始めた。

有機体と機械を融合するZの力に対し、緑の星ではその抗体たるラティオが突然変異的に誕生する。父親であるカインは、その力をコピーしたGストーンを創り、赤の星にも技術供与を行った。

赤の星のアベルはGストーンの理論を基にJジュエルを開発。高出力のエネルギー発振体としてサイボーグ戦士ソルダートと戦艦ジェイアークの動力源に使われた。一方、原種への切り札には、アベルのクローン体にラティオの能力を与えた生体兵器、アルマを創造。原種に対応した31組の艦隊を配し、戦いに備えた。が、アベルの計画は結局、挫折する。

原種の急襲により、ジェイアーク艦隊はほぼ壊滅、赤の星は機界昇華に散った。

緑の星のカインは、赤の星の滅びを察知すると、それまで遊星主用に開発していたジェネシック・ギャレオンを対原種用に調整し直し、我が子を託して若い宇宙に逃した。直後、緑の星は機界昇華された。

カインらには、原種に対抗するだけの戦力は、ほとんど残っていなかったのである。

しかし、希望は忘れなかった。ラティオが生きている限り、原種は宇宙を機界昇華できない。

希望と共に、ラティオと、ギャレオンと、数々の技術は若い宇宙にある蒼の星、地球へともたらされた。

ギャレオンに積まれたGストーンにも絶対量がある。だが、微細な欠片でも機能を保つ性質のおかげで、GGGは各国機関に譲渡しても欠乏することはなかった。

それでなければ、例えば中国GGGの雷龍・風龍、フランスGGGはポルコート、光龍・闇龍等の勇者ロボの独自開発はできなかったであろう。

ともあれ、シャーリーは同じように分割したGストーンを用いてGSライドを組み込んだデバイスの試作品を幾つか製作し、その中にはレイジングハートやバルディッシュも含まれていた。

 

さて、シャーリーはGストーンがどのように誕生したのか興味を抱き、分析に勤しんだ。

ソール11遊星主パルパレーパは、ゆりかご内にてロストロギア・レリックをJジュエルに似た物体と指摘した、という。

結晶体に流したエネルギーを共振・増幅し莫大な推進力に変換する超技術。科学と魔法の違いはあるが、似通った性能があるのは確かだ。

ジュエルシードやレリックは、本来は数個のユニットを揃えて儀式を行わないと発動しないし、扱いにも難がある。しかし、そのパワーは空間に歪みを穿ち、次元震を引き起こす。あるいは超巨大戦艦の動力になる──とは言え、おいそれとは使えない術であ

る。

比して、Gストーンは単なるエネルギー発振体ではない。

無限情報サーキットという異名通り、Gストーンには緑の星の技術データが保存された記録媒体ともなる宝石なのだ。

管理局は未知のオーバーテクノロジーをそこからかなり引き出していた。

ロストロギアは魔力媒体だが、三重連太陽系のGストーンは感情が力の源となっている。

レリックの小型版であるJジュエルは高出力発振体であり、空間から取り込んだ光子を圧縮してエネルギーに変換していた。Gストーンの場合は勇気をエネルギーに変換する。プラス思念というエモーショナルな波動を力に換えるのだ。

それゆえに、勇気が満ちている限り、生み出せるエネルギーは無限大になる。魔導師のリンカーコアですら有限なのだから、その特性はデバイスの能力を越えて余りある。

こうした機構を解析して応用できれば、新しい進化したデバイスが開発できるはずだ。

はやてはそこに目をつけ、シャーリーに新技術による機器の設計に着手するよう命じた。

 

任務をこなしながら、シャーリーが興味をそそられるのは、Gストーンの起源についてである。

ギャレオンや護からは断片的な情報しか入手できなかった。それであれこれ想像を巡らすのだった。

まず、結晶体機関を感情エネルギーで制御する技術は、早い段階で確立されていたとおぼしい。マイナス思念をエネルギーに変換するZメタルは、赤と緑の星双方の雛形となったであろう。三重連太陽系末期には、アベルはGストーンをもとにより恒常的にエネルギーを供給できるラウドGストーンを開発していたと考えられる。

Gストーンはいかに細かく分割されても、独立した機能を維持しているが、これは原始的な単細胞生物の細胞にうりふたつだった。凱の検査で明らかになった、Gストーン同士がリンクしあう現象も、細胞の生命活動を惹起させる。

Gストーンは、生きているのだ。緑の星の人々の命、勇気を結晶内部に閉じ込めた。……

原種の侵攻にも、最後まで諦めなかった人達の遺志と魂を、カインはGストーンのパワーの源として封じ込めた。それゆえに、Gストーンは使用者の生きる意思、勇気というプラス思念に共振し、熱いエネルギーに換えるれのだろう。

滅んでなお、緑の星は希望を捨ててはいない。

結果的に彼らの希望──天海護は、Zの力を倒す事に貢献した。

今もって、緑の星の人々の想いは、Gストーンと共に生き続けている。シャーリーはそんなふうに思った。

(Gストーンは、絶望に抗う希望の結晶……)

真に勇気を持つ者に無限の力を与える、輝ける宝石。

そう。

レイジングハートもきっと……

(きっと、なのはさんを絶望の淵から希望へと導いてくれる)

 

「Gストーンは本当に凄いんだね」

シャーリーの解説になのはは感心したように言った。

「えぇ。それで、レイジングハートさんなんですが……」

「未知の機能って、どういうものなのかな?」

「Gストーンの特性で、カートリッジよりも大きな力が引き出せるはずです。それと、Gストーンのエネルギーを衝撃波として撃ち出せると推測されます。また、他の機器との相性とかも上がっています」

「あくまでも推論だね?」

シャーリーは頷いた。

「実際に起動してみないと、わかりません。カートリッジシステムを組み込むのとは訳が違いますから……」

なにしろ前代未聞の、質量兵器の技術だ。試してみないことには、正確なデータは掴めない。また、上記以外の能力も獲得している可能性もあるし、逆に劣化してしまった機能もあるかもしれない。

「そこでなんですが。なのはさん、ちょっとテストをしてみたいんですよね。ご協力お願いできませんか」

「うん。いいよ」

なのはは、承諾した。

「それでは、三十分ほどテストの準備をいただきますね。用意が整ったらご連絡しますから、訓練室に来て貰えますか?」

「了解。じゃあそれまで、休憩室にいるから──」

「はい。よろしくお願いします」

そうして、なのはは研究ラボを出て、休憩室に向かって行った。

シャーリーはさっそくリインと手分けして、シュミレーションテストの準備に取り掛かった。

レイジングハートの新たな力がどのようなものなのか。

実に楽しみであった。

 

 

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