The Grand Tourer's Dream 作:νMicra
「いけぇ・・・いけっ!」
初めてアクセルを踏むとき。計り知れない興奮を抑えるのは時間の無駄だと治は感じていた。
もうそれはというと、18歳の誕生日の翌日の休日に免許を取りに行ったほどに大きく、
筆記の模試までするほどの本気ぶり。落ちたかどうかは別として、自動車を自分の手で動かす。動かしてもらっていたのを横で見るのではないのだ。
治は昔からモータースポーツが好きで、レーシングカートにも手を付けている。それとは一味違う、クローズドでずっしりとした、いわゆる「本当の車」には初めて触れているようなものだ。
気持ちはわかる。スロットルを上げたくなるのはわかるが・・・
意味もなく治はドライブを続ける。開けた無料道路に入れば、心に爽快感が染み入る。そこでのスピードは、さらに治の気持ちをオープンにさせてくれ、ついには空気と一体になるよう。
所詮彼の車はヴィッツなのだから、爽快感は一応気持ちの問題でもある。ただ初めて車。スピードを感じるのも納得がいく。
「あっ、あっ、ブレーキ。ブレーキ。・・・ふう。」
ブレーキも思わず忘れそうになるほどの疾走感は次第に治の心では満足感となって頭に蓄積されてゆく。
まぁ、それも調子に乗るという形で放り出されていくのだが。
「スピード違反だって?車に乗るからって調子乗ってんじゃない。
スピードを出すための道具じゃあないんだからな。おマワリさんからも言われたろ?人に迷惑をかけることをするなってよ。止められること自体が迷惑なんだよ。」
「罰金1000円。お前の貯金も切り崩されてって哀れだなぁ・・・ったく」
治の父は声を荒らげて言う。
「まぁこんなこと目指すならもう少し筋道はっきりさせたらいいんじゃないの?」
「環境に悪い」という文句で車嫌いを主張する母も同情するような口調で言ってくる。
「・・・うまい話はないが、そんなことしたいならサーキットでも行って来ればいいじゃないか。車で40分くらいのとこにあるだろ?」
目に少しだけ涙をためてうなずいた治。
その涙は、心が沈んだからのものではない。決意がにじみ出ている。
「ここか。やってきたぜ、仲江スピードウェイ。」
そこは治の想像していたサーキットとは少し違う。古ぼけたような感じで、舗装も荒目。ただここはレースを推しているものの全くに賑わないド田舎だから仕方ないのかも、しれない。
「えーっと、まず会員証の提示か。急いで手に入れたからこれぞ駆け出し。なんか・・・アレだな。」
ここは簡単な試験を通れば会員証がもらえる。それを手に入れないと走ることのできない会員制サーキットだ。
もっとも、そのシステムだからこそここからプロが大量に出ている事実もあるのだ。
そのプロの卵に、治は出会ってしまう。競争は、始まってゆく。