背の高い草むらに隠れるようにして、獲物に匂いが届かぬように風下から風上にそろりそろりと近づく。これ以上近づくと気づかれてしまう可能性があるので、地に伏せていつでも飛び掛かれるように機会を伺いつつ息を殺してその時を待つ。風で草が揺れ、隙間から今回の獲物が見えた。
キョロキョロと耳をピンと張り、辺りを探るように見渡すそいつは普通よりちょっと大きな兎だ。ただし、その額には鋭い一本の角が生えている。最初見たときはなんじゃこりゃと思ったが、巨大なイモムシや二足歩行の大鼠など、人間だった頃の記憶的にあり得ないものを何回も見てきたので、何かこの世界はそういうものなんだと納得することにした。さすがドラクエ。
さて、なんであんな兎一匹にこんなに警戒するのかというと一度手痛い目にあったからだ。角が生えてようがたかが兎だと正面から挑んだら、意外な俊敏さで翻弄され角をぶっ刺されたことがある。
その後、しばらく生死をさ迷うはめになり、何とかこの体の自然治癒力でどうにか命は取り留めた。あれはこの世界の厳しさを教えられた、苦く貴重な経験だ。
野生の世界では、怪我したり病気になったらお医者さんなんて甘っちょろい事はできない。病気や怪我をして、そこを付け込まれて襲いかかられたら、そこで俺の命は尽きるのだ。なので、こうしてどんな獲物でも最大限の警戒と、全力を尽くす。
じっと待つことしばし、周りに敵がいないと判断したのか、警戒を解いて草を食みだした角兎(仮称)に向かって俺は大地を後ろ足で強く蹴った。
突然飛び出した俺に、驚いてとどまっている角兎。飛び出した勢いそのままに俺は前足の爪で奴の体を切り裂いた。自分の爪が肉を切り裂くなんとも言いがたい感触と共に飛び散る血。ピィと小さく悲鳴を上げ、地面に倒れた角兎はまだ息があるようだった。しかし、もう長くは無いだろう。
「がぅ(すまねぇ)」
俺は前足で角兎の体を押さえると、首を口に咥える。そのまま勢いよく首を捻ると、ごきりと口に骨が折れる鈍い感触と音がして、今度こそ角兎は絶命した。
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殺したばかりの、まだ体温の残る角兎をそのまま咥えながら、俺は自分のすみかへと帰る。狩り場である草原を離れ、遠くに見えるとんがった岩山を目印にその方向に向かってしばらく進むと小川が見えてくる。
小川に着くと、今度はその小川を逆上るように川原を進む。太陽の光が反射してキラキラ輝く小川には、大小の魚が悠々と泳いでいる。しかしまあ、魚よりも肉派の俺にはどうでもいいことだ。見逃してやるとしよう。
天気がいいし、今日はいいことでもあるかな。
そんな事を考えながら、のんびりと歩くことしばし。目印の大きな岩の下にある丁度いい隙間が俺のすみかだ。藁や草を敷き詰めて中々の寝心地だと自負している。
しかし、そんなすみかの前に見慣れた姿があった。あっちも、俺に気付いたようでキッと強く睨んでくる。
その視線を受けながら、俺は一旦すみかに入ると咥えていた角兎を下ろし、一定の距離を開けてそいつの正面に立つ。
こいつの強さは、さっきの角兎の比ではない。猫科の動物が狩りをする時の様に、俺もまた大地に伏して四肢に力を込める。先程の狩りの時の様な早さを重視とした後ろ脚を中心とした力の込め方ではなく、どんな状況にも対応できる様な戦闘を主とした四肢に均等に力を込める。
そんな俺と同じ様に、あいつもまたあの時のように息を大きく吸い、気合いを込め。俺に宣戦布告するかの如く天高く吠えた。
「ピキィィィ!(覚悟しろよ黄色いどら猫ぉぉぉ!)」
「グルァァァ!(やってみろや水色まんじゅうがぁぁぁ!)」
実に、50数回目の決闘だった。
意外と時間がかかった第二話でした。
ちなみにこの作品。スマホ100%でお送りしているので、何かおかしい点があったら、教えてくれると嬉しいです。
余談ですが、この作品の魔物たちは(作者に)都合のいい万国種族共通の魔物語でお送りしています。