人外教師兵藤一誠   作:隆斗

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投稿します。
SAOの方を含めて今月中に投稿するのはこれで最後になります。
今回の話は原作一巻と二巻の間に起こった出来事です。
それと以前念話などは『()』で表すと言っていましたが、この話から「()」で表すことにしました。
それと今回の話から独自設定とご都合主義感が増えます。そこの所はご理解ください。


はぐれ悪魔

 はぐれ悪魔

 

 

 

 

 

 アルジェントの件から数日たったある日、オカルト研究部に大公からはぐれ悪魔の討伐の依頼がきた。

 そしてその時丁度部室にいた俺も成り行きで同行することになった。

 

「あの、部長。この間もはぐれ悪魔の討伐命令が来ましたけど、そんなに多いんですか?」

 

「いいえ、はぐれ悪魔の数はかなり少ないわ。正直、この短期間に二度も来るなんてかなり珍しい事よ」

 

 兵庫の質問にグレモリーは優しく答えた。

 だが、グレモリーの言う通りこんな短期間で二つもはぐれ悪魔の討伐命令が出るなんてかなり稀だ。原作ならいざ知らずここは俺がサーゼクス達四大魔王に、上級悪魔の眷属管理は厳しく取り締まる様に、と言ってある。

 理由としては天界、堕天使陣営だけに原作より組織内の取締りを強化させるのは不公平だと思ったから。原作での黒歌みたいな人物をこの世界では出来るだけ増やしたくなかったから。大まかな理由は以上の二つだ。一つ目は二つ目のおまけみたいな物なので気にしなくて良い。二つ目の理由としては俺が実際に腐った貴族悪魔どもを見聞してきたからだ。その時に思ったこのままでは将来こいつらが眷属をもった時その眷属は絶対にろくな目には合わない、と。

 そう思った俺はそうならない為に行動した。先ずアジュカと一緒に悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を作る時にいくつかの機能を追加した。

 一つ目は自身の眷属内での駒の移動。これはグレモリー眷属で例えるなら、佑斗に騎士(ナイト)の駒を与えたが戦車(ルーク)の方が適性があったので其方と駒を入れ替えた、といった感じだ。

 二つ目は眷属からの脱退。これは脱退したい眷属が四人の魔王か大公か大王の誰かに掛け合って、その頼まれた人が眷属の主の素行を調査して脱退に値するならそのまま脱退、値しなかったらそのまま残留、ということだ。これは主から眷属へのいじめや虐待などを想定した場合の対処法だ。

 悪魔の駒に追加した機能はこの二つだ。その他にも眷属を持つことになる悪魔の事を事前に調べて眷属を持つに値するか調査したりして出来るだけはぐれ悪魔が出ないようにさせた。とグレモリーが新人の兵庫とアルジェントに説明している。

 だがその分サーゼクス達の負担が増えたわけだが……あいつら元々サボり癖あるし、いざとなったら俺も手伝えばいいので問題ない。

 

「へー、そんなに厳しいんですか。あれ? でもだったらなんではぐれ悪魔なんているんですか? そんなに厳しいならはぐれ悪魔が出ること自体が無いんじゃないですか?」

 

「ええ、本当はそうなのだけれど残念ながらそういう訳にはいかないの」

 

 グレモリーの話をまとめるとこうだ。

『はぐれ悪魔』になるものの多くが主では無く眷属自身の方に問題がある者たち(例えば力に溺れたりとか)である。

 ごく稀に主の方に問題があるはぐれ悪魔がいるが、それはほんとに少数である事。

 そしてそういったはぐれ悪魔の殆どは最低でも中級悪魔の中堅位の強さがあるということ。

 

「だから私達がこの間退治したバイザー並に弱い奴は逆に珍しいのよ」

 

「え……じゃあこれから退治する奴は……」

 

「ええ、ランクにしてAランク。上級悪魔の中堅位の強さがあるわ」

 

 それを聞いた兵庫の身体が強張る。

 彼がこの間倒したミッテルトは中級堕天使。それだってまぐれで勝った様なものなのに、今から退治する奴はそれよりも強いという。ついこの間こちらの世界に入った兵庫にとっては当然の反応だろう。

 

「うふふ、大丈夫よイッショー。相手は一人だからこの人数が居れば負ける事は無いわ。それに今回は先生もいることだしいざとなったら先生が守ってくれるわ」

 

 チラッと俺の方を見てそんな事を言って来るグレモリー。兵庫の奴からすれば自分の事を心配してくれるいい主かもしれないが、俺にとったら自分の眷属を自分で守ろうともせずに俺に押し付けたただの我儘小娘だ。

 

「さあそろそろ着くわ。皆気を引き締めていきましょう」

 

『はい!』

 

 雷花、佑斗、ジャンヌ、アルジェントそして兵庫は元気のいい返事をする。

 今この場にいつものオカルト研究部+俺のメンバーでいないのは朱乃だけだ。今回彼女は彼女で用事があるらしくいない。そして黒歌と白音はグレモリー眷属の部活ごっこを静かに見つめている。

 そして俺達は今回の獲物がいる大きな病院の廃墟に踏み込んだ。

 そこからはオオォォン、という不気味な鳴き声が聞こえてくる。

 

 

 

 廃墟の中は予想通りというか何というかゴチャゴチャだった。

 カーテンやシーツなどの布類はボロボロになり破れ、雨風が中まで入って来た影響か壁や床の所々にはコケやカビが生えている。

 此処がどんな理由で廃墟になったのかは知らないが、廃墟になってから少なくとも数年以上経過している事はこの様子を見れば明らかだった。

 

「此処は広いからはぐれ悪魔を探すにあたっていくつかのグループに分けるわ」

 

 入ってすぐの玄関ホールでグレモリーがそう言ってきた。

 俺としては一人か黒かと白音と探したかったので分かれるのは賛成だが、どうやらグループはグレモリーが決めるようだ。はぁ、取り敢えず第一候補は黒歌と白音で祈っとくか。

 

「まず、まだあまり戦闘になれていないイッショーとアーシアは私と雷花と来なさい。そして黒歌と白音のペア。……先生、先生は佑斗とジャンヌと一緒に行っていただけますか?」

 

「ああ、別に構わないぞ」

 

 まあ、知った仲ではあるので了承する。

 

「それじゃあ十分程建物内を探し回って見つからなかったらまたここに戻って来て、見つかったらそれぞれのやり方で他の者に知らせる。……それで良いわね?」

 

 グレモリーの確認に兵庫達は静かに頷いた。

 そして俺は佑斗とジャンヌと共に廃墟の中を探索しだした。

 

「そう言えばお前ら、もう禁手(バランス・ブレイカ—)には至れたのか?」

 

 ただ無言で捜索を続けてもつまらないので一緒に居る二人にそんな事を聞いてみる。

 

「ええ、出来るようになりましたよ。でも最近至ったばっかりなので使いこなすのにまだまだ時間が掛かりそうです」

 

「私も佑斗と同じよ」

 

 ふうん……やっぱり二人ともいたれるんだな。

 でも、以前から俺の所で禁手に至る修行はしてきたのに全然いたれなかったんだよなー。なんでだ?

 

「ふうん……ちなみに亜種か?」

 

「それは……」

 

「自分の目で確かめてみたら?」

 

 息ピッタリにそんな事を言って来る二人。佑斗の方は優しげな——だけどどこかミステリアスな笑顔で、ジャンヌの方は挑発的な笑顔で言ってきやがった。

 

「それで、何処にいるのよ。もう見つけてるんでしょう?」

 

 不機嫌そうに——というより不機嫌全開でジャンヌが俺に向かってそう言ってきた。

 その隣にいる佑斗も、ジャンヌほど不機嫌ではないが早く言え、という雰囲気を醸し出している。

 いやいや、何で二人ともすでに俺がはぐれを見つけたってこと前提なの? いや、まあ確かにもう居場所は見つけてるけどさ。

 

「分かった分かった。だがそいつは殺さずに生け捕りにしてくれ」

 

「え……? でも大公からの依頼は討伐ですよ」

 

「なに……もしかして私達を面倒事に巻き込むつもり……?」

 

 キョトンとした佑斗とは裏腹にジャンヌは俺を若干殺気が混ざった眼で睨んで来る。多分その理由は佑斗を巻き込む可能性があるからだろう。全く、ホントにコイツは佑斗が好きだな。

 

「大丈夫だ。全責任は俺が持つ」

 

「ま、まあそれなら……」

 

 渋々頷いた佑斗とは反対にジャンヌは未だに俺を警戒している。あ、そんな事意味無いけどな。

 

「じゃあ二人とも、付いて来い」

 

 そして俺は二人を伴ってはぐれ悪魔がいる場所へと向かった。

 三人で少し歩いていると別館の二階にある広い空間の近くまで来た。

 

 オオォォォン!

 

 廃墟になる前は待合ホールであっただろう場所から後悔と怨嗟を含んだ咆哮が聞こえてくる。いや、これは咆哮というより嘆き声に近いかもしれない。

 

「お前ら戦闘準備は……ってもうとっくにできていたな」

 

 後ろを振り返ると既に二人の手には魔剣と聖剣がそれぞれあった。

 

「取り敢えず俺の後ろをついて来い。戦闘するタイミングは俺が計る」

 

 言うと二人は無言で頷いた。

 喋る余裕もないのだろう。俺にしたら上級悪魔の中堅クラスといったらきな粉の粉位の強さしか感じられないがこの二人は違う。いくら普段俺の家族と修行していると言ってもそれほど急激に実力が伸びる訳では無い。そんなのは物語の中だけだ。あ……これも物語の中か。

 二人からしたら慎重に——俺からしたらいつも通り歩いて旧待合ホールの入り口付近まで来る。そして相手の姿が視認できたところで俺は声を掛けた。

 

「お前がはぐれ悪魔『バナッシュ』だな……?」

 

 その空間の中心に居たのは、涙を流して泣いているイケメンだった。だが両の手足がおかしい。右足は爬虫類だったり左足は鳥類だったり、右手はカマキリだったり左手は人間のままだったりしている。キメラと言われても疑わなかったかもしれない。

 

「オオォォン……誰だお前達は」

 

「俺は兵藤一誠というものだ」

 

「僕はグレモリー眷属の騎士木場佑斗」

 

「同じくジャンヌ・ダルク」

 

 取り敢えず話はできる様なので安心する。

 そしてバナッシュの姿を見た時から気づいていたことがある。恐らくジャンヌも気づいているだろう。

 

「確かに俺はバナッシュだ。だがお前達は俺を殺しに来たのだろう?」

 

「いうあ俺達はお前の話を聞きに来た。お前と戦う意思はない」

 

 武器は持っていないというアピールをする為に両手を大きく広げる。

 

「嘘を吐くな!」

 

「嘘じゃない。俺達は本当に戦う気が無い」

 

 佑斗とジャンヌは未だに聖剣と魔剣を持っているが、丁度俺の影になっていて奴からは見えない。そして聖剣の気配は俺が隠しているので奴には気付かれていない筈だ。

 

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ‼ お前らは……お前ら悪魔はそうやってェェェェェエエエ!」

 

 叫びながらこちらに向かって来るバナッシュ。何の駒だったのかは分からないが、上級悪魔の中堅という割にそこまでのスピードではない事から女王と騎士い街の駒という事は分かった。

 

「はあ、仕方ない。……ジャンヌ、佑斗頼んだ」

 

「はい、師匠」

 

「全く、仕方ないわね」

 

 そしてバナッシュを迎え撃つために俺の後ろから飛び出した二人。

 魔剣と聖剣がバナッシュを死なない程度に斬ろうと迫るが、彼はその二つの剣を左手に付けている籠手とカマキリになった右手で受け止める。あの籠手を見るに彼ははぐれになる前は戦車なのだろう。

 そして籠手の方で聖剣を受け止めたので彼にダメージは無い。

 

「クッ、随分硬い……」

 

「佑斗! かく乱させるわよ!」

 

「了解っ!」

 

 騎士の特性をフルに使って二人はバナッシュの周りを高速で移動する。

 

「喰らいなさいっ!」

 

 ジャンヌはその間に何度も聖剣を投擲する。

 それを彼は籠手で受けたり、避けたりするので致命傷にはならない。

 手かあいつ、俺が生け捕りにしろって言ったの忘れてるよな? いや、覚えていると信じよう。

 

「ハアァッ!」

 

 バナッシュが聖剣を避けた時を見計らって、佑斗が斬りかかる。

 既にこの二人の神器が魔剣創造(ソード・バース)聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)聖剣創造であることに気づいているであろうバナッシュは、このまま避け続けてもジリ貧だと思ったのか佑斗の手に持っている剣を鎌で受けて籠手はジャンヌ用に取っておく。その判断は普通ならば間違っていない。しかしこの二人が相手の場合は間違いだった。

 佑斗は目の前にある鎌を手に持っている聖剣(・・)で叩き斬った。

 

「グアァァァ! ……な、何故だ………」

 

 その問いは悪魔である佑斗が聖剣を使えている事に対してだろう。

 何故彼がジャンヌが持っていたそれを持っているかなんて、投げられたものをキャッチしたからに決まってる。

 

「すでに察していると思うけど、私の神器は聖剣創造よ。そして神器とはその人の魂の一部。そして私と佑斗は魂レベルでの繋がりを持っている。そんな佑斗が私の作った聖剣(もの)を使えない筈がないでしょう」

 

 傷口を押さえて蹲っているバナッシュに向かって、ジャンヌは自信満々にそう言った。

 要するに愛のなせる業である。簡単に言うとな。

 そして取り敢えず死なれても困るので俺は指を鳴らした。するとバナッシュの傷口が光り、見る見るうちに塞がっていった。

 

「……なぜこんな事をした?」

 

「言っただろう、『お前と戦う意思はない』って。さっきこの二人が戦ったのはお前が向かってきたからやむおえなくだ」

 

 俺がそう言うと彼は黙ってしまった。

 しかしいつまでもこのままという訳にはいかない。さっきの戦闘を嗅ぎ付けたグレモリーたちが来るかもしれないからな。

 そこで俺はもう一度指を鳴らし、彼の周りにちょっとした結界を張る。

 

「これから俺が良いって言うまでそこから動くな。もの音を立てるな。ジッとして銅像の様にしてろ」

 

「………」

 

 返事をしないので少し心配になるが、あとちょっとでグレモリーたちが来るのでもうこれ以上確認している暇はない。

 

「佑斗とジャンヌもこの事はグレモリーたちにはいうなよ。今起きたことは俺が話す。お前らは出来るだけ自然な感じでそれに合わせろ」

 

「まあ……師匠がそう言うなら………」

 

「……本当に、私達に面倒事はこないんでしょうね?」

 

「保障しよう」

 

「分かったわ。あなたに合わせる」

 

 取り敢えずこの二人が此方側に着いたので面倒な事をしなくて良かった、と胸を撫で下ろす。

 そのタイミングでグレモリーたちが来た。

 

「三人とも大丈夫っ!」

 

 Aランクのはぐれ悪魔が相手だと聞いていたグレモリーはここに来るなり、まず俺達の心配をした。

 他の事よりもまず部員の心配をする。実によくできた部長だと素直に思う。

 

「それで、バナッシュはどうなったの?」

 

 俺達三人の無事を確認したグレモリーはそう問いかけて来た。佑斗とジャンヌには俺に合わせろと言っているのでここは必然的に俺が一番に口を開かなければならない。

 

「木場とダルクの二人が倒した。俺は見ているだけだったぞ」

 

「確かに先生のいう事は本当です」

 

「そうね。先生のくせに何もしなかったわ」

 

 俺の言葉の真偽を目線で佑斗とジャンヌに問いかけたグレモリーだが、二人は予め約束した通りに俺の話に合わせた。

 

「そう……ならいいわ。じゃあ、帰りましょうか」

 

「ああ、お前らは先に帰っててくれ。俺はさっきバナッシュを探している時に教師の仕事関係のヤツを落としちまったみたいだから、それを探してから帰るわ」

 

 かなり苦しい言い訳だが、まあこれで何とかなるだろう。

 この言い訳がかなり苦しいのは分かっている。だから佑斗とジャンヌ、お前ら呆れたような目でこっちを見るな。

 ……心なしかバナッシュからも呆れられてる気がする。

 

「イッセー、私と白音も探すかにゃ?」

 

「お手伝いします、兄様」

 

「いや、生徒に見られると不味いものだからお前らも先に帰っててくれ。(後で説明するからそれで我慢してくれ)」

 

「にゃ~……それなら仕方ないにゃ。(絶対に話すにゃよ)」

 

「分かりました。では先に帰っています。(もし話さなかったら……家族(みんな)に言います)」

 

「ああ、そうしてくれ。(絶対に言うと誓おう)」

 

 いや、家族(みんな)が別に怖い訳じゃ無い。確かに九喇嘛とかイーリスとかオーフィスは強いが俺程じゃないし、他の皆も俺に比べれば大した事は無い。

 だが、約束はできるだけ守る、と普段から言っている俺が一般的に見て破る確率の方が少ない約束を破ると色々と言われるのだ。それが面倒なのだ。まあ、元々破る気はさらさらないけどな。

 

「では先生、さようなら」

 

「おう、気をつけて帰れよ」

 

 旧待合ホールから全員が居なくなったのを確認した俺は、バナッシュを覆っていた結界を解き今度はこの間教会を覆ったのと同じ結界を旧待合ホールに張る。

 

「……それで、お前は俺に何の用だ?」

 

「別に……。しいて言うならお前がはぐれになった理由を聞きたいだけだ。あと、お前が転生者かどうかってこともな」

 

「……ッ⁉」

 

『転生者』という言葉に、バナッシュはピクリと反応した。どうやら俺の予想は正しかったようだ。

 

「当たりのようだな。……じゃあお前の前世から今までの話をしてもらう」

 

 俺のその命令にバナッシュは逆らわなかった。

 そして一人のはぐれ悪魔の長い長い話が始まった。

 

 ある大富豪の家に奉仕する一族の所に生まれた男がいた。その男の家は祖父も父も代々そこの執事長をしており、男もも成人を過ぎて結構な修行をした後にそこの執事長になった。

 男が執事長になった時の家の当主は、男の幼馴染だった。

 当主の事を親友として、使えるものとしてとても大切に思っていたので誠心誠意当主に尽くした。

 そして男が執事長になってから十年の歳月が過ぎた時、それは唐突に起こった。賊が侵入してきて使用人も含めた全員を皆殺しにされたのだった。

 一番初めに賊の侵入に気づいたのは、執事長をしていた男だった。武道の経験もあった男は当然応戦したが数の利には勝てずに賊に捕らえられた。

 そして賊は使用人を含めた全員を男の前で殺していったのだった。

 生きたい、死にたくない、と叫ぶ使用人や当主の親族に男は目を背けたかったが、そうする事も出来ずに只々気がふれるまでその光景を見せられ続けた。そして最後に男も殺されたのだった。

 

「そしていつの間にかこの世界に転生した俺は、行き倒れている所を我が王に拾ってもらったんだ。そして前世の記憶も持っていた俺を、有能と判断した我が王は俺の事を眷属の一人に加え家族の様に温かくもてなしてくれた」

 

 その事を語っている時のバナッシュの顔は、輝かしき思い出を懐かしんでいた。

 だが、その顔に再び影が差す。

 

「でも、そんな平穏は長くは続かなかった。いや、人間にしたら二十数年は長いかもしれないが俺たち悪魔にとったら短い時間だった」

 

 きっとここからが彼がはぐれになった理由なんだろう、と自然と俺はそう思った。

 

「ある日突然得体のしれない悪魔が屋敷を襲撃してきたんだ。その時の俺は前世以上に力をつけていたし、我が王を含め眷属も全員揃っていた上に、我が王の眷属以外にも屋敷の中には実力者はたくさんいた。だからもうあんな悲劇は起こらないと思ったんだ」

 

 だがバナッシュの予想——というより希望を裏切って結果は彼の前世で起きたことの二の舞だった。そしてその事がきっかけでバナッシュははぐれになったらしい。

 

「お前は殺されなかったのか?」

 

「ああ、戦闘で運よく気を失って見逃されたからな……」

 

「しかし、何故それではぐれになったんだ? それならお前がはぐれになる訳無いと思うんだが?」

 

 俺のこの疑問は当然と言えるだろう。

 普通眷属が主を失くした場合は何種類かのパターンがある。

 一つは、その眷属が上級悪魔以上だったらそいつを新たな主にして、そいつに自分の眷属を集めさせるパターン。

 一つは、他の空きがある主の眷属にさせるパターン。

 基本的なのはこの二つだ。

 

「俺もその時は中級悪魔だったんだが、ちょうどその襲撃の数日後にある上級悪魔への昇格試験を受ける予定だったんだ」

 

 それを受けようとしていたらしいバナッシュだったが、試験会場内を気まぐれで見て回っていた時彼の耳に彼にとってはとても許容できない内容の話が聞こえて来たらしい。

 

「そいつらが我が王は死んでよかった、とか我が王は上級悪魔の面汚しだとか言っていたんだ」

 

 後でバナッシュが知ったところによると、そいつ等は悪魔の政治組織『元老院』の下層部のメンバーだったらしい。

 だがそんな事を知らない当時のバナッシュは、つい怒りのままにそいつらに襲い掛かったらしい。

 そして元老院の下層部である彼らは大けがを負い、バナッシュははぐれ悪魔となったのだった。

 

 彼の話を聞いて同情はする。前世では主兼親友を文字通り目の前で殺され、現世では主兼命の恩人を守る事が出来ずに殺された。これを聞いたら誰でも同情するだろう。だが、同情するだけだ。それ以上の感情は沸いてこない。

 

「それで……お前はどうしたい」

 

 一応聞いておく。

 バナッシュは結果的に殺すが、もしその願いが俺にもできる事ならば例え偽善と言われようと叶えてはやろうと思う。

 だったら本人の手で叶えさせてやれと思うだろうが、彼は(裏の)世界から見たら咎人だ。例えそれがどんな願いであろうと叶えるのは難しくなる。それに、グレモリーたちが既にバナッシュを殺したと大公に報告していると思うので、殺さないと色々と厄介な事になるのだ。

 

「俺は………一言親友と我が王に謝りたい。守れなくてすまない、と」

 

「分かった。はぐれであるお前がお前の親友とお前の主と同じ所に行けるかは分からないが、その手助けはしてやる」

 

「……ッ⁉」

 

 俺の言葉にバナッシュは顔を勢いよくあげて俺の方を見た。驚きを顔全体で表している彼に俺は頷く。

 

「ああ……最後に会えたのが、お前で良かった」

 

 すると穏やかな表情に変えた彼はそう言った。そしてその言葉を全部おれが聞いたと同時に、素手で心臓を突き刺しバナッシュの命を絶った。

 彼が死んでいる事を確認した俺は、彼の下にひし形の魔方陣を書く。そしてその頂点に人一人が丁度入れる大きさの円を書き、その中にも色々と(まじな)いを書いていく。

 

「お前ら……出てこい」

 

 全ての作業を終えた俺は、本宅から玉藻、羽衣、藍、八坂を呼び出す。

 

「ふむ、何じゃ一誠。妾に何か用か?」

 

「ああ、実はそいつの魂を天国に行かしてやりたいから呪いを手伝ってほしい」

 

 バナッシュの親友と主が天国にいるとは限らないが、彼の話を聞く限りは天国に行くにたる人たちだったと思うのでバナッシュを天国に送ることにした。

 

「みっこーん! はぐれにもその寛大な優しさ……流石ご主人様です! もうイケメン過ぎてタマモは直視できません!」

 

「ああ、うん。分かったからその丸の中に入ってくれ」

 

 取り敢えずハイテンションな玉藻は置いておく。長くなりそうだしな。

 この四人を呼んだのは、九尾の狐の一面である神獣の部分の力を借りる為でもある。あと、こいつら全体的に呪いの類が得意だし(羽衣だけは標準より少し上レベル)。

 だったら神であるライヴィスを呼んだ方がいいかと思われるが、彼女一人だけでは些か不安定になる。神聖で同じ種族が四人いた方が安定するのでこの四人を読んだのだ。九喇嘛を呼ばなかったのは、あいつは厄災とか妖狐とかの方面の方の存在感が強いからだ。だったら羽衣もでは? と思うかも知れないが、この世界の羽衣は若干だが神聖な方の存在感が強いらしい。

 

「それじゃあ行くぞ、準備はいいな?」

 

 四人が頷いたのを見て魔方陣に力を流し込む。

 すると徐々に魔方陣と玉藻達が神聖な雰囲気を醸し出し始める。

 それから数分ほどで儀式は終了し、バナッシュの魂についていた穢れは浄化された。これで、彼は思い人の元に行けるだろう。

 

「なあ、イッセー。なんで今回に限ってこんな事をしたんだ?」

 

「いやいや、今回に限った事じゃないぞ。今まででも何回かこういう事をしてきた」

 

 俺の言葉を聞いて四人は程度に差はあるものの驚いたようだった。というのも仕方のない事で、今までのやつは俺一人でも解決できることだらけだった。だが、今回のやつはちょっと俺だけだと微妙なので彼女達に頼んだのだ。

 

「まあ、妾はイッセーに頼って貰っただけで満足だがな」

 

「ウフフ、私もですよ」

 

「無論、私もだ」

 

「ちょっ、正妻である私を差し置いて何言ってくれやがりますか! ご主人様ぁ、勿論タマモもご主人様に使われるのはすっっっごく嬉しいですぅ」

 

「ああ、ちゃんとわかってるさ」

 

 そう、そんな事は言われなくても分かっている。だって四人ともここに呼んだ時から尻尾が左右にユラユラ揺れてるんだから。一瞬犬に似てる、と思った俺は悪くない筈だ。

 

 そして俺達は帰路についた。帰りに彼女達へのお礼の意味を込めて大量の油揚げも買って行った事をここに記しておく。

 




皆さんどうでしたか? 閑話なのに少々長くなってしまいましたが、これは原作とこの作品との相違点を示す為なので、仕方ないのです。
次は少し間が空くと思われます。それでは、また次回。
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